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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
魔王の真臓編
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EP416 蟻の魔物


 キメラ系の領域を支配する混獣王グリフォンを討伐したことで、山脈に残るキメラは統率を失った。このまま放置すれば、別の個体が支配者として君臨することだろう。しかし、所詮は六王に届かない個体だ。大したことはない。

 クウたちもキメラ系を完全には掃除せず、翌日から次のアント系領域を目指した。

 天使翼で一直線に南下すること二時間。

 四人の眼下では巨大な岩や塔を思わせる蟻塚が大量に点在していた。



「着いたぞ。アント系の領域だ」


「なんか多そうだね」



 ユナは魔力や気配を感じ取ることで蟻の数を把握していた。山脈表面に乱立している蟻塚は、一つあたりに数百体ほどの蟻が潜んでいる。今も蟻塚の周りを兵隊蟻が警戒しているのだが、それは氷山の一角とも言うべき一部分だ。

 蟻塚は目で見える範囲にも大量にあるので、この時点で何万という蟻がいることは間違いない。更に、山脈内部にも洞窟が広がっており、そこには比べ物にならないほどの蟻がいる。

 概算だが、山脈全体で百万近い蟻が存在している。

 中々に骨が折れそうだった。



「兄様、これを私たちでやるのですか……?」


「どうしたのだリア? 楽しそうだぞ?」


「そう思うのはミレイナさんだけです……」



 キラキラとした目をしているミレイナと異なり、リアは嫌そうな表情を浮かべている。アント系の魔物は、結局のところ大きな虫なのだ。リアも年頃の女の子であり、虫が大量に蠢く場所で戦いたいとは思わない。

 数体程度ならともかく、何百体もいれば流石に気持ち悪い。

 そこで、クウもリアを安心させるべく首を横に振った。



「雑魚蟻は俺とユナでやる。正直、リアやミレイナのレベルになると、いくら雑魚を倒しても意味がないからな。二人は蟻女王インペリアル・アントの相手だけをすればいい」


「リアちゃんとミレイナちゃんは見学だよ」



 クウとユナでそう説明すると、リアはホッとしたようだった。一方のミレイナは少し不満そうだったが、よく考えると雑魚を薙ぎ払うだけなど面白くもない。すぐに納得した。



「じゃ、行ってくる。空中で気配を隠しつつ待ってろ」


「行ってくるねー」



 天使翼を広げたクウとユナは、一気に降下して蟻塚へと目を向ける。そしてクウは右手に魔素とオーラを集め、燃やし尽くす意思を与えて《銀焔シロガネホムラ》を発動した。ユナは陽属性に自分のオーラを混ぜ込み、灼熱を発する黄金の火球を手に握る。



「《銀焔シロガネホムラ》」


「《聖金焔コンジキホムラ》」



 白銀と黄金の炎が放たれ、二つの蟻塚を一瞬で燃やし尽くした。白銀の炎は意思次元が対象を燃やし尽くすと認識することで、炎耐性などぶち抜いて塵すら残さず消滅させる。黄金の炎は陽属性の力にオーラを宿した概念攻撃であり、圧倒的な熱量で焼滅させる。



「後は適当に分かれてやるぞユナ」


「うん。くーちゃんも気を付けてね」


「ユナもな」



 二人はそこで別れ、それぞれで山脈表面に乱立する蟻塚を滅ぼしていく。

 クウは《魔神の矢》で情報次元ごと消し飛ばし、《銀焔シロガネホムラ》や《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》で次々と破壊していく。

 ユナは太陽の纏う《緋の羽衣》を発動し、《臨界恒星炉スターリアクター》で身体能力を極限まで底上げして、《赫陽玉ブレイズ・スフィア》や《聖金焔コンジキホムラ》を放っていた。時には神魔刀・緋那汰で陽属性の斬撃を放ち、燃やし尽くす。

