EP439 魔王オメガの力
無事に最後の六王を討伐したミレイナは、精神的限界からか倒れてしまった。あらゆる能力が制限される《嫉妬大罪》の影響下で極限の戦闘を続けたのだ。それも仕方ないだろう。
ただ、それでも超越化に至らなかったのは残念だったが。
「くーちゃん。ミレイナちゃんを運んでおいたよ」
「悪いな」
いつもの浮遊島に戻り、ユナがミレイナを部屋に運んだ。そして二人はリビングへと集まり、これからのことについて話し合う。
「【レム・クリフィト】と連絡を取るか。そろそろリアの方も終わっているハズだ」
「新しい武器を貰ったんだよね?」
「多分な。権能と新しい武器の練習もしているはずだ。アリアが相手なら、練習としても最高だろうし」
クウは虚空リングから通信魔道具を取り出し、起動してリグレットに繋いだ。すると、すぐに向こうも対応したのだろう。魔道具に付けられた宝石からリグレットの声が響く。
『やぁ、クウ君だね。そっちは終わったのかい?』
「ああ、六王は全て討伐した。山脈の魔物も殆ど消したし、創魔結晶も始末してある」
『それは良い。こちらも準備は整ったよ。リア君も武器に慣れてきたし、【レム・クリフィト】の事務作業も片付いた。魔王オメガを倒すために合流しようか』
「まだミレイナは疲れて眠っているからな。もう少し後でもいいぞ」
『ん? そうなのかい? なら、時間をずらそう』
そう言ってリグレットは通信を閉じようとする。
だが、その前にクウは制止をかけた。
「待て。その前に教えろ」
『何をかな?』
「魔王オメガの潜伏地だ。ある程度は察知しているんだろ?」
『ああ、そういえば言っていなかったね。別に隠すことじゃないから、教えるよ』
リグレットは一度言葉を切り、少し間をおいてから告げた。
『予想している場所は君たちのいる山脈から南へと言った場所。以前、クウ君が巨大な竜の超越者を発見した場所だよ。君の話によれば、ドラゴンも沢山いるらしいね』
「あそこか……!」
以前、魔神剣ベリアルの使い勝手を調べるため、その辺りへと行った。そこで偶然、大量のドラゴンが生息する諸島を発見し、そこで竜を討伐している内に超越者の赤いドラゴンを発見したのである。
恐らく、そこにドラゴン系の魔物を生み出す創魔結晶があるのだと予想していた。
虚空神ゼノネイアも創魔結晶は合計七つだと言っていたので、辻褄が合う。
「やっぱりあの超越者も魔王オメガの仲間だと思うか?」
『間違いなくね……いや、寧ろ……』
「寧ろ?」
『あのドラゴンこそが、僕たちの倒すべきものかもしれないよ』
「……意味が分からん」
『確証がないからね。詳しい話は確信が得られたらにするよ』
「予想でもいいから聞かせて欲しいものだけどな」
ポツリと呟くクウの言葉を無視して、リグレットは通信を切ってしまった。仕事は片付いているといっていたが、リグレットにもやりたいことがあるのだろう。
「切られちゃったね」
「ああ、リアの話も詳しく聞きたかったんだけどな」
残念ながらクウもユナもミレイナも空間移動が可能な能力を持っていないので、すぐに【レム・クリフィト】へと向かうことが出来ない。こういう時は不便だとクウも感じていた。
魔法陣を使えば転移も可能なので、やはり勉強するべきだと決心する。
後回しにしていたが、やはり使えるものは使えるようになりたい。
「詳しい話は合流してからにしよう。ミレイナが起きてくるまでは休むぞ」
「そーだね」
ユナは立ちあがり、キッチンに行ってお湯を沸かす。
その間に、クウは虚空リングから保存しておいた菓子類をテーブルに出した。
結局、ミレイナが起きてきたのは夕方ごろになるのだった。
◆ ◆ ◆
ミレイナが起きてきたので、クウは再びリグレットへと連絡を取った。すると、アリア、リグレット、リアの三人は空間転移で一瞬にしてここまでやってきたのである。
こればかりは流石だった。
そして集まった六人の天使はリビングへと集まり、話し合いの時を持っていた。
