EP427 暴食爆散
重なる二つの大隕石。遥か天空から落下したことで運動エネルギーは充分であり、空気摩擦によって熱量まで保持している。それがドンピシャでぶつかり、フェンリルへと直撃したのだ。
暴食の化身で一個目の大隕石を喰らおうとしていたフェンリルも、流石に二個目は対処できない。一瞬で拮抗は崩され、大爆発に包まれた。
「これは中々……結界を張っておいて正解だったな」
上空で眺めていたクウも苦笑する。
見下ろせば、大隕石の着弾点は地面が融解し、恐ろしい大きさのクレータが出来上がっていた。更に着弾時の衝撃波で周囲の木々は軒並み薙ぎ倒され、見るも無残な状態となっている。元からミレイナが《覇竜咆哮》で山脈にダメージを与えていたということもあり、大隕石がトドメとなって原型を殆ど留めない状態となっていた。
言うまでもなく、フェンリルは即死である。
「うわー。ちょっと引いたかも」
「私も予想外です……」
「リア……私よりも破壊の天使っぽいぞ」
ユナ、リア、ミレイナもそれぞれコメントする。
大隕石二個という質量兵器は、想像以上の力だったようだ。
だが、ここでユナが一つ疑問を浮かべる。
「あれ? なんか被害の範囲狭くない?」
地面が吹き飛び、赤熱している範囲は半径百メートル程だった。普通、あれほどの大隕石が落下すれば、この程度の被害で済まない。大地震が発生し、塵が舞い上がって太陽が隠れるほどの大被害になるはずだ。
しかし、壊れた範囲は半径百メートルのみ。
さらに殆ど塵も舞っていないのである。
この不思議な現象に対し、クウが答えた。
「俺が結界を張っておいた。半径百メートル、高さ二百メートルの円筒形結界内部にだけで被害が抑えられるようにな」
「どうやったの?」
「結界内部と結界外部の意思を遮断した。内部では通常通りの物理現象が働くけど、僅かでも外部に出たら結界内の現象を認識できなくなる。認識できないということは、世界にとって初めから何もなかったということだ。だから、結界外部には全く被害がない。
あの隕石だぞ? 流石に対策するっての」
『世界の意思』に干渉し、結界外部では隕石の被害などなかったと認識させたのだ。これによって物理が通用しなくなり、被害が抑えられたのである。
ただし、これは空間を遮断する結界ではない。
なので生物は簡単に通り抜けられるのだ。
「ともかく、フェンリルは討伐成功だな。予想以上に面倒な相手みたいだったけど」
「はい。ミレイナさんのお蔭で何とかなりました」
「だが倒したのはリアだぞ」
「ミレイナさんが時間を稼ぎ、フェンリルの能力を暴いてくださったからこそです。隕石一個では難しかったでしょうから」
事実、リアは隕石一個で片が付くと考えていた。
フェンリルが物理特化なのは間違いないが、大自然の驚異はそれを上回る。他にも、溶岩の海に落ちたとすれば、高位能力者であっても耐えられないだろう。同様に隕石はそれほどの威力がある。
しかし、フェンリルには《暴食大罪》があった。迫る隕石を喰らい、無害化してしまうのである。この事前情報がなければ、二個目の隕石を呼び出すという思考に繋がらなかっただろう。
そもそも、隕石を呼び出せる時点で色々おかしいのだが……
「よし、取りあえずは討伐完了したんだ。浮遊島に戻るぞ」
話し合うにしても、落ち着いた場所の方がいいだろう。
他の三人も頷き合い、浮遊島に向けて翼を羽ばたかせるのだった。
◆ ◆ ◆
休憩用の家に入った四人は、食事するときに使用しているリビングダイニングへと集まった。ユナが率先してお茶を淹れ、クウが虚空リングからお菓子を出す。
そして用意が整ったところで、四人は話し合いを始めた。
まずはクウが口を開く。
「リアの能力実験は……まぁ、大成功だったな」
これについては全員が同意する。
そして確定した。
「《星脈命綴鎖》は間違いなく意思力に影響を与えている。『世界の意思』は勿論、他人の意思力にもな」
「要するに、偶然に偶然を重ねた奇跡を自力で引き当てる上に、もしもの世界も呼び出せるってことだよね?」
「そういうことだ。本質的には時間転移で間違いなさそうだけど」
リアの力は時間に関係するもので間違いない。だが、そこに並行世界という考え方を持ち込んでいるのだ。
つまり、時間の進む向きが未来と過去という単純な二択では収まらない。未来の可能性、過去に存在した可能性を引き出す能力者と言える。
運命という『世界の意思』へと干渉し、過去はこうだった、未来はこうなるに違いないと認識させるのだ。この時点でまだ【魂源能力】なのだから、権能へと至ればどれほどなのか。
「並行世界を使うのはかなりの魔力を使うみたいだな。実際、一回の使用で全ての魔力を使い切るだろ?」
「そうですね。先もユナ姉様に魔力を分けて頂きましたし」
「そもそもあの隕石落としは一撃必殺っぽいけどな。フェンリルが特殊だっただけで」
超越者視点で言えば所詮隕石。
だが、一般目線で言えば未曽有の大災害。
防ぐにしても【魂源能力】以上が必要になるだろう。アラクネ・クイーンが防げなかったように、相性が良くなければ【魂源能力】保有者でも即死攻撃だ。
