表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
418/566

EP417 怠け者


 浮遊島で過ごすこと一夜。

 そう、一夜明けてもインペリアル・アントは出てこなかった。



「何故だ。解せぬ」


「なんでだろーね?」



 クウは眉間を抑え、ユナも首を傾げる。

 魔物の性質を考えれば、怒り狂って山の中から出てきてもおかしくない。だが、インペリアル・アントは全く動く様子がなかった。

 実を言うと、既にアント系の魔物は全滅している。王であるインペリアル・アント以外を全滅させてしまったにもかかわらず、動きがないのは異常だった。



「兄様が間違って倒してしまったというオチでは?」


「あり得そうなのだ」


「いや、それはねぇよ。死神はちゃんと制御してる。それに《真理の瞳》で解析しても、山の中に一つだけ強力な個体が残っているのが分かる。そこは間違いない……んだけど……」



 流石に少し不安になってくる。

 インペリアル・アントが怒り狂って出てきたら気配で気付くだろうと思い、寛いでいたら結局翌日の朝になってしまった。死神にはインペリアル・アント以外を始末するようプログラムしたものの、間違って倒してしまったのではないかと考えてしまう。

 だが、《真理の瞳》を使うと、やはりインペリアル・アントは生きているらしい。

 どうして配下のアント系魔物が全滅したにもかかわらず、王が行動に移らないのか謎だった。



「どーするのくーちゃん?」


「……直接行って引きずり出すか」


「シンプルでサイコーだよ」



 クウはそう言って休憩に使っていた家から出る。

 そして翼を展開し、浮遊島から自由落下した。途中で翼を使いつつ減速し、そのまま山の頂上付近に降り立つ。《真理の瞳》による解析でインペリアル・アントの居場所は判明しているのだ。後は、そこまで消滅エネルギーで掘り進め、引きずり出せばいい。

 こう言ってはアレだが、かなり脳筋な手段である。



(距離は……二百メートルぐらいか)



 右手に消滅エネルギーを溜め込み、指向性を与えて放つ。赤黒い閃光が山肌を穿ち、深い大穴を開けた。この下へと落下すれば、インペリアル・アントの側に行ける。



「よし」



 クウは躊躇いなくその穴へと飛び降りた。八秒ほどで一番下まで落下し、フワリと音もなく着地する。そこは薄っすらと明るい空間で、光源となっているのは創魔結晶だった。

 側には巨大な蟻の姿がある。

 黒くて硬い外殻に包まれ、無数の棘が体を守っている。前足の二本は鎌のような形状で、切れ味はかなり良さそうだ。背中には翅のようなものもあり、折り畳まれて偶にピクリと震えていた。腹が非常に大きく、透明な膜で出来た卵袋まである。恐らく、そこからアント系魔物が生まれるのだろう。

 蟻女王というだけはある。



「気配を抑えているとは言え、俺に全く反応しないか」



 だが、インペリアル・アントは全く動かない。

 普通なら、この距離まで近づくと魔物は襲ってくる。よほど鈍感か、気絶でもしてば別だが。



「……」



 試しに近寄ってインペリアル・アントの体に触れてみる。一瞬だけピクリと動いたが、クウが触れても特に攻撃反応は示さなかった。

 このまま地上までおびき寄せたいので、このままでは困る。

 取りあえず、インペリアル・アントに解析を掛けた。




―――――――――――――――――――

エルリーン     1588歳

種族 神種インペリアル・アント ♀

Lv200  睡眠


HP:49,293/49,293

MP:9,392/9,392


力 :39,482

体力 :47,291

魔力 :8,492

精神 :39,193

俊敏 :40,193

器用 :7,349

運 :60


【魂源能力】

怠惰大罪ベルフェゴール


【通常能力】

《魔闘鎌術 Lv10》

《身体強化 Lv9》

《魔装甲 Lv6》

気纏オーラ Lv8》

《覇気 Lv8》

《思考加速 Lv7》

《状態異常耐性 Lv6》

《自己再生 Lv10》

《明鏡止水》


【称号】

《蟻女王》《山脈の支配者》《怠惰の王》

《天の因子を受け入れし者》《到達者》

《封印解放》《極めし者》

―――――――――――――――――――





怠惰大罪ベルフェゴール

怠けるほど力が増す。怠けた期間が長ければ

長いほど、解放時に凄まじい戦闘力を発揮す

ることが出来る。怠けている間は防御力が極

端に増し、滅多なことでは傷つかない。

怠惰を貪る者の力。





 物理特化のステータスに加え、《怠惰大罪ベルフェゴール》という力。インペリアル・アントの能力は大まかに理解できた。

 状態異常も『睡眠』と記されており、これが原因で配下が狩り尽くされても行動を起こさなかったのだろうと予想できる。とんだ怠け者だった。



「これは予想外だな……」



 クウも悩む。

 しかし、このまま放置しても仕方ない。取りあえず、消滅エネルギーで創魔結晶を破壊した。洞窟全体を照らしていた青白い光も消えてなくなり、真っ暗になる。

 だが、クウは魔眼の力で周囲を知覚できるので、暗くなってもあまり意味がなかった。



「さてと、取りあえず足の一本でも斬り落とすか」



 《怠惰大罪ベルフェゴール》のせいでインペリアル・アントは極端に防御力が上がっている。《明鏡止水》のスキルも合わせれば、滅多な攻撃が通らないレベルとなっているだろう。

 しかし、クウには関係ない。

 虚空リングから神刀・虚月を取り出し、居合で足の一本を薙いだ。

 すると、納刀と同時にその足が斬り落とされる。

 神刀・虚月の事象切断能力だ。

 防御力など関係なく対象を切り裂くことが出来る。



”ギギギ……?”



