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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編

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EP442 総力戦③


 少し時は遡る。

 オリヴィアとアジ・ダハーカの正面に空間転移したリアとミレイナは、まず簡単な作戦を話し合った。



「リア、あいつは私が倒したい」


「ミレイナさん……?」


「奴は私の母を愚弄したからな。この手で消すと決めているのだ」



 ミレイナの言った通り、オリヴィアはかつてパルティナをデス・ユニバースとして復活させ、操っていたことがある。それが許せず、この手で必ず倒すと決めていたのだ。

 しかし、リアは簡単に頷くわけにはいかない。



「ミレイナさんはまだ超越化していません。倒せないのは分かっているハズです」


「勿論だぞ」


「それは、この戦いの中で超越化を果たすということですか?」



 それは都合のよすぎる話だ。

 確かに、最終的に超越化できるかどうかは気持ちにかかっている。大きな意思が魂の封印を破り、潜在力の全てを解放する必要がある。

 だが、簡単に起こらないことだからこそ、超越化なのだ。

 ミレイナもそれは理解している。

 しかし、彼女は敢えて頷いた。



「そうだ」



 無謀すぎるとリアは思う。

 クウはステータスに縛られた身で超越者オロチへと挑んだが、結果的に超越化のきっかけとなったのは、オロチが召喚した天使だった。つまり、超越者と直接戦闘した訳ではない。 

 今回、オリヴィアとアジ・ダハーカは超越者と準超越者だ。

 あまりにも相手が悪すぎる。



「素直に頷けない提案です」


「頼む、リア。今しかないんだ」


「ですが……」


「私があいつを倒さなければ、もう強くなれない気がするんだ」



 ミレイナは固い意志を持って言った。



「私は誇り高き竜人族。そして母の誇りを汚した奴は、私が倒す。確かに私は母に一度も会ったことはない。でも、ここで引いたら、私はもう二度と超越化できない」



 リアには分からない感覚だった。何を以て、あれが命を懸けるに値する宿敵だと認識しているのか。

 しかし、母親の魂を汚されたという気持ちは理解できる。

 仮に自分の身に、ミレイナと同じことが起これば、リアも同様の気持ちを抱いたことだろう。父親は好きになれなかったが、リアも母親は愛していた。いや、今も愛しているだろう。

 竜人、獣人は民族意識が高く、家族愛も深い。

 顔も知らない死した家族に対しても、それほどの感情を抱くことが出来る。

 ある意味、羨ましい一族だとリアは思った。



「……分かりました。ですが、ミレイナさんを単独で向かわせはしません」


「そこは譲歩する。私はただでは敵わないと知っているぞ」


「では聖なる炎の加護を」



 リアは自分の特性「聖炎」をミレイナに施す。これに「天使」の特性を含めることで、加護に似た形でミレイナに付与することが出来るのだ。

 オリヴィアが使う死霊は瘴気を帯びている。なので、「聖炎」の加護は防御策として必須である。勿論、リア自身も聖なる炎を纏った。



「では行きましょう」


「ああ、奴も待っているようだからな」



 超越者の戦いは音速を超えた領域にある。

 勝負は一瞬であり、互いに読み合いが必要だ。オリヴィアも出方を窺っているのだろう。如何にミレイナが超越化に至っていないとは言え、ミレイナを攻撃した隙にリアが攻撃してくる可能性は捨てていない。先に倒せるミレイナを優先的に狙うという方針は変わらないが、慎重に動き方を練っていた。

 これでもオリヴィアは軍師としての役割もある。

 そういったことは得意だ。



(アジ・ダハーカには千の魔術があるわ。大抵のことでは遅れを取らない。先手を打ち、相手の出方を観察するのもアリね)



 オリヴィアはリアの能力を知らない。そもそも、超越化していることすら初めて知った。どんな能力を持っているか分からないので、警戒しなければならない。

 ただ、纏っている白い炎は瘴気と対極の者であると理解できる。自分に相性の悪い力だと察することは出来ていた。



(ふふ。でも、瘴気に聖気が効くのと同様に、聖気に瘴気は効くのよ。小細工せずに、アジ・ダハーカの出力で押し切ってみせるわ)



