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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
445/566

EP444 総力戦⑤


 オメガにとってダメージを負ったことは予想外のことだった。



(ぐ……この痛み、久しいな)



 意思次元と情報次元を核として切り離したオメガは、核を傷つけられぬ限りダメージを負わない体となっていた。勿論、物理次元としては存在しているので、一見すると傷を負っているように見えることはある。しかし、それは情報次元や意思次元まで届いておらず、瞬時に再生してしまう傷でしなかった。

 だが今、オメガは本物のダメージを負ってしまったのである。



「神龍を内部から焼くとは……我の真臓は傷の治りが遅いのが弱点だな」



 一見すると無敵に見えるオメガの能力だが、一応の仕組みはある。故に弱点も存在しているのだ。

 この術式は真臓へと情報次元と意思次元を封じ込めているため、弱点が野ざらしになっている状態に等しい。このままでは危険だと考えたオメガは、神龍という外殻を創ったのだ。

 そして今回、ハルシオンの能力によって内部から大電流による攻撃が行われた。当然、オメガの真臓は電流ダメージを受けることになる。更に、これは情報次元だけでなく、意思次元に直接攻撃されている状態にも等しいのだ。ダメージ量は大きいし、傷の治りも遅くなる。



「それに、神獣の召喚を許してしまったか」



 オメガが見ると、メロは既に権能【百鬼夜行】を発動しており、瘴気から妖魔を作り出す権能によって、軍団とも呼べるものを呼び出していた。

 漆黒に染まった妖魔は蝙蝠の翼を持つ人間の子供のような見た目であり、一体一体は弱い。しかし、ほぼ無限に作り出すことが出来るので、時間稼ぎとしては充分だった。

 元々、オメガに直接ダメージを与えることは出来ない。

 クウたちが神龍を倒す時間を稼ぐという目的に即していると言えた。



”数を優先したから、一体一体は弱いぞ”


「それでいい。強い個体を呼んだところで意味はない。常にこちらが攻め続けることの方が大事だ」


”お主がそう言うのなら、そうなのだろうよ”



 そういったメロは、妖魔たちに指令を降す。

 全ての妖魔たちが津波のように襲いかかり、《魔神憑依》を発動させたオメガに襲いかかった。だが、オメガは憑依魔神アラストルを操り、腕の一撃で大量の妖魔を消滅させる。また、魔神体そのものが盾となり、オメガまで妖魔が届くことはない。

 所詮は数を優先した弱い妖魔なのだ。

 当然である。



「我の障害とはなり得ぬ。だが、厄介だ」



 オメガは魔神体の右手に持たせた巨大な剣へとオーラを纏わせた。それを振るうたびに黒いオーラが唸りを上げ、一撃で妖魔たちを滅ぼしていく。

 振るわれる巨大剣の速度は音速を超えており、一撃ごとに衝撃波が生じる。



「やはり強いな。まだいけるかメロ?」


”妖魔の数に限界はない。それに、妖魔を倒せば倒すほど瘴気が満ちるのだ。儂の戦場は時間と共に整っていく。知っているだろう小娘”


「そうだったな。なら、私も少し協力しよう。《瘴悪放爆パンドラ・オープン》」



 散布した特異粒子を濃密な瘴気へと変え、爆発によって周囲に放出する。勿論、この瘴気による爆発はオメガを攻撃した。しかし、やはり憑依魔神が盾となり、オメガまでは届かない。

 尤も、どちらにせよオメガへとダメージを与えることは出来ないが。

 それでもアリアは瘴気を操る術を連発する。



「《暗瘴雲ダーク・クラウド》、《次元瘴穴ディザスター・ホール》!」



 まずは《暗瘴雲ダーク・クラウド》瘴気を自動で濃密化してしまう領域を形成する。そして圧縮した分を補給するように、瘴気を放つ次元の穴を《次元瘴穴ディザスター・ホール》によって作り上げた。

 黒い霧のような瘴気が漂いながら渦を巻き、通常の者では即死してしまうような空間となる。

 更に、真上には漆黒の穴が開き、そこから猛烈な勢いで瘴気が溢れ出ていた。溢れた瘴気は次々と濃密化されて行き、周囲は暗い雲に包まれた景色となる。

 メロの権能【百鬼夜行】は瘴気を操る力。アリアのアシストもあり、オメガを足止めするのに十分な妖魔を次々と召喚する。



”おおっ! これだけの瘴気を操るなど久しぶりじゃの! 心が躍るわ!”


