EP397 ユナの冒険⑩
オリヴィアは超越者だが、直接戦闘能力は低い。低いと言っても超越者基準なのでユナたち相手では気にならないものの、アイデンティティである死霊を使っての攻撃を選択しない理由にはならなかった。
「来なさい、《死界門》」
青い竜鱗のドラゴンの上で術が発動される。赤黒い不気味な渦が三つ出現し、そこから一体ずつデス・ユニバースが現れたのだった。
一つはユナが消滅させたパルティナ・ハーヴェ。
二つ目は異世界の種族である鳥人間。
三つ目はエヴァンが分離する前に存在し、邪神と巨人族によって滅ぼされたダークエルフ。
それがオリヴィアの手札だった。
「嘘!? 復活できるの!?」
それなりの気力とMPを消費して倒したパルティナが蘇ったことで、ユナは驚く。オリヴィアは情報次元から死者のデータを呼び出し、再現する能力者だ。つまり、たとえ消滅させられたとしても、無限に復活させることが出来る。
そして新たに出現した鳥人間とダークエルフも油断できない。
聖剣の解放によってLv200となっているエイスケが《鑑定》を発動させた結果、驚くべきステータスが映し出された。
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パルティナ・ハーヴェ ― 歳
種族 デス・ユニバース ♀
Lv error
HP:――/――
MP:――/――
力 :82,928
体力 :83,891
魔力 :62,718
精神 :98,192
俊敏 :103,928
器用 :103,939
運 :0
【固有能力】
《無限再生》
【通常能力】
《魔闘体術 Lv10》
《魔闘操糸術 Lv10》
《闇魔法 Lv10》
《気纏 Lv10》
《気配察知 Lv10》
《気配遮断 Lv10》
《状態異常耐性 Lv10》
【加護】
表示不可
【称号】
《南帝の妻》《教育者》《到達者》
《極めし者》《死者》-表示不可-
《歪な魂》
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ルワナ・スカイ ― 歳
種族 デス・ユニバース ♀
Lv error
HP:――/――
MP:――/――
力 :38,291
体力 :82,828
魔力 :103,929
精神 :73,829
俊敏 :129,382
器用 :10,292
運 :0
【固有能力】
《無限再生》
【通常能力】
《風魔法 Lv10》
《光魔法 Lv10》
《魔力支配》
《極魔 Lv10》
《神速 Lv10》
【加護】
表示不可
【称号】
《空の王者》《殲滅者》《女王》《到達者》
《極めし者》《死者》-表示不可-
《歪な魂》
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
アリストクレス・マヌラ ― 歳
種族 デス・ユニバース ♂
Lv error
HP:――/――
MP:――/――
力 :120,194
体力 :128,391
魔力 :93,829
精神 :98,192
俊敏 :112,832
器用 :108,292
運 :0
【固有能力】
《無限再生》
【通常能力】
《魔闘剣術 Lv10》
《風魔法 Lv10》
《雷魔法 Lv10》
《結界魔法 Lv10》
《魔力支配》
《気力支配》
《剛力 Lv10》
《極魔 Lv10》
《神速 Lv10》
【加護】
表示不可
【称号】
《近衛戦士長》《剣聖》《賢者》《到達者》
《極めし者》《死者》-表示不可-
《歪な魂》
―――――――――――――――――――
竜人パルティナ、鳥人間ルワナ、そしてダークエルフのアリストクレス。それぞれが種族最強格だった存在であり、《英霊の祝福》を受けた結果、恐ろしい能力者へと変貌している。
ステータスは生前の十倍を超え、スキルは全て最大レベル。
もはやエイスケですら敗北必至の相手だった。
「え……? は……?」
そんなステータスを見てしまったエイスケは茫然として間抜けな声を上げる。エイスケが聖剣を最終解放したときの平均ステータスは二万であり、これは全てを圧倒出来るだけの値と断言できる。元から光神の勇者は一般人の二倍ものステータスを有しているので、Lv200になればそれは一般人と比較して、遥かな山の如き差となるのだ。
しかし、そのエイスケと比較してもデス・ユニバースのステータスは圧倒的に上だった。
デス・ユニバースたちの最大ステータス値はエイスケの五倍。
最低ステータス値ですらエイスケを上回る。
初めは桁を一つ読み間違えたのかと錯覚するほど、信じがたいものだった。
「やりなさい死霊たち」
そしてオリヴィアは無情にも命じる。
三体のデス・ユニバースたちは即座に動き始めた。
「速いっ……」
ユナは創造した刀でパルティナの攻撃を受け止める。《魔力支配》《気力支配》《明鏡止水》による肉体強化によってようやく追いつける相手であるため、倒すにはスキルで圧倒するしかない。
しかし、今回は同格三体が相手だ。
こちらにもエイスケとシュウがいると言えど、ほとんど役に立たない。
シュウは純粋にステータス不足。
エイスケはある程度のステータスはあれど、技量不足。特に、これまでは技量など関係なくステータス差だけで敵を叩き潰すことが出来たので、エイスケの技量不足は深刻だった。
結局のところ、まともに戦えるのはユナだけなのである。
「『《聖域》』」
相手は『死霊使い』オリヴィアの手駒なのだ。つまり、この三体は死霊だとユナは判断する。そして《陽魔法》による浄化を放ち、最低でも動きを阻害しようとした。
すると《体術》スキルで攻撃を仕掛けていたパルティナは僅かに鈍くなる。しかし、鳥人間のルワナはその俊敏さで上空へと逃れ、ダークエルフのアリストクレスは《結界魔法》で防いだ。
流石にユナのステータスで【魂源能力】による浄化を喰らえばデス・ユニバースも僅かに鈍る。そしてユナはその隙を突く技量を持っている。
可能ならば回避するのが当然だった。
尤も、それはユナの情報を知っていたからの回避ではない。彼らの中に眠る、戦士だった時の感覚が反射的に回避を選択させたに過ぎなかった。
故にオリヴィアは疑問に感じる。
(普通の浄化程度なら避けなくても問題ないハズなのだけど……どういうことかしら?)