 そしてインペリアル・アントもダメージには気付いたようだ。ただし、痛覚はないらしい。目覚めたインペリアル・アントは違和感のある足を確認し、しばらく見つめた後、大きくさざめいた。



”ギギギギギギギギギッ! 妾の足を斬り落としたのは何処の者だ!”



 凄まじい咆哮のせいで、洞窟が崩れそうなほど揺れる。

 そして次の瞬間にはクウの姿に気付き、《覇気》を使いつつ問い詰めた。



”貴様か? 妾の足を斬り落としたのは?”


「そうだ」


”なら死ぬのだ”



 《自己再生》で足を瞬間的に回復させたインペリアル・アントは、鎌のような前足でクウを攻撃した。勿論、クウはそれを回避して空中に移動する。



「こっちだ」


”待て!”



 クウは天使翼を羽ばたかせて、開けた大穴を逆に進んだ。このままインペリアル・アントを外まで誘導できれば、今回のミッションは終了である。

 思ったよりインペリアル・アントが単純で助かった。



”妾の子らよ。その不届き者を足止めせよ!”



 壁を伝って追いかけるインペリアル・アントは、配下の魔物たちに指令を飛ばす。だが、アント系魔物は既に全滅しているのだ。反応などない。

 それに気付いたインペリアル・アントは更に怒った。



”おのれ! 妾の奴隷を殺したのだな!”



 怒りのせいか、インペリアル・アントは毒々しい緑のオーラを纏う。更に《身体強化》や《明鏡止水》も発動し、全速力でクウを追いかけた。

 しかし、超越化したクウに追いつけるはずもない。

 およそ二百メートルを一気に昇ったクウは、そのまま大空に飛び出して浮遊島まで移動した。すると、外に出て待っていたユナ、リア、ミレイナが見えたので、その側に降り立つ。



「おかえりくーちゃん。無事に引きずり出せたの?」


「ああ、もうすぐ怒り狂ったインペリアル・アントが出てくる。俺とユナはこの浮遊島で待っているから、リアとミレイナの二人で倒せ」


「分かりました兄様。行ってきます」


「腕が鳴るのだ!」



 リアとミレイナは天使翼を展開し、飛び立って浮遊島から下降した。

 それと同時に、山頂付近の大穴から怒りの波動を放つインペリアル・アントが現れる。全長十メートルほどの巨大な蟻の姿で、棘だらけの甲殻と、死神の鎌を思わせる二本の前足、そして背中にある翅が特徴的だ。



”どこだ小童! ギギギ!”



 インペリアル・アントは翅を広げて宙に浮かんだ。クウを探しているのだろう。

 だが、それよりも先にミレイナが上空から突撃を仕掛けた。



「先手必勝、なのだぞ!」



 バゴンッと重たい音がしてインペリアル・アントは地面へと叩き付けられる。上空からの降下で加速したミレイナが《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》の力も使って拳を叩き込んだのだ。

 たった一撃でインペリアル・アントの甲殻は破壊され、右半身が消し飛ぶ。《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》の無効化能力によって、強化系のスキルが全て打ち消されたからだ。



”ギギ……また妾に傷を負わせたな! 不届き者め!”



 毒々しい色のオーラを放ちつつ、インペリアル・アントが忌々しそうな声を出す。そして即座に《自己再生》を発動し、壊れた体を治した。



”この妾に歯向かうとは痴れ者めが。女王の威光に平伏すがいい!”



 インペリアル・アントは新たな敵を定めた。天竜人ミレイナに向かって鎌を振り下ろす。すると、毒々しい色の斬撃が放たれ、音速を超えてミレイナに迫った。

 《気力支配》で思考速度を強化しているミレイナは、見てから軽く回避する。そして御返しとばかりに竜爪を振るい、深紅の斬撃を三つ同時に飛ばした。

 ミレイナの竜爪はインペリアル・アントに直撃するが、それは強化された甲殻によって霧散する。あまりにも高い防御力のせいで、飛ぶ斬撃程度ではダメージにならない。



「む、直接攻撃するほかないな」


「それならわたくしがやります」



 ここでリアが溜めていた魔力を使って《時空間魔法》を発動する。出来るだけ魔力を強く練り上げ、インペリアル・アントにも通るようにしたのだ。

 そんな魔力から放たれたのは空間を切り裂く攻撃。

 インペリアル・アントの首が切り裂かれ、ポトリと地面に落ちた。

 だが、首を落とされたインペリアル・アントは、二本の鎌で器用に頭を拾い、首にくっつける。すると《自己再生》によってすぐに回復してしまった。

 一瞬とはいえ、首を落とされても生きているとは驚異的な生命力である。



「……驚きました」


「一瞬アンデッドかと思ったぞ……」



 首が離れたにもかかわらず、それが再びくっ付く光景というのは案外気持ち悪い。だが、リアもミレイナも気を引き締めた。今回は不意打ちで瞬殺することを目的としていたのだが、簡単に対応されてしまったのである。

 ここからはまともにぶつかり合うしかない。



”ギギギギギ! 妾を愚弄した罰、その身に刻むがよい!”



 怒るインペリアル・アントは《怠惰大罪ベルフェゴール》を解放する。怠けるほどに強くなれる、その力はいったいどれほどなのか……

 リアとミレイナはそれを目の当たりにすることとなる。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