表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
442/566

EP441 総力戦②


 クウとユナの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がり、バチバチとエネルギーが炸裂する。そして、その魔法陣から二つの巨体が現れた。

 一つは白銀の竜鱗に包まれた天竜ファルバッサ。

 もう一つは黄金を思わせる天雷獅子ハルシオン。

 クウとユナを含めれば超越者が四体。これに準超越者級であるベリアルを含め、ザドヘルと神龍を倒すための役者が揃った。



「行くぞ」



 クウは《無幻剣ファントムソード》を展開し、ザドヘルを狙って射出する。迫る剣をザドヘルは【氷炎地獄インフェルノ】による「沈静」の性質で速度を殺した。

 しかし、そこでファルバッサが攻撃を放つ。



”ガアアアアアアアアアアアッ!”



 超圧縮された魔素とオーラによって、凄まじい勢いのブレスが放射された。しかし、それは神龍の放つ赤黒いブレスによって相殺される。

 中間地点で大爆発が起こり、視界が一気に悪くなった。

 ザドヘルは、神龍の頭部に乗ったまま周囲を警戒する。



(奴らめ……どこからくる……?)



 数の上で不利なのは分かっている。だからこそ、防戦を続け、隙を狙うしかない。こちらから攻撃を仕掛けた場合、必ず隙を突かれてしまうからだ。

 カウンターしか突破口はない。

 故に、周囲へと注意深く気を配っていた。

 視界が封じられた程度で油断は出来ない。超越者の感知力ならば、気配や霊力の大きさから正確な位置を知覚出来てしまうからである。



「っ!?」



 何かの閃きを見て、ザドヘルは咄嗟に回避した。

 先程まで自分の首があった場所を、赤黒い何かが通過する。それは、クウの使う《魔神の矢》だとザドヘルは知っていた。



(触れるのは拙い!)



 消滅の概念は現象系寄りの力であり、ザドヘルの力とは相性が悪い。故に、「沈静」の性質で抑え込むことは難しいのだ。

 そこで、ザドヘルは神龍に頼った。



「頼むぞ神龍」



 意思疎通は出来ないが、神龍が了承したような気がした。

 すると、無数に飛んできた《魔神の矢》を、神龍が全て別空間に送り込む。数えきれない矢の一本ずつに対応して異空間ゲートを開き、《魔神の矢》の射線上へと置いたのだ。

 恐ろしい演算力である。



「よし、反撃だ」



 この隙に、神龍の「次元支配」でクウたちを隔離する。今は五対二の状態だが、隔離して一対二へと持ち込んでしまうのだ。

 だが、それは油断だった。

 クウの能力は知っていたが、ユナとハルシオンの力を知らなかったが故に、油断してしまったのである。



”愚か者め”


「隙ありだよ」



 なんだと……と声を上げる暇すらない。

 ザドヘルのすぐ背後にユナとハルシオンが同時に出現した。それは空間転移のようだったが、空間操作による奇襲は、神龍が対策を施しているのであり得ない。仮に使えば、目的座標から外れて、別の場所に転移してしまう。最悪、別次元に放り出されてしまうのだ。

 しかし、ユナとハルシオンは、それを突破してしまった。



「はっ!」



 気合の掛け声と共に、ユナは《天照之アマテラスの太刀たち》を発動する。神魔刀・緋那汰によって居合の一撃が放たれ、権能【聖装潔陽光アポロン】が乗せられる。

 陽属性で全てを焼き尽くす神の炎。

 太陽という神格を再現した、理の先にある一撃。

 同じ熱を操るザドヘルでも、その概念に押し負ける。



「が……っ!」



 横一文字に切り裂かれ、傷口は一瞬で焼き尽くされる。凄まじい熱量のせいで空気が一瞬でプラズマ化し、斬撃の軌跡が白く輝いた。

 更に、ここで攻撃が終わることはない。



”消えよ”



 次にハルシオンが《陰陽滅牙おんみょうめつが》で攻撃する。電子の位相を操り、陽電子を生み出して対消滅反応を引き起こす攻撃だ。

 電子で形作られた獅子のあぎとは、上下の牙が電子と陽電子で出来ている。噛み砕くと同時に対消滅が発生し、対象を破壊する。

 これによってザドヘルの上半身が消滅してしまった。



”引くぞユナ”


