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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
天使覚醒編

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EP42 式典とパレード③

 

 緊張に包まれる謁見の間。

 だがその空気は王都中にも感染していた。

 映像の魔法道具によって王都にあつまる全ての人々に中継されているこの光景を、大人から子供までが息を飲んで見守っている。その瞬間だけ音が消えた王都。

 そして『聖導士』の名で有名なパトリック大司教が祝詞を唱えようと右手をセイジへ向けてかざした事により、その緊張は最大まで高まった。パトリックは瞳を閉じて心を静め、祝福の言葉を口ずさむ。



「汝、光の加護をその身に宿す者よ。

 大いなる祝福があらんことを。

 その偉大なる御業は

 魔の邪神より汝の身体を守り

 虚の邪神より汝の心を守り

 壊の邪神より汝の仲間を守らん。

 我らは求める。汝が勇気を。

 ああ、我らを救い給え。

 手に持つ聖なる剣は闇を切り裂き

 身に纏う聖なる鎧は邪を払いたも

 今、この力を授けん。

 光を宿す光神の使いよ」



 祝福の祝詞を言い終わると同時に、パトリックは両手を組み片膝を着いて跪き、祈るように目を閉じる。そしてセイジは逆に立ち上がって聖剣と聖鎧の入れられた箱に手を掛けた。両手で持ち上げるようにして箱の上面を開き、中に入っている物を確認する。



(これが……聖剣と聖鎧……?)



 セイジは思わず驚愕を声に出しそうになって慌てて飲み込む。目をぎゅっと瞑ってもう一度だけ箱の中身を見るが、そこには指輪が1つ入っているだけだった。大袈裟な箱の中に指輪以外は何一つ入っておらず、どんな装備だろうと心を弾ませていたセイジとしては、どうすればいいのか分からなくなった。



(実は盗まれましたとかじゃないよね? 聖剣と聖鎧って聞いてたのに、入っていたのがただの指輪だなんて笑い事じゃ済まないよ)



 セイジは透明になっているのではないかと期待して箱に手を入れてみるが、やはりそこにあるのは指輪のみだった。仕方なく唯一入っていた指輪を手に取って左手の中指に嵌める。

 謁見の間にいる王族貴族だけでなく、王都中の国民すらも戸惑った様子のセイジを見て底知れぬ不安を感じ取った。「何故指輪を?」と首を傾げるが答えは分からない。

 だが、次の瞬間セイジは白い光に包まれ、謁見の間にいる周りの人々は、あまりの眩しさに目を逸らした。リコやエリカも突然輝きだしたセイジに驚きつつも、その眩しさに目が開けられない。

 


「ちょっと清二!」

「清二君!」

「うおっ! なんだ!?」

「勇者殿が光に……」

「グッ……目がぁ……」

「一体何が起きて……?」



 騒然となる謁見の間だが、空間中に広がる光によって目も開けられず、迂闊に動くことすら出来ない状態となっていた。貴族の中には恐れおののいて喚き散らす者もいたが、各々が慌てふためく中、その声も紛れて消えてしまう。映像を見る王都の国民はと言えば、白一色に包まれた画面をみて何事かと口々に話し合っていた。 

 何が起きたのか分からずに人々は混乱していたが、セイジを包む白い光は徐々に淡くなっていき、段々と目を開くことが出来るようになっていく。リコとエリカはまだチカチカする視界で何とかセイジの方を見ると、白銀色に輝く鎧を纏ったセイジの姿が映った。



「「えっ……?」」



 セイジの腰に差しているのは見た目は何ら変哲のない剣なのだが、伝わってくるピリピリとした感触から少なくとも魔剣であることが分かる。勘違いしやすいのだが、魔剣とは「魔法を封じ込めた剣」のことであり、邪悪な意味はない。また聖剣は「善神から賜った剣」という認識なのだ。逆に悪神由来の剣は邪剣などと呼ばれるのだが、それを確認した者はいないため、存在するかどうかは判明していない。

 そして聖鎧と思われるライトアーマーとも言うべき白銀の鎧は、セイジの肩と胸から腰にかけてを包み、その他関節や急所を要所要所で防御するような形状となっている。全身防御よりも動きやすさを重視しており、その姿を見たリコとエリカはポカンとした表情で目を奪われた。

 大司教パトリックとしても大いに驚いていた。

 確かに光神教会で確認したときは鎧と剣であったが、前回の勇者に授けた時にはこのようなことはなく、普通に聖剣と聖鎧を装備したのだ。今回に限ってこのようなことになっているのは驚きだった。国王のルクセントや宰相アトラスは、パトリックが皆を驚かせようとして黙っていたことだと考えていたのだが、完全に濡れ衣である。

 だがこの中で最も驚いたのはセイジ本人だった。

 光から出てきた勇者たる姿のセイジに皆が驚愕している中、頭の中にはステータスウィンドウのように聖剣と聖鎧の能力が表示されていたのだ。



―――――――――――――――――――

リング・オブ・ブレイバー  


製作者 光神シン


聖剣と聖鎧が組み込まれた指輪。

装備者の望む時に聖剣と聖鎧を召喚及び収

納することができる。

光神シンが自らの加護を与えた勇者のため

に創った。

装備条件:光の勇者の称号

―――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――

無名の聖剣  


製作者 光神シン


光の勇者のために光神シンが創りだした聖

なる剣。無限の可能性を秘めており、装備

した者が真に勇者として目覚めたときに、

相応しい能力を開花させる。

まだ休眠状態であり、最大限の力を発揮す

ることは出来ない。

装備条件:光の勇者の称号

     力 1,000以上

―――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――

無名の聖鎧  


製作者 光神シン


光の勇者のために光神シンが創りだした聖

なる鎧。無限の可能性を秘めており、装備

した者が真に勇者として目覚めたときに、

相応しい能力を開花させる。

まだ休眠状態であり、最大限の力を発揮す

ることは出来ない。

装備条件:光の勇者の称号

     力 1,000以上

―――――――――――――――――――



(指輪は装備を収納できる魔法道具なのか。いちいち着替える必要がないから便利だね。それにしても真に勇者として目覚めた時って……一体どういう状況なんだろう? 漫画の世界とかでよくある成長する装備品ってことでいいのかな? 今のところは特に能力がないみたいだし……)



