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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
聖剣と聖鎧編
411/566

EP410 回収

ご指摘頂いた点を少し。


かなり今更ですが、聖鎧は「せいがい」と読みます。

ちょっと面倒なので、あえてルビは振りません。今まで「せいよろい」と読んでいた方がいれば、これからもそのように読んでくださって結構です。私に拘りはありませんので。

ただ、「せいけん」と対になっているので、音読みで「せいがい」の方が適切だと思っています。


「スキル異常の元凶は《融合》のスキルだ。お前たち三人が全員持っている【固有能力】だよ」



 クウの言葉に勇者たちは三人ともハッとする。

 どうやら、察しは良いらしい。



「まさか……スキルを合成させたことで異常が発生したと……? 君はそう言いたいのか朱月!」


「正確には合成で生じたイリーガルスキルが原因だな。それらは本来、この世界に組み込まれていないスキルだった。それを無理やり作ってスキル法則に捻じ込んだから、異常が起こったって訳だ」



 よくよく考えれば、スキル異常が起こっているのはイリーガルスキルとして習得している系統のものばかりだ。クウの説明には説得力がある。

 三人は言葉を失って黙り込んだ。



「イリーガルスキルも一個ぐらいなら、まだリカバリーは効いた。だが、そう何個もポンポン作られると致命的な欠陥になる。実際、イリーガルスキルを幾つか習得したあたりでスキル異常が発生したんじゃないか?」


「心当たりは……あるよ」



 そう告げたのはセイジだった。

 カーバンクル・リベリオンに敗北し、《融合》によって大量のイリーガルスキルを合成した。その後、スキルに異常が発生したのを覚えている。

 《剣仙術》、《霊眼》、《仙力》、《魔神》、そして《聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス》。これらがイリーガルスキルとして習得しているものである。そしてスキルに異常が発生したのは剣術系、情報系、気力系、魔力系、魔法系のスキルだ。ピッタリと合う。



「そういうわけだ。さっさと指輪を渡せ。破壊する」


「……待ってくれ朱月。本当にダメなのか?」


「ダメだな」


「他にスキル異常を直す方法はないのか?」


「そもそも、これはスキルを管理している武神テラからの依頼でもある。『システムから修復するのは無理だから、元凶を潰せ』ってな」



 本来なら、異常が起きた時点で武神テラ……つまり武装神アステラルが修復するのが常だ。しかし、聖剣と聖鎧がスキルに変異をもたらす核となり、癌のように蝕んでいるので通常の方法では修復できない。そこで、クウたち天使に元凶の破壊を依頼したのである。

 正確には、魔法神アルファウと創造神レイクレリアを通してアリアとリグレットに伝えられた伝言だった。

 しかし、セイジたちにとって気になったのは神からの依頼という点である。



「……ちょ、ちょっと待ってくれ朱月!」


「なんだよ」


「武神テラからの依頼って……?」


「ああ、依頼だ」


『神が依頼!?』



 驚愕の事実である。

 神に会ったと言っても、地球では信じられなかっただろう。まして、依頼されるなど尚信じられない。だが、加護というシステムがステータスに表示されている以上、この世界に神は存在する。

 それに、セイジたちは善神が迷宮に封じられていると教わっているのだ。

 その理論で行けば、迷宮の奥底で神に会えることになる。

 クウの言葉も狂言とは言い難いのだ。



「ちょっと待てやクウ。武神テラからの依頼って……武神テラは迷宮に封じられているんやないんか?」


「いや、別に封じられていないけど。てか、レンも落ち着け」



 クウはレンを手で制するが、そもそも本当のことは話すつもりなどない。あくまで一般人でしかない三人が世界の真理を知る必要もないからだ。

 いや、むしろ一般人が知ってはならないことだと言える。



「詳しいことはお前たちが知らなくてもいい。さっさと指輪を寄越せ」



 全てを話さずして納得させることは不可能。

 クウはそのように判断を下した。多少強引だったとしても、恐らくそれが最適である。武装神アステラルのことすら、かなりギリギリの情報なのだ。これで納得しないなら、無理やり奪い取る。

