EP445 総力戦⑥
天星狼テスタを召喚したリグレットは、まず結界を構築することで世界への被害を減らすことにした。具体的には、テスタが夜の世界を広げたのである。
”覆い尽くせ、【天象星道宮】”
発動させた術は《星天夜結界》。
夜の領域を展開することで、世界を塗り替える。大地は海ではなく大草原に変わり、夜空には満天の星が広がっていた。
自然を好むテスタは、自らの力で世界が破壊され汚染されることを嫌う。そのために、この結界で戦いのための空間を作り出すのだ。
”《流星雨》”
その瞬間、夜空に輝く星の一つ一つが強く瞬く。特性「恒星」によって全ての星が高エネルギーに満たされており、そのエネルギーを収束して放つのがこの術だ。
無数の星からレーザーが放たれ、僅かな間もなくバハムートを破壊した。
全天から集中するレーザーは、もはや貫通程度では済まない。四体のバハムート全てが太陽のように光り輝き、プラズマ化して蒸発しかける。
しかし、バハムートはこれでも準超越者級の存在だ。
保有する眷能【機甲鋼竜王】が熱線を捻じ曲げる。特性「時空支配」によって空間を湾曲させたのだ。《流星雨》は物理次元の攻撃なので、空間操作が出来れば簡単に防げてしまう。
尤も、特性「物理耐性」を持つバハムートを一瞬でも物理攻撃で蒸発させかけたのだから、テスタの攻撃は相当だと分かる。
「空間湾曲だね。《神意の右手》」
リグレットは捻じ曲がった空間に情報を書き込んでいき、湾曲度を修正する。それによってバハムートの制御が狂い、再び熱線が直撃した。
だが、補助攻撃はこれで終わらない。
「《神意の左手》」
左手の人差し指で光線の攻撃に情報次元の要素を書き入れる。情報次元に従う物理次元としての領域から、概念攻撃の領域に高める。
電磁波が熱を生み、熱が金属の融点を超えることで融解する。
だが、リグレットによってテスタの《流星雨》は貫通の概念を帯びる。硬度や靭性や融点を無視して、あらゆる物体を貫通するレーザーとなり、バハムートを襲った。
真っ白な光によって塗り潰され、四体のバハムートがリグレットとテスタの視界から消える。
「さて、これでどうかな?」
”光を直接操るのではなく、空間を曲げることで光線を回避していましたから助かりました。今の直撃でそれなりのダメージを負ったでしょうね”
普通ならば相手を消滅させることの出来る攻撃でも、超越者が相手ならば復活してくる。意思力が尽きない限り不死の存在なのだから。
リグレットとテスタが予想した通り、ラプラスは数秒ほどで復活してきた。
再びバハムートを四体も呼び出し、特性「時空支配」で転移した。四体はリグレットとテスタを囲むようにして再び出現し、一斉攻撃を開始する。
特性「電磁支配」でプラズマを溜め込み、それを放射する疑似的ブレス攻撃だ。
「磁界を展開」
リグレットは情報次元に書き込み、周囲に磁界を発生させる。これによって電荷を有するプラズマ放射は湾曲させられ、オーロラのような光が煌めいた。
更にテスタが重力を操り、バハムートを地に落とそうとする。しかし、バハムートも重力を操作することが出来るので、相殺されて意味をなさなかった。
そこで再び《流星雨》を使うが、今度は光に直接干渉されて無効化されてしまう。
バハムートは手数の多さに加えて「物理耐性」もあり、攻撃が通用しにくい。そして特性「最適化」と「神速演算」によって次々と攻撃への対処方法を会得していくのだ。時間と共にバハムートは強くなってしまう。
更に、バハムートを倒しても意味がない。
あくまでもラプラスが作り出したゴーレムなので、ラプラスが健在ならば幾らでも再出現してしまう。更に、特性「同属共有」により、バハムートが蓄積したデータは全て共有される。倒しても倒しても、強くなって蘇ってくる。
それが厄介だった。
「テスタ。やはりラプラスを直接狙わなければならないようだよ」
”しかし難しいですよ。バハムートが常にラプラスを守っていますから。私が世界侵食を使えば灰燼に帰すことも可能ですが、ラプラスにトドメを刺すこと出来る訳ではありません”