 超越者二人が暴れることで、アント系の魔物はあっという間に数を減らしていた。



「《虚無創世ジェネシス》」



 クウは一度に数十もの《虚無創世ジェネシス》を発動し、蟻塚を次元の果てに葬り去る。そして両手を合わせて魔素とオーラを圧縮し、銀霊珠を形成して引き延ばした。完成した《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》を投げると、着弾点で巨大な白銀の柱のように光った。

 魔眼を持つクウの射程距離は、視界の範囲全てだ。そして空を飛ぶことで遠くまで見渡せるため、影に隠れた蟻塚以外は《虚無創世ジェネシス》の餌食となる。そして陰に隠れた蟻塚も、魔力や気配で位置を掴んで《銀焔シロガネホムラ》や《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》を使っていた。



「ん~……それ! 《神聖陽光セイクリッド・シャイン》!」



 そしてユナは陽属性をメインに蟻を殲滅していた。「武装創造」によって生み出す武器を操るユナは、広範囲を殲滅するのに向かない。そこで、魔物が瘴気の塊であることを利用し、陽属性の神聖効果で薙ぎ払うことにした。

 《神聖陽光セイクリッド・シャイン》は太陽の光を浄化へと転化する力だ。つまり、日中で最も効果を発揮する。聖なる光がアント系魔物に触れると、その瞬間に概念効果が発動する。元が瘴気の塊である魔物は、聖なる光に触れると一撃で身体を砕かれ、消滅した。



「おー、便利だねこれ。くーちゃんには被害がないし、使えるかも!」



 蟻塚はクウが問答無用で破壊しているが、ギリギリ逃れた蟻や山脈内部の洞窟から湧き出る蟻たちは倒しきれないままだ。しかし、ユナの《神聖陽光セイクリッド・シャイン》ならば、地表にいるだけで魔物だけ消滅させることが出来る。

 味方や環境に被害を与えない、良い術だと言えた。



「そろそろ蟻塚も消えてきたな!」


「やっぱり洞窟に引きこもっているね。どうするのくーちゃん?」


「乗り込んで潰す」


「シンプルでサイコーだよ!」



 山脈表面にあった蟻塚は全て消え去り、あとは山脈内部にある洞窟だけだ。蟻の巣を思わせる複雑な迷路となっているのがクウの情報解析でも分かっていたので、消滅エネルギーで無理やり突破する。

 クウは赤黒い球体を掌の上に作り、それを放った。

 それは山脈表面に着弾すると同時に炸裂し、一気に膨張して周囲の物質を飲み込む。情報次元を消し飛ばしつつ、一気に収縮して全てを消し去った。

 消滅した山肌から蟻の巣が露出し、そこから大量の蟻が現れる。

 まず出て来たのは、空中を飛ぶことが出来る翅蟻だった。



「《神聖陽光セイクリッド・シャイン》」



 しかし、ユナの放つ聖なる光によって翅蟻は全て砕け散る。



「行くぞユナ」


「うん」



 二人は飛翔し、洞窟内部へと侵入した。

 山脈の内部には何十万というアント系魔物が潜んでいるのだ。入った瞬間に探知され、二人は大量の蟻に囲まれる。

 クウとユナは落ち着いて抑えていた気配と霊力を解放した。

 すると、超越者の圧倒的な力の前に、蟻たちは金縛りにあう。この世の全ての超越した存在の畏怖が、蟻たちを行動不能にした。



「邪魔だな」



 クウは《魔神の矢》を使い、蟻の全てを消滅させた。《魔神の矢》は小さな消滅エネルギーを矢の形にして制御するので、周囲を余計に消滅させないで済む。あまり洞窟を消滅させると崩落の危険もあるので、気を付けなければならない。

 一通りの蟻を消滅させたクウは、ユナへと話しかける。



「インペリアル・アントは出来るだけ地上に誘い出すぞ。洞窟内部だと、ミレイナも上手く戦えないからな」


「適当に蟻を倒していたら出てくるかな?」


「多分な。キングダム・スケルトン・ロードもグリフォンもそうだったし」



 配下の魔物を大量討伐することで六王の怒りを引き出し、引きずり出すことが出来た。今回もその作戦でインペリアル・アントをリアとミレイナの元に呼び出そうとしているのである。

