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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
430/566

EP429 熾天使の祝福


 深夜。

 満月の明かりが山脈を照らす。雲一つない――クウが能力で消した――今日は絶好の日と言えるだろう。遂にスケルトン系領域の制覇へと乗り出した。



「行くぞ」


「頑張ってリアちゃん、ミレイナちゃん」


「はい」


「うむ」



 四人の天使は浮遊島から山脈を見下ろす。

 遥か下では、白骨の亡者たちが彷徨い、悍ましい光景を作り上げていた。元から数の多いスケルトン系の領域だが、改めて見ると目を背けたくなる数である。

 しかし、ここでクウとユナが手助けする予定はない。

 まず、リアが錫杖を掲げて魔法を発動した。



「『星降る夜

 紡ぎ出す序曲

 静かに口ずさむ天使の歌

 やがて響く絶唱

 亡者は安らかに眠れ

 天へと招く囁きに

 天より降る慈悲の雨に

 今、歓喜せよ

 《熾天星域祝福セラフ・ブレス》』」



 すると、リアを中心として光の雨が降り始める。それらは一つ一つが聖なる力を帯びており、アンデッドに属する魔物を滅することが出来るのだ。天使化したリアが放つそれは、スケルトンなど一撃で葬る。

 山脈で蠢く無数のスケルトンは、次々と灰に返ってしまった。



「まだです……」



 リアは魔力の制御力も成長している。光の雨は何処までも広がり、やがて山脈全体を覆い尽くす規模となった。まさにアンデッド専用の超範囲殲滅魔法だ。

 スケルトンたちは光の雨を浴びて倒れ、浄化され、土に還る。

 発動してから数秒ほどで山脈のスケルトンは一掃されてしまった。

 だが、この程度でスケルトンが全滅されたわけではない。

 土が盛り上がり、地中から新しいスケルトンが這い出る。



「もう一度行きます。

 『星降る夜

 紡ぎ出す序曲

 静かに口ずさむ天使の歌

 やがて響く絶唱

 亡者は安らかに眠れ

 天へと招く囁きに

 天より降る慈悲の雨に

 今、歓喜せよ

 《熾天星域祝福セラフ・ブレス》』」



 二度目の発動。

 再び光の雨が降り注ぎ、祝福の力がスケルトンを祓う。例え上位種のスカル・ナイトであったとしても、リアの魔法から逃れることは出来ない。

 ただ、光に少しでも触れれば終わりだ。

 いわゆる雑魚スケルトンと同じである。

 二度の《熾天星域祝福セラフ・ブレス》で四千体以上はスケルトンを討伐出来ただろう。だが、所詮は雑魚であり、リアを成長させるほどの相手ではない。幾ら雑魚を倒したとしても、レベルは上がらないのだ。封印された潜在力を解放するためには、死力を尽くす必要がある。