オリヴィアはまだ、ユナが天使化しているとは思っていない。パルティナを消滅させたことには驚いたが、それと天使化を結び付けることが出来なかったのである。
そもそも、召喚されて半年も経たずに天使化という事実が埒外なのだ。
頭脳担当のオリヴィアは下手に知識があるために、この事実をあり得ないと断定していた。また、精霊王フローリアからの報告でも勇者たちは武装迷宮の最下層まで言っていないことになっている。その事前情報も事実への到達を阻害していた。
そして何より、ノーマークだったシュウ・クジョウの衝撃的行動のせいで思考が吹き飛んだ。
「『座標設定:r, θ, ψ
対象:r<2mの電子
マクロ的ランダム性を制御
HΨ=EΨを適応
原点設定
強磁場による空間固定
第一段階完了
座標設定:r, θ, z
対象:r≧2mの電子
マクロ的ランダム性を制御
HΨ=EΨを適応
原点同期
z方向への規則的電子スピン設定
完了
骨子設計を構築
魔法出力
《磁極葬》』」
独自の詠唱で魔法をプログラムし、シュウはルワナを魔法発動における座標の原点に指定した。空中に飛んだルワナは避ける間もなく電磁場の檻に捕まり、球状の空間に囚われた。
そして次の瞬間、ルワナの姿は消えた。
能力で配下のデス・ユニバースがどこにいるのか分かるオリヴィアは、咄嗟に上空へと目を向ける。
すると、遥か上空でオレンジの光が輝いて見えた。
「音速を遥かに超えて上空に飛ばしたですって? まさかこの男が……?」
音速と言うのは超越者の領域だ。基本的に、ステータスが高くとも音速以上は肉体が耐え切れなくなる。だから超越化前の天使は音速ではなく亜音速が限界となる。
しかし、シュウの魔法によって実現した速度は音速の三十倍オーバー。
この速度で鳥人間ルワナを真上に撃ちだしたのである。
理論は簡単だ。
ルワナの周囲に存在する原子中の電子を操作して、スピン方向を操る。このスピンは磁場を生み出す根源なので、これを一方向に操れば超強力な磁石の完成だ。これを檻としてルワナを閉じ込め、空間ごと砲弾とするのがこの魔法の第一段階。
そして第二段階は、同じく電子スピンを操作して発射台を作る。
つまりN極とN極、S極とS極が反発し、N極とS極が引き合う磁石の性質を利用して加速させるのだ。この発射台は筒状になっており、かなり上空まで伸びている。第一段階で作った空間磁石砲弾は、この発射台に沿って加速していき、遂には音速の三十倍を超える。
これは第二宇宙速度とも呼ばれる速度であり、この速度で地上を出ると宇宙に飛び出したまま戻れなくなってしまう。
つまり、倒すのではなく戦いを終わらせる魔法。
そして喰らった敵は宇宙に捨てられ、結果的には死ぬ。
故に『いずれ死ぬことをを心に留めよ』。
「これで一体……くっ」
シュウは膝を着いて息を荒くする。流石に今の魔法でMPを使い切った。あれ程の大魔法をポンポン使えるほどシュウは人外ではないのだ。
デス・ユニバースは三体。
つまり一人一体だと考えれば、これでシュウは役目を果たしたことになる。
(シュウさん凄い……だったら私も……)
魔法の創作にかけてはシュウに及ばないが、ユナもそれなりに出来る。《陽魔法》を習得してから一つだけ開発していた魔法であり、現状を打破できる可能性を持ったもの。それを発動させた。
「『《臨界恒星炉》』」
特性「恒星」による過剰な肉体活性と、それによる自滅を修復する「神聖」の組み合わせ。これによってユナは通常の十倍を超える運動能力を得ることが出来る。
自分自身を星に見立てて莫大なエネルギーを湧出させる強化用の魔法。
これによってユナの能力値はデス・ユニバースを軽く超えた。
簡単にパルティナを吹き飛ばし、迫るアリストクレスには神速の突きを放つ。この一撃は結界で止められるも、かなりギリギリの防御だった。
(勝てる)
そう確信したユナは《無双》スキルによって《陽魔法》を纏わせる。そして攻撃力と攻撃速度が十五倍――スキルレベル×1.5だが、《無双》スキルはLv10判定なので――になる居合で斬りつけた。閃光と共に轟音が鳴り響き、結界ごとアリストクレスは蒸発する。