「そうだね……おっと」
会話している間にも、バハムートが攻撃を仕掛けてくる。今度は特性「元素変換」によるタングステンの砲弾だった。空気摩擦でオレンジ色に光るほどの速さとなった砲弾が、リグレットとテスタに容赦なく飛来する。しかも、その数は数百を超えているのだ。一瞬でミンチになる攻撃である。
「ベクトル変換。運動量を負に」
リグレットは鏡属性による「反射」で、タングステンの砲弾を全て跳ね返した。
そして言葉を続ける。
「僕が世界侵食を使おう。テスタは援護を頼むよ」
”……私の《星天夜結界》が壊れそうですね”
「壊れるというより、上書きしてしまうからね。出来れば、発動時は解除してくれると僕もやりやすい。頼むよ」
”そのように計らいましょう”
リグレットはそう言うと、意思力を周囲に広げ始める。意思次元の侵食により、世界そのものを自身の権能で染め上げるのだ。超越者第二段階とも言われる世界侵食が発動した。
◆ ◆ ◆
クウ、ファルバッサ、神龍の戦いは激しさを増していた。
二体のドラゴンがブレスを吐き合い、海を割る斬撃が合間に飛ぶ。嵐が起こったり、雷が落ちたり、空間が割れたりなど、天変地異とも言うべき現象が常に発生していた。
「ちっ……時空間系能力が厄介すぎる」
時間や空間に干渉する能力は、極めると非常に厄介である。特性「次元支配」を持つ神龍は、次々と空間を移動して特性「滅亡」による攻撃を仕掛けてくるのだ。
この特性「滅亡」が厄介で、様々な性質を内包している。あらゆる災いを呼ぶ力であると同時に、クウの消滅エネルギーに近い性質も保持しているのだ。
嵐、落雷、地震、噴火、津波、感染症、有害ガスといった、「滅亡」に関連するものを呼び起こすことが出来る。破壊力は抜群で、クウはその度に《幻葬眼》を使っていた。
「ファルバッサ! もっと時空間系の能力を抑えられないのか?」
”勿論やっている。だが、我は法則全般に働く能力だが、奴は時空間系統に特化している。どうしても出力で劣るのだ。ある程度は抑えられるが、それ以上は期待するな。それよりもクウは奴を必ず倒す方法を考えるのだ。それがあるなら、我が世界侵食を使う”
「神龍を倒す方法か……」
クウは何度も神龍に攻撃を当てているが、その度に修復されている。まるで幻影でも切っているかのような感覚であり、どうにか対処する方法を考えていた。
「多分、神龍の見た目自体は外殻だけのものだろ。オメガの核は神龍の中にある。それを攻撃すれば、確実に倒せると思う」
”核の位置は分かっているのか?”
「分かっていたら悩まねーよ。《真理の瞳》を使っているけど、当たり前みたいに情報防御が組まれている。解析するのは難しいな」
神龍の姿は核を守るための外殻に過ぎない。だが、同時に強靭な「龍鱗」の特性を持つ龍である。それなりの威力がなければ通用しない。
神龍の巨体全体を攻撃したとしても、攻撃密度が下がるので内部にある核まで届かない。
そして一点に力を集中させた場合、正確に核を貫くのは難しい。
だからクウも悩んでいた。
「っと危ない」
考え事をしている間にも戦闘は続く。特性「龍眼」と「界」「次元支配」「滅亡」を組み合わせ、視認した空間を消滅させる攻撃を放ってきた。
神龍は七つの目を持っているため、最大で七か所を同時に滅ぼすことができる。
クウの目には、その空間が情報次元ごと潰されているように映った。それは情報次元を消し去るのではなく、クラッシュしてグチャグチャにするようなものだ。潰された空間は、バグでも発生しているかのようにモザイク模様となっていた。
「ファルバッサ!」
”分かっている”
権能【理想郷】によって空間の法則を情報次元に上書きし、潰れてしまった部分を元に戻す。
その間に、クウは天使翼を広げて特攻を仕掛けた。
いつまでも防御に回って解析を続けても埒が明かない。だから攻撃を仕掛けることに決めたのだ。今回はファルバッサが防御を担当してくれるので、クウはひたすら攻撃することが出来る。
