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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編

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EP424 色欲破砕


 巨大隕石の衝突により、山脈全体が揺れた。

 洞窟で創魔結晶を破壊したクウは、突然のことで驚く。



「うわっ! 地震か!?」



 この人魔境界山脈はプレート運動の衝突で生じた褶曲山脈だ。地震が起こることもある。

 洞窟が崩れると面倒なので、クウは急いで脱出することにした。消滅エネルギーで開けた穴に向かって飛翔し、そのまま上空まで抜けて一気に外へと出る。

 そして周囲を見渡すと、ある一点に目が向いた。



「……なんだあれ?」



 クウが注目したのは山脈の一角である。まるで巨大な爆発でも起こったかのようなクレーターが発生しており、中心部は赤熱している。どうやら、アレが地震の原因だったようだ。

 すぐにリアとミレイナの気配を探ると、少し離れた上空に留まっていると分かる。

 逆にアラクネ・クイーンの気配は既に消失しているので、討伐済みだと判断した。クウはすぐに二人の元へと向かう。



「いた」



 リアを抱えるミレイナの姿はすぐに見つかった。

 そして近寄ると、慌てたようにミレイナがリアを見せる。



「あ、クウ! 大変なのだ! リアが大怪我をして……」


「アラクネ・クイーンは?」


「リアが倒したのだ!」


「分かった。すぐに治す」



 クウは《神象眼》を発動した。両目に黄金の六芒星が浮かび上がり、それによって幻術が発動される。リアの体が修復されているという幻術だ。だが、それは意思干渉の力で世界に現実だと認識させられ、遂には現実となった。

