EP389 ユナの冒険②
自分たちのステータスを見たユナたちは少し驚いていた。
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ユナ・アカツキ 16歳
種族 人 ♀
Lv1
HP:30/30
MP:20/20
力 :40
体力 :200
魔力 :15
精神 :60
俊敏 :90
器用 :200
運 :38
【固有能力】
《無尽の武器庫》
【通常能力】
《抜刀術 Lv8》
《光魔法 Lv1》
《炎魔法 Lv1》
《武具鑑定 Lv3》
《思考加速 Lv3》
《神速 Lv1》
【加護】
《武神の加護》
【称号】
《異世界人》《武神の使徒》
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シュウ・クジョウ 19歳
種族 人 ♂
Lv1
HP:50/50
MP:200/200
力 :30
体力 :30
魔力 :160
精神 :180
俊敏 :70
器用 :120
運 :31
【通常能力】
《光魔法 Lv1》
《闇魔法 Lv1》
《土魔法 Lv1》
《雷魔法 Lv1》
《魔障壁 Lv1》
《MP自動回復 Lv1》
【称号】
《異世界人》《才ある魔導士》
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エイスケ・オオヤマ 27歳
種族 人 ♂
Lv1
HP:100/100
MP:100/100
力 :100
体力 :100
魔力 :100
精神 :100
俊敏 :100
器用 :100
運 :28
【固有能力】
《限界突破》
【通常能力】
《光魔法 Lv3》
《土魔法 Lv1》
《闇耐性 Lv3》
《鑑定 Lv1》
《HP自動回復 Lv1》
【加護】
《光神の加護》
【称号】
《異世界人》《光の勇者》
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ステータス画面に表示されていたのはゲーム風の表示、そしてスキルに加護に称号という不慣れなものだった。
(ゲームっぽい……?)
(不思議な画面だね。これは脳内表示? ということはAR技術になるのか? 近未来的だね)
(勇者! 光の勇者! キタコレ!)
三者三様に心の内で感想を漏らす。
ユナとシュウは首を傾げるだけだったが、エイスケだけは興奮気味だった。
それぞれの反応を見たクリスティスが再び語り始める。
「如何かな? 恐らく称号に勇者と記されているハズなのだが……」
「私は書いてないかな」
「俺もないです」
「ぼ、僕の画面に《光の勇者》って称号があります!」
「本当かエイスケ殿! 良かった!」
ユナとシュウが勇者でないと知って焦りかけていたクリスティス。しかしエイスケが光神シンの勇者だと知って安堵する。
彼としては三人とも勇者だと思っていたのだが、どうやらユナとシュウについては違うらしい。
しかし、そこでユナが口を開いた。
「あ、でも私は《武神の加護》っていうのがあるよ?」
「武神テラ様の加護が? ならばシュウ殿も?」
「いや、俺はないですね」
「そうですか……ともかく、あなた方のステータスを見せて頂けませんか? 閲覧を許可すれば見せることが出来ますので」
三人とも、別に見せて構わないと判断したので閲覧許可を出す。すると他人には見えないステータスの内容がクリスティスにも見えるようになった。
ユナ、シュウ、エイスケのステータスを確認したクリスティスは驚いて感想を漏らす。
「これは凄い。勇者エイスケ殿はともかく、ユナ殿もシュウ殿も素晴らしい。これが召喚者か……」
秘められたポテンシャルは驚きの一言だ。
スキルも充実しており、ステータス値も常人よりはるかに高い。鍛えれば魔王すら打ち倒せるのではないかとクリスティスは思った。