 つまり、本命はキングダム・スケルトン・ロードだ。



「残り魔力はどうだリア?」


「まだいけます。《MP自動回復》もありますから」



 スケルトンの攻撃は浮遊島まで届かない。故に《光魔法》で一方的に攻撃できる。リアの魔力が尽きなければ、スケルトンが全滅するまで止まらない。



「三度目です。

 『星降る夜

 紡ぎ出す序曲

 静かに口ずさむ天使の歌

 やがて響く絶唱

 亡者は安らかに眠れ

 天へと招く囁きに

 天より降る慈悲の雨に

 今、歓喜せよ

 《熾天星域祝福セラフ・ブレス》』」



 再び地中から出現したスケルトン系の魔物は、三度目となる祝福の雨を受けて滅却される。まさに一方的な戦い。蹂躙とも言える光景である。

 情報次元を観察していたクウは、ふと呟いた。



「そろそろ来るぞ。ロイヤル・スケルトン・ナイトが」



 既にスケルトンは五千体以上も消されている。流石にキングダム・スケルトン・ロードも気付いたのだろう。側近であるロイヤル・スケルトン・ナイトに出撃させたのだ。

 地中から土を突き破って出て来た骸骨の騎士。

 漆黒のオーラを纏い、盾と剣を手にしている。



「次は私の出番なのだ!」



 流石にオーラによる耐性を得ているロイヤル・スケルトン・ナイトに《熾天星域祝福セラフ・ブレス》は効き目が薄い。そこで、ミレイナが直接攻撃に挑んだ。

 浮遊島から飛び出し、天使翼を開いて滑空する。

 そして魔力とオーラを纏いながら音速で突撃した。



「カチカチッ!?」


「消えろ!」



 《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》を発動させた掌底でロイヤル・スケルトン・ナイトをぶち抜く。音速という運動エネルギーもあり、一撃でロイヤル・スケルトン・ナイトは粉砕された。装着していた鎧も木っ端微塵に砕け、月光に反射して煌めく。

 ミレイナからすれば、ロイヤル・スケルトン・ナイトなど格下だ。

 こうなるのも当然である。



「ふん、この程度か」



 そう言ったミレイナは飛翔し、浮遊島まで戻った。

 綺麗に着地したミレイナに対し、クウは告げる。



「ミレイナはまたロイヤル・スケルトン・ナイトが出てくるまで待機だ」


「分かったぞ」



 今回の作戦において、メインはリアだ。ミレイナはサポートに回る。キングダム・スケルトン・ロードが出てくるまでの間、配下のスケルトン系魔物を狩り続けるのだ。

 クウは以前、キングダム・スケルトン・ロードと遭遇し、そのステータスを見た。

 称号にあったのは《傲慢の王》。

 これまでの傾向からして、称号と性格は一致している。配下をゴミのようにあしらわれたなら、プライドの高いキングダム・スケルトン・ロードは確実に出てくるはずだ。



「さ、続きだリア」


「はい」



 そしてリアも四度目となる《熾天星域祝福セラフ・ブレス》を放ったのだった。













 ◆ ◆ ◆











 山脈内部の洞窟。その一つは非常に大きな空間となっている。創魔結晶による薄明かりで照らされた広い空間に、キングダム・スケルトン・ロードはいた。



”忌々しき気配がする”



 亡者の炎が宿る両眼が揺れる。

 空洞の口から悍ましい声が響いた。

 合計六本の腕を持つキングダム・スケルトン・ロードは、アダマンタイトの鎧を纏っている。だが、その鎧には一本の刀傷が入っており、他にも幾つか傷があった。



”忘れもせぬ……儂を愚弄した愚か者の気配だ”



 キングダム・スケルトン・ロードの佇む空間はかなりボロボロだった。天上には空まで突き抜けた大穴が空けられており、地面の一部は崩落して暗い底を見せている。

 洞窟の壁には多くの亀裂が走り、いつ崩れるかも分からない状態となっていた。

 そんな空間でキングダム・スケルトン・ロードは六つの大剣を手に、気配を探る。



”一撃で滅びおったな愚か者め……役に立たぬ奴だ”



 ロイヤル・スケルトン・ナイトの一体が一瞬で消されたのを知覚した。

 しかし、それで悲しみを覚えることはない。ただ、王の命令を果たせぬ愚かさに苛立ちを感じただけだ。



”何もせずに滅ぼされるなど不甲斐ない。そうは思わぬか?”


「カタカタカタカタ」


「カタカタ、カチ!」


「カタカタカタカタ」


「カカカカ。カタ?」



 歯を鳴らして同意するロイヤル・スケルトン・ナイトたち。

 その様子にキングダム・スケルトン・ロードも満足する。



”どれ、この儂が自ら出向いてやろうではないか。幾ら数を揃えようと、雑魚で相手は務まるまい。この王が畏怖を見せれば、奴らも額づいて首を差し出すだろうぞ。カカカカ”