 つまり、一瞬でリアは回復したのである。



「暫くすればリアも目を覚ます。だが、何でリアがこんな怪我を?」


「分からないのだ」


「分からない?」


「気付いたらリアがこんな状態に……」



 状況が掴めないクウは、取りあえずリアが目を覚ますのを待つことにする。そのために、《神象眼》で浮遊島を作った。



「一度戻るぞ」


「分かったのだ」



 クウ、そしてリアを抱えたミレイナは浮遊島へと飛んで行き、そのまま休憩用の家に入る。眠っているリアを寝かせるために、寝室まで運んだ。

 丁度リアをベッドに寝かせたところで、ユナも戻ってくる。



「ただいまー」



 ユナは気配を頼りにリアの寝室まで走り、扉を勢いよく開け放った。



「戻ったよー!」


「少し静かに。リアが眠っている」


「ごめんなさーい。どうかしたの?」



 ユナはリアに駆け寄り、体を調べた。だが、既にクウが治しているので傷はない。首を傾げつつ、ユナは陽属性で回復を掛けた。淡い光がリアを包み、癒しの力が吸い込まれる。

 そんなユナに対し、クウは首を傾げつつ尋ねた。



「一応、《神象眼》で回復させたんだけど……それって意味あるのか?」


「こう言うのは気持ちなんだよ。お姉ちゃんパワーはきっと届くの!」


「そんなもんか」



 ステータスで縛られている時はともかく、超越者の力は気持ちに由来する。魂の最深階層である意思次元が大元になっているのだ。つまり、根性論すら通用する世界なのである。

 気持ちを込めて癒しを発動すれば、それは叶う。

 クウはそれを操る能力者なので、ユナの言い分にも納得できた。



「んぅ……」



 陽属性の光を浴びたリアは少し身動ぎする。

 そしてすぐに目を覚ました。



「あ、起きた」


「おお。ホントに目が覚めたな」


「リ、リア! 大丈夫なのか!」


「ぅ……ミレイナさん? 兄様に姉様も?」



 寝起きで思考が淀んでいるのか、リアはボーっといた。だが、すぐに全て思い出したのだろう。急いでクウに尋ねた。



「クウ兄様。アラクネ・クイーンは?」


「消滅したぞ」


「良かったです……」



 そう言って胸を撫で下ろす。

 最後の術が上手く発動したことを悟ったからだ。

 そんなリアに対し、クウは一つ尋ねる。



「何をしたんだリア? いや、一応予想は出来ているんだけど……まさかアレを?」


「はい」


「え、マジか」



 アレ・・とは、リアの《星脈命綴鎖アステリア・アリスィダ》について色々と研究している時、クウがふと考え付いた術である。

 ちなみに完全な思い付きで、一度も成功などしたことがなかった。

 あくまで、理論的に可能かもしれない……程度のものである。

 それを成功させたのだからクウも驚いた。



「まさかアレをなぁ……だとすれば、リアの《星脈命綴鎖アステリア・アリスィダ》は俺が持っていた《幻夜眼ニュクス・マティ》を軽く超える性能になり得るぞ」


「何の話くーちゃん?」


「リアが使ったあの術がどうしたのだ?」



 ユナとミレイナが幾つも疑問符を浮かべながら尋ねる。そんな二人に対し、クウはリアの能力に対する考察と、例の術について説明を始めた。



「まず、リアの【魂源能力】は知っているよな」


「うん。時間転移だよね」


「私も何度か世話になったぞ」


「ああ、その通りだ。だが、リアの力はそれだけで説明できない所がある。過去へ、未来へと時間を移動させる能力なのは間違いないけど、もう一つ重要な点がある」



 《星脈命綴鎖アステリア・アリスィダ》を使えば、傷を負っていない過去、傷が治った未来などへと時間を移動させることが出来る。また、特に未来への転移では大きな力を発揮する。極小の確率でしか起こり得ない未来を、一発で引き当てることが出来るからだ。

 だが、この未来選択とも言える力は、時空間制御だけで引き起こせるものではない。



「リアの力には、明らかに俺と同じ「意思干渉」の力が含まれている」


「え? それって本当?」


「ああ、今回の件で確信した」



 ユナは驚いた。

 意思次元を操る「意思干渉」は本当に強力だ。突き詰めて言えば『思い込み』の力であり、難しい言葉を使えば『観測者』の力と言える。

 人は認識した世界を現実として認めることで、頭の中に世界を形成している。それが虚構であったとしても、認識すれば本人にとっては現実なのだ。つまり、他者の意思次元へと干渉し、認識できる現実を改変することで、世界を改変することが出来る。

 これが「意思干渉」の基本であり、《神象眼》《幻葬眼》《月界眼》の根源だ。

 その恐ろしくも強力な力がリアにも宿っているというのだから、ユナが驚くのも無理はない。



「正確には「意思干渉」とは少し性質が違うみたいだけど、かなり近い力を持っていると思う。俺が意思次元をベクトルとして捉えて操っているのに対し、リアの力は意思力の流れとして意思次元を操っている。それでも強力なことには変わりない」


「……? どういうこと?」


「そうだな。じゃあ、具体的な話をリアにして貰おうか。使った術の説明を兼ねてな」


わたくしがですか?」



 リアが聞き返すと、クウは頷く。

 《星脈命綴鎖アステリア・アリスィダ》はリアの能力なので、クウではなくリアが話すべきだと判断したのだ。リアもそれで納得したのか、口を開く。



わたくしが引き起こしたのは運命の連鎖です。過去時間へと干渉し、それを何度も繰り返して特異点となる時点を見つけました」


「ごめんリアちゃん。特異点ってなに?」


「運命の分岐点となる重要な時点のことです。つまり、世界軸が大きく変わる時点のことですね」


「何となくわかったよ。ありがとう!」


「いえ。それで特異点から今度は未来へと転移し、あの辺りに巨大隕石が落ちてくる未来を作成したというわけです。あとは未来転移で隕石がアラクネ・クイーンに直撃する極小の未来へと移動しました」



 リアはサラッと説明したが、かなりぶっ飛んだ内容である。

 つまりは並行世界パラレルワールドを形成したというのだ。

 クウはリアの説明に捕捉する。



「ついでに言うと、リアは『世界の意思プログラム』にも干渉している。つまり、運命を操り、完全に確定させたわけだ。確かアラクネ・クイーンの運値は51だったな。本来なら、何もしなくても半分の確率で直撃は避けられるし、回避の意思を見せれば隕石の直撃はほぼ百パーセント避けれたはずだった。