「お前の力は時間と共に危険度が増し、放置すれば世界は滅ぶ。念のために空間を切り取らせて貰うぞ」


”カカカカ! その内、瘴気が空間に満ちる。お主も聖気を纏っておかねば動けなくなるぞ?”


「既に使っている……全く、本当に危険な力だ」



 アリアは瘴気が周囲に漏れ出さないよう、空間を切り取って結界を形成している。これはオメガを逃がさないという意味もあるので、一石二鳥だ。

 だが、この空間にいれば、いずれ瘴気が満ちて超高濃度となり、魂すら侵すレベルとなる。怨念と狂気に溢れた空間で瘴気を保つには、聖気を纏うしかない。アリアは【神聖第五元素アイテール】でオーラに聖なる属性を混ぜ込み、この瘴気に対抗していたのだ。



”妖魔共も徐々に強化されておる。聖なる力で瘴気を浄化せぬ限り、儂に有利な空間へと変わる一方じゃ。オメガに後れを取ることないようにせねばなるまい”


「あとでリアに浄化を頼むか……」



 もしくはクウの《幻葬眼》で消し去るのが最も効果的だろう。

 後始末のことを考えて頭を悩ませつつもアリアは瘴気を増やし続けるのだった。









 ◆ ◆ ◆ 









 リア、ミレイナの戦場では、白い炎が周囲を包んでいた。それは熱を持たない、浄化の性質だけを持った聖なる炎。ミレイナが触れても効果はなく、アジ・ダハーカの傷から生まれた邪龍にとっては猛烈な毒となっている。

 しかし、この「聖炎」はミレイナの戦いを補助するものでしかない。

 リアは並行して術式を用意していた。



「《時間転移タイム・シーフ》」



 アジ・ダハーカが発動しかけていた大魔法を過去に戻し、術式を消し去る。眷能【霊瘴喰アンラ・マンユ】によって千の属性を操るため、その中にはミレイナを一撃で殺してしまうようなものもある。リアはそういった魔術を《時間転移タイム・シーフ》で消していたのである。

 同時に、アジ・ダハーカの意思力を誘導・・して戦いを有利に運んでいた。



(7番から84番に移動。4-55を飛ばして93番を有効化)



 数々の未来の内、即死などの魔術を使わないように、リアは未来を選択していた。そのお陰で、ミレイナはまだ戦うことが出来ている。

 アジ・ダハーカもオリヴィアも、意思が誘導されているせいで、即死魔法を使うという選択肢が頭になかった。

 一方、ミレイナは迫る邪龍を屠りながら、少しずつアジ・ダハーカへと近づいていた。



「邪魔なのだ!」



 「聖炎」を纏った拳が邪龍を砕く。《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》が破壊の衝撃波を放ち、邪龍を粉砕する。漆黒の龍鱗を持つ蛇のような見た目の邪龍は、黒い粘液を撒き散らしながらバラバラになった。

 そして深紅のオーラを操作し、竜爪を形成する。爪を振るうたびに斬撃が飛び、邪龍を切り裂いた。リアがアジ・ダハーカの魔術を全て消して対処しているからこそ、ミレイナは攻撃に集中できるのである。



「《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》!」



 ミレイナが咆哮すると同時に、深紅の流星が飛ぶ。そして大爆発を引き起こし、三十体ほどの邪龍を巻き込んだ。黒い粘液が飛び散り、それがリアの「聖炎」によって消滅する。

 この粘液は液状化した瘴気だ。

 より正確には、怨念や狂気や邪念を全て煮詰めて凝縮したような物質だ。

 ミレイナが直に触れると最悪死に至る。

 リアは常に気を配ることを強いられていた。



(そろそろ、わたくしだけではきついですね)