「うん!」



 そしてハルシオンが雷速でその場から離れると同時に、ユナも天使翼を広げて逃げる。

 すると、先程まで二人がいた場所が神龍の爪で薙ぎ払われた。特性「滅亡」が込められた一撃であり、喰らえば瞬間に霊力体が崩壊する。

 神龍は「次元支配」で自分の位置を攻撃しやすい場所に転移させ、爪を振るったのだ。アリアの短距離転移と同じである。

 同時に神龍が翼を大きく羽ばたかせると、悪くなっていた視界が元に戻った。

 その間に、ユナとハルシオンはクウとファルバッサとベリアルの元に帰還する。



「くーちゃん。ザドヘルは仕留めたよ」


「どうせすぐに復活する。それよりも神龍はどうだった?」


「やっぱり、ハルシオンの「電子変換」だったら通用したよ! くーちゃんの予想通りだね」



 ユナとハルシオンが神龍の転移阻害を掻い潜ってザドヘルの背後に現れたことにも理由はある。ハルシオンが「電子変換」で自身とユナの霊力体を一時的に電子へと置き換え、空間中に拡散と収束をすることで疑似的な転移を実行したのである。

 つまり、空間転移で移動した訳ではないのだ。

 どちらかと言えば、分解してから別の場所で再構築したという表現の方が正しい。



「ファルバッサ、お前は法則支配で神龍の空間転移を阻害できるか?」


”可能だ。だが、我は支援程度しか出来なくなるぞ?”


「問題ない。ベリアルは次にユナとハルシオンがザドヘルに接近したら、《黒死結界》で隔離しろ。ファルバッサが転移を阻害しているから、神龍に邪魔されることはないハズだ。俺は神龍の相手をする。その間にユナとハルシオンでザドヘルを倒せ」


「うん。分かったよー」


「任せてマスター」


”では、我は少し下がろう”


”おいユナ。また俺が「電子変換」するから、抵抗するなよ。失敗したくなければな”



 クウの伝えた作戦に従い、それぞれが準備をする。

 丁度、神龍の頭部でもザドヘルが復活していた。今のは前哨戦のようなものに過ぎない。戦いはここからが本番となる。



「ザドヘルを倒し、すぐに神龍を仕留める。まずは俺が行く」



 そう言って、クウは天使翼を羽ばたかせたのだった。












 ◆ ◆ ◆










 神槍インフェリクスを携えたアリアは、オメガと激しく打ち合っていた。これは魔王と魔王の戦いであり、娘と父の戦いでもある。

 お互いに黒いオーラが唸りを上げ、激しくぶつかった。



「ちっ……」



 弾き飛ばされたアリアは空中で態勢を整えながら舌打ちする。自分に武術の才能がないのは知っているが、それでもこの事実に腹を立てていた。

 オメガは情報次元と意思次元を核として逃がしており、今はどんな攻撃を与えても意味を為さない。まるで抜け殻を攻撃しているような感覚だ。

 なので、クウたちが神龍を倒すまでの間、時間を稼ぐのがアリアの役目である。

 そのためには、オメガを本気にさせる訳にはいかない。

 小さな力をぶつけあい、可能な限り囮としての役目を果たすのだ。



「その程度か愚かな娘よ!」


「貴様の娘と呼ばれる筋合いはない!」



 オメガが《黒き魔神の腕撃ブラキウム・デウス・ディアブロ》により、アリアを攻撃する。黒紫の渦から巨大な魔神の腕が出現し、アリアへと殴りかかった。

 それを短距離転移で回避してオメガに反撃しようとするが、今度は頭上から《黒き魔神の墜脚ペース・デウス・ディアブロ》による踏み潰し攻撃が迫る。

 攻撃態勢になっていたアリアは回避も防御も出来ない。

 強い打撃を受け、海へと叩き付けられてしまった。大きな水柱が立ち、白い飛沫を上げる。しかし、アリアは黒い閃光となってすぐに復帰してきた。



「はああああああああ!」


「甘いな娘よ」



 音速を超えた突きも、オメガは手に持った大剣で受け止める。

 神槍インフェリクスは治癒阻害の力を持つため、本来なら傷さえ与えれば有利になる。しかし、オメガにはそれが通用しない。

 それでも、オメガはただで攻撃を喰らおうとはしなかった。



「凍れ!」



 アリアは散布した特異粒子に命令し、現象を引き起こす。

 海水を氷結させて操り、槍としてオメガに殺到させた。だが、オメガはその全てを《黒き魔神の腕撃ブラキウム・デウス・ディアブロ》と《黒き魔神の墜脚ペース・デウス・ディアブロ》で破壊してしまう。

 次にアリアは槍の穂先から大電流を流した。

 だが、オメガはオーラを圧縮させて防ぎ、その間にアリアから距離を取る。



「その程度か?」


「そうでないのは知っているだろう」



 アリアが左腕を横薙ぎに振るった。すると、空間が引き裂かれ、オメガの胴体を引き裂いた。しかし、オメガは何事もなかったかのように修復し、その場で浮遊する。

 やはり、物理次元上の存在でしかないオメガには、明確なダメージを与えることが出来ない。物理次元では存在しているので、壊すことは出来る。しかし、オメガという存在は壊れず、物理次元上で存在し続けることが出来る。



