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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編

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EP443 総力戦④


 魔神剣ベリアルを手に持ったクウは、音速飛行でザドヘルへと迫った。勿論、音速程度でザドヘルが驚くことはない。広範囲に炎を放ち、クウを攻撃しようとする。

 しかし、クウはそれに魔神剣ベリアルを振り下ろし、死の瘴気で呑み込んだ。



(ベリアルの瘴気は現象系に近い。これならいけるな)



 法則系は現象系に弱い。

 故に、ザドヘルの炎は瘴気によって殺されてしまった。全てを殺し尽くす概念攻撃によって、空間中の分子が持つ運動エネルギーを殺されてしまったのである。



「いけ、《魔神の矢》」



 消滅エネルギーを生成し、それを矢の形に変えて放つ。それは雨のようにザドヘルと神龍へと降り注ごうとしていたが、神龍が空間操作によって異空間へと飛ばしてしまった。

 お返しとばかりに、神龍は「滅亡」の特性を加えたブレスを放つ。赤黒いエネルギー砲が放たれ、クウを飲み込もうとした。しかし、クウは冷静に魔眼を向ける。



「邪魔だ。《幻葬眼》」



 この力は、目の前の現象が幻術であると世界に誤認させる術である。そして、現実が幻術へと変わったところで、クウが幻術を解く。

 すると、その現象は解かれた幻術として、つまりなかったことにされるのだ。

 ガラスが割れるような音と共に、空間が罅割れる。

 そして空間ごと消滅させる滅亡ブレスは、幻術となって消えてしまった。



「切り裂け!」



 反撃としてクウは魔神剣ベリアルを振り下ろす。この際、《神象眼》の力を込めて、因果干渉を行った。これによって、魔神剣ベリアルが振り下ろされた、その一直線上全てが切り裂かれる。いや、その状態こそが正しいのだと定義づけられる。

 「意思干渉」の力が発動し、世界がそれを認めてしまった。

 ザドヘルは避けたが、転移を阻害されている神龍は体の左側を引き裂かれてしまう。腕や翼が千切れ、どす黒いドロドロとした何かが噴き出た。

 更に下を見れば、海まで裂けてしまっている。

 この状態が正しいと《神象眼》で定義してしまったので、《幻葬眼》で戻さない限りは、このままとなってしまうだろう。



「グオオオオオオ……」

「神龍!」



 ザドヘルは切り裂かれた神龍を見て少し慌てた。何故なら、神龍は「次元支配」によって攻撃を透過させることが出来るはずだからだ。しかし、クウの攻撃は物理干渉ではなく、因果干渉によって切り裂いた事実を直接表出させる。

 そのため、クウの目に捉われた時点で攻撃が外れることはない。

 更に神龍の傷口には死の瘴気が纏わりつき、因果干渉もあって修復が非常に遅れていた。

 いや、そのはずだった。



「グオオオオオオ!」



 本来なら、因果干渉と死の瘴気によって傷の修復はかなり阻害される。しかし、神龍は一瞬のうちに回復してしまったのである。

 これは奇妙なことだった。



「どうなっている?」



 クウは《真理の瞳》で観察していたが、首を傾げざるを得ない結果となった。それに、以前も神龍と少しだけ戦ったが、《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》が効かないということがあった。

 神龍がオメガの核であるとするならば、必ず意思次元がある。

 《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》が効かない理由が余計に分からない。

 だが、すぐに考え事をしている暇は無くなってしまった。



「凍り付け! 《紫皇封氷凍インフェルノ・フリーズ》」



 ザドヘルは空間中の分子運動を完全に鎮静化し、絶対零度の世界に変える。そしてクウを紫の氷山に閉じ込めてしまった。オーラが込められた氷山であるため、破壊は困難である。常に凍結の法則が支配している、永久凍界なのだから。

 しかし、クウもこの程度で止められるはずがない。

 すぐに《幻葬眼》で砕き、氷結世界から脱出した。



「少しぐらい考えさせろって」



 そう言いつつ、クウは再び魔神剣ベリアルを振るう。当然、それには《神象眼》が乗せられており、今度はザドヘルを狙った。

 しかし、ザドヘルは一歩横にずれることで回避する。これはあくまでも斬撃なので、簡単に避けることが出来るのだ。

 だが、神龍は巨体ゆえに避けきれない。今度は左翼を巻き込みつつ、神龍の尾が切り裂かれた。神龍も僅かに回避しているので、直撃とはならない。それに、受けた傷も一瞬で修復してしまった。

 幾らファルバッサが【理想郷アルカディア】で時空系の操作を阻害していても、これでは意味がない。



(神龍……ダメージを与えるには何か条件が必要なのか?)