そして、決して三人を逃してはならないとも同時に悟った。
「頼む。どうか、私たちに力を貸して欲しい。可能な限りのサポートもしよう。我らを脅かす魔王を打ち倒して欲しいのだ」
クリスティスは貴族としての矜持を投げ捨てて頭を下げる。
彼が頭を下げる意味を三人とも理解していなかったが、エイスケだけは即座に返答した。
「も、勿論です。ぼ、僕は協力します!」
しかし、ユナとシュウは一瞬だけ目を合わせてから返事をする。
「私は保留で。もうちょっと判断基準が欲しいかな?」
「俺も彼女に同意です。返事は待って下さい」
「いや、それも道理だ。私としては受けて欲しいが……強制することは出来ない。良い返事を聞くことが出来るよう、こちらも配慮しよう」
クリスティスとしては光神シンの加護を持つエイスケの返事を聞けただけでも僥倖だと考えた。それで、ユナとシュウに対しても寛大に対応できたのである。
これが第一の勇者、ユナ、シュウ、エイスケが召喚された日だった。
◆ ◆ ◆
召喚されて二か月も経った頃、三人は騎士団長アルフレッド・テレリスに近くの森へと連れられて、魔物討伐へと向かっていた。王城で基礎的なことを学び、ようやく実戦へと至ったのである。
元から武術の心得があったユナ、完全魔法タイプのシュウはともかく、運動不足気味だったエイスケは最も苦労していた。
運動神経を鍛えるために跳んで走ってを繰り返し、座学に打ち込むこと一か月。
そこから実際に剣を持って訓練すること一か月。
ようやくまともになったので実戦へと至ったのである。
「さて、エイスケ殿。今回はゴブリンの討伐で実戦に慣れて貰うことになる。奴らは君を本気で殺しに来るから、気を抜かないように」
「は、はい」
アルフレッドもユナとシュウには注意を促さない。
何故なら、ユナは《抜刀術 Lv8》を有しており、更に王城の騎士では太刀打ちできないこともあったほどだったからだ。根本的なレベル差があるので、必ず騎士が負けるわけではない。しかし、ユナが少女だからと油断した騎士たちは呆気なくやられていた。このことから、ユナは強いと知っていたのである。
そしてシュウだが、独自に魔法を構築していた。
理学系大学生であるシュウは、科学的考察によって魔法を理解し、演算補完をして強力な魔法を作り上げていたのである。アルフレッドも一度見学したのだが、並みの魔物では相手にならないだろうと察していた。
意外にも、一番足を引っ張っていたのが光神の勇者エイスケなのである。
【固有能力】である《限界突破》だが、これは元ステータスを数倍にするというもの。発動中はMPを消耗し続けるので、限界まで使用するとMP切れで気絶してしまう。レベルが低い段階では使い勝手の悪い能力だと言えた。
「む……いくつか気配があるな。注意しろ」
アルフレッドは《気配察知》によってゴブリンの存在を知覚し、三人へと注意を促す。
ユナは【固有能力】として保有する《無尽の武器庫》によって刀を生成し、左手に持った。これは想像のままに武具を顕現させることが出来る能力であり、たとえ希少金属が使用された武器でも問題なく具現化できる。ただし、魔法効果を乗せることは出来ないし、ユナ以外に武器を使うことも出来ない。
そしてシュウは魔力を循環させて魔法発動に備える。エイスケは鋼の剣を抜いて両手に持った。
ここは視界の悪い森の中であり、まだゴブリンの存在は見えない。
しかし、ガサガサと何かが動く音だけはする。
次の瞬間、四匹のゴブリンが現れた。
「『閃』」
ユナは《神速》スキルを使用して距離を詰めた後、居合の一撃でゴブリン一匹を倒す。そして鞘による打撃で二体目のゴブリンの顎を破壊した後、刺突で突き殺した。
そしてユナが跳びながら下がると同時にシュウが魔法を放つ。
白い閃光がゴブリンの額を貫き、残る二体を同時に倒した。《光魔法》によるレーザー攻撃である。