 でも、リアは未来転移でアラクネ・クイーンに隕石が直撃する未来を確定させた。だから、アラクネ・クイーンは運命に抗えず、隕石に押し潰されたというわけだな」



 とんでもない能力である。

 言い換えれば、自分に有利な並行世界パラレルワールドへと引きずり込む術なのだ。大元になるのは時間転移だが、極めればそういったことも可能になる……というわけだった。



「なるほどな。魔力も使い切るわけだ」



 ミレイナは感心する。

 大きな術を用意ているのは分かっていたが、それほどのものだとは知らなかった。それに、クウとリアの説明を聞いても、術の概要しか分からない。複雑怪奇すぎて理解不能なのだ。

 同時に、ミレイナは自分の不甲斐なさを嘆く。



(リアがこれほどのことを成したというのに私は……)



 時間を稼ぐと言っておきながら、結局操られただけだった。リアは言葉を濁していたが、あの大怪我は自分が操られているとき付けたものだと確信している。

 ミレイナは論理的思考は苦手だが、勘は良い。

 それぐらい察することが出来ていた。



(この力を……破壊の力を守るために使いたい……)



 ミレイナの心に炎のような感情が灯った瞬間だった。










 ◆ ◆ ◆








 その日の夜中、ミレイナは一人で外出し、岩場に腰を下ろして空を見上げていた。浮遊島から見える夜空は美しく、まるで宝石が散りばめられたかのように見える。

 静かな時間を過ごしていると、不意に背後で気配がした。



「こんな時間に一人でどうしたのミレイナちゃん?」


「ユナ……か」



 振り返ると、そこには寝間着姿で上着を羽織ったユナがいた。超越者なので睡眠は不要だが、その気になれば眠ることが出来る。今はクウもリアも眠っている頃だろう。どうしてユナだけ起きてきたのか不思議だった。

 首を傾げていると、それを察したユナが答える。



「何か悩んでそうだなーと思ってね」


「分かるのか?」


「んー……何となく?」



 どちらかと言えば感覚派のユナらしい答えである。だが、同じ感覚派のミレイナにはよく理解できた。自分にも妙に勘が働くときがあるからだ。



「それでどうしたの?」


「……アラクネ・クイーンとの戦いで思うところがあってな」


「リアちゃん、大活躍だったよね」


「……っ」



 その通りだ。

 だが、逆に自分は何もできなかった。寧ろ足を引っ張っただけだと言える。



「私は……アラクネ・クイーンに操られてリアを攻撃してしまった……と思う。多分」


「うん」


「だが、リアは私を責めることはなかった。あんな大怪我をしたのに……私が負わせたのに!」


「うん。そうだね」


「いっそ責めてくれた方が楽だったよ」



 こんなに苦しい気持ちになったのは初めてかもしれない。

 ミレイナはそんな感情を吐き出した。

 膝を抱えるミレイナに対し、ユナはそっと近づいて後ろから抱きしめる。



「大丈夫。大丈夫だよ」


「何が……だ?」


「リアちゃんはね。強いんだよ。天使化してから本当に強くなったんだよ」


「……」


「皆強いんだから、ミレイナちゃんも甘えてみたら?」


「え?」



 それは予想だにしない言葉だった。

 竜人族首長の娘として、次期首長候補として育ってきたミレイナは、誰よりも強く、皆を守れる存在としてあるべきと育ってきた。

 そんな環境もあって、自然と皆を守らなければならないという感情が湧いてくる。

 無意識のことだが、ミレイナは自分が守らなければならないと自身を縛り付けていた。



「ミレイナちゃんはリアちゃんに守って貰ったんだよ。ありがとうって言わないとね!」


「ああ、そうだな」



 ミレイナは首を上げてもう一度夜空を見上げる。

 この日、ミレイナも少しだけ成長した。それを知るのは、ユナだけである。














リアの能力に期待……?

ミレイナも成長の予感です

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