何せ、超火力と必中という意味不明な効果なのである。
流石にアレは《魔力支配》、《気力支配》、《明鏡止水》といった強化をフル活用しても無理がある。リアが落とした大隕石は、本来なら全世界の生物を死に至らしめる可能性すらあるのだから。威力によっては舞い上がった塵が惑星全土を覆い、太陽光を遮断して氷河期に突入してしまう。植物が消え去り、生態系が崩れて人は生きていられなくなるのだ。
そういう意味では、クウが結界を張っていなければ割と拙かったのである。
尤も、クウならば《幻葬眼》で後だしの無効化も可能だが。
「ともかく、リアは俺かアリアがいない状況で隕石落としは使うな。流石にヤバい」
「わかりました」
実験は成功だが、余りにも強すぎた。使いどころを考えなければならない。
もしくは使い方の考慮が必要だろう。
「使うなら天候操作が使いやすそうだな。竜巻を引き起こすとか、落雷とか」
「竜巻……? それは何ですか兄様?」
「あー……知らないのか。まぁ、仕方ないな」
落雷はともかく、リアは竜巻を知らないらしい。ただ、この世界は情報網が発達しているわけではないので、見たことがなければ知らないのも仕方ない。地球のように情報が溢れていることの方がおかしかったのだ。
「竜巻は……そうだな。実際に見た方が早いか」
とはいえ、クウも本物の竜巻を見たことは一度もない。
なので、過去にテレビなどの映像で見た内容を、幻術で再現するだけとなる。ただ、これでも充分に伝わるだろう。
クウは魔眼を解放し、念のためにリアだけでなくミレイナにも竜巻を見せた。
回転する風が天地を結び、街を破壊する様子。
木々を薙ぎ倒し、家を巻き込み、破壊の力を振りまく様を見せつけた。人知の及ばぬ大自然であり、決して届かない風の怒り。
流石のリアも絶句していた。
「えっと……これが竜巻ですか?」
「私の《黒蝕雷嵐》に似ているのだ」
ミレイナの《黒蝕雷嵐》はマイナスエネルギーを纏った竜巻を無数に巻き起こす魔法だ。「劣化」によって空気分子が電離し、電子が飛び出して放電現象を引き起こす。風自体はそれほど強くもないのだが、「劣化」でジワジワと削ってくる災害クラスの魔法だ。
「こんな災害に留まらなくてもいい。石で躓く、血で滑る、風で砂が目に入る……なんて嫌がらせレベルでも充分だからな。ま、リアについてはこんなもんだ」
クウはそう結論付けて話を終わらせた。
次にミレイナに対して口を開く。
「ミレイナはパワーが付いてきたよな」
「あ、それは私も思うよー」
ユナも同意したことで、ミレイナは少し頬を緩める。
ミレイナの能力はひたすらに一点突破しているのだ。そこに応用性など求めておらず、搦め手すらも正面からぶちのめすのが彼女のスタイルである。
如何に精度を上げ、密度を上げ、効果的に《源塞邪龍》を使用するかがカギだ。純粋なパワーは勿論、その辺りの効率化も上手くなっている。
「実戦のお蔭だろうな。それも【魂源能力】を使ってくるような相手だ。どんなに雑魚でも多少は成長する。まして才能があるミレイナなら尚更だな」
今回は特に悪いと思えるところはなかった。能力も充分に扱えているし、戦いの中に油断もない。だが、それは戦闘技術の話。
「一つ言うなら、熱くなりすぎ。途中でリアの実験を兼ねてるって忘れてただろ」
「う……」
別に冷静さが消えていたわけではないのでこれ以上は責めないが、その辺りの感情コントロールはまだ甘いと言える。今後の課題だろう。
「大体はこんなもんかな……」
一通り言い終えたクウは、お茶を一口含む。
こうして無事に覇狼フェンリルを討伐出来たのだから、今度は次の相手について話さなければならない。そして、次の相手はクウとリアにとって因縁がある。
骸骨帝キングダム・スケルトン・ロード。
防御に関する【魂源能力】を保有しているのではないかとクウが予想する相手だ。超越化した今ならば雑魚同然だが、リアにとってはそうならない。
「次のキングダム・スケルトン・ロードだけど……」
クウはどうするか少し悩む。
あの領域はとにかくスケルトンの数が多く、必然的にリアが後方で浄化、ミレイナが前に出てキングダム・スケルトン・ロードを叩くという状況になるだろう。
そうなると、またミレイナだけが前線で命を張ることになるのだ。
そろそろ、リアにもそういう体験をさせたいという思いがある。
しかし、命を賭けるだけに強制させることでもない。
クウが言葉に詰まっていたところ、ユナが首を傾げた。
「くーちゃん。そんなに悩むこと? キングダム・スケルトン・ロードはくーちゃんも一度戦ったんでしょ?」
「まぁな。リアにとっても因縁がある相手だし、どうしようかと思って」
それについてはリア自身も思うところがあったらしい。
少しだけ考えるようなそぶりを見せた後、顔を上げて告げた。
「…………少し試したいことがあります」
「リアが試したいことねぇ……まぁ、言ってみ」
彼女の口から語られる言葉を聞いて、クウは面白いと感じる。ユナも賛成気味だった。ミレイナはいまいち理解していないようだったが、協力すると宣言する。
四人はキングダム・スケルトン・ロード討伐に向けて動き出すのだった。





