EP390 ユナの冒険③
初実戦から数週間後、勇者は王都から旅立った。
理由は光の勇者エイスケが聖剣を装備できるようになったからである。光神シンによって与えられた勇者専用装備であり、大きな力を与えてくれる。
エイスケは、その力を使って魔物相手に無双していた。
「うおおおお! 第三解放!」
彼の剣技が鋭くなり、聖剣に力が宿る。
一振りすると斬撃が飛び、オーク数体を纏めて薙ぎ払った。
これはエイスケの力というより、聖剣の力が凄まじいことに起因している。
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聖剣エクシスタ
製作者 光神シン
光の勇者のために光神シンが創りだした聖
なる剣。
解放を行うことで、勇者に様々な一時的能
力を与えることができる。
第一解放:Lv50化、切断増大
第二解放:Lv80化、斬撃飛翔
第三解放:Lv100化、《剣術 Lv10》
第四解放:Lv120化、《剛力 Lv10》
第五解放:Lv150化、《思考加速 Lv10》
第六解放:Lv180化、《神速 Lv10》
最終解放:Lv200化、《魔法反射》
装備条件:光の勇者の称号
力 1,000以上
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聖剣には七つの封印が嵌めこまれている。
解放するごと勇者へと力を与えるというシステムだ。例えば、第一解放ではエイスケのレベルを強制的にLv50へと引き上げ、聖剣自体は切断力が強化される。更に解放を重ねれば、第二解放で斬撃を飛ばすことが出来るようになり、第三解放では《剣術 Lv10》を会得する。
そして最終的には自身をLv200にした上に、七つの特性を得ることが出来るのだ。
あまりにも強い。
正直、人族領の魔物程度なら第三解放でも過剰戦力である。エイスケの技術が拙かったとしても、レベル差で押し切れてしまうからだ。
「とおぉぉぉうっ!」
ユナやシュウの目では追えない速度で動くエイスケは、あっという間にオークの群れを片付ける。返り血を浴びることなく、完璧に倒し切ったのだった。
これにはお付きであるアルフレッドも驚く。
(恐ろしいな聖剣とは……)
そこでエイスケではなく聖剣を恐れている辺り、アルフレッドは本質を理解している。実際、アルフレッドのレベルならばエイスケの動きを追うことが出来る。そして剣の心得がある彼は、エイスケの剣技が未熟であることを見抜いていた。
確かに、聖剣のお陰で《剣術 Lv10》相当の技術は有している。しかしそれは剣の鋭さ、滑らかさなど、一つ一つの動作を補正するものであり、全体の剣技自体は本人に依存している。
つまり、今のエイスケは達人を遥かに凌ぐ技量で、無茶苦茶な素人の剣を振っているという意味不明な状態なのだ。
「ふ……豚ごときで僕に敵うはずないのだ」
そんなセリフを吐いて聖剣を鞘に納めるエイスケへと、アルフレッドは声をかける。
「よくやったぞエイスケ。剣技は無茶苦茶だが、随分と強くなった」
「ふっ……当然です」
そしてエイスケは後ろで戦闘を見ていたユナとシュウへと振り返り、声をかける。
「僕の戦いはどうだったかなユナ君、シュウ君?」
「うん。動きが見えなかったねー。流石勇者かも?」
「レベルが違いすぎてコメントできませんよエイスケさん」
「むふ、むふふふ。そうだろうそうだろう。何せ、僕は勇者なんだ! これぐらい当然さ!」
召喚当初の自信がない様子は消え去り、エイスケはすっかり調子に乗っていた。強すぎる聖剣の力を自分の力と誤認し、浮かれていた。
聖剣を受け渡されるときも『テンプレとチート来たっ!』と口に出していたほどである。それを聞いた光神教大司祭パトリックが眉を顰めていたのは余談である。