 アジ・ダハーカは傷口から生み出した邪龍だけでなく、魔術を使って多種多様広範囲の攻撃を仕掛けてくるのだ。その全てをリアが防いでいるものの、限界はある。

 故にリアはひとまず大量の霊力を注ぎ込んで術式を発動させた。



「《時間操作タイム・オペレーター》……時間を停止!」



 リアは空間を切り取り、その領域内部で時間を停止させる。超越者相手の場合、意思次元にまで停止の概念を届かせることは出来ない。しかし、情報次元をや物理次元を停止させることは可能だ。これによって、意識はあるが、動けないし術も発動できない状態となる。

 そしてステータスの縛られたミレイナは意識すらなくなった。



「来てください!」



 リアは右手を掲げ、その甲に描かれた魔法陣へと霊力を注ぎ込む。そして魔法陣を展開し、契約している神獣を運命迷宮より呼び出した。

 巨大魔法陣から、純白の「龍鱗」を持った蛇が現れる。

 天翼蛇カルディアだ。



”聞いてはいましたが、あれが敵ですね。何とも私に似た存在のようですが”


「お願いします、カルディア様」


”ええ、任せなさい。廻れ、【円環時空律ウロヴォロス】”



 カルディアは自分の内側に秘めた力の解放を意識する。





―――――――――――――――――――

カルディア    2019歳

種族 超越天翼蛇

「意思生命体」「神獣」「魔素支配」

「邪眼」「龍鱗」


権能 【円環時空律ウロヴォロス

「時空間支配」「循環」「因果操作」

―――――――――――――――――――





 カルディアが権能を発動させると同時に、時間停止も解けた。時間を止めるような強大な術式は、膨大な霊力を一度に消費してしまう。如何に無限の霊力を持つ超越者でも、一度に扱える霊力量は決まっているのだ。いつまでも時間を止めておけるわけではない。

 しかし、それをカルディアが引き継ぐ。



”対象を特定しましたよ。《時間点消滅タイム・ディスパージョン》”



 カルディアは「邪眼」によってアジ・ダハーカを対象と定める。

 そして時間流を操り、ループへと導いた。

 時間とは変化を表す概念であり、絶対不変の法則ではない。そして時間変化という情報次元の変化をループによって閉じ込めるのだ。

 しかし、ただ閉じ込めて保存する訳ではない。

 「時空間支配」と「循環」によって対象の情報次元を隔離し、「因果操作」によって切り離す。その時間ループで閉じ込めた情報次元は、元の情報次元と関係がありながら関係ない微妙な状態となってしまう。

 これが時間消滅。

 世界の時間、対象の時間、自分の時間を切り離し、独自のループ世界を構築する力である。



「グオオオオオオオオオオオオオオ!?」



 カルディアによってアジ・ダハーカは左の首を潰された。時間ループによって情報次元を隔離され、それを切り離されたからである。切り離された左首部分に無数の文字列が浮かび上がり、隔離された情報次元として可視化できるようになった。

 青白く輝く文字列が球状に纏まり、淡い光を伴って浮遊する。

 カルディアが軽く息を吸い込むと、アジ・ダハーカの左首に相当する情報次元が分離し、カルディアの背にある翼付近で留まった。



”なるほど……準超越者の情報次元だけあって、切り離すのも大変のようだ”



 時間、もしくは因果に対する耐性が強いほど、この術は成功しにくくなる。しかし、成功してしまえば情報次元を切り離すことすら可能なのだ。

 これは情報次元の攻撃とは少し異なり、特殊な効果がある。

 それは、奪われた情報が回復しないということだ。何故なら、その情報は別の時間が隔離されたループ世界で保存されているのだから。

 つまり、アジ・ダハーカは左の首を再生することが出来ないのである。

 翼付近で留まった左首の情報次元が一気に弾け、円環となってカルディアの上に留まった。それは、まるで巨大な天使の輪である。流れる情報次元の文字列が円環を形成し、カルディアの一部となった。

 【円環時空律ウロヴォロス】はただ時間を切り離すだけでなく、それを喰らう。そしてカルディアの一部に変えてしまう。



”この私の……時を喰らう蛇の力に抗ってみなさい”



 時を移動する少女。

 時を喰らう蛇。

 二つの時を操る力がアジ・ダハーカとオリヴィアに襲いかかった。











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