エイスケは出番すらなかった。
(ユナ殿もシュウ殿も躊躇いはなし……か)
ゴブリンは魔物とは言え人型だ。見習い騎士の中でも、躊躇してしまう者は少なくない。しかし、ユナもシュウも気にした様子もなく倒して見せた。
ユナは勿論、地球へと帰還してクウのもとに帰るために、魔物を殺すと決めたのである。魔王を倒せば光神シンによって帰還が為されると聞いていたので、早く帰るために魔物を殺した。
シュウは単純に意識を切り替えただけである。この世界は日本のように平和ではないと学んだので、生物を殺す行為に慣れようと考えたのだ。いや、本当は慣れるべきではないのだが、ちゃんと割り切れるようになろうと考えたのである。
「んー、弱い?」
「ゴブリンって言ったら序盤の雑魚っぽいから、こんなものじゃないか?」
返り血一滴すら浴びていないユナが首を傾げると、シュウが答える。二人にとっては物足りない敵だったからか、拍子抜けしていた。
レベルは低くともスキルの扱いは十分なのだ。
当然と言えば当然である。
特に拙い部分もなかったので、アルフレッドは二人を称賛した。
「よくやったぞ二人とも。次はエイスケ殿だな。二か月でどれだけできるようになったか見せて貰おう」
「ぼ、僕もやってやる!」
年下のユナとシュウが余裕で討伐して見せたのだから、自分もと意気込む。
「次はエイスケ殿に討伐して貰うから、ユナ殿とシュウ殿は攻撃を控えてくれ」
「はーい」
「わかりました」
四人は再び森の中を歩き回り、ゴブリンを探す。アルフレッドが《気配察知》を使って、周囲にゴブリンがいないかを探った。
ゴブリンという魔物は繁殖力が高く、簡単に増える。
歩けば遭遇する魔物として有名なので、すぐに見つかった。
ガサガサと音がして草が揺れ、三匹のゴブリンが姿を現す。木の枝そのままの棍棒が武器なので、これなら攻撃されても痛いだけで済むだろう。エイスケは安心して斬りかかった。
「そりゃあああああ!」
素人っぽさは抜けていないが、ゴブリンを殺すには十分とも言える振り下ろし。ステータス差のお陰でゴブリンの頭部に突き刺さり、一撃で仕留めた。
「はあっ! とぉっ!」
続けて剣を二度振り、一発ずつでゴブリンを倒す。しかし、技術が拙すぎたのか、大量の返り血を浴びることになった。
やはり技術面ではユナに及ばない。
ゴブリンが食べている物に問題があるのか、血液はかなりの悪臭を放っていた。
「おっふ……くさ……」
降りかかったゴブリンの血液のせいで悶えるエイスケに、シュウが魔法をかける。《光魔法》の特性「浄化」を利用した魔法で、すぐに血液は落ちた。
「感謝するぞシュウ君」
「いえ、その臭いは俺も嫌だったので」
「エイスケさんはもっと技術を磨かないとね! ちょっとはマシになってたけど、相変わらず下手だし」
「心が痛いっ!?」
年下二人に言われてエイスケは胸を抑える。
勇者の称号を持つにもかかわらず、今のところは一番の雑魚だ。
事実であるがゆえに心が痛かった。
(これでは僕の無双ハーレム勇者ライフに危機が……早くレベルを上げないと!)
ステータス上はかなりの補正を受けている。そのため、レベルさえ上がればかなりの強さを得ることが出来るだろう。更に《限界突破》のお陰で更なる強化も望める。
技術でユナとシュウに劣っているならば、ステータスで勝つしかない。
つまり、レベルを上げが必須だ。
「アルフレッドさん! 次の魔物を倒しに行きましょう!」
「そうだな。今日は何体かゴブリンを倒して引き上げるとしよう」
初めての実戦は、アルフレッドが予想した以上に順調だった。
これが召喚者の実力なのかと驚き、同時に納得する。エイスケもユナとシュウには及ばなかったが、才ある者として選ばれているのだ。初めは拙かった技術も徐々に上達していき、すぐに前衛を張れるようになった。
第一の勇者たちはあっと言う間に頭角を現したのだった。