「これは全てクウとユナが作ったのか?」
「へぇ、やるもんだね」
テーブルの上に並べられた大量の料理を見て感心するのはアリアとリグレットだ。一人暮らしを経験しているユナが出来るのは知っていたが、クウも料理出来るとは知らなかったからこその驚きである。
そんな二人に対し、クウは頬を掻きながら返した。
「家庭料理の範囲だ。俺はそんなに上手って訳じゃない。並み程度の腕はあるつもりだけどな」
だが、料理のレパートリーはかなりのものだ。地球では料理本も読んでいたことがあるため、作れる種類だけは多い。勿論、普通に食べれる程度には上手だ。
それがテーブルの上の結果である。
「さて、食べながらでいいから詳しい話をしてくれ。俺とユナとミレイナは簡単な話しか知らないからな」
「当然だな。詳しい話はリグレットがしてくれるだろう。頼むぞ」
「勿論だとも愛しの妻よ」
「茶化すな」
「連れないなぁ。まぁ、ここからは真面目に話そうか」
リグレットは用意されたグラスのワインを一口だけ含み、味わってから喉に通す。そうして水分で潤してから口を開いた。
「まず、僕たちが魔王オメガを倒せなかった理由は、彼に攻撃が通じないからだよ」
「それは俺も知っている」
「超越者だから、ただでさえ倒すのが難しいんだ。それにもかかわらず、攻撃が通じないなんて手の打ちようがないね。でも、無条件で無敵なんてありえない」
「必ずカラクリがあるってことだよな?」
「その通りだよクウ君」
ここまではクウも分かっている話だ。勿論、ユナもリアもミレイナですら認知している。問題は、そのカラクリだった。
「攻撃を喰らわないとすると、それにはある条件が重なっていると思われる。想定できる条件は幾つかあるね。どんなものがあるか分かるかな?」
「そうだな……」
そう問いかけられたクウは、まず自分の頭で考察してみる。ダメージが入らないと言えば、まず思いつくのが幻影である場合だ。
「俺のような幻術使いで、オメガを攻撃しているつもりでも、実はそうでなかったという場合」
「その可能性はあるよ。でも、高度な幻術使いのクウ君が見抜けないはずないよね?」
「ああ。俺には魔眼もあるし、間違いなく見抜ける。だから可能性としては却下だな」
次にユナが別の可能性を挙げた。
「それなら空間系の能力で攻撃を無効化しているとかは? 次元をずらして攻撃を透過させたりすれば無敵じゃないかなー」
「いや、それも難しいぞユナ」
「アリアちゃんなんで?」
「私はオメガに空間系の攻撃を仕掛けたことがある。空間系で攻撃を透過しているのなら、同じ空間系の攻撃は防げない。だから違う」
そもそも、幻術系でも空間系でも、オメガはその手の特性を所持していなかった。それはクウが解析していることでもあるし、リグレットも遥か昔に解析済みの事実だ。
この解析結果という面から考察すれば、一つ考えられるのは因果系能力による条件である。
「オメガの権能【怨讐焉魔王】には特性「誓約」があったよな。それで何かの条件を設定し、その条件が守られている限りはオメガが無敵に慣れるって寸法か?」
クウはリグレットにそんな意見を投げかけた。
すると、それを聞いたリグレットは笑みを浮かべつつ返す。
「大まかにはそうだと思っているよ」
概ね肯定。
そう受け取ったクウは、更に考察を重ねる。
【怨讐焉魔王】の特性は「魔神体」「顕現」「誓約」の三つだ。そして全ての攻撃を無効化する程の「誓約」となると、どんなものか想像も出来ない。かなり能力を制限されてしまうと思われる。
例えば、権能に含まれる一部の能力が使用不可能になるなどだ。
「そもそも、オメガは俺の「意思干渉」すら受け付けなかったからな。情報次元だけじゃなく、意思次元にも防壁がある。どんな「誓約」を付けたのかサッパリ思いつかないな」
「流石のクウ君もお手上げかな?」
「ユナとミレイナは……分かるわけないよな」
「当然だよくーちゃん!」
「当たり前なのだ!」
「胸を張るな胸を」
