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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編

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EP428 挑む準備


 スケルトン系の領域はかなり広い。六王たちの領域の中でも、最も広大な面積を占めている。スケルトン系の特性で夜または日の当たらない場所でしか活動できないものの、数の暴力という言葉を体現した大戦力を保有しているのだ。

 そして浮遊島は既にスケルトン系領域に入っているにもかかわらず、四人はまだキングダム・スケルトン・ロードの討伐へと移っていなかった。

 理由はリアを鍛えるためである。



「ふっ……はっ! やぁっ!」



 《杖術》スキルで錫杖を操り、素振りを繰り返す。リアの周囲には錫杖に付いていた七つの輪が浮かんでおり、一定速度でリアの周りを回転している。

 この上で、クウが偶に投擲する石ころを弾く訓練だ。

 カキン……と高い音がなり、また一つ石を弾く。



「その調子だ。あ、リングが一つだけ速くなっているぞ。一定速度に保て」


「……」



 リアはクウの言葉を受けて、無言のまま修正する。現在、リアは余り余裕がない。何故なら、これは《杖術》《思考加速》《気纏オーラ》そして並列思考の修行を一気に行っているからだ。

 《杖術》で錫杖を振るい、リングを操作するのは並列思考。《思考加速》で投げられる石を弾き、《気纏オーラ》の修練もする。

 並列思考はスキルではなく技術である。

 これは相当な難易度だ。

 ちなみに、リングが浮かんでいるのは錫杖自体の能力が関係している。



「杖を振るう鋭さが足りない。指の一本一本まで意識しろ」



 既にリアの技術は一級品だ。

 スキルレベルを考えれば、リアの《杖術》は上位相当だと言える。しかし、その程度ではこれからの戦いで足りない。また、単純に杖を振るうだけの技術は高いが、実戦でそれが活かせるかどうかは別の話となる。

 基本的にリアは魔法戦闘がメインなので、実戦で《杖術》を使うことは殆どなかった。

 それにもかかわらず一級品レベルまで仕上げているのは、加護を受けるだけの才能があったからだろう。当然ながら、魔法に関しては元から天才と呼ばれていたので、申し分ない。



「っ! は!」



 クウが投げた二つの小石を同時に弾き、杖をクルリと回転させる。一瞬だけ七つの輪が乱れ、リアは急いで修正した。

 錫杖の持つ能力の制御、杖の素振り、周囲への常時警戒、飛来する小石からの防御、これらを一度にこなすのは非常に難易度が高い。これで三日目となるのだが、まだまだ修正点は多かった。



(……こんなものか)



 クウが見たところ、リアにも疲労が溜まっている。体力的にも精神的にも辛い修行なのだ。あまり長時間続けても集中力が持たない。



「その辺で止めだ」


「……はい」



 少し遅れて返事をした後、リアは錫杖を水平に一周させる。すると、浮遊してリアの周囲を回っていた七つの輪が錫杖へと戻っていた。

 カシャンと音を立ててリングが擦れあう。

 リアは頬が紅く染め、肩で息をしている。相当疲れたのだろう。大きく息を吐いてその場で座り込んだ。クウは歩いて近寄り、リアの隣に腰を下ろす。



「どうだ? 力がついた実感はあるか?」


「まだオーラのイメージが少し……やはり難しいですね。並列思考と《思考加速》は思ったよりも簡単に会得できたのですが」


「《気纏オーラ》スキルは感覚がものを言うからな。魔法と違って理論的なイメージが通用しにくい。時間がかかるかもしれないな」


「しかしあまり時間はないのですよね?」


「《黒死結界》でオリヴィアとザドヘルを閉じ込めておける時間は後少しだ。でも、全く時間がないわけじゃない。焦る必要はないぞ。六王もキングダム・スケルトン・ロードとカースド・デーモンの二体だけだからな」



 クウとしては六王討伐が想像より順調に進んでいると思っている。厄介な【魂源能力】も、リアとミレイナは何とか切り抜けてきた。《星脈命綴鎖アステリア・アリスィダ》や《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》を制御しつつある証拠だった。