「ちっ……縛れ!」



 ダメージが通らないことは分かり切っている。だからこそ、アリアはオメガを拘束する方向で戦いを進めることにした。

 何もない空中から樹木が現れ、蔦のように絡みついてオメガを拘束する。それは貧弱な草木に見えるが、アリアの力で再現された超強度繊維なのだ。オーラで強化しているので、簡単には外せない。

 オメガを覆い尽くし、緑の球体となった。

 更に、そこから苔のようなものも繁殖し、それが蓋となって完全に閉じ込める。



「まだだ!」



 これで終わりではない。

 アリアは「事象発現」の力で溶鉄を生み出し、オメガを封じている緑の球体を包んだ。そこから溶鉄を冷却し、完全な鉄球に作り替える。その上で圧縮を行い、強烈な圧力でオメガを閉じ込めた。

 鉄球のお蔭で全方位から均等に圧力が加わり、内部の植物がオメガを締め付ける。

 これで封じることが出来たと思った。



「いや、まだ足りない!」



 しかしアリアは思い直し、鉄球の周囲に大量の土や岩石を生成していく。加えて鉄球を中心とした重力場も形成した。重力に従って土や岩石が付着していき、球体は徐々に巨大化していく。

 直径はあっという間に十メートルを超え、三十メートルを超え、五十メートルすら超えた。



「《創星封印》!」



 出来上がったのは巨大すぎる岩石の球体。

 まるで小さな惑星だった。

 巨大な影が海面に落ち、その周囲だけが夜になったかのようである。最終的には直径が数キロを超えるほどの巨大な封印石となった。



「これで……どのぐらい時間が稼げるかが問題だな」



 ここまで厳重な物理的封印を施したのは初めてだった。しかし、オメガには空間転移は使えないので、脱出する手段はない。物理的に壊すとしても、かなり時間がかかるだろう。

 それに、オメガが壊してくるなら、アリアは修復するだけだ。

 クウたちが神龍を倒すまでは保たせるつもりである。

 アリアは特異粒子を散布し、更に重力を強めた。

 だが、それと同時に惑星を思わせる封印石へと、小さな罅が走る。一瞬、重力を強くしたから歪みが生じたのだと思った。しかし、それは罅の広がる速度を見て否定する。



「まさか……もう出てくるのか!?」



 オメガは五百年も戦っている相手だ。大抵の能力は把握している。だから、オメガにこの封印を破るだけの物理攻撃はないと思っていた。



「私も知らない何かを隠していたということか」



 アリアがそう呟くと同時に、黒紫色の巨大な腕が封印石の内部から飛び出してきた。

 いや、それは確かに腕だが、同時に骨でしかない。形的には左腕の骨だろう。しかし、それはオーラのような揺らぎを持っており、「顕現」によって出現させられたものだと分かる。

 罅はあっという間に広がり、亀裂に変わり、黒紫の右腕も内部から突き出された。その腕も左腕と同様に骨でしかなく、封印石を破壊するべく重力を無視して動いている。



(あんなもの私も見たことがないぞ)



 やはりオメガは能力を隠していたのだろう。世界侵食イクセーザは相手より強いという誓約を得た魔神を「顕現」する力。つまり、あの骨は世界侵食イクセーザではない。

 そして両腕の骨が封印石を突き破ったことで亀裂は広がり、ボロボロと崩れた。重力のお蔭で崩れ落ちることなく再び封印石の一部へと戻ろうとするが、オメガが封印石から這い出る速度の方が上だろう。



「その程度でわれを封じたつもりだったか? 千五百年の時を生きた我を見縊らないで貰おう!」



 ズガン、と破裂音が響き渡り、封印石から巨人を思わせる半透明の骸骨が出現する。黒紫色に染まった髑髏の眼孔には同じ色の炎が灯っており、額の部分にオメガがいた。



「《魔神憑依》……これを使わせたのはお前が初めてだ! 誇るがいい!」



 封印石から這い出た骨格だけの魔神へと、徐々に筋肉が纏い始める。《魔神憑依》というのだから、完成すれば魔神に相応しい何かとなるのだろう。アリアはそのように予想した。



「こんなものまで隠していたとは……本当に嫌になる」



 オメガは超越者として三倍ほど長く生きている。権能への理解も深く、強力な力を生み出していたとしてもおかしくはない。

 しかし、だからといってアリアも諦めるつもりはないのだ。

 オメガによる魔人族の支配から抜け出し、魔人という種を作り上げた光神シンの手から逃れる。そうして自由を得るために戦うのだから。



(時間稼ぎはしてやる。だから早く頼むぞ……クウ、ユナ)



 アリアは神槍インフェリクスを構え、小手調べに《虚無創世ジェネシス》を放ったのだった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