 神龍の権能【終焉龍アポカリプス】は特性「次元支配」「界」「滅亡」であり、因果系補助のある法則系権能と言える。ただ、死の瘴気や「意思干渉」の攻撃すらものともしないのは何故かと言えば、想像もつかない。

 《真理の瞳》で解析するにしても、超越者の固有情報次元を解析するのは非常に困難なのだ。基本的に情報プロテクトがあるので、それを破らなければならない。場合によっては、クウのようにカウンターの術式を組んでいることだろう。そうなると厄介である。



(やはり、ザドヘルを引き剥がすのが先か)



 一秒とかからずに思考を終え、クウは再び《神象眼》を発動させた。まずは幻術によって、ザドヘルは自分の背中に一本の剣が突き刺さっているのを自覚する。ここで「意思干渉」が働き、クウや世界やザドヘル自身の認識を要として、幻術は現実となった。

 突き刺さっている剣が本物であり、ザドヘルは剣で刺されたと錯覚させられてしまったのである。これによって情報次元が自動的に改変され、幻術の傷は本物となった。

 その瞬間、クウは《因果逆転トリック》を使う。



「はぁっ!」


「ぐっ……なんだと!?」



 ザドヘルに突き刺さった剣でザドヘルを切り裂く。

 そのような結果を引き寄せた。これによって距離という矛盾が消滅し、現実が辻褄を合わせてくる。クウはまるで転移したかのように、ザドヘルの背後へと移動したのだ。左手で掴んだ剣にオーラを流しつつ、一気に振り抜く。

 背中に突き刺さった剣は、そのままザドヘルの肩甲骨から脇腹あたりまでを引き裂いた。

 突然なことでザドヘルも呻き声をあげてしまう。

 追撃とばかりにクウは右手の魔神剣ベリアルを突き立てようとした。

 しかし、反射的にザドヘルが周囲を炎で包み込む。

 クウはその爆炎に呑まれてしまったのだった。









 ◆ ◆ ◆







 同時刻。アリアの放った《虚無創世ジェネシス》は軽く破られていた。

 魔王オメガが初めて見せた切り札の一つ《魔神憑依》のせいである。

 特性「魔神体」と「顕現」をフル活用し、霊力で魔神の力を編み込む能力だ。まずはオメガの周囲に巨大な骨格が現れ、徐々に筋肉が形成、そして皮膚が付き、最後に外装が整えられていく。初めは黒紫の半透明な骸骨だったのだが、今ではまさに魔神とも言える様相を見せていた。



「ふん。この程度で我を封じたつもりだったのか?」



 巨大な魔神の頭部でオメガは呟く。

 オメガが纏っているのは世界侵食イクセーザで出現する魔神アラストルを巨大化したような見た目であり、圧倒的なパワーで封印石から這い出ようとしていた。

 しかし、オメガのこれは世界侵食イクセーザではない。実を言えば、これこそが本当の意思顕現イクシステンスなのである。

 《黒き魔神の腕撃ブラキウム・デウス・ディアブロ》や《黒き魔神の墜脚ペース・デウス・ディアブロ》は、この巨大な魔神の一部分――つまり腕や脚――でしかなかったのだ。本来の「魔神体」の一部分を高速形成した攻撃だったのである。