「ふふん。危機が迫ったとしてもユナ君のことは僕が守るから安心してくれたまえ!」
「うーん。それより私は獲物がほしいかなー。レベルアップしたいし」
「エイスケさん、俺のことは守ってくれないのか……」
調子の乗るエイスケ、マイペースなユナ、ツッコミ役と化したシュウ。
そんな三人を眺めつつ、アルフレッドは溜息を吐くのだった。
◆ ◆ ◆
勇者たちが王都を出て旅をしていた理由は、武装迷宮へと挑戦するためである。【ルメリオス王国】と【ユグドラシル】の国境にある迷宮都市【アルガッド】で武装迷宮を攻略し、封印されている(ということになっている)神を解放することが目的だった。
一応、勇者パーティのレベルアップも目的の一つだが。
そして馬車で旅をすること数週間。
ユナ、シュウ、エイスケ、そしてアルフレッドを乗せた馬車は【アルガッド】へと到着した。そして【ルメリオス王国】の王太子アーサーの住まう屋敷へと直行したのである。
ルメリオス王家の別荘だけあって非常に豪華な屋敷であり、三人とも部屋に通された時は驚いた。
「この豪華さで別荘なんだねー」
「ああ、正直言うと俺も広すぎるとは思っているよ」
ユナの感想に答えたのはアーサー・レイシア・ルメリオス。今年十八歳になる王太子である。本来は王城で王の手伝いをするべき年なのだが、現王が健在で政権も安定しているということもあり、アーサーは趣味も兼ねて迷宮へと挑んでいた。
勿論、勉強もしている。
しかし後継者争いもなく、焦る必要がないのでゆっくりで構わないのだ。
なお、妹のアリス姫を溺愛している。
「しかし王子が迷宮攻略とはね……事故があったらどうするのですか?」
「ふ……シュウも俺の部下と同じことを言うのだな。まぁ、そういう心配もあるが、俺の場合は本当に趣味でしかない。危険なことをしてまで迷宮を攻略しようとは思わないよ。勿論、攻略して封じられた神々を解放できるに越したことはないけどね」
「いや、王の後継者が迷宮に潜っていたらみんな心配しますよ」
事実、部下の中には攻略を止めてくれと懇願する者もいる。
しかし、アーサーが聞き入れることはなかった。
お蔭で今ではAランク冒険者にも引けを取らない実力者となっている。現在は迷宮の七十階層を越えたところであり、次の階層へと向かう鍵となる『武具の献上』で停止を強いられていた。迷宮攻略において最も怖いのは、魔物の強さではなく迷宮効果だ。
階層を降りるたびにえげつなくなっていく。
武装迷宮ではとんでもなく高価で珍しい武器を奪い取られるし、虚空迷宮は幻影効果で惑わし、運命迷宮はHPを高速吸収してくる。
加護と【固有能力】がなければクリアなど夢のまた夢だ。
「迷宮攻略は勇者こと、この僕に任せてくれたまえ!」
「ああ、頼もしいな。だが、迷宮についてはどれぐらい認知しているエイスケ殿?」
「迷宮と言えば迷路とトラップ。これが定番! そして十階層ごとにボス!」
「その通り。よく知っているな。だが、最も重要なのは迷宮効果だ……しかし、それはユナ殿の能力で解決できそうな予感がするな」
「うむ。流石は我が勇者パーティの戦士枠だ。期待しているぞユナ君」
「まーね」
そう言いつつもユナはエイスケに目を合わせない。
最近はどことなく厭らしい視線を向けてくる頻度が増えたので、相応の態度を取っている。ユナもクウに対しては痴女同然の言動だが、外に対しては一般淑女並みに弁える。
(聖剣のせいで力はエイスケさんの方が上だし、私も鍛えないとだめだね)
ユナはそう決意しつつ、今日のところは休むのだった。
◆ ◆ ◆
~武装迷宮三十階層~
ユナたちは武装迷宮に挑戦を始めてあっという間に三十階層まで進んでいた。理由は、この辺りの階層までは既に地図が出来上がっていること、エイスケが聖剣のお陰で圧倒的に強いこと、そして何より、ユナの《無尽の武器庫》によって攻略によどみがないことが挙げられる。