いや、少し避けられたせいで左半身は残った。そしてアリストクレスは左手で剣を抜き、《雷魔法》を纏わせて振り下ろした。《剛力》《極魔》《神速》が乗せられた一撃は、音速を突破する。その左腕が崩壊するのも構わず、居合直後のユナへと刃が迫った。
しかし、《臨界恒星炉》を発動したユナはアリストクレスのステータスを上回る。《魔力支配》で三重の防壁を生み出し、アリストクレスの攻撃を止めた。しかも、割られた障壁はたったの一枚で、残り二枚は健在。ユナは《明鏡止水》をアクティブにしているので、魔力濃密化が使える。このお陰で、魔法剣技すらも魔素の障壁で簡単に止めてみせた。
「消し飛んじゃえ」
そう言ってユナは回し蹴りを放つ。当然、《無双》による魔法と気が乗せられており、アリストクレスの左半身は蒸発した。
今回は生身で使ったので、気による保護は必須となる。ちなみに、《陽属性》を纏わせた武器は軒並み刀身が溶けたので、ユナは放り投げて捨てた。
ユナの戦闘力を見せつけられ、オリヴィアは感心する。
「やるわね。思ったより強いみたいで驚いたわ。貴女ってそこの勇者君より強い気がするのだけど?」
「私はスキルで底上げしてるからね」
「そう。《身体強化》《気纏》《剛力》に《神速》と言ったところかしら? それに魔法的な強化もあるみたいね。《硬化》や《極魔》は微妙な所だけど」
「凄い。分かるんだ」
ユナはオリヴィアと普通に会話しているが、正直に言えばそれどころではない。今すぐにでも逃げたい気持ちを抑え込んでいると言っていい状態だ。
エイスケは戦いについていけず、役に立たない。シュウはMPを使い果たして戦えない。
一方でオリヴィアからは圧倒的な威圧が感じ取れる上に、恐ろしい威容のドラゴンに乗っている。先程からドラゴンは騎獣に甘んじているが、いつ攻撃してくるか分からない怖さがあった。ちなみに、このドラゴンも原始竜のデス・ユニバースなので破格のステータスを持っているのは間違いない。
「私の死霊たちはまだまだ復活するわよ。耐えきれるかしら?」
ユナが吹き飛ばしたパルティナが戻ってきたのと同時に、オリヴィアは再び赤黒い渦を出した。すると、そこから消滅したはずのルワナとアリストクレスが現れる。
そこそこ消耗して倒したにもかかわらず、アッサリ復活させられるのは痛い。
「うーん……何か手段はないのエイスケさん? ほら、勇者の力が覚醒するとかそういうの」
「そ、そんなこと言われても……」
「正直、俺はMP切れなので、エイスケさんが頼りですよ」
「あ、私もMP切れそうだから」
「な、なんだってー!?」
流石のユナもMPが尽きかけである。元から燃費の悪い《臨界恒星炉》は既に解除されており、今は強化系のスキルも全解除状態だ。
デス・ユニバースを正面から倒すにはまるで足りないステータスとなっている。
そんなとき、三人の元へと援軍がやってきた。
「あれは……まさか真竜?」
「どうやら魔族にテイムされているようですな。気を付けましょうミミリス殿」
「はぁー。ありゃやべーな。俺の勘がガンガン警戒音を鳴らしてやがるぜ」
精霊部隊の隊長ミミリス、騎士を率いるコルバート、そして冒険者『暗黒』のカイン。それぞれが部隊を十数名ずつ引き連れてやってきた。
流石に、ユナの派手な戦闘とオリヴィアが乗るドラゴンを見れば、遠くから見ても気付く。
遠見スキル保持者がドラゴンの上に乗る女魔族オリヴィアの姿を確認し、この襲撃の黒幕だと判断してやってきたのである。
「はぁ、面倒ね」
勇者エイスケは殺してはならないが、ユナは殺さなくてはならない。
こうしてセットで向かってこられると、調整が難しい。それは敵の人数が増えればさらに難しくなる。オリヴィアはそのことで溜息を吐くのだった。
遂にパート10を超えてしまいました……
主な原因は戦闘を詳しく書き過ぎる病気のせいですね。圧縮とは何だったのか。





