EP436 様子見
ブレスで洞窟を揺らしたカースド・デーモンは、ブレスが晴れた先でまだ死神が生きていることに気付いた。死神はあくまでも幻術であり、全ての物理現象を透過させることが出来る。そして死神の攻撃は、あくまでも強い思い込みが作り出す幻想が現実になったに過ぎない。死神を倒すには、クウを直接攻撃するか、特殊な能力が必要になる。
”フゥゥゥゥ……”
カースド・デーモンは再び息を吐いてから吸い込み、ブレスの予兆を見せた。更に、今度は気も込めており、赤黒い不気味なエネルギー体が凝縮されている。
そして死神を倒すべく、一気に解き放たれた。
”ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!”
赤黒い気が渦を巻き、死神を飲み込んで洞窟の壁を大きく破壊する。それは山脈全体すら揺らし、地表では内部から爆発したかのような粉塵が舞い上がった。
そしてクウ、ユナ、ミレイナはその場所へと向かい、クウが消滅エネルギーを集めて放った。すると、罅割れていた地表が綺麗に穿たれ、洞窟の奥底まで大穴が空く。
クウはユナとミレイナの方を見てから口を開いた。
「いつも通りだ。俺が誘い出して、その間に創魔結晶を破壊する。ミレイナはカースド・デーモンを倒せ。ユナは邪魔が入らない様にしてくれ」
「うん。わかったよ」
「やってやるぞ!」
クウは大穴に飛び込み、天使翼を広げて加速した。そのまま一気に最深部にまで向かい、創魔結晶が淡く照らす空間へと到達する。そこには未だ粉塵が舞っており、視界は最悪と言える。創魔結晶の光が乱反射して幻想的ではあったが。
だが、その景色を眺めている暇はない。
すぐに《神象眼》を使い、舞う粉塵は全て落下したと世界に錯覚させた。途端に視界が広がり、クウはカースド・デーモンと目が合う。
”貴様……我の領域に侵入するとは何者だ?”
知性あるカースド・デーモンは、クウがとんでもない強者であることを見抜いていた。そして、手を出せば返り討ちになると確信していた。
狡猾で賢い悪魔系の魔物は、こういった状況判断が得意なことが多い。そして場合によっては敵前逃亡すら辞さない魔物なのだ。厄介という点においては最上級と言える。
「問答しているつもりはない。邪魔だ」
クウは月属性の特性「力場」を使い、カースド・デーモンに向かって手を伸ばす。すると、まるで見えない手に掴まれているかのように、カースド・デーモンは浮き上がった。
「そのまま外まで行ってろ」
”何……!?”
力学的ベクトルを操り、クウは来た時の大穴からカースド・デーモンを輩出した。驚愕するカースド・デーモンの声が僅かに響くも、それを無視して創魔結晶の方へと目を向ける。
これで六つ目の創魔結晶だ。
「光神シンが用意した創魔結晶は全部で七つ。後は南にある竜の住む島だけだ」
そう言いながら赤黒い消滅エネルギーを右手に宿し、創魔結晶へと放つのだった。
◆ ◆ ◆
その頃、ユナとミレイナはクウが開けた大穴の外で待機していた。周囲は死神によって殲滅させられているため、他の悪魔は全くいない。戦場としては最高の場所だ。
念のためにユナもいるが、恐らく動く必要はないだろうと思っていた。
「来るぞ!」
「気を付けてねミレイナちゃん」
「うむ」
気配で大穴の底からカースド・デーモンがやってくるのが理解できた。
数秒の後、まるで放り出されるかのようにカースド・デーモンの巨体が出現する。血の気がない顔、幾つもの紋様、第三の眼が特徴的であり、小柄なミレイナと比較するとかなりの巨体に見えた。よく見ると、背中には折り畳まれた翼もある。
「こいつがカースド・デーモン!」
ミレイナはその威容に少しだけ驚いた。だが、これまでも似たような敵である六王を倒してきたのだ。すぐに意識を切り替えて、睨みつける。
そしてカースド・デーモンは飛び出たところで「力場」による支配から切り離され、自由を得た。すぐに平衡感覚を取り戻し、地面に着地する。
当然、カースド・デーモンはユナとミレイナの気配にも気付いていた。そしてユナに関してはクウと同じぐらい危険だと本能が訴え、その結果として逃げることを視野に入れ始める。
(こやつらは何者だ! この我が負けを意識するなど……あるはずがないぞ!)
カースド・デーモンには《嫉妬大罪》という切り札がある。それを使えば、格上であったとしても容易く勝利を収めることが出来る。
しかし、クウとユナに関しては《嫉妬大罪》を使っても勝てる気がしなかった。
こういった魔物らしくない現状把握能力は流石である。
ところが、そんなカースド・デーモンにお構いなく、ミレイナは戦いを挑んだ。
「お前の相手は私がするのだ!」
そして《源塞邪龍》を込め、いきなり全力の一撃を放つ。カースド・デーモンは考え事こそしていたが、ミレイナの動きを察知できなかったわけではない。魔力による強化と気による強化を同時に行い、ミレイナの攻撃を受け止めた。
しかし、受け止めたはずの一撃は防御を貫通し、カースド・デーモンの左腕を粉砕する。
”なんだと!?”
