EP412 戦力強化
新章が始まりますよー
~魔法迷宮九十階層~
火花が飛び散り、地面が砕ける。無数の衝撃波が飛び交い、轟音が生じる。
クウとユナは互いの能力を使いこなすために模擬戦をしていた。ただ、超越者同士の模擬戦なので容赦ない攻撃が放たれる。普通なら致命傷でも、超越者ならすぐに回復できる負傷だからだ。
「愉しいね! くーちゃん!」
「気兼ねなく全力を出せるからな!」
クウは神刀・虚月を振るい、ユナは神魔刀・緋那汰を振るう。互いに月属性と陽属性を乗せて斬撃を飛ばし合い、また打ち合い、目を見張るほどの戦いを繰り広げている。
しかし、純粋な武術ではユナが一歩上を行くのだ。
意識の隙を縫って放たれた突きが、クウの肩に刺さる。
「残像だぞ」
だが、それは幻術だった。
既に背後へと回り込んでいたクウは神速の居合を放つ。普通なら回避も防御も不可能な一撃。しかし、ユナは当然のように反応して見せた。
「知ってる」
権能【聖装潔陽光】の「武器庫」から大量の武具を「顕現」させて、盾のように配置する。全て、ユナが「武装創造」によって作成した準神装級のものだ。
しかし、クウの神刀・虚月には透過能力がある。
霊力を流し込んでいる間はあらゆる物体を透過して、斬撃を設置する。そして、納刀すると同時に、設置した斬撃が走るのだ。
これによってユナは背中を斬られた。
「あれ?」
「俺の神装は防御できないって忘れてただろ……」
とは言え、この程度でダメージを追うほど超越者は弱くない。傷も一瞬で回復し、ユナは一度距離を取った……が、それも幻術。自分が飛び下がった幻影を見て錯覚しただけであり、実際は一歩も動けていなかった。
それで戸惑いを感じたユナはコンマ数秒の隙を晒してしまう。
超越者からすれば、それほどの隙は充分。
クウはそのまま右手を伸ばし、デコピンした。
「痛いよくーちゃん!?」
「はい、俺の勝ち」
「幻術はずーるーいー!」
「ずるくねぇよ」
ユナは超越者として覚醒してから日が浅い。会得した権能【聖装潔陽光】を使いこなすために、クウとの実戦を重ねていた。
まだまだ甘いところもあるが、超越者同士の戦いにも慣れ始めている。世界侵食を会得するには至らないものの、意思顕現は充分だった。
基本戦術は《臨界恒星炉》や《緋の羽衣》を使いつつ、武器の力で圧し潰す。搦め手が多いクウとは対極に、直接戦闘能力に極振りした権能だった。
「今日はこの辺りにするぞ」
「えー? もうちょっとやらない?」
「リアとミレイナの方もやらないといけないからな。オリヴィアとザドヘルを封印しておける期間も長くないわけだし、そろそろ動くぞ。そもそも、俺たちには軍の仕事だってある」
超越化に至らなくとも、【魂源能力】を使いこなせるようになる必要がある。超越者にも通用する希少な力なので、結構重要な案件だ。
「戻るぞ。そろそろリアに課した能力把握も終わってるだろ」
「はーい」
「今日も助かったメロ。また、ここを貸してくれ」
”儂も暇ではないのじゃが……まぁよかろう。また来るがいいぞ”
メロにお礼を言った二人はアリアに連絡を取り、召喚の応用で魔法迷宮から脱出させて貰う。
数秒後、クウとユナは九十階層から姿を消したのだった。
◆ ◆ ◆
クウは早速リアの所に行き、今後の方針を伝え……たかったのだが、それよりも先にすることがあった。これでも魔王軍第零部隊の隊長なので、そちらの仕事もある。成り行きだったとはいえ、仕事なのでしっかりとこなさなくてはならない。これは第一部隊の隊長ユナも同様だ。
第零部隊での書類仕事を終わらせてから、クウはリアとミレイナが一緒に訓練している場所へと向かった。
そこは魔王軍の訓練でも使用される演習場であり、多少暴れても問題ないので、二人の訓練場所としてアリアから借りている。
「はぁっ!」
演習場ではミレイナが容赦なくリアに殴りかかろうとしていた。身体スペックだけでなく、戦闘経験すらミレイナの方が圧倒的に上なのである。リアに避けられるはずがない。