別にユナもミレイナも馬鹿というわけではない。だが、深く考察することが少し苦手なだけだ。苦手というより、嫌いと言った方が正しいかもしれないが。
これにはリグレットも苦笑する。
「どうだい? 降参するかい?」
「時間も無限じゃない。俺が意地を張る必要もないだろ。答えを言ってくれ」
「分かったよ」
クウの言葉に、リグレットも笑いながら説明を始めた。
「僕が魔王オメガの無敵化について確信を得たのは、君の権能を知ったからだよ」
「俺の【魔幻朧月夜】が?」
「そうさ。意思力に干渉し、意思次元を操る。今まで、そんなことが出来るなんて想像もしなかった。意思次元とは超越者ですら絶対不可侵の領域だと勘違いしていたからね」
魂の最深階層とも言われる意思次元。
この領域で生じる意思力によって、あらゆる現象が決定する。魂の状態や性質を記録している情報次元ですら、意思次元の影響を受けることで変化するのだ。更に、超越者を倒すにも、この意思次元を消耗させて生きることを諦めさせる他ない。
しかし、クウは意思次元を直接攻撃することで、超越者を簡単に討伐できる。
このことはリグレットからすればとんでもないイレギュラーに見えた。
「意思次元は操れるもの。僕はその発想がなかった。だから、今までオメガの力に気付かなかったのさ」
「リグレットの言葉から推測すると、オメガも意思次元を操る何かの性質を持っているってことか?」
「そうなるよ。僕の予想では、オメガは自らの意思次元と情報次元を別の場所に隔離している」
「……ちょっと待て」
リグレットの言葉にクウは待ったをかけた。
何故なら、それはあり得ないと考えたからである。
「意思次元と情報次元を別の場所に隔離しているなら、どうしてオメガはその場所に存在できる? 明らかに矛盾しているぞ」
「その通りだよ。だけど、それを可能とするのがオメガの力さ」
「どういうことだ?」
「恐らく、意思次元と情報次元を核として保存し、分体として逃がしている。これによって、僕たちが本体だと思っているオメガは物理次元上だけの存在としてその場にいる訳だ。物理次元上は存在しているから、幻影って訳じゃない。確かな実体だよ。でも、情報次元攻撃も意思次元攻撃も通用しない。だって、その次元は切り離しているからね」
「それが無敵の正体?」
「そう。触れられるけど、ダメージを与えることが出来ない。そういうことさ」
確かに納得できる説明だった。以前、クウは魔王オメガの分体に遭遇したことがある。その能力を応用して、情報次元と意思次元を封じた分体を生成し、別の場所に逃がしているのだろう。まさに、魂を分け与えた分体というわけだ。
魔王オメガは本体でありながら抜け殻という矛盾した状態となっている。
特性「誓約」によって分体とオメガ自身を繋げ、存在を維持しているのだろう。
そのように予測できた。
「そうか、そういうことか」
クウは全てを察したかのように言葉を漏らす。
今のリグレットによる説明、これまでクウが集めた情報……それらを統合すれば、全ての答えが出る。答え合わせを求めるかのように、クウはリグレットへと告げた。
「魔王オメガの情報次元と意思次元を封じ込めた分体……つまり核とも言うべき心臓は、俺が前に遭遇した赤い竜の超越者だな?」
「ああ―――」
リグレットは抑揚に頷き、
「――僕たちの狙いは神龍。このまま南へと向かい、魔王オメガの真臓を討つ。きっとそこに魔王オメガもいるからね」
静かに宣言するのだった。
殆ど出てこなかった『分体』の能力をここで回収。
オメガには他にも秘密があるので、お楽しみにしておいてください。
そして今回で毎日投稿は終了となります。
また、今年の間に重要な試験が幾つかあり、その勉強に集中したいので投稿ペースを落とします。具体的には週1回(日曜日)の更新ですね。ちなみに明日の更新はありません。4/8から毎週日曜日に投稿します。
余裕があれば週2回に戻すかもしれませんが、あまり期待しないでください。
ちなみに、他の作品は今まで通りの不定期です。





