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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
422/566

EP421 感情操作


 現れたアラクネ・クイーンに対し、クウは《真理の瞳》で解析を掛けた。

 すると、いつも通りステータス画面が視界に現れる。




―――――――――――――――――――

クラリス      1535歳

種族 神種アラクネ・クイーン ♀

Lv200


HP:33,883/33,883

MP:49,203/49,203


力 :21,839

体力 :27,482

魔力 :47,819

精神 :49,829

俊敏 :43,849

器用 :47,384

運 :51


【魂源能力】

色欲大罪アスモデウス


【通常能力】

《魔法操糸術 Lv10》

《闇魔法 Lv8》

《身体強化 Lv9》

《魔弾 Lv6》

《魔装甲 Lv9》

《魔法反射》

《状態異常耐性 Lv6》

《統率 Lv8》

《極魔 Lv10》

《神速 Lv7》

《MP自動回復 Lv10》

《HP吸収 Lv10》


【称号】

《蜘蛛妃》《山脈の支配者》《色欲の王》

《天の因子を受け入れし者》《到達者》

《封印解放》《極めし者》

―――――――――――――――――――





色欲大罪アスモデウス

特定の感情を誘発し、操る力。対象の本能す

らも掌握し、コントロールする。

決して逆らえぬ上下関係を教え込み、精神を

毒のように侵食する。

禁忌を犯す色欲の力。





 アラクネ・クイーンが有する【魂源能力】は《色欲大罪アスモデウス》だ。マインドコントロールを得意とする能力らしい。この手の能力はクウの幻術と同じく厄介で、嵌められると一瞬で勝負がついてしまうこともある。

 気を付けて精神を強く保たなければ、あっという間にアラクネ・クイーンの手に落ちてしまうだろう。

 尤も、【魂源能力】を相手に気を強く保つ程度で耐えられるかは不明だが。



「気を付けろよ二人とも。精神系の厄介な力を持っているからな」


「精神系……わかりました」


「うむ。分かったぞ!」


「じゃあ、俺は創魔結晶を破壊してくる。アレは二人で倒せ」



 クウはそう言ってその場から消えた。ユナも今頃は散り散りに逃げたスパイダー系魔物を始末している頃だろう。本命であるアラクネ・クイーンはリアとミレイナで倒すことになる。



「精神系の能力ということでしたね。どうしますか?」


オーラを張って遠距離から様子見をするのだ」



 そう言ったミレイナは魔力を大量に練り上げ、詠唱を始めた。



「『時を刻む風の調べ

 闇を知らせる滅びの予兆

 雷の音が眠りを妨げる

 蝕む黒の紋章

 滲む破滅の絶唱

 世界を後退させ

 告げ知らせる者にも死を!

 《黒蝕雷嵐カラミティ・ストーム》』」



 その瞬間、天は暗雲に覆われた。

 そして風が唸り、大量の竜巻を生み出す。それは大気摩擦によって放電現象すら引き起こし、バチバチと音を立てていた。また、この嵐には「劣化」の特性が織り込まれている。つまり、マイナスエネルギーによって物質は脆化を余儀なくされ、「黒風」による滅びの嵐で破壊されるのだ。

 ミレイナを中心として半径数キロが効果範囲であり、アラクネ・クイーンだけでなく残っていたスパイダー系魔物たちも黒い嵐に巻き込まれる。

 竜巻に触れると、その瞬間に砕かれた。

 巻き起こる風に吸い寄せられ、子蜘蛛は上空に打ち上げられる。

 大地や木々も宙を舞い、ボロボロと分解されていく。

 まさに厄災の嵐だ。



「これでどうだ?」



 破滅の嵐が晴れた後、ミレイナはアラクネ・クイーンのいた場所に目を向ける。これでそれなりのダメージを負わせたと確信していた。

 しかし、その予想とは裏腹に、アラクネ・クイーンは無傷だった。

 《魔法反射》のスキルで滅びの力を跳ね返したのである。



「何?」


「おかしいですね。ミレイナさんの魔法が効かないなんて……」



 流石にリアも不審に思う。

 クウは【魂源能力】についてしかアドバイスを与えなかったので、二人ともアラクネ・クイーンの持つ【通常能力】やステータス値までは知らなかった。そこで、二人なりに考察をする。