 水は火を消すことが出来る一方、火は水を蒸発させることも出来る。

 聖気と瘴気にも同様の関係性があるのだ。



「まずはこちらから行くわ。一斉攻撃よ」



 オリヴィアが命じると同時に、アジ・ダハーカの三つ首が《瘴厄吐息ディザスター・ブレス》を放った。これは瘴気の力を放射する攻撃であり、喰らえば一瞬で死に至る。それほどの毒素なのだ。

 超越者であるリアはともかく、ミレイナには耐え切れない。

 三つの首から同時に放たれる漆黒の吐息が、ミレイナを狙って襲いかかった。



「させませんよ」



 リアはそれを防ぐ。莫大な霊力を注ぎ込み、聖なる炎で《瘴厄吐息ディザスター・ブレス》を焼き尽くしてしまった。

 更に、リアは会得した並列演算能力で別の術式も起動する。



「《次元裂爪ディメンジョン・スラッシュ》」



 空間そのものを切り裂く攻撃。これによってアジ・ダハーカの三つ首は全てきり落とされた。

 しかし、アジ・ダハーカも準超越者だ。この程度の回復は容易い。更に、傷口から溢れる瘴気が形を成し、邪龍となった。邪龍は蛇のように細長い体と翼を持った姿であり、一体で人族基準のSSSランクはある。それが無数に出現したのだから、恐ろしい戦力だ。

 だが、ミレイナは恐れない。



「吹き飛ぶのだ!」



 ミレイナは《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》を使って邪龍を吹き飛ばす。破壊の衝撃波にリアが纏わせた「聖炎」が混じり、邪龍に対して有効な攻撃となった。

 そして、オーラで爪を形作ったミレイナは、邪龍の群れに向かって飛翔する。



「はあああああああ!」



 音速のミレイナが一番近い邪龍を粉砕した。だが、邪龍はその一体だけではない。別の邪龍が次々とミレイナを取り囲み、瘴気を纏ってミレイナに咬みつこうとする。

 聖なる炎で守られているミレイナも、内部から瘴気を流し込まれたらどうしようもない。

 しかし、ここでリアが動いた。



(56-7を削除。8番を有効化)



 《時間転移タイム・シーフ》によってミレイナが回避できる未来を呼び寄せた。この力は特性「意思誘導」が肝になっており、気付かぬ間に運命を操ることすら可能とする。

 本人が自らの意思で動いたと思っても、それはリアの手で定められた運命のレールを歩んでいるに過ぎないのだ。

 ただし、あくまでも《時間転移タイム・シーフ》はあり得る未来にしか移動できない。もしくはあり得た過去にしか移動できない。時間軸を過去に辿って分岐点から別の未来に派生し、並行世界へと移動するのが《並行転移パラレル・シフト》であり、全くあり得ない世界を呼び寄せることは不可能だ。

 それが可能なのはクウの「意思干渉」である。

 しかし、「意思誘導」は元からあり得た運命の可能性を利用する力であり、抵抗しにくい。更に、誘導されたことにも気付きにくいという利点がある。

 無を有に、有を無に出来る「意思干渉」。

 有を自在に変形できる「意思誘導」。

 一長一短であり、どちらが優れているかは断じがたい。

 それでも、強過ぎる力であることは間違いなかった。



(ミレイナさんに邪龍を任せ、わたくしは支援と大きな術式の発動に専念しましょう)



 神魔杖・白魔鏡を手に入れたとはいえ、クロスレンジでの戦いは苦手だ。魔法使いらしく、遠距離から術式を構築することに決める。

 そんなとき、ふいに空が暗くなった。

 リアがそちらに目を向けると、アリアが巨大な大岩を作り出し、オメガを封じたところだった。



「私も急ぎましょう。《熾天白焔セラフ・フレイム》!」



 その瞬間、アジ・ダハーカを含め、邪龍たちを白き聖なる炎が包んだのだった。











 ◆ ◆ ◆










「まったく、大したものだね」



 アリアが用意した封印石を眺めつつ、リグレットは苦笑した。同時に凄まじい雷撃が飛んでくるが、それはリグレットの体に触れる直前に跳ね返され、発射元であるバハムートへと返っていく。