 いきなり最強装備……かと思いきや、自分の能力に合わせて開花する仕組みの剣と鎧らしいと分かり、少しガッカリする一方で成長する楽しみが増えたことにワクワクするセイジ。頭の中に表示された聖剣と聖鎧の情報を見て考え込んでいたため、周囲の人々からはセイジが突然動かなくなったように見られてしまい、心配で顔を曇らせる。耐えかねたリコとエリカは映像の魔法道具で王都中に中継されているにも関わらず、立ち上がってセイジの肩を掴んで揺らした。



「清二! どうしたの!?」


「清二君しっかりしてください!」


「えっ? あっ……」



 2人にガクガクと肩を揺らされてようやく思考の海から意識を浮上させたセイジ。周囲を見渡すと、ルクセントを初めとした謁見の間に集まった者たちが不安そうな焦ったような顔をしていることに気付いた。予想外のことが続いたとはいえ、式典の最中であることを忘れて考えに没頭していたことに顔を赤くする。



「してセイジよ。聖剣と聖鎧は無事に装備できた……と考えて良いのか?」



 セイジのうっかりで不安に包まれていた空気を割ろうと気を利かしたルクセントが口を開く。どうしたらいいのか内心オロオロしていたセイジからすれば天からの救いのように感じた。



「はい、聖剣と聖鎧は僕……私を完全には認めていないようですが、装備はできました」


「完全には認めていないどういうことだ?」



 セイジの不穏な発言にルクセントだけでなく、宰相アトラスや謁見の間に集った貴族の一部が眉を顰めてセイジを見つめる。魔道具を通してセイジの声を聞いていた国民も同様に騒然となった。

 だがそれは当然だろう。聖剣と聖鎧に認められていないということは目の前の、または映像の中の男は勇者とは言えない可能性があるのだから。

 だが疑いの目が向けられる中、セイジは整然としてルクセントの問いに答えた。



「聖剣と聖鎧は私が真なる勇者となったときに、本当の力を発揮するようです。謂わば今の私は光の勇者の卵といった感じでしょうか? ともかくもっと強くなれということらしいです」


「勇者の……卵……か」



 ルクセントは小さく呟き、満足そうに頷く。

 そしてそれはルクセントだけではなく、大司教パトリックも同様だった。



(前回の勇者は最高とも呼べる装備を得て、驕り高ぶっている節があった。光神シン様もそれを考慮して勇者が心身ともに成長するようにされたのかもしれない。そしてセイジ殿は前の勇者と比べて聡明で冷静であるように見える。次こそは失敗しないと信じたいものだ……)



 授与を終えたパトリックはその目にしっかりとセイジの姿を焼き付け、元の位置であるルクセントの左側へと下がる。それと同時に近衛騎士がリング・オブ・ブレイバーの入っていた箱を持って、その場を片付けた。想定外の事態にすっかりフリーズしていた宰相アトラスも、自分が式典の司会進行を務めていたことを思い出して慌てて口を開く。



「さ、最後にルメリオス王国の国王である、ルクセント・レイシア・ルメリオス陛下よりお言葉を賜る。一同、傾聴せよ!」



 その言葉にセイジを初めとして、思わず立ち上がっていたリコやエリカ、そして貴族たちは一斉に跪いて口を閉ざす。ルクセントもそれを見て玉座からゆっくりと立ち上がり、周囲をじっくりと見渡しながら軽く深呼吸する。その光景を映像越しに見守る王都の国民も生唾を飲みながらルクセントへと注目した。



「勇者よ……いや、勇者の卵よ。

 そなたは我らが勝手に呼び出した異世界の人間であるにも拘らず、その意思を持ってしてこの世界の抱える問題に立ち向かおうとしている。人の国、ルメリオス王国を治めるものとして、そなたには感謝の念しかない。まずは礼を言おう」



 ルクセントは衆目すらも関係ないとばかりにセイジに頭を下げて礼を述べる。

 映像を見る国民の一部はそのことに驚愕し、謁見の間に跪く貴族の一部はそのことに憤慨するのだが、国王が言葉を述べている最中に口を挟めるはずもなく、心の中で悪態をつくに留める。もしここで何か言おうものならば、不敬罪で、物理的に自分の首が飛ぶ事を理解しているからだ。そんな貴族たちの様子に気付きながらもルクセントはさらに言葉を続ける。



「およそ1年前に召喚された前回の勇者殿は未熟なままに魔族へと挑み、失敗した。彼もまた、真の勇者となる前の勇者の卵だったのだろう。だが私は信じている、セイジ殿はいずれ殻を破り、まことの勇気と力を持った勇者となるのだと! そして彼の信頼する2人の仲間と共に、人族の領域へと攻め来る凶悪な魔物たちの恐怖から救い出してくれるのだと! そう、信じているのだ……。

 セイジ殿、リコ殿、エリカ殿……この世界を頼む……」


『はいっ!』



 国民が信頼する国王と、王が信じる勇者の構図。

 その瞬間に王都中に歓声が沸き上がり、中には涙を流して抱き合う者すらもいた。

 この勇者ならば大丈夫、彼らに任せれば平和が訪れる……。1度目の勇者死亡で味わうことになった絶望を払拭した瞬間であった。






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