「そこだ!」
”ちっ……”
続く竜爪による攻撃はカースド・デーモンも回避した。自身の左手を破壊した未知の攻撃を警戒したからである。巨体に見合わない身軽さでミレイナからいったん離れ、《自己再生》で左腕を修復した。
そして両目と額にある第三の目を同時に光らせ、《闇魔法》を発動させる。
”大人しくせよ”
影を操る《闇魔法》により、ミレイナだけでなくユナにも黒い触手のようなものが伸びた。細長く伸びた影が網のように編み込まれ、二人を捕えようとする。
だが、ユナは神魔刀・緋那汰で切り裂き、ミレイナは竜爪で切り裂いて防いだ。
「んー。私は邪魔になりそうだから、空にいるねー」
これはミレイナとカースド・デーモンの戦いなのでユナは上空へと退避することを決める。そして即座に天使翼を展開し、上空へと飛び去った。遥か上で豆のように小さくなったユナを見てカースド・デーモンはチャンスだと考える。
(あの強者は我を倒す気がないのか? 好都合と言えば好都合だ)
カースド・デーモンは敵をミレイナのみと定め、《闇魔法》で呪いの杭を放つ。先端は鋭くなっており、突き刺さると同時に悪夢の呪いをかけるのだ。
それがカースド・デーモンの周囲に十三本も浮かび、ミレイナへと射出された。
「む……」
射出速度こそ凄まじいが、軌道は直線でしかない。ミレイナはその全てを見切り、回避した。そしてお返しとばかりに《風化魔法》を使う。
「『流れる天風よ
ここに集いて凝縮せよ
岩をも砕く衝撃
砂をも散らす波動
見えぬ一撃を齎したまえ
《風波砲撃》』」
圧縮した空気の砲撃がカースド・デーモンに迫ったが、それは鋭い爪によって薙ぎ払われた。赤黒い気が軌跡として残り、邪悪な雰囲気を見せる。
そのままもう一度腕が振るわれ、赤黒い爪撃が飛ばされた。
ミレイナも竜爪を形成して飛ばし、カースド・デーモンの攻撃を相殺する。更にミレイナはカースド・デーモンへと接近戦を仕掛け、《源塞邪龍》を使用して殴りかかった。
「はあああああ!」
”ふん。鈍いな”
しかしカースド・デーモンは全ての攻撃を見切り、紙一重でかわす。悪魔は慎重な生き物だ。先にミレイナの攻撃で左腕が砕かれたという事実がある以上、不用意に防御しようとは考えない。
そして受けに徹し、ミレイナの底を測ろうと企んでいた。
勿論、図っているのはステータス的な力ではなく、戦闘における技術とセンスである。
「ちっ! すばしっこい奴め!」
カースド・デーモンはミレイナからすれば巨人を思わせるほど大きい。しかし、常に俊敏な動きで回避を続け、ミレイナを翻弄していた。
今のところはミレイナが常に攻勢にまわっているものの、苛立ちは募る。
そこでミレイナは範囲攻撃を仕掛けることにした。
「吹き飛べ! 《源塞邪龍》!」
全方向に衝撃波を放ち、それによってカースド・デーモンを攻撃しようとする。一方向に凝縮していないので、威力としてはそれほど大きくない。だが、これによって隙が生じれば想定通りだ。
すると、流石のカースド・デーモンも全方位攻撃は防げなかったのだろう。体が浮き、一瞬だけ大きな隙が生まれた。纏っていた魔素と気も《源塞邪龍》の無効化能力によって消されている。まさに絶好のチャンスだった。
”ぬぅ!?”
「そこだ!」
ミレイナは渾身の力を籠め、更に遠心力で強化した回し蹴りをお見舞いする。当然、この攻撃は魔力と気で強化しており、バキバキと嫌な音を立てながらカースド・デーモンは吹き飛ばされた。
更にミレイナは天使翼を広げ、即座に追撃へと移る。
音速で飛翔することであっという間に追い越し、その間際に翼で叩いて地面に叩きつけた。ミレイナはその反動を利用して真上に向きを変え、更に反転して地面に叩きつけられたカースド・デーモンの方を向く。
そして両手を突き出し、大量の魔力を注いで《風化魔法》を発動させた。
「『《負蝕滅》』!」
エネルギーを喰い尽くすマイナスエネルギーが凝縮し、黒い靄のようなものが集まった。ミレイナはそれをカースド・デーモンに向かって打ち出す。地面に埋まってしまったカースド・デーモンは回避しようとしたが、ワンテンポ遅れてしまった。
だが、元から《負蝕滅》の速度が遅かったことが幸いする。
直撃だけは辛うじて避け、その余波だけ喰らうことになった。
”ぬぅぅぅ! 闇属性なのか!?”
風化属性などカースド・デーモンが知るはずもない。自分の皮膚がボロボロに崩れていくのを見て、闇属性の高度な魔法だと勘違いした。
《自己再生》で即座に折れた骨と皮膚を修復し、態勢を整えるべく再び魔力と気を纏う。
「これで終わりだ!」
その間、ミレイナは口元に空気を集めて超圧縮をかけていた。
それは最高クラスの攻撃力と言っても過言ではない、《爆竜息吹》の応用技。液化した空気が瞬間的に気化することで、凄まじい爆風を生み出す。
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!」
《颶風滅竜皇息吹》。
高位の存在すら一撃で滅ぼし得る一撃が放たれたのだった。





