EP393 ユナの冒険⑥
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ユナ・アカツキ 16歳
種族 天人 ♀
Lv153
HP:32,193/32,193
MP:31,029/31,029
力 :33,949
体力 :36,483
魔力 :29,103
精神 :30,382
俊敏 :35,829
器用 :32,930
運 :38
【魂源能力】
《天賜武》 New
《陽魔法》 New
【通常能力】
《武具鑑定 Lv6》
《無双》 Class UP
《魔力支配》 Class UP
《気力支配》 Class UP
《明鏡止水》 Class UP
【加護】
《武装神の加護》
【称号】
《武装の天使》《戦女神》《到達者》
《極めし者》
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「え、なにこれ?」
「天使化したことで【魂源能力】を獲得し、スキルも最適化されたようだな。それぞれについて説明してやるから、まずは聞け」
まずは【魂源能力】について説明し、それからエクストラスキルとして獲得した《無双》《魔力支配》《気力支配》《明鏡止水》について、更に天使の種族特性について順番に語る。
かなり複雑で長い説明だったが、ユナはしっかりと理解できた。
「じゃあ、《天賜武》と《陽魔法》が新しい力ってこと?」
「その通りだ」
「ステータス値も一気に三万を超えちゃったし、シュウさんとエイスケさんに隠さないとだめだね。どうしようかな……」
強くなれたことに対して問題はない。
だが、このステータスを隠せないことは問題だった。ユナは高レベルなので、《鑑定》ならば弾くことも出来るだろう。だが《看破》は防げない。また、聖剣を最終解放したエイスケの《鑑定》も防げない。
いざという時のために、ステータスを隠す方法が必要だった。
「んー……取りあえず《天賜武》を使うしかないかな」
ユナはそう言って一つの武装を制作する。それは腕輪型の防具であり、強力な隠蔽効果を得ることが出来るというもの。加えて、ユナ自身のステータスを制限することもできる。
これを使って誤魔化そうと決めた。
装着してみると、確かに少し体が重くなった気がする。
想定通り、ステータス値も低下しているらしい。
「うん。これなら大丈夫かも」
「早速使いこなしてるじゃねーか。いい傾向だぜ」
「もうちょっと試したいけど、それはまた今度だね。コッソリ抜け出しているから、早く戻らないといけないし」
ユナが一人で迷宮に挑んでいるのは、単純に強くなるための特訓だった。エイスケよりも強くなり、最低でも自衛できるようになるのが目標である。そして最終的には魔王を倒して地球へと帰還し、クウに再開するつもりだった。
そして、この秘密の特訓は皆が寝静まった時間にしている。
試練で数時間ほど費やしているので、早く戻らないと朝になってしまうだろう。
急がなければならない。
「それなら、俺も手短に用件を言っておくぞ」
「ん? 早速頼み事?」
「ああ……と言っても、忠告みたいなもんだ」
「忠告?」
「先に言っておくぞ。まず、魔王は二人いる」
「え? ホントに?」
「ああ。そして片方の魔王は魔法神アルファウ……お前たちの呼び方では魔神ファウストの天使だ。つまりは魔法の天使ってことだな。加えて、魔法の天使の仲間には創造の天使もいる。こっちは創造神レイクレリアの天使だ」
「私たちで言うところの造神クラリアだね」
「そういうことだ。お前はこの二人と合流しろ。そうすれば元の世界に帰るための具体的な方法も聞くことが出来るはずだ」
それを聞いてユナは目を光らせた。
「それなら会うしかないね。ちなみに、もう一人の魔王は?」
「あ、そっちは敵だから絶対に近寄るなよ。魔族領の西側がその魔王の領域だ。目指すなら、東の魔王だからな? 間違うんじゃねーぞ」
西の魔王オメガは超越者なので、ユナと接触させる訳にはいかない。これだけは絶対だ。折角、ユナは天使として覚醒したのだ。武装神アステラルにとっても天雷獅子ハルシオン以来の眷属であり、初めての天使でもある。
無暗に殺したくはない。
伝えられる情報に縛りがあるせいで詳しいことは話せないが、可能な範囲で忠告はしておいた。
ユナも、真面目な様子のアステラルから察したのか、素直に頷く
「うん。アステラルがそんなに強く言うってことは理由があるんだよね。会わないように気を付ける。でも、明日から魔族領に遠征しなきゃいけないんだけど……どうしよう?」
「なにっ!? それは拙いな……遠征ということは、どうせ西の魔王だろう。こればかりはどうしようもないかもしれん……」
【アドラー】の超越者は解析系の能力を持たないので、ユナの力が見破られることもないだろう。だが、フローリアは精霊による探査でユナの加護を察知しているかもしれない。
アステラルはその答えに行きついた。
「いや、何とか対処する。ユナは自由に動け。お前は俺の天使だ。人族に縛られる必要も、召喚者としての義務を果たす必要もない。困った時は俺を頼れ」
「分かった。ありがとうアステラル。それともアステラル様って呼んだ方がいい?」
「ふっ……アステラルで構わんよ。基本的に俺はそんなことに拘らないからな」
「じゃあ、アステラルって呼ぶね。私はくーちゃんに会えるように何でもするよ。人族を裏切ることになるとしても、それは構わないと思ってる」
ユナは本心からそう語る。
アステラルを頼ることでクウに会えるのならば、アステラルの頼みは聞こう。そして、役に立たないならば勇者としての仕事に縛られる必要はない。そもそも、勝手に召喚したのはこの世界の人族なのだ。今までは仕方なく従っていたが、もう言うことを聞く必要もない。