そして三十階層のボスとして出現したオーガ・ブレードマスターもエイスケによって倒された。
「はあああ! 第五解放!」
《剣術 Lv10》《剛力 Lv10》《思考加速 Lv10》を得たエイスケは、Lv150相当のステータスでオーガ・ブレードマスターを縦に両断した。
剛力の効果でオーガ・ブレードマスターが身に着けていた防具は破砕され、綺麗な断面で切り裂かれる。ユナとシュウ、アルフレッドの出番は一秒もなかった。
「ふっ……見たか魔物め! これが勇者なのだ!」
そう言いながら決めポーズを取るエイスケにユナとシュウは冷たい目を向ける。なお、その視線にエイスケが気付くことはなかったが。
一方、アルフレッドは少し心配していた。
(やはり聖剣の力が強すぎる。これでは勇者殿が育たない……)
アルフレッドはこの事実を遠回しにエイスケへと語ったことがある。しかし、彼はアルフレッドの言葉を理解しているように思えなかった。
現に、今も聖剣の力に頼り切ってオーガ・ブレードマスターを倒したのだから。
そもそも、オーガ・ブレードマスターは器用値と《刀術》スキルが非常に高い技術タイプの魔物だ。これだけ圧倒的な勝利を得るためには、相当なレベル差が必要となる。
だが、聖剣はそれを実現してしまった。
また、ユナもエイスケの姿を見て少し焦っていた。
(あれでまだ第五解放。追いつけないね……)
迷宮の魔物は殆どすべてエイスケが倒してしまっている。この聖剣が何よりも恐ろしいのは、解放によるリスクが存在しないことだ。魔力も気力も体力も消費することなく、聖剣の力を引き出すことが出来る。
チートアイテムと称するに十分な性能だ。
「さぁ、次の階層に行こうユナ君!」
「うん、分かったよ」
ユナは次の階層へと向かう階段の前に立ち、張られている結界へと触れる。この行為によって、必要な献上武具が示されるのだ。
今回浮かんだのは青銅兜。
ユナは《無尽の武器庫》によってそれを生成し、献上する。
すると結界が外された。
「出来たよー」
「さぁ、行くぞ皆の者! 三十一階層だ!」
解除された結界の奥へと踏み込もうとするエイスケ。
しかし、アルフレッドがそれを止めた。
「待てエイスケ殿。今日はこの辺りにしよう」
「む? しかしアルフレッド殿。まだ今日は時間があるのではないか?」
「いや、少し言いたいことがある。今後のために必要なことだ」
そう言ってアルフレッドはユナとシュウの方に目を向けつつ言葉を続けた。
「そちらの二人はエイスケ殿のように強力な武器があるわけではない。このままではエイスケ殿についていけなくなる。特に、ユナ殿の能力は迷宮攻略に必須だ。一度、立ち止まるべきではないか?」
それはユナとシュウに足並みを揃えさせると共に、エイスケにも技術面を学ばせることを目的とした進言だった。
確かに、アルフレッドの言葉には道理がある。
流石のエイスケも言葉を耳に入れた。
「ふむ。確かにゲームでもパーティ内部でレベル偏りがあったら攻略できない……アルフレッド殿のいう通りですな!」
「よかった。では、暫く実践訓練を積んで欲しいと思う。階層が低い内にしかできないことだからな。折角だからエイスケ殿も聖剣に頼らず、自身の力で敵を倒す訓練をしてみてはどうだ?」
「ふっ……選ばれし勇者である僕には不要! むしろ聖剣を使いこなせるように努力するべきなのだ!」
そう言ってエイスケは剣を抜いて掲げる。
無駄にポーズを決める彼にユナとシュウは相変わらず冷たい視線を送るのだが、ついぞ気付くことはなかったのだった。
新年初投稿です。
この小説も始まってそろそろ二年になります。
最近は忙しくなって週二の投稿も結構辛いのですが、何とか出来ているのは読者の方々のお陰です。どうぞ、今年も宜しくお願いします。