「魔力値が高いのでしょうか?」


「いや、それでも無傷で済むなんてありえないのだぞ」


「《魔障壁》《魔装甲》辺りのスキルが絡んでいるとも考えられます」


「そうだとしても《風化魔法》は脆化させる。ノーダメージなんてありえないのだ」


「分かりました。では、わたくしが少し試してみましょう」



 リアは錫杖を構えて魔力を練り、得意とする《炎魔法》を発動させた。



「『《火炎連槍撃ミリオニア・バーニング・スピア》』」



 大量の炎槍がアラクネ・クイーンに向かって飛来した。高位能力者からすれば、この魔法は充分に回避できる程度のものだ。だが、アラクネ・クイーンは回避することなく、魔法をその身で受ける。

 すると、《火炎連槍撃ミリオニア・バーニング・スピア》は運動量ベクトルを真逆に変換され、そのままリアの方へと返ってくる。

 勿論、リアは天使翼を羽ばたかせて回避した。



「なるほど。やはり《魔法反射》のスキルがあるようですね。魔法スキルによる遠距離攻撃は無効化されると思った方が良さそうです」


「それなら直接殴るまでなのだ」


「いえ、ミレイナさんの《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》ならば通用します。遠距離攻撃を全て捨てなければならないわけではありません」


「む? そうなのか?」


「魔法スキルが絡むと跳ね返されるので、《颶風滅竜皇息吹ストーム・ルイン・ブレス》は止めた方が良いと思います。ですが《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》は純粋の魔素とオーラを圧縮した攻撃ですよね? それなら問題ありません」


「参考になったぞ」



 だが、今度はアラクネ・クイーンが動き出した。

 先程の大魔法がミレイナによって発動されたのだと察知し、お返しとばかりに反撃する。



”この私を土で汚そうなど万年は早いと知れ。『《心理消失メンタルアウト》』”



 《闇魔法》による精神攻撃。

 それがリアとミレイナに襲いかかった。

 闇属性の精神攻撃は座標攻撃であることが多く、回避は不可能であると考えた方が良い。つまり、精神攻撃は耐えるのが基本なのだ。

 しかし、精神値が五万にも届きそうなアラクネ・クイーンによる精神攻撃を耐えるのは至難となる。《気力支配》を持つミレイナはともかく、リアはまともに《心理消失メンタルアウト》を喰らってしまった。



「っ!」



 自分の内側で何かが削り取られるような不快感を覚え、リアはその場でふらつく。

 オーラで耐えたミレイナは即座にリアを支えた。



「大丈夫かリア?」


「はい……」



 体調に変化はない。

 だが、内面はそうでもなかった。



「私が《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》を使う。リアは魔力の回復を頼むぞ」


「あの……ミレイナさん」


「どうしたのだ?」


「その、別にアラクネ・クイーンを討伐しなくても良い気がしてきたのですが……」


「…………は?」



 ミレイナはリアの言葉に耳を疑う。

 唖然としていると、リアはその間に言葉を続けた。



「六王は他にも三体いますし、アラクネ・クイーンは見逃しても良いと思います」


「……何を言っているのだリア?」


わたくしは、その……あまりアラクネ・クイーンとの戦いに気が向かないので……」



 先程まではリアもアラクネ・クイーンを討伐する意思を見せていた。だが、唐突に意見を真逆に変えたのである。これにはミレイナも驚いた。

 しかし、すぐに鋭い勘を働かせる。



(まさか……さっき奴が使った魔法の効果か?)