遠征で魔族領へと向かい、そのまま東の魔王の所へと向かうのが一番だと考えた。
「俺が言いたいのはそれだけだ。あ、それと魔法陣の効果を言い忘れていたな」
「魔法陣って右手の甲に描かれているコレのこと?」
ユナはそう言いながら自分の右手に描かれた紋様を見せつける。
アステラルは頷きつつ答えた。
「それだ。その魔法陣は俺の眷属、ハルシオンを召喚できるようになっている。それと、ハルシオンと念話することも可能だ。後は二つ以上の魔法陣を共鳴させることで、俺たち神々が存在する神界へと向かうことが出来るようになる。
魔法の天使、創造の天使と出会い、魔法陣を使って神界に来い。そこで全ての真実を話してやる」
「うん。まずはそれを目標に頑張るよ」
「話はこれだけだ。帰るならこっちのゲートを通って九十階層に戻れ」
そう言ってアステラルが手を翳すと、再び黄金の光を放つ空間移動ゲートが出現した。ユナとしても時間があるわけではないので、立ち上がってそちらに歩いていく。
そしてゲートを潜り抜ける直前、アステラルはユナに声をかけた。
「気を付けろ。得た力はしっかりと使いこなせ」
ユナは一度だけ振り返り、しっかりと頷いてからゲートを潜る。黄金の光の向こう側へとユナの姿は消えていき、この空間にはアステラルが一人だけ残された。
そして自身は神界に戻る準備をしつつ、呟く。
「おっと……戻る前にハルシオンには連絡しておかないとな。魔王オメガか四天王が出てきたら、アイツに対処して貰うしかない」
こうして、武装の天使は誕生したのである。
◆ ◆ ◆
ユナが天使化してから一か月後、魔族の砦を攻め落とすための戦力は、着々と東に進んでいた。そして今日は辺境村の一つへと宿泊し、明日からの旅に備えていたのである。
人口が百人にも満たない小さな村であったが、村長は勇者たちを温かく迎え入れた。
「あなた方が勇者様ですか。私はこの村の村長テオドラと申します。そしてこちらは息子のカバラです。この村に滞在している間は、カバラがあなた方の世話をしましょう」
「うむ。僕たちが来たからには安心して欲しい。魔族を追い返し、魔物を追い払ってみせよう」
「頼もしい限りでございます。ではカバラ」
「はい。勇者様はこちらに。お付きの……えっと」
「私はユナだよ」
「俺はシュウです」
「すみません。ユナ様とシュウ様もどうぞ。宿泊される部屋に案内します」
カバラは三人を連れて村の空き家へと案内する。他にも【ルメリオス王国】の騎士団や【ユグドラシル】の精霊部隊、そしてSランク冒険者『暗黒』のカインが率いる冒険者たちもいるのだが、彼らは村の外でキャンプを張っていた。
勇者がどれほど特別扱いなのかよく分かる。
そして冒険者の中にはエイスケに対して不満を持つ者もいた。しかし、その不満はエルフたちの熱狂的な光神シンに対する信仰の前には無力となった。
故に、三人だけ村の中に宿泊するのである。
「ところで勇者様?」
「なにかねカバラ君」
「勇者様は一体どれほど強いのでしょう? 私どもでは判別できないので、冒険者のランクで比較して教えて欲しいのですが」
「ふふふ……よくぞ聞いてくれた!」
その質問に対して、エイスケは得意げに答える。
「僕のパーティである『戦女神』ユナ君、そして『雷帝』シュウ君はAランク上位に相当している。そしてこの僕はSSSランクに匹敵しているのだ!」
「なんと! それほどまで!」
カバラは酷く驚いた。
辺境村とは言え、冒険者ランクの基準ぐらいは分かる。Aランクですら凄まじいにもかかわらず、人外と言われるSランクオーバーとは予想外だった。
しかし、エイスケの言葉を聞いたユナは、こっそりとシュウに話しかける。
「でもエイスケさんの強さって聖剣ありきだよね?」
「しー。それは言わない約束だよ」
実を言えば、聖剣エクシスタにも弱点……というよりリスクがあった。
それは聖剣を解放しているときに敵を倒しても、エイスケ自身のレベルが上がらないということである。それもそのはずだ。
レベルアップとは潜在力の封印を解放することなのだ。
聖剣は一時的に封印を解放しているので、解放を止めると再封印される。つまり、例えば第一解放によってLv10のエイスケが一時的にLv50になったとしよう。解放中にLv51になったとしても、再封印によって元のLv10まで戻されてしまうのだ。
エイスケ自身のレベルを上げるためには、聖剣に頼ってはいけないのである。
しかし、最終解放まで行えばLv200にもなることができる。エイスケは聖剣に頼り切り、自分自身を強化しようとは考えなかった。
「シュウさん。今のエイスケさんのレベルって知ってる?」
「……最後に聞いた時から変わっていなければLv20かな。スキルも《鑑定》以外は特に育っていないらしい。魔法に関しては完全に俺頼みっぽいし」
「流石、聖剣は凄いね。大丈夫かな?」
ユナも天使化したお蔭で余裕が出来た。
現在のステータスは三万超えであり、エイスケが最終解放しても余裕で勝てる。これが種族差だとひしひし感じられた。また、天雷獅子ハルシオンを召喚できることも理由として挙げられる。
だからこそ、エイスケを心配できる余地があるのだ。
「いざという時は俺たちも助けにならないとね。ちょっとぐらい痛い目に合えばエイスケさんも気付くかもしれないけど」
「シュウさんもスパルタだねー」
「口で言って聞かないなら、体で覚えさせるしかないだろ?」
「うん。正論かも」
ユナにとって、もはや人族は必要ない。
よって心配はしても、エイスケを助けるつもりはない。
武装神アステラルに協力し、地球へと帰還できるように動くつもりだった。ユナが密かに裏切る計画を立てているとも知らず、戦いの時は近づく。