 そのつもりだった。



「返答はどうだ?」



 問いかけるクウに対して、三人は少し考えこむ。

 しかし、数秒ほどでセイジが顔を上げ、口を開いた。



「断るよ……これは朱月に渡さない」


「……理由は」


「僕は地球に帰りたいと今も考えているわけじゃない。帰れるなら帰りたいけど、帰れないならこの世界で一生を終えていいと思い始めている」


「それで?」


「理子と絵梨香を守るには力が必要なんだ。これは渡せない」



 覚悟を決めた目だった。

 一方、レンとアヤトは指輪を外して、クウに投げつけた。



「正直、俺は桐島ほどの覚悟なんてないわ。強かったら楽しいって程度やな。それが世界全体に迷惑かけるんやったら、破壊してくれや」


「僕も同意見だよ。流石に迷惑をかけてまで欲しい力じゃない」


「ま、強いて言うなら、これを渡す代わりに別の武器が欲しいけどな。アヤトさんの弓矢はともかく、俺の銃なんてあらへんし」


「悪いなレン。それにそっちのアヤトさんもな」



 クウは投げつけられた指輪を受け取る。

 これはレンとアヤトにとって重要な武装なので、代わりの武器を与えるぐらいなら構わないだろう。クウは虚空リングから魔法銃を取り出し、レンに投げ渡した。

 勿論、リグレットが作った武器である。【レム・クリフィト】の遠距離武器は銃が主流なので、クウも一つは所持していた。というより、魔王軍に所属する人物へと配備される正式武装なので、第零部隊隊長クウも所持していたというわけだ。

 ちなみに、《神象眼》で銃に刻まれた【レム・クリフィト】の国章は消してある。



「しかし、素直に渡されるとは意外だったぞレン」


「まぁなぁ……正直、俺にとってはゲームみたいな世界やったし、そんな気持ちで迷惑かけるのはちょっと躊躇われるってだけや」


「そうか。ならいい」



 命懸けの戦いを多く経験してきたと言っても、レンはこの世界に対して思い入れがあるわけではない。どうせ地球に戻るのだから、捨てても良い力だと考えていた。

 こういった考え方、決断が出来るからこそ、クウと親友関係だったと言えるだろう。

 また、クウとの実力差を理解しているという点もある。どうせ、力づくで奪われるなら、素直に渡した方がいいというのが本心だった。

 アヤトも同様である。クウに勝てないと踏んで、渡すことにしたのだ。それに、クウが神の依頼で動いていると語ったことも関係している。善神と言われる武神テラが困っているとすれば、自分たちの持つ指輪が諸悪の根源だと思えた。だから、手放すことを決意した。



「さて、後は桐島だけど……本当に手放すつもりはないと?」


「聖剣と聖鎧……この力で僕はスキルを得ている。それが失われるということは、僕自身がスキルを失うってことだよね?」


「そうだな。《聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス》は残るけど、それ以外は消えると思った方がいい。本当なら自分で習得していた《剣術》とか《光魔法》とかも《融合》で手が加わっているし、巻き込まれて消失すると思うぞ」


「それを聞いて思ったよ。尚更、手放せないってね」


「交渉は決裂か?」


「そうなるね」



 その瞬間、セイジは吹き飛ばされた。

 バキバキと大木を圧し折りながら飛んでいき、遠くで大きな土埃を上げる。

 先程までセイジが立っていた場所ではクウが右拳を振り抜いたまま立っており、左手にはセイジが付けていた指輪を握っていた。



「これで三つとも回収完了っと」


『うわぁ……』



 速攻の実力行使を見て、レンとアヤトは頬を引き攣らせつつドン引きする。

 クウは手に入れた三つの指輪を宙に投げ、左手を素早く振るう。すると、装着している虚空リングに触れたからか、スッと指輪が消失した。



「取りあえず仮の封印は完了だ」



 更に《真理の瞳》を発動し、情報次元を観察する。すると癌のようにシステムを蝕んでいたスキル異常が徐々に回復していた。早速、武装神アステラルが作業しているのだろう。

 この調子なら、明日までにスキルの異変は解決しているハズである。

 そのことをレンとアヤトにも告げた。



「明日には異常も直っている。俺はこの後、指輪を本格的に破壊か封印しに行くから」


「お、おう……」


「ああ……」



 未だに引いている二人からの視線を背中で感じつつクウは視線でベリアルを呼んだ。先程から少し離れたところで状況観察に徹していたので、かなり暇だったのだろう。艶やかな紫の髪を弄っている。それでも、クウの視線に気付くと足音もなく寄ってきた。



「帰るのマスター?」


「ああ。それより《黒死結界》の内部は?」


「まだ閉じ込めているわ」


「予想通り、時間の遅延が機能しているみたいだな。一度【レム・クリフィト】に戻るぞ。勇者たちの指輪は空間が断絶されている魔法迷宮の九十階層で処理する」


「それなら、ここから一番近い転移魔法陣へ行くのね」


「そうだ。行くぞ」


「了解よ、マスター」



 クウが「魔眼」を煌めかせると、空間が崩れて穴が開く。その穴を通り、二人の姿は消えていくのだった。ちなみに、結界に穴が開く様子は幻術で隠しているので、外で待機していた遠征部隊にバレる心配はない。

