EP384 原因・・・?
クウとベリアルは一か月ほどかけて各地を回り――と言ってもエルフ領でのこと――冒険者ギルドに恩を売りつつ情報を集めていた。
幸いにも、二人はギルドの協力者という立場だ。
登録している冒険者と異なり、その実績が表に出ることはない。また、裏でも出回らない。
精々、ギルドの間でクウとベリアルに関する情報が少しばかり共有される程度だ。
これは秘密裏にギルドへと協力する者たちを守るための制度であり、クウとしてもありがたい限りだったので、存分に隠れ蓑とさせて貰っている。
また、この一か月でスキルの使用不能に関する情報も一般にまで広がり、ギルドとしても協力者如きに構っている余裕などなかった。使えないスキルをリスト化するだけでも手間がかかったのだから。
そして現在、クウとベリアルは、エルフ領の中でも織物と染め物が盛んな街【スバール】の宿で今後の方針を話し合っていた。
「大分情報が集まってきたな」
「マスターの言った通り、冒険者ギルドを利用して正解だったわね」
二人は机を挟んで向かい合い、大量の資料を手に取っている。これらは冒険者ギルドでも困っている難所での魔物討伐や、高ランク魔物の討伐、魔物の大軍を討伐するなどして手に入れたものだ。
断片的な情報も多かったので、とにかく集めるだけ集めた。そういうわけもあり、情報の整理と解析は進んでいなかったのである。
「取りあえずは使えないスキルのリストか」
クウは一枚の資料を手に取ってそう呟いた。
内容はギルドが調べた使用不能なスキルの一覧表である。数としてはかなり多い。
魔力系スキル全般。
気力系スキルほぼ全般(判明していないものもあるため)。
情報系スキル全般。
魔法系スキルほぼ全般(時空間属性は不明)。
剣術系統スキル(《剣術》《細剣術》《短剣術》《刀術》など)
これは戦闘に必要なスキルばかりであり、これのせいで冒険者たちも依頼を滞らせていた。更に、魔物討伐が困難になったことで雑用系依頼ばかりが受理され、殆どの街で雑用系依頼が消える事態が発生。これによって、特に低ランク冒険者の仕事が消えてしまい、一種の職業難に陥っていた。
そういう点で言えば、協力者であるクウとベリアルの活躍は非常に喜ばれている。
特に詮索されないのも、そのお陰だった。
「ベリアルは法則性を感じるか?」
「全然ダメね。サッパリわからないわ」
「だよなぁ……」
そもそも、どんなスキルが存在するのかも把握しきれていない。
スキルと言うのは、主に武装神アステラルがデザインしたものであり、そのせいもあって戦闘系に偏っている。それに、元はステータスに縛られた人類が、魔物などの脅威から身を守るために与えられたのがスキルなのだ。
生活よりも戦闘に偏るのは当然である。
戦闘に直結するということで《鍛冶》スキルは存在するし、バランス感覚や身のこなしが上昇する《舞踊》も実は戦闘系スキルの一種だ。《メイド術》というのは主人を物理的に守護する戦闘系の性能も含まれていたりする。
一見すると戦闘に関係ないスキルであっても、どこかで戦闘へと繋がっているのだ。
そのようなよく分からないスキルも無数にあるので、クウもどのようなスキルが存在するのか把握しきれていない。冒険者ギルドは長い年月で、スキル辞典のようなものも開発している。しかし、それも不備が多いので、使えないスキルリストにも、まだ穴がある可能性はあった。
「……となると、これを引き起こした原因を知りたいな」
「魔王オメガじゃないの?」
「一番可能性は高いけど、実はもう一つだけ疑っている奴はいる」
「誰?」
ベリアルの問いかけに対し、クウは一枚の資料を見せつけた。
そこに書いてある文字を、ベリアルが読み上げる。
「勇者セイジは魔法を使用している……?」
「この手の事件は、原因だけちゃっかり逃れていると相場が決まっている。本人に自覚があるかないかさておくとして……可能性はあるだろ?」
「怪しいわねぇ」
