EP430 絶対防御
キングダム・スケルトン・ロードの方へと向かうリアは、まず《光魔法》で注意を引くことにした。
「『《聖域》』」
浄化の光がリアを中心として広がり、アンデッドを一撃で滅する程の聖域が誕生する。しかし、キングダム・スケルトン・ロードもロイヤル・スケルトン・ナイトも気を扱える存在だ。特にキングダム・スケルトン・ロードは《気力支配》を保有しており、属性に対する耐性は非常に高い。
如何にリアの魔力が強力でも、微々たるダメージすら与えられなかった。
”温い……な”
悍ましい声で呟きつつ、キングダム・スケルトン・ロードは右腕の一つを振り上げる。そして黒い気を大剣に纏わせ、斬撃を放った。
”『破壊ノ黒剣』”
恐ろしき破壊の気を剣に圧縮し、《覇気》の要領で放つ。巨大な黒い斬撃は、そのままリアへと迫った。
しかし、この程度でリアは動揺しない。元から《聖域》が効くとは思っていないし、反撃されることも予想していたからである。
「行きますよミレイナさん。『《転移》』」
一言ミレイナに声をかけ、空間転移を発動させる。自分とミレイナそれぞれに別の転移を掛ける、並列思考が出来なければ不可能な芸当だ。
ミレイナが現れたのはとあるロイヤル・スケルトン・ナイトの背後。そして出現した直後、竜爪と《源塞邪龍》の力で粉砕する。纏っていた鎧も気も切り裂き、破壊し、魔石まで完全に砕ける。
まさに瞬殺だった。
「カチカチ!」
だが、ロイヤル・スケルトン・ナイトもただで破壊されるつもりはない。仲間の一体が瞬殺されたと知ると、すぐに近くの一体が剣を振り上げて斬りかかろうとした。
踏み込みのタイミングからして、ミレイナはカウンターも放てない。
だが、ミレイナはそちらに首だけを向ける。
「ウアアアアッ!」
口で圧縮した魔素と気を解き放つ《爆竜息吹》。圧縮は足りないが、至近距離で浴びせられたロイヤル・スケルトン・ナイトは頭部が消し飛んだ。
スケルトン系の魔物なので、頭部が無くなった程度で死んだりはしない。
しかし、視覚機能を失って動きが鈍ったのは確か。《爆竜息吹》の衝撃で動きを止めた隙に《源塞邪龍》の破壊衝撃で二体目のロイヤル・スケルトン・ナイトを撃破する。
そして空間転移を発動させた本人であるリア……彼女はキングダム・スケルトン・ロードの背後へと移動していた。
「やあああ!」
可愛らしい掛け声と共に白い気を纏った錫杖が振り下ろされた。《気力支配》を持つキングダム・スケルトン・ロードは当然気付いており、その気になれば反撃も出来る。
だが、この程度でわざわざ動く必要もないと判断した。
悠然としたまま、振り返ることもしない。
錫杖による打撃がキングダム・スケルトン・ロードの頭部を打った。
「きゃっ!?」
しかし、キングダム・スケルトン・ロードには《傲慢大罪》がある。絶対防御の力で簡単に弾いてしまった。
リアは弾かれた勢いのまま空中へと逃れ、翼を広げて静止する。何度か回転したものの、特にバランスを崩した様子もなかった。
「うぅ……予想以上ですね」
リアは手に残る痺れを感じつつキングダム・スケルトン・ロードの防御力に辟易する。初めから防御力が高いのは知っていたが、ここまでとは予想外だった。
そこで、《星脈命綴鎖》による時間転移演算を実行する。これによって未来を予測し、攻撃が通る未来を観測しようとした。
しかし、そんな未来は見えなかった。
「分かってはいましたが……やはり駄目ですか」
自分が直接攻撃に向いていないのは知っているが、キングダム・スケルトン・ロードへと攻撃が通る未来が全くないというのは少しショックである。
その間、ミレイナはミレイナで暴れまわった。
「お前たちの敵は私なのだぞ!」
目で捉えられぬほどの速度で動いたミレイナは、残るロイヤル・スケルトン・ナイトの内、一体の頭部を掴んだ。そして《風化魔法》のマイナスエネルギーで一気に脆化させる。気を纏っていても、天使化したミレイナの《風化魔法》は防げない。
ロイヤル・スケルトン・ナイトは塵となって消えた。
「残り一体」
《明鏡止水》で肉体を強化し、その場から消える。素の肉体能力ですら高いのに、強化系最上位スキル《明鏡止水》で更に能力が向上しているのだ。ロイヤル・スケルトン・ナイト如きでは追えない。
鈍い爆発音が響き、最後の一体も砕け散る。
普通ならば罅を入れることすら難しい強度を持つ相手だが、破壊の天使であるミレイナには関係ない。彼女の前には等しく破壊の餌食となるのだから。
「あとはキングダム・スケルトン・ロードだけだ。やれリア!」
「はい!」
ミレイナは一度下がり、リアとキングダム・スケルトン・ロードの一騎打ちにする。元から今回はリア一人で戦わせる予定だったのだ。
「行きますよ」
”カカ! 貴様一人とは愚かだな。この儂の前に立ちふさがるとは。貴様には覚えがあるぞ? 儂の駒に傷を負わされた女ではないか”
「……ええ。ですが以前とは違いますよ」
天使の羽を広げ宙に留まるリアは右手に持っていた錫杖を離す。すると、錫杖は重力に逆らい、そのまま浮遊していた。
そしてリアが右手を翳しながら腕を振ると、それに従って錫杖も振るわれる。錫杖の能力と《杖術》スキル、そして《思考加速》を組み合わせたリアの武術だ。