 二人は何事もなく、その場から消えた。



「ぐ……朱月!」



 腹部を抑えながらセイジも戻ってくるが、既にクウはいない。

 指輪もクウに奪われ、セイジは【魂源能力】以外の全てを失った。それに伴い、《魔境創造クリエイション》で作り上げた結界も徐々に崩れていく。

 セイジが自分のステータスを開くと、かなり弱体化していることが見て取れた。




―――――――――――――――――――

セイジ・キリシマ 18歳

種族 神種人 ♂

Lv178


HP:18,039/18,039

MP:17,992/17,992


力 :18,031

体力 :18,010

魔力 :18,105

精神 :17,983

俊敏 :17,738

器用 :17,497

運 :40


【魂源能力】

聖魔乖星崩界剣アリウス・カリブルヌス


【通常能力】


【加護】

《光神の加護》


【称号】

《異世界人》《光の勇者》《到達者》

《真なる勇者》《魔導剣》《逸脱者》

《天の因子を受け入れし者》《剥奪された者》

―――――――――――――――――――




 【魂源能力】は魂に由来する力なので、消えたりはしない。しかし、スキルポイントの力で得たスキル、《融合》で弄ったスキルは全て消失してしまった。つまり、今のセイジは【通常能力】を一つも所持していないのである。

 それを見たセイジは悔しそうに呟いた。



「まだ……まだ届かなかったのか……!」



 通常のスキルとは一線を画する【魂源能力】があれば勝てると思っていた。しかし、クウはセイジの遥か上を行く。これほどのステータスを以てしても、その動きを捉えることすら出来ない。

 あっさりと勇者の証である指輪は奪われた。

 しかし、これは恐れるべきことでもある。



「朱月は……以前、魔王が自分と同じステージにいると言っていた。つまり、僕たちじゃ魔王に敵わないってことだ」


「そう言えば、前にそんなことも聞いた気がするなぁ」


「スキルを失った僕たちだと、尚更敵わないね」



 レンとアヤトは改造していないスキルもあったので、幾らかは残っている。しかし、大幅な戦力ダウンとなったのは間違いない。

 セイジは苛立ちをぶつけるようにして、右足で地面を踏みつけた。まだステータス値は健在なため、地面に大きな罅が入る。それと同時に、結界空間が完全に壊れた。ガラスが割れたかのような音がして、三人は遠征部隊のキャンプ地に戻る。

 周囲には遠征に参加した者たちが心配そうな表情をしており、三人が現れると同時に歓喜の声を上げた。



「勇者様が戻ってきた!」


「敵は倒したのか?」


「当たり前だろ馬鹿野郎!」


「うおおおおお! すげぇよ!」


「やったな!」



 死霊勇者エイスケが消失しているので、彼らはセイジたちが討伐に成功したと勘違いした。実際はクウが討伐した上に、勇者としての力を奪われたのだが、そんなことは知るはずもない。

 騎士団長アルフレッドも三人の側に近寄り、頬を緩ませながら話しかけた。



「よくやったぞセイジ殿、レン殿、アヤト殿」


「……アルフレッドさん」



 しかし、セイジが浮かべる険しい表情を疑問に思ったのか、改めて口を開いた。



「どうかしたのかセイジ殿」


「……実は……その……えっと……」


「あー、どう説明したらええんやろなアヤトさん?」


「うーん……そうだね……」



 勇者としての力が失われたと口にするのは憚られた。それ故、三人とも気まずそうにする。言い出しにくいことを言おうとしていると察したのか、三人から一度目を逸らして周囲を見渡した。

 セイジたちは勇者と言えど、まだ少年だ。難しい心情を抱える時期でもある。結界の中で何かあったのだろうとアルフレッドも理解した。

 気になるので問いただしたいところだが、少し踏みとどまる。



「おい! 見ろよ!」


「これ……剣か?」



 そんなとき、冒険者の二人が地面に突き刺さる剣を見つけた。周囲の者たちも越えに反応し、興味深げにそちらへと目を向ける。

 当然、セイジ、レン、アヤトも視線を向けた。

 すると、三人は思わず大声を上げてしまう。



『あーーーーーっ!』



 結界が壊れた跡地に突き刺さっていた一本の剣。

 それは死霊勇者エイスケが使っていた聖剣エクシスタだった。











セイジの【魂源能力】。

解放によって所有者をLv200に出来る聖剣エクシスタ。


……あ(察し)

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[気になる点] 今こいつ見たら自分だけ力あればいいって思っとって人に迷惑かけてんの気づかないくらい盲目というか
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