しかし、まるで回避することが初めから決められていたかのように、リアは攻撃を避けてしまう。ミレイナも続けて攻撃をするが、その全てはリアに回避されていた。
それがしばらく続いた後、ミレイナは大きく跳び下がる。
「凄いな! 私の攻撃が全く当たらないぞ!」
「はい。ミレイナさんのお蔭で私も能力に慣れてきました」
リアの得た能力を試すために、ミレイナは単純な《魔闘体術》だけで攻撃を仕掛けた。しかし、リアはその全てを回避してみせたのだ。武の心得がないリアではあり得ないことである。
だが、それを可能とするのが《星脈命綴鎖》という能力だった。
模擬戦を終えた二人に、クウはゆっくりと近づいていく。
「かなり使いこなせるようになったなリア」
「はい。兄様のお蔭で《星脈命綴鎖》の本質も理解できましたから」
「それなら良かった。ただし、時間転移は魔力消費も大きいみたいだから、乱発は禁物だな」
「ここぞという時に使うのですね」
「ま、それに関しては実戦で感覚を身に着けるしかない。模擬戦ではそろそろ限界だな」
《星脈命綴鎖》。
その力は過去や未来に時間を転移させるというものだ。特に、未来に対する転移は強力な力を発揮する。例えば、先程はリアが『ミレイナの攻撃を回避した未来』へと転移したので、攻撃を避けることが出来た。例え一万分の一という確率だったとしても、ピンポイントでその未来へと転移できる。
これが時間転移の恐ろしさだ。
他にも、『まだ傷を負っていない過去』へと転移することで、致命傷ですらなかったことに出来る。流石に死者の復活は不可能だが、汎用性の高さは《幻夜眼》に並ぶものがあるだろう。
恐らくはこの力、リアの後悔を表している。
悩み多き年頃に、普通ではあり得ないことを経験したのだ。もしもこうだったら……という可能性を考えたことも少なくはない。決して後悔しないようにという思いが、力として現れたのだろう。
「ミレイナは《源塞邪龍》を使いこなせているか?」
「使えば大抵の奴は粉砕されるからな。手応えがなさ過ぎて、使いこなせているのか分からないのだ」
「ああ、やっぱり」
かなりの高レベルに到達しているので、ミレイナが満足できるとすれば迷宮の地獄階層ぐらいだろう。もしくは、あの場所である。
そろそろ二人にも本格的な実戦で【魂源能力】を使って欲しいので、あの場所へ向かうのが良いかもしれない。クウはそう考えた。
「……よし、それなら二人の実戦も兼ねて、強い奴を倒しに行くか」
「何? 本当か!」
「落ち着けミレイナ。本当だ」
少しミレイナが興奮気味に寄ってきたので、クウは両手で肩を押し返す。そして一拍ほど置いてから目的地を口にした。
「人魔境界山脈だ。そこの六王を討つ」
「……アレですか」
「うむ。燃えてきたのだ!」
キングダム・スケルトン・ロードのことを思い出したリアは苦々しい表情を浮かべる。その一方、ミレイナは非常に嬉しそうだった。自分と張り合えるほど強い魔物は少なく、《源塞邪龍》も本気では行使できない。そのストレスを発散できると考えたのである。
「混獣王グリフォン、蟻女王インペリアル・アント、蜘蛛妃アラクネ・クイーン、覇狼フェンリル、骸骨帝キングダム・スケルトン・ロード、大悪魔カースド・デーモン……この六体が人魔境界山脈を支配しているのは知っているな?」
クウの問いかけに二人は頷く。
「こいつらは創魔結晶というもので増えているみたいなんだが、実は創魔結晶は大樹ユグドラシルとリンクしていたんだ。大樹が吸収した魔力を根で送り込み、創魔結晶から魔物が生まれるという仕組みだな。ただ、既に大樹ユグドラシルの根を断ち切ってあるから、その心配はない。六王さえ討伐すれば、山脈は危険じゃなくなるって寸法だ」
「しかし宜しいのですか? それを失くすと人族と魔族の間に壁がなくなると思うのですが……」
「インペリアル・アントとアラクネ・クイーンが支配する領域の間は普通に通れるからな。そこを進軍されたら一緒だ。だから別にいい」
それに、いつかは倒さなければならないのだ。リアとミレイナの修行代わりになるなら、一石二鳥である。これはアリアやリグレットとも相談して決めたことであり、【レム・クリフィト】としての許可も得ている話だ。