 二人とも、【魂源能力】を会得したばかりであるにもかかわらず、使いこなしている。

 やはり天才ということだろう。

 勿論、クウたち超越者がアドバイスを送っていることも要因の一つだが。



「リアはゆっくりと力を蓄えればいい。俺も超越化したのは【魂源能力】を得てから三か月……いや、四か月ってところだからな」


「それでも早すぎです……」


「超越者オロチと戦ったからなぁ……」



 あの時はまさに死闘だった。

 死力を尽くし、それによってクウは覚醒へと至ったのである。



「ま、リアの言ってたアレ・・が成功すれば万事解決だ。慌てる必要はない。それよりも成功するようにしっかりと準備しておかないと」


「頑張ります!」



 リアの眼は決意に満ちている。キングダム・スケルトン・ロードに行おうとしていることは、リアにとっても大きなリスクを伴う。だが、成功したときのリターンも大きい。

 確実な成功を得るために、こうして準備を進めていた。



「そういえばミレイナさんは?」


「ミレイナだったらユナと一緒だな。あっちはあっちで戦闘訓練しているぞ」


「それにしては静かですね」


「浮遊島の裏に幻術結界を張っているからな。完全防音、耐衝撃、耐熱だ」



 結界の内外で意思力を遮断し、物理現象の透過をカットした。これによって浮遊島は静けさを保っているのである。大隕石の被害を抑えた結界と同じ原理だ。

 その説明に納得したのか、リアも頷く。



「なるほど……便利ですね」


「ああ。意思干渉の力は極めれば極めるほど出来ることが多くなる。俺もまだ、完全に掌握したとは言えないみたいだ。リアもこの力を制御できるようにならないとな」


「はい」



 とはいえ、リアにはこれまで後回しにしていた基礎修行がある。これからの戦いにおいて《気纏オーラ》《思考加速》そして並列思考はまさに必須と言える能力だ。更に近接戦闘も会得しなければ、高位能力者の叩き合についていけなくなる。

 キングダム・スケルトン・ロードとの戦いを控えた今、《星脈命綴鎖アステリア・アリスィダ》よりも基礎を磨くことの方が大事だった。



「休憩が終わったら、軽く俺と打ち合うぞ」


「わかりました。お願いします兄様」


「おう」



 リアも確実に、超越化への道を進んでいた。












 ◆ ◆ ◆










 浮遊島の反対側で、ユナとミレイナはひたすら戦っていた。超越者であるユナは手加減しているが、まだステータスに縛られているミレイナは全力全開である。

 《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》も《風化魔法》も遠慮なく使用し、ユナを殺すつもりで攻撃を仕掛けていた。勿論、どう頑張っても殺せないからこそだが。



「まだまだ甘いよミレイナちゃん! 気配が大きすぎる! もっと強弱をつけて!」


「くっ……」



 《気力支配》で気配を操り、その強弱で緩急を見せる母パルティナが開発した戦闘方法。それは有用なことに間違いないのだが、ユナには全く通用しなかった。

 《明鏡止水》によって強化し、ユナの死角へと回り込もうとする。だが、どんなに隙をついたつもりでも、ユナは当然のように反応してきた。

 今も、ミレイナがオーラによる深紅の竜爪を振るうも、ユナは神魔刀・緋那汰の鞘で受け流す。そしてカウンターとばかりに蹴りを叩き込んだ。



「うぎっ!?」



 それはミレイナの魔素とオーラによる防御を軽く貫く。《明鏡止水》による金剛硬化すらも貫通してダメージを与えてきた。

 《超回復》ですぐに痛みは引いたが、ユナに対してまるで歯が立たないこともミレイナは苛立ちを覚える。



(もっと……もっと速くだ!)



 相手が超越者だから仕方ない……などという妥協はない。

 ミレイナにとって負けは負けなのだ。決して敵わぬと分かっていても、絶対に負けるまいという意思で戦いに臨む。これが竜人の誇りであり、ミレイナがミレイナである所以だった。



「やあああああああああああああ!」



 ミレイナは竜爪を振るい、一度に三つの斬撃を飛ばす。それは地面を抉りながらユナへと迫るが、神魔刀・緋那汰を納刀したユナは、居合の姿勢で迎撃した。



「だから甘いよミレイナちゃん。『閃』」



 もはや目でとらえきれない速度の抜刀。

 そして同時に飛ばされる黄金の斬撃。それは竜爪から放たれた三つの斬撃を全て破壊し、そのままミレイナへと迫った。

 《明鏡止水》を発動させていたミレイナは、自動反射のお蔭で回避に成功する。地面に転がって回避したミレイナは、慌てて起き上がりユナの姿を探した。

 しかし、見つからない。



(どこだ!)