 まずはクウとユナでアント系魔物を狩り、本命であるインペリアル・アントが出て来たところで、リアとミレイナの所へと誘導する。それが主な作戦だ。



「洞窟を歩きながら蟻を殲滅するのは効率が悪いな……」


「どうするの?」


「こうする」



 クウは《死神葬列デス・パレード》を発動した。これは死神のような姿の幻術生物を生み出す能力であり、以前は精霊殺しアンチエレメンタルと呼んでいたものだ。

 意思干渉の力が込められており、手に持った鎌で斬られると一撃で精神を刈り取られる。その度合いは調整可能であり、気絶程度から殺害まで自在である。

 勿論、今回は切ると同時に死のイメージを叩き込み、殺害するモードだ。



「行け」



 次々と生み出された死神は、壁を透過して蟻を討伐しに行く。あくまでも幻術生物であるため、物質に囚われたりはしない。壁抜けなど余裕である。

 蟻女王インペリアル・アント以外を攻撃するようにプログラムしておいたので、放っておけば勝手にアント系魔物を殲滅してくれるだろう。



「どれぐらい時間がかかるかな?」


「さあな。死神も千体ぐらいは出す予定だし、一時間もすればアント系魔物を全滅させられるんじゃないか? 尤も、それより先にインペリアル・アントを誘い出せると思うけど」


「それならすぐだねー。リアちゃんたちの所に戻る?」


「そうしよう」



 クウとユナは翼を広げて飛翔する準備をする。そしてクウが消滅エネルギーで天井に穴をあけ、一気に空まで昇った。

 少し離れたところにリアとミレイナが浮遊していたので、そこへと向かう。

 そしてクウが現状の報告をした。



「戻ったぞ。今は周囲の蟻を掃除中だ。本命のインペリアル・アントが出てくるまで待つぞ」


「……? 私には掃除中に見えないのだが? リアは分かるか?」


「いえ。何か術を使っておられるのですか兄様?」


「ああ、独立して動く幻術生物を使ってな。前に【砂漠の帝国】でも使ったことがあるぞ。ミレイナは実際に戦ったし、分かるんじゃないか? ほら、八本の触手を持った空飛ぶ化け物だよ」


「あれか……」


「今回使っているのはフォルムが違うけど、あんな感じで蟻を倒している」



 リアはイメージしにくいようだが、ミレイナは理解したらしい。大きく頷いていた。

 幻術生物はあくまでも幻術であるため、あらゆる攻撃が通用しない。逆に幻術生物は感染型幻術によって精神攻撃をしてくる。止めるためには術者であるクウを倒さなければならない。それ故、非常に厄介なのだ。

 更に言えば、幻術生物の精神攻撃は、情報次元にすら作用する力を持っている。意思干渉による意思次元の改変が、情報次元に作用するからだ。

 結論だけ言えば、アント系の魔物如きに勝ち目はない。

 そういうことである。



「インペリアル・アントが出てくるまでは休憩だ」



 クウはそう言うと、《神象眼》で空飛ぶ島を作る。島はそれなりの大きさであり、大きめの一軒屋が建っていた。幻術を元にして作り出したものだが、本物と差異はない。そこに存在すると、世界に認識させたことで生み出した浮遊島だ。

 そこにユナが降り立ち、リア、ミレイナ、最後にクウが続く。

 もはやクウの力に慣れたのか、誰もツッコミを入れない。

 四人はそのまま、一時間ほど休憩するのだった。












一応、山脈の魔物たちはLv70~120あたりの化け物です。人族基準で言えば、AランクからSSランクに相当しますね。

それを軽く薙ぎ払うあたり、超越者マジヤベーってやつですよ。

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