「腐り落ちろ」
《神象眼》で神龍の翼が腐り落ちる幻術を見せる。神龍はそれを認識してしまったので、本当に翼が腐敗してしまった。「龍鱗」も剥げて骨もボロボロになり、破れた雑巾のようになってしまう。
更にクウは腐敗を侵食させ、神龍の身体全てを腐らせようとした。
自分の体が腐っていく状況から脱却するため、神龍は再生を行う。核が纏う外殻は、あくまで物理次元に存在しているだけだ。新しい外殻を創り直せば、すぐに回復できる。
また、回復するだけではない。空間転移によってクウの頭上に出現した。ただ、ファルバッサが邪魔をしたからか、かなり離れた位置に出現した。お蔭で爪による攻撃は届かない。神龍は発動に僅かな隙を必要とするブレスを使用する。
「甘いな」
しかし、クウは既に《無幻剣》を発動していた。神龍の首元に突き刺さるような状態で幻影の剣を出現させる。特性「意思干渉」によって神龍だけでなく世界すら騙され、その剣が本物であると認識してしまった。それ故、情報次元が改変され、幻影の剣は本物の剣となる。
後は《因果逆転》によって疑似的瞬間移動を行い、斬るだけだ。
「はああああ!」
「グオオオオオオオオオオオオオ!?」
《因果逆転》は斬るという動作が先に確定し、その動作を邪魔する様々な因子を強制的に取り除くという術だ。距離と言う因子を強制的に取り払うことで、瞬間移動のような効果となる。
更にこの斬撃は《神象眼》の力が乗せられた一撃だ。
たった一本の剣ではあるが、それは神龍の首を一撃で切断する。そういう風に世界が誤認すれば、現実もそのようになる。神龍は「龍鱗」による防御も虚しく、首を断たれた。
だが、所詮は外殻。
《神象眼》によって、切断された状態が正しいと世界が認識していたとしても、新しい外殻として再生することで、瞬時に元通りとなってしまう。
「ガアアアアアアアアアア!」
ギロリと神龍の「龍眼」がクウを睨み、空間を捩じり潰そうとした。即座にクウも《幻葬眼》で対抗するが、神龍の持つ七つの瞳には勝てない。押し負けてしまい、右手と右足、そして天使翼が四枚も潰された。神刀・虚月も離してしまったので、重力に従って落下していく。
”一度引け!”
ファルバッサが空間操作系の能力を使い、クウを自身の背中へと強制転移させる。同時に落としてしまった神刀・虚月も回収して、クウの左手に持つ鞘へと納めておいた。
「攻め切れない……か」
”慌てるなよクウ。慎重に核の位置を探るのだ”
「分かっている」
傷を再生させたクウは、次の手段を考える。
恐らく、核の位置さえわかれば《素戔嗚之太刀》で一撃必殺を狙える。それは分かっていることだ。しかし、肝心の核の位置が全く分からない。《真理の瞳》でも解析できないのだから困っている。
それに、解析できたとしても意味がなくなる可能性は充分にある。
「神龍は核を体内で自在に移動させることが出来ると思った方がいい。常に核の位置を把握するか、核の位置が関係ない全体攻撃を仕掛けるかしか手がないぞ」
”我の《神・竜息吹》ならば消し飛ばせるのではないか?”
「あの巨体をか? 頭から尻尾まで八百メートルはあるぞ」
神龍は巨体であるにもかかわらず俊敏で、空間移動すら使いこなす。更に物理次元だけの外殻を纏っているのだから、本体である魔王オメガの真臓に攻撃を当てるのは難しい。
だが、このときクウはある策を思いついた。
「……あ」
”どうした?”
「いや、ちょっと思いついた。神龍が物理次元だけの外殻を纏っているからこそ出来る作戦があった。これを使えば、ファルバッサのブレスも当てれると思う」
”ほう。話して――”
そこへ神龍が拡散型の滅亡ブレスを放ってきた。ファルバッサとクウは即座に回避する。相手も有徴に作戦を話し合う隙を与えてくれない。
仕方なく、クウは神龍の相手をしながら右手の魔法陣に意識を向けた。
これはファルバッサを召喚するだけでなく念話も可能とする。
(ファルバッサ、続きを話すぞ)
(うむ)
クウとファルバッサは反撃を開始した。