ギルドの情報には、各地で活躍するSランクオーバー冒険者たちに関する記述もあった。
『剣王』ユークリッドや『鬼神』ベルザードは完全物理特化であり、単身でありながら物理でオーガの群れを滅ぼしたとか、巨大ゴーレムを一刀両断したとか、眼力で魔物を追い払ったとか、俄かには信じがたい――勿論、一般人目線で――内容となっている。
だが、その中でも特に目立った記述がある。
それが『魔導剣』とも呼ばれる勇者セイジ・キリシマについてのものだった。
「桐島の奴は、どうも魔法を自在に操っているらしい。あとは大地が裂けるほどの斬撃とか、あり得ない高速回復とか、自在に魔剣を生み出すとか……まぁ、今の状況では信じがたい話になっているな」
「でもギルドの情報に嘘はないわ」
「そうだ。そこだけは信用できるからな。つまり、桐島がスキルを使用しているのは本当だ。青山や城崎は全く使えなくなっているらしいから、異世界人だけが特別ということでもないだろうさ。その証拠に、勇者レンや勇者アヤトもスキルが使えるらしいぞ」
「つまり、光神シンの力が影響しているということかしら?」
「今の事態が魔王オメガによるものじゃないとすると、そうなるな。どうやってスキルに悪影響を及ぼしたのかは知らない。裏世界からの情報攻撃程度なら、ゼノネイアたちが防ぐだろう。仮に防げなかったとしてもすぐに武装神アステラルが修正を掛けるはずだ。
つまり、神であっても干渉できない何かが働いているということになる。
神々が干渉できないのは地上だ。
今回の事件、スキル異常を引き起こしている原因となる核は地上にある」
「それが勇者……ということね」
「ああ。そもそも、光神シンにとって、勇者はエヴァンと裏世界に次元の綻びを作るためだけの存在だったはずだ。だが、もっと他にも利用出来るはず。今回の事件もその一環かもしれない」
勇者召喚魔法陣は、光神シンによって起動されるモノだ。
【ルメリオス王国】の王城地下にあった三つの魔法陣は、大量の魔力を流すことで起動し、裏世界に同じ魔法陣を用意している光神シンが召喚を発動させる。
これによって自身のもつ『地球人』『日本人』の因子を作用させることで日本から適正の高い者を呼び寄せ、魔法陣を通してエヴァンへと送り込む。この際に次元の壁に綻びを作ることが光神シンの目的だ。
魔法陣という目印がなければ、次元の壁を通すのは難しい。
そしてそこまでして勇者を送り込んだのだから、利用できるだけ利用したいと思うのが、一般的な心情だろう。光神シンは邪神カグラに敗北して裏切った愚か者だが、知恵は回るのだ。そうでなければ、このような壮大な計画を立てられるはずがない。
あるいは邪神カグラの入れ知恵かもしれないが。
ともかく、そう考えれば光神シンが最も怪しい容疑者となる。
「勇者君たちに会うの?」
「どうしよっかなぁ……精霊王を殺した時に心を折ったつもりだったけど、あんまり効いていないみたいだから、もう一回だけ釘を刺すのもアリかもしれない」
「マスターは何を悩んでいるのかしら?」
「いや、ああやって別れたから気まずい」
「そういうものなの?」
「そういうものなんだよ」
精霊王フローリアを滅ぼした時、クウは勇者組に対して圧倒的な力を見せつけ、心を折ることで余計なことをさせないように図った。
しかし、彼らは予想以上に心が強く、全く折れた様子がない。
それは資料を読めば伝わってくる。
正直、もう一度釘を刺しに行くのは少し恥ずかしいのだ。チープな悪役みたいに見えるからである。
「とはいえ、放置もダメだよな。どちらにせよ確認はしておくか」
「じゃあ、行くの?」
「ああ、人族領に向かうぞ。桐島は転移魔法が使えるからな。すぐに会えるかは分からないが……」
クウは残念ながら時空間操作系の能力が使えないので、転移されると追いつけない。
勇者を足――または翼――で追いかける地味な作業になるが、仕方ないと思って諦めたのだった。
◆ ◆ ◆
一方、勇者たちも今回のスキル異常によって少し行動が変化していた。