 笑いが込み上げるほどあっさり消滅させられた部下に苛立ちは感じる。

 だが、だからこそ自身の威を示し、ひれ伏す姿を眺めるのが心地よい。

 傲慢の王たる骸骨帝は重い腰を上げたのだった。









 ◆ ◆ ◆









 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 そんな地響きが山脈全体に鳴り響いた。



「来るぞ」



 浮遊島の上でクウが呟く。他の三人も強い気配を感じ取ったのか、無言で頷いた。



「キングダム・スケルトン・ロードだ」



 その瞬間、山脈の一角が爆発した。まるで内部から破裂したかのように弾け飛び、内側から激しいオーラが噴き出す。クウとリアにとって見覚えのあるものだ。

 あのオーラ制御能力と放出量からして、間違いなくキングダム・スケルトン・ロードである。



「行くぞ」


「うん」


「はい」


「うむ」



 それぞれが短く言葉を発し、浮遊島から飛び立った。そして下降しつつ、クウは《真理の瞳》を開眼する。情報次元を探り、敵の正体を正確に探った。



(やはりキングダム・スケルトン・ロード。それにロイヤル・スケルトン・ナイトも四体か)



 他にスケルトン系の魔物はいない。

 恐らく、雑魚を幾ら用意しても無駄だと悟ったからだ。

 そして土煙が晴れると、月明かりに照らされた五体の髑髏が現れた。一体は六本の腕を持ち、それぞれに大剣を携え、アダマンタイトの鎧をまとい、頭部には王冠が見える。追随する残り四体は統一された鎧、盾、剣を持ち、王の登場を演出していた。

 クウは即座に情報解析を行い、キングダム・スケルトン・ロードのステータスを表示する。






―――――――――――――――――――

スカル        1593歳

種族 神種キングダム・スケルトン・ロード ♂

Lv200


HP:39,713/39,713

MP:17,898/17,898


力 :37,428

体力 :38,221

魔力 :35,982

精神 :33,282

俊敏 :28,938

器用 :18,838

運 :45


【魂源能力】

傲慢大罪ルシファー


【通常能力】

《気闘双剣術 Lv9》

《魔装甲 Lv9》

《気力支配》

《自己再生 Lv10》


【称号】

《骸骨帝》《山脈の支配者》《傲慢の王》

《天の因子を受け入れし者》《到達者》

《封印解放》《極めし者》

―――――――――――――――――――





傲慢大罪ルシファー

届き得ない頂点の象徴であり、慢心すら許さ

れた者。力を無に帰す絶対の盾。あらゆる力

が瞬く間に弾かれる。

何事にも動じぬ傲慢の力。





 以前とは異なるステータス表示だったが、クウは特に驚かない。何故なら《傲慢大罪ルシファー》の能力を見て納得したからだ。



(やはり防御系の能力。以前はこれで《森羅万象》による開示をブロックされたな)



 最上位情報系スキル《森羅万象》は世界のあらゆる情報を開示することが出来る。だが、それは通常のスキル範疇に含まれた現象であり、【魂源能力】には通用しない。

 これによって、以前は情報を隠されていたのだろう。

 キングダム・スケルトン・ロードが神種だとは知らなかったし、【魂源能力】を持っているなど予想すらしていなかった。精々、《気力支配》の扱いが上手い程度にしか考えていなかった。

 《気闘双剣術》も以前は《双剣術》と記されていたし、《自己再生 Lv10》も以前は《自己再生 Lv7》と表示されていた。

 どうやら、かなり表示を誤魔化されていたようである。



「予定通りにやれ。リア、ミレイナ!」


「はい!」


「ああ!」



 リアはキングダム・スケルトン・ロードの方へと飛翔し、ミレイナが後に続く。

 満月が西に傾きかけた深夜、戦いが始まったのだった。











キングダム・スケルトン・ロードのステータスを完全看破出来なかった理由が《傲慢大罪ルシファー》です。

感想欄を見る限り、人魔の境界編での戦いに違和感を感じた方もいるようですね。鋭いです。

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