また、創魔結晶が隠されているということもあり、あそこは光神シンに関わる者が手を入れている場所だとも分かっている。魔王オメガを探すヒントにもなるかもしれないと考えていた。
仮に魔王オメガと遭遇してしまったとしても、オリヴィアとザドヘルが封印されている今ならばリアとミレイナを守りつつ撤退できる。そう言った算段もある。
「そんなわけだ。空を飛んで移動するから、二人は天使翼の使い方をマスターしておけ。最低でも、亜音速飛行は絶対だ。あとは《魔力支配》で消費分を回収できるようにすること、それと風圧対策で装甲を纏えるようにすることもだ。
俺とユナは三日以内に魔王軍の仕事を片付けるから、それまでにやっておいてくれ」
「分かりました。頑張ります!」
「ふふん。任せるのだ!」
リアもミレイナも少しだけ自身あり気に返事をする。
この様子なら問題ないだろう。クウはそう判断して、第零部隊の仕事に戻るのだった。
◆ ◆ ◆
魔王アリア・セイレムは【レム・クリフィト】の国王だ。最強の女王であり、国の象徴であり、国民すべての憧れでもある。そんな彼女は国家運営のために色々と忙しい毎日を送っているのだ。
しかし、政務だけに時間を割いているわけではない。
肉体疲労がない超越者の特性を生かし、何日も徹夜で作業することもある。
その一つが、魔王オメガへの対策だった。
「どうだリグレット?」
「そうだね……一つ解はあるけど、まだ確定じゃないかな?」
銀の髪を後ろに流しつつリグレットが答える。
ここは二人だけが知るリグレットの研究室であり、クウやユナも入ったことがない。軍部にある一般用研究室とは異なる場所だ。勿論、クウやユナも存在自体は知っているが、まだ入る機会がなかったので場所を知らなかった。
そして、リグレットがここで研究しているのは決して表に出せない内容だ。
超越者に関する記録、霊力の性質、異世界への干渉方法など、どう繕ってもヤバめのものばかりが資料として揃っている。
魔王オメガの対策も、ここでリグレットが研究していた。
「彼の力を解析したけど、やはり分体に関する能力が関係していると思うよ」
「奴は本体ではないのか?」
「いや、本体さ。だけど、力を分離しているんだよ」
「どういうことだ?」
「弱点となる核を別の場所に保存しているのさ。つまり、弱点という概念をその核に詰め込み、封じることで本体はダメージを受けなくなった。そういうことだと思うよ?」
「それは可能なのか?」
「多分ね。クウ君の能力を見てから、可能だと悟った。意思次元のベクトルを操り、概念そのものを捻じ曲げる力があるんだ。オメガに出来ても不自然じゃない」
つまり、リグレットはこう言っているのだ。
自分の意思次元と情報次元を分離し、意思次元を核として別の場所に隠す。そして自身は情報次元と物理次元だけの存在として確立するのだ。どんなに攻撃を加えたとしても、意思力が削られることはない。概念攻撃を喰らっても、別の場所で隔離されている意思次元が喰らっていないと判断する。
こういった仕組みで無敵状態を維持していると考えるのが理に適っている。
「リグレットの考えは分かった。しかし、その弱点が隠されている場所を見つけなければ意味がない。自分の弱点が詰まった物体なのだろう? 相当難解な場所に隠されていると私は思うがな」
「いや、そうでもないと思っているよ」
「何?」
「実は、少し心当たりがあるのさ」
「……ほぅ」
アリアは目を細める。天才リグレットが心当たりのある場所となれば、信憑性も高い。この世界で一番初めに天使となった人物がリグレットなのだ。人生経験もアリアとは比較にならないほどである。
「それは何処だ?」
「それはだね―――」
その場所を聞いたアリアは、不敵に笑みを浮かべる。
どうやら、納得のいく場所だったらしい。
二人も魔王オメガ討伐に向けて動き始めるのだった。
リアの能力が確定です。
時間転移という超絶チートですね。