右手を上に掲げてから振り下ろすと、錫杖が高速で放たれる。
”その程度か”
しかし、キングダム・スケルトン・ロードは微動だにせず待ち受けていた。何故なら、この程度は攻撃にすらならないと考えたからである。
事実、キングダム・スケルトン・ロードの考えた通り、高速で飛んできた錫杖はいとも簡単に弾かれてしまった。
「まだですよ」
リアは錫杖を制御し、高速回転させながらキングダム・スケルトン・ロードへと向ける。白い気を纏った錫杖がキングダム・スケルトン・ロードを叩くが、当の骸骨帝は羽虫でも見ているかのような態度で動かない。鬱陶しそうにしているが、内心では弱者が自身の攻撃が通用しないことに絶望する様を想像して嘲笑っていた。
何度も錫杖をぶつけては弾かれ、それでもリアは錫杖を操り続ける。
高速回転する錫杖がキングダム・スケルトン・ロードの頭部を破壊しようとしたが、やはり弾かれてしまった。
「ではこれは?」
通常の打撃が通じないのを確認して、リアは《時空間魔法》を行使する。空間そのものを引き裂くことで物質を破壊する攻撃だ。同じ時空間属性を以て防御しなければ防げない攻撃である。
だが、空間が裂けてもキングダム・スケルトン・ロードの体にはダメージが入らなかった。
更に空間を捻じ曲げて頭部を捻じ曲げようとするが、空間自体は曲がってもキングダム・スケルトン・ロードは何も変わらない。外部からの物理的干渉を完全に拒絶していた。
「これも無駄でしたか……」
リアはフワフワと浮きながら距離を取る。右手を軽く振ると、錫杖が高速回転してから掌に収まる。かなり扱い慣れていた。
”終わりか? なら、儂の番だな”
余裕綽々と言った様子でキングダム・スケルトン・ロードが大剣を振り上げる。ミレイナには見向きもしていないことから、ロイヤル・スケルトン・ナイトが倒されたことには興味ないらしい。リアにだけ視線を向けていた。
クウ、ユナ、ミレイナが宙に浮いて監視しているにもかかわらず、キングダム・スケルトン・ロードは気にした様子がない。自分の《傲慢大罪》に自信があるのだろう。
”死ね。『破壊ノ黒剣』”
「『《転移》』」
黒い破壊の力が放出される。リアは即座に空間転移で回避した。破壊のエネルギーが遥か遠くで着弾し、凄まじい轟音を立てる。相変わらず、威力が高い。
キングダム・スケルトン・ロードはこれで止まらない。気配を感じてリアの転移先を知覚し、次々と大剣を振るっていく。黒い波動が飛び、再びリアへと襲いかかった。
「っ! 拙いですね」
そう言いつつも空間転移を連発し、全ての攻撃を回避した。基本的に、リアは空間転移を回避にために使用することが多いので、無詠唱で発動できるようにしている。
更に言えば、超越者になることを考えれば全ての能力を演算のみで発動できるようにするべきだ。そういった後々のことも考えて、リアは大抵の魔法を無詠唱で使える。流石に規模が大きいものは無理だ。超越者となり、思考力に制限が無くならなければ難しいだろう。これについては物理的な問題なので、今の段階では解決できない。
それはともかく、今の段階では関係ない。
今の段階では……
「ではこれで!」
気を錫杖に纏わせ、操って高速回転させる。すると、回転する錫杖が盾となり、黒い波動を防いだ。直撃を防ぐのは難しそうだが、余波を消すには充分である。
ついでリアは魔力を練り上げ、魔法を連発した。
「『《灼熱獄炎》』」
全てを解かすような劫火がキングダム・スケルトン・ロードを包み込む。本来は範囲攻撃だが、リアの制御で凝縮した。普通ならばこれで終わりだろう。だがキングダム・スケルトン・ロードがこの程度で終わらないのはリアも承知している。
「『《火炎連槍撃》』」
無数の炎槍が上空から降り注ぎ、獄炎に包まれたキングダム・スケルトン・ロードへ追撃する。それは一度に留まらない。何度も何度も炎槍をぶつけた。
爆発が膨れ上がり、闇夜を深紅に照らした。
リアは翼を広げたまま上昇気流に乗って上空へと移動し、爆心地を見守る。
「これでもダメですね」
だが、まだ爆発が止まらない内にそんなことを呟くリア。気配を感じ取れば、キングダム・スケルトン・ロードがピンピンしているのを察知できる。
その言葉通り、次の瞬間には炎が吹き飛ぶ。一気に熱が飛び散り、再び黒い静寂が戻った。
”カカカカ。温い炎だ”
まるでダメージを受けていない様子でキングダム・スケルトン・ロードが出てくる。黒い気が膨れ上がっているようであり、その態度には余裕が見えた。
そして魔力が迸り、《傲慢大罪》が真なる力を発揮する。
”この儂を相手にその程度か!”
キングダム・スケルトン・ロードの足元で亀裂が広がり、地鳴りが響く。そして地面から大岩が浮き上がり、更に地殻変動を思わせる勢いで山脈が沈下する。
まさに天災だった。
流石に気の力だけで天変地異にも似たことを起こすことは出来ない。リアはこれがキングダム・スケルトン・ロードの能力によるものだと察知した。
「なるほど……その力、そういうことでしたか」
錫杖を操って飛んできた岩を破壊しつつ、リアは呟いた。
リアの錫杖は思念で操れます。
《傲慢大罪》の能力詳細は次回