 こうして本体を全て呼び出すには、オメガの演算能力を以てしてでも時間がかかり過ぎる。故に、一部分だけ「顕現」する術式を開発しただけだったのだ。



「この姿になった我は簡単ではないぞ?」



 オメガはそう言って霊力を解放する。すると、その霊力を使って憑依魔神が剣を形成した。黒紫一色の剣が巨大な右手部分で収束し、それが一気に振り抜かれる。

 すると、たったの一撃でアリアが用意した封印石を破壊してしまった。



「く……これほどか!」



 《黒き魔神の腕撃ブラキウム・デウス・ディアブロ》はこれの一部分でしかなかった。

 それを実感してしまうほどの威力である。

 封印石に与えられた超重力をものともせず、あっという間に封印石から脱出を果たしてしまう。そして現れたのは、悪魔のような一対の翼を持つ巨大な魔神の姿だった。



「愚かなる娘よ。我は千を超える年月を生きた超越者だ。貴様とは格が違うと知れ」


「ならば今までは手を抜いていたとでもいうのか!」


「……どうだろうな?」



 言葉を濁すオメガにアリアは不審さを覚える。しかし、すぐに目の前の問題へと集中した。生半可な攻撃では効果を期待できない。世界侵食イクセーザ無限連鎖反応アンリミテッド・チェイン》で【神聖第五元素アイテール】の出力を底上げすることも考える。



(いや、それよりもメロに頼る方が賢明だ)



 アリアはすぐに右手の魔法陣へと霊力を流した。すると、魔法陣は輝いて巨大化する。魔法迷宮から神獣メロを呼び出すことの出来る魔法陣が展開された。

 しかし、それを大人しく待っているオメガではない。



「させぬぞ」



 憑依魔神アラストルを操り、右手の巨大剣を振り下ろさせる。それは膨大なオーラを纏っており、魔法陣を切り裂こうとする。

 明らかに魔法陣が完成するよりも早い。

 アリアは召喚失敗を予感した。



(時間停止を使うべきだった!)



 一瞬だけでもいい。燃費の悪い時間停止でオメガの動きを止め、それから召喚陣を発動させるべきだったのだ。憑依魔神に焦るあまり、基本的なことが思いつかなかったのである。

 黒紫の巨大剣が召喚魔法陣を切り裂こうとしていた―――








 ◆ ◆ ◆







 ザドヘルが咄嗟に放った爆炎は非常に強力だった。何故なら、権能【氷炎地獄インフェルノ】がザドヘルの意思を受けて急激な分子加速の法則を実行したからである。




(ちっ!)



 爆炎に包まれたクウは心の内で舌打ちをした。莫大な熱がクウに襲いかかり、その身を焼き焦がそうとする。白銀のオーラで防御するが、すぐに体へと燃え移った。

 クウは《幻葬眼》で炎を消し去ろうとする。

 しかし、それよりも早くユナが動いた。



「吸収!」



 権能【聖装潔陽光アポロン】で創造した、炎を吸収する神魔剣を掲げ、ザドヘルの炎を吸い取ったのである。熱量が上がり続けるという法則で支配された空間は、ユナの引き起こした現象によって喰い尽くされてしまった。

 そして、ユナの攻撃はこれで終わらない。



「変換!」



 吸収した熱エネルギーを、ユナは自在に変換することが出来る。自在と言っても陽属性の範囲内でだ。つまり、熱以外では雷や光エネルギーにすることが出来るのだ。

 今回、ユナは全ての熱を雷撃へと変換した。



「くーちゃんの仕返しだよ!」



 ユナが剣を振り下ろすと同時に、真っ白な光がザドヘルへと下る。ザドヘルは咄嗟にオーラと魔素で防御したようだったが、エネルギーが膨大過ぎた。

 神龍ごと雷光に包まれ、周囲はホワイトアウトする。空気が弾けたことで、鼓膜が破れそうな程の轟音が鳴り響いた。

 それまでにクウはザドヘルの側から離脱する。



「助かったぞユナ。ありがとう」


「ふっふーん。当たり前だよ! それに仕込み・・・も万全だよ!」



 クウは既にユナの側へと戻っており、お礼を言う。やはり法則系の権能に対してはユナの力が有効だ。世界侵食イクセーザを使えばクウでも何とかなるのだが、アレは消耗が激しいので使わないに越したことはない。

 そういう意味でもユナの助けは有り難かった。

 一方、ザドヘルは痺れた肉体を回復させつつ、権能の力を眼下の海に向ける。熱を操るザドヘルは、海水から熱エネルギーを奪って氷結させ、余剰の熱エネルギーを運動エネルギーに変換することで高速射出することが出来るのだ。



オーラを込めて氷を強化。空気抵抗に耐えられるように魔素強化も施さねばな)



 見下ろせば、水は幾らでもあるのだ。それはつまり、無限の武器を手に入れたことに等しい。回避不可能な全体攻撃を放とうとした。

 だが、ここでザドヘルはあることに気付く。



(む! 雷を操る獅子の神獣がいない……?)