 鏡属性による反射だ。あらゆる運動量ベクトルへと干渉し、その向きを反転させることを可能としているため、大抵の攻撃は効かない。

 ただし、運動量ベクトルというのは多岐にわたり、非常に複雑だ。

 それを制御するのは困難である。

 そこで、リグレットは鏡属性の魔道具を作り、機械制御することで高速処理を実現していた。



「さて、こちらもそろそろ動かないと拙いね」



 リグレットは『人形師』ラプラスの操る四体のバハムートを眺めながら呟いた。バハムートの眷能【機甲鋼竜王バハムート】は物理法則における四つの力を操るというものだ。

 原子核に働く強い力、原子崩壊に関わる弱い力、質量に働く重力、光にも関係する電磁力。これらを自在に操り、攻撃を仕掛けてくる。

 今は鏡属性で力を跳ね返し、様子見をしていたのだ。



「そろそろ介入しようか。向こうも待ちくたびれているだろうからね」



 そう言って、リグレットは右手の人差し指に霊力を集め、空中に何かを記し始める。リグレットの権能【理創具象ヘルメス】は書き込む力であり、情報次元に介入して概念を書き込むことが出来る。



「加重」



 その概念が完成した瞬間、宙に浮いていたバハムート四体は墜落した。現在、バハムートは重力操作によって宙に浮いているため、予想外の加重によりバランスを保てなくなるのだ。

 勿論、バハムートはゴーレムの一種であり、その演算能力ですぐに復帰する。

 しかし、リグレットには充分な隙となった。



「錬成、概念付与、竜殺し」



 空気中の元素を核融合で鉄に変換し、魔素を込めて魔法金属に変える。それにリグレットが竜殺しの概念を書き入れ、一本の剣に仕立て上げた。



「浮遊付与、転写、コピー錬成開始」



 そして竜殺しの剣に浮遊の力も込め、あとは鏡属性の特性「転写」を利用して同じ竜殺しの剣を次々と錬成していく。あっという間に剣は増殖し、数千本がリグレットの周囲に浮かんだ。

 更にリグレットは能力を重ねる。



「境界設定、射出速度は光速、一時的質量消失により矛盾解消」



 鏡属性「境界」を利用して、剣と空間の間に境目を設置した。これによって、剣が光速で射出されても空間に影響を与えなくなる。

 そしてバハムートは竜の姿をかたどっており、竜殺しの概念が有効だ。



「射出用意」



 リグレットが宣言した瞬間、千を超える剣が動き、切先を四体のバハムートへと向けた。それに気付いたラプラスも、バハムートに命令して《電磁加速砲レールガン》の用意をする。発射する弾頭は核融合爆弾であり、炸裂すれば周囲一帯が凄まじい熱と爆風で覆われることだろう。

 しかし、リグレットは慌てなかった。

 所詮、《電磁加速砲レールガン》は音速の領域。

 リグレットの放つ光速には敵わない。



「行こうか。全弾射出フルバースト



 光速というのは有限の速度だ。

 しかし、同時に絶対不可侵の速度でもある。実量のある存在は、絶対に光速へと到達することが出来ないと物理学が証明しているからだ。

 だが、超越者は法則すら操る。

 不可能を可能にする法則そのものが超越者なのだ。

 リグレットの放った竜殺しの剣は、《電磁加速砲レールガン》が発射される前にバハムートを貫いた。全長一キロはある巨体も、光の速さで迫る効果抜群の剣には勝てない。大爆発を引き起こし、ラプラスも爆風の中に消えてしまった。

 それでも、リグレットは油断しない。



「さぁ、ここからだね。召喚、テスタ」



 右手の魔法陣に霊力を流し、大規模な召喚陣を展開する。それは迷宮から神獣を呼び出す魔法陣であり、中から出て来たのは翼を持つ巨大な狼だった。

 天星狼テスタ。

 宇宙の神秘を操る神獣である。












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