具体的には、リコとエリカが戦えなくなったことで戦線を外れたのである。流石に魔法タイプの二人が、魔法の使えない状態で戦闘に出るというのは無理な話だ。
そこで、今はセイジ、レン、アヤトの三人がパーティを組んで動いていた。
「そこや!」
「遅いよ!」
レンが《破邪の光弾》を使い、アヤトが《虹の聖弓》でサイクロプスの眼玉を撃ち抜く。遠距離攻撃に特化した二人は、このような遠距離精密攻撃すらも習得していた。
さらにセイジは聖剣を振りかざし、《剣仙術》を発動させる。斬撃という概念を乗せる、一種の情報次元攻撃だ。振り下ろされた剣の軌道に沿って、その直線上が全て切り裂かれる。
巻き込まれたサイクロプス四体は同時に絶命した。
そしてボス個体である赤眼のサイクロプス……レッドアイ・サイクロプスに向かって《魔神》を発動させる。
《仙力》による感知でレッドアイ・サイクロプスの魔石を探り、結界で覆う。それを空間転移でセイジの手元へと引き寄せた。
魔石を失ったレッドアイ・サイクロプスはビクリと痙攣した後、倒れる。
魂のない魔物にとって、魔石は命の源だ。
奪われると、当然ながら死に至る。
本来ならば相手の体内に魔法を発動させることはほぼ出来ないのだが、《仙力》による概念化と結界による空間掌握によって可能とした。
敵の体内に直接魔法を発動する即死魔法を開発してしまったのである。
「相変わらずえげつないなぁ」
「うーん……大型の魔物相手には便利なんだよね」
「慣れても大きい魔物は怖いし、しゃーないな」
一般的に考えて、小さなビルほどもある大型の魔物に武器で斬りかかるのは愚かだ。大型の魔物と言うのはそれだけで強いからである。
一歩の歩幅が違いすぎるので逃げるのが難しく、全ての攻撃が人間にとって致命傷となり得る。だから魔法が推奨されているのだ。可能ならば、一撃で刈り取るのが望ましい。
魔法スキルが封じられている今、《魔神》スキルを持つセイジだけが頼りだった。
「鷺宮とアヤトさんはまだポイントが溜まってない?」
「俺はダメや。やっぱり《時空間魔法》と《魔法反射》がデカすぎるわ」
「こっちもダメだね。後少しなんだけど……」
「《融合》で生み出したイリーガルスキルなら使えるから、早めに習得して欲しいんだけどね」
人族領全体でスキルが使えなくなっているので、魔法が使えるセイジは希少な存在だ。
恐らくはイリーガルスキルの恩恵だと考えている。
だからこそ、勇者として同じ力を持つレンとアヤトにも早くイリーガルスキルを習得して貰い、戦力を増やしたかった。
現状では一部のランクSオーバーしか、高ランク魔物の討伐が出来ない状態だ。
ゴブリン程度ならいざ知らず、サイクロプスのような巨人系の魔物は無理がある。それこそ、『剣王』のような人物なら別かもしれないが。
「とりあえず、《仙力》を習得できただけでも満足や。扱いが難しいけど、えらい便利やし」
「これもまた応用性の高いスキルみたいだけどね」
そしてレンとアヤトは既に《仙力》を習得していた。二人には【固有能力】があるので、魔法系スキルが使えなくなったところで戦闘には参加できる。
だが、やはり魔力や気を扱う系統の基礎スキルは充実していた方が良い。
上位互換である《仙力》は非常にありがたかった。
勿論、使いこなすのも困難だが。
外なる気を混ぜ合わせることで意思力を増幅し、情報次元における作用を極大化させるのが《仙力》である。通常では扱えない外なる気を魔素で薄めつつ操作性を上げているのだが、それでも扱いは難しい。
また、下手に扱って瘴気を吸収しないように気を付けなくてはならない。
「とにかく、依頼は完了だね。今日は帰ろうか」
「そやな。じゃ、転移は頼むわ」
「宜しくねセイジ君」
「ええ、じゃあいきますよ」
セイジはそう言って《魔神》を発動させる。
転移が発動し、その場から三人の姿は消え去ったのだった。
評価、感想をお待ちしております