 すぐに気配と魔力を探るも、相手は超越者。

 ミレイナ程度の感知で探るのは無理がある。だから気付いたのはユナが攻撃してくる直前。僅かに魔力とオーラが膨れ上がる瞬間をどうにか知覚出来た。



「っ!?」



 慌てて頭を下げたミレイナ。先程まで首があった場所を神魔刀・緋那汰が通過する。ユナはミレイナが回避できると思ったからこそ急所へと攻撃したのだが、ミレイナからすれば堪ったものではない。

 まさに死力を尽くした回避だった。

 だが、そこでミレイナはすぐに攻撃へと移行する。しゃがんだ勢いのままに両手を地面に突き出し、そのまま左足を軸にして右足で回し蹴りを放つ。

 ユナはそれを回避したので、ミレイナの攻撃は空振りに終わった。そして更に回転の勢いを利用し、ミレイナは幾つもの斬撃を放つ。



「ん? お、おお?」


 ユナもその数には驚いたらしい。全て神魔刀・緋那汰で打ち落とした。そこにミレイナが体を低くして迫り、右手で竜爪を振るおうとする。勿論、《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》を組み合わせた破壊の一撃だ。

 しかし、それに反応できないユナではない。

 掬い上げるようにして鞘を振るい、綺麗にミレイナの右脇へと差し込んで打ち上げた。右脇に下から強い衝撃を受けたミレイナは、回転しながら宙を舞う。

 それでも、ミレイナはまだ諦めていなかった。息を吸い、《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》を意識して至近距離の咆哮を放つ。



「《覇竜咆哮ドラゴン・ハウル》」


「残念。《崩閃シヴァ》!」



 ユナは既に右の人差し指を向けて魔素とオーラを圧縮しており、黄金に輝く球体が浮かんでいた。クウの《崩閃シヴァ》と同じ発動原理であり、ユナはそれを放つ。

 超至近距離による大咆哮も、ユナは《崩閃シヴァ》で弾いた。

 破壊と無効化の力で幾らかは阻害できたものの、超越者の攻撃は絶大だ。《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》ですら相殺できず、ミレイナは黄金の光に包まれる。そして激しい衝撃と共に遠くまで吹き飛ばされてしまった。



「が! うぐっ!?」



 地面を抉りながら転がり、途中で何本も木々を圧し折りながら徐々に減速していく。そして完全に停止するころには、ミレイナの体もボロボロとなっていた。

 流石に立ち上がる元気もない。

 更に言えば、ユナのオーラが蝕んで《超回復》もゆっくりとしか機能しない。

 完全にミレイナの負けだった。

 プルプルと震えながらも立ち上がろうとするミレイナの前にユナが現れる。



「降参?」


「……ああ、参った」



 ユナは殆ど権能を使っていない。その力を僅かに引き出した程度で敗北した。そのことがミレイナに悔しさを覚えさせる。



「ふぅ……く……強すぎる」


「当然だよ?」


「分かっている。でも……」



 ステータスに縛られた存在と超越者。

 その間には天と地ほども差がある。

 例えミレイナが一万人いたとしても、ユナ一人すら倒せない。精々、驚かせるのが精一杯だ。そもそも、超越者は肉体が霊力で構成されているため、運動能力にも制限がない。権能を使わなかったとしても、勝てるはずがないのだ。



「リアちゃんの方はどうかなぁ?」


「さぁ……な。クウと訓練しているのだろう?」


「うん。ちょっと……ううん、凄く羨ましいなー」



 ミレイナにとっては有意義な訓練でも、ユナにとっては遊びにすらならないだろう。超越者は超越者でしか相手に出来ない。ユナがクウを恋しがるのはそれだけが理由ではないのだが……

 ともかく、ユナとしては物足りない気分だった。



「私も後でクウに教わりたいことがあるからな。早くアレ・・を完成させたい。ユナの次は私の番なのだぞ!」


「うー……いいもん! 今夜はくーちゃんと一緒に寝るから!」



 その日、リアの訓練が終わるまでは二人で戦いを続けるのだった。












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