 ミレイナの予想は正しかった。

 闇属性の精神攻撃魔法《心理消失メンタルアウト》。

 それは対象の持つ感情を一つ消し去るというものだ。これによって、リアはアラクネ・クイーンに対する戦意を失った。この魔法による精神効果が蝕み続ける限り、リアは戦意を取り戻すことがない。

 つまり、アラクネ・クイーンに攻撃しようと思えなくなるのだ。

 例え、アラクネ・クイーンから一方的に攻撃されたとしても、自分から攻撃しようという意思を保てなくなってしまう。そんな魔法なのである。



”フフフフ。愚か愚か……『《腐喰厄影陣カラミティ・クラスター》』”



 アラクネ・クイーンは更に《闇魔法》を発動させる。

 自身を中心として影を広げ、「滅び」の特性を帯びた影の槍を無数に飛ばす攻撃だ。使用魔力に応じて影が広がり、影の面積分だけ槍を生成できる。

 鋭利な黒い槍が影から姿を現し、高速でリアとミレイナに迫った。



「く……」



 戦意喪失のリアを抱え、ミレイナはその場から離れる。天使翼を使って亜音速まで加速し、そのまま振り切ろうと考えた。

 しかし、《腐喰厄影陣カラミティ・クラスター》は発動後の機能性こそが最も優れている魔法だ。

 例え回避したとしても、次の槍は回避方向に向けることが出来る。

 アラクネ・クイーンはリアを抱えるミレイナを追い詰めるようにして、次々と影の槍を発射した。《腐喰厄影陣カラミティ・クラスター》に込められた魔力は膨大で、暫くは攻撃が尽きることもない。

 遠距離から《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》で一方的に攻撃するハズが、たった一度の精神攻撃で逆転してしまったのだ。

 これこそが、搦め手の恐ろしさでもある。

 たった一度。

 使いどころを極めた搦め手はその一度で全てを逆転する。



(今は回避に専念するほかない……!)



 ミレイナの能力は正面突破の力だ。

 しかし、それは竜人として耐性が高いからこそ出来る力技の面もあり、リアを抱えた状況では少し難しいと言える。例えば、音速を超える移動はリアへの負担から今は出来ない。そのように、今のミレイナには制限されていることが色々と多かった。

 滅びを纏った影の槍がミレイナを掠める。

 回避もかなりギリギリになりつつあるため、何か打開策が必要だった。



(私の無効化でリアの精神汚染を解除するか……? でも、間違って破壊を発動させてしまったらダメだ。どうする……)



 《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》を上手に使えば、精神攻撃すら無効化できる。しかし、この能力は無効化と同時に破壊の能力でもあるため、使い方を誤るとリアに甚大なダメージを与えることになる。

 今のように焦っている状況では余計にそれが心配だ。



(《風化魔法》の闇属性で精神汚染を中和とか? うむ……即興でそんな魔法を作れる自信はないのだ!)



 こんなことなら、クウに精神系の魔法を習っておくべきだったと後悔する。

 しかし、後ろ向きなことばかりを考えていても仕方ない。



「そ、そうだ! リア、自分自身の精神を過去転移しろ」


「過去にですか?」


「早く!」



 ミレイナに抱えられたリアは言われるがままに、自分を過去へと転移させた。精神状態が過去に転移したことで、正常な状態に戻る。

 つまり、アラクネ・クイーンに対する戦意が回復した。



「っ! すみませんミレイナさん」


「おお、戻った」


「取りあえず転移します」



 リアは抱えられたまま《時空間魔法》を発動し、転移でその場から消える。

 そして少し離れた場所へと出現した。

 二人が消えたことでアラクネ・クイーンも《腐喰厄影陣カラミティ・クラスター》を止め、キョロキョロと周囲を見渡しながら二人を探す。

 暫くすればまた見つかってしまうだろう。

 それまでの時間がチャンスだ。



「行きましょうミレイナさん。ご迷惑をかけた分はサポートで返します」


「ああ、頼むぞリア!」



 ミレイナは竜化を発動し、口元に大量の魔素とオーラを溜め込む。それを極限まで圧縮し、一気に解き放った。



「《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》!」



 深紅の閃光が輝き、破壊の息吹が解き放たれる。

 凄まじい轟音と共に、アラクネ・クイーンを大爆発が包んだのだった。











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