 天雷獅子ハルシオンは、それなりの巨体なので見失うことはないハズだ。それに、超越者の感知能力ならば、見つけられないはずがない。

 しかし、ザドヘルはハルシオンの姿を見失っていた。



(どこだ……! 空間中に電気が残っているせいで感知がしにくい!)



 超越者として加速されている思考が、ハルシオンの行く先を予測する。同時に、感知能力を使って記憶にあるハルシオンの気配を探った。

 未だにピリピリと電子が走っていることもあり、感知が邪魔される。

 特に神龍の体内には電流が流れ続けており、神龍は上手く動けないようだった。



(……いや、違う! 残留した電流程度、神龍が排除できないはずがない。まさか消えた獅子の神獣は神龍の体内に―――)



 ザドヘルはそこまで思考が辿り着くも、既に遅い。

 神龍の内側から、大量の雷槍が突き出し、大放電が発生した。



「グギョオオオオオオオオオッ!?」



 ザドヘルの予想通り、ハルシオンは神龍の体内に潜んでいたのだ。先程ユナが巨大な雷撃を落とした時、特性「電子変換」を使って雷に紛れ、電子化した肉体を神龍の内部に侵入させたのである。

 その影響で神龍には膨大な電流が流れ続けていたのだ。

 勿論、その電流はハルシオンの肉体そのもの。意のままに操ることが出来る。こうして、内側から炸裂するようにすることも容易い。



「オオオオオオオッ!?」


「ぐ……がああああああ!?」


”クハハハハ! これは予想できなかっただろう?”



 神龍の内側から放たれる雷の槍はザドヘルにもダメージを与える。同時にハルシオンが飛び出し、自慢げに笑い声を上げた。

 そして、そのままユナとベリアルに向かって叫ぶ。



”やるぞユナ、そしてベリアル! 《量子電送りょうしでんそう》!”



 特性「電子変換」をユナとベリアルに施し、ザドヘルの側へと疑似転移させる。空間移動ではなく、電子の位置を確率操作で偏移させたのだ。故にファルバッサや神龍の時空間操作阻害も適応されない。

 肉体が一時的に電子へと置き換わったユナとベリアルは、一瞬の後にザドヘルの目の前へと現れた。

 神龍の内側から放たれた雷槍を喰らっているザドヘルに対応できるはずもない。



「行くわよ。《黒死結界》!」



 クウが「意思干渉」による補助を行い、ユナとハルシオンがザドヘルと共に黒い結界へと包まれる。これは球状に展開した死の瘴気であり、内側には幻術世界が広がっているのだ。

 広さ無限の幻術空間へと閉じ込める結界である。

 ただし、空間転移を使えば容易に脱出できてしまうのが弱点だ。とはいえ、ザドヘルに空間操作能力はないし、そもそもファルバッサが法則支配で空間転移を阻害している。



「ベリアルは《黒死結界》を維持しろ。ファルバッサは俺と神龍の相手だ」


「任せてマスター」


”ふむ。ユナやハルシオンより先に倒してしまおうではないか”



 内側から雷で焼かれ、所々が黒焦げになっている神龍。よく見ると、治癒が遅い。これまではどんな傷も一瞬で回復していたのだが、今の神龍は普通の超越者よりも回復が遅かった。

 その影響は、別のところでも現れていた。








 ◆ ◆ ◆








「ぐっ!? ぐああっ!?」



 唐突にオメガが強い呻き声をあげ、心臓の辺りを抑えて表情を歪めた。これによってメロを召喚する魔法陣を壊そうと振り下ろされていた巨大剣も消失してしまう。

 アリアは驚いた。

 勿論、オメガがダメージを受けたかのような呻きを上げたことに。



「チャンスだ! 来いメロ!」


”ようやく儂の出番か。待ちくたびれたぞ小娘”



 魔法陣から可愛らしい翼を持つ老描が出現する。

 頼もしい援軍、妖老猫メロの登場だった。










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