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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
聖剣と聖鎧編

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EP383 運命の試練


~運命迷宮九十階層~



 宇宙空間を思わせる広大な暗闇の中で、無数の歯車が動いていた。それぞれが複雑にかみ合い、一つにギミックとして機能している。他にも大小さまざまな円環が浮かび、幻想的な風景を創り出していた。

 そしてその中心にいるのが純白の鱗を持つ天翼蛇カルディアである。

 カルディアはその能力を発動し、リアを光で包んでいた。光の外側には三重の円環が浮かび、不規則に回転している。



”そろそろ一週間ですね。まだ定まりませんか……”



 光と円環に包まれたリアは、眠るようにして目を閉じていた。

 カルディアはリアを精神世界に閉じ込め、最後の試練を課していたのである。



”天使化とは恵みにあらず。永劫の時を世界の守護に費やす存在。人の生まれ、人の喜び、人の争い、人の悲しみ、人の死を見守り続けます。貴女にはその覚悟があるのでしょうか?”



 その問いかけにリアが答えることはない。



”私の権能【円環時空律ウロヴォロス】は貴女に夢を見せます。天使という世界の守護者になることなく、一人の女性として幸せに暮らせた可能性。それを捨ててでも、天使となる覚悟はあるのですか? 貴女はただ、流されているだけに過ぎないのです。自分の意思を見つけなさい”



 クウが何を犠牲にしてもユナを求めたように。

 ユナが何を犠牲にしてもクウを求めたように。

 ミレイナが高みへと昇るために力を求めたように。

 アリアが同族全てを魔王から解放すると決めたように。

 リグレットが知識の探求に全てを賭けたように。

 天使となった者たちは覚悟の果てに人を捨てた。永遠の時を生き続け、世界を守護し続ける、神との契約者となることで、目的を果たす力を得た。

 しかし、リアにはそれがない。

 流されるままに、己の意思もなく、いつの間にか試練の場へと辿り着いた。

 故にカルディアは無限にして夢現の試練を課す。



”私の【円環時空律ウロヴォロス】は循環させる力。因果を辿り、時空へと干渉し、あるはずだった可能性の世界を貴女に見せます。貴女が神との契約者になるだけの理由を……人を捨ててでもなすべきことを見つけるのです”



 カルディアは聞こえないはずのリアに語り続ける。

 この夢現の試練が終わるのは、リアが覚悟を決めた時。もしくは心が折れてしまった時。

 リアの体はカルディアの「時空間支配」によって時間を固定されており、千年経っても滅びることがないようにされている。

 試練が終わるのは一月か、一年か、百年か。

 それはカルディアにも分からない。



”貴女の辿った運命の道筋は、決して無駄ではなかったはずです。何もかもを捨ててクウ・アカツキと共にいることになったのは、たった一つの選択から。それは貴女の持つ運命の分岐点でした。こうしてここにいることすら、既に意味のあることなのです。

 幸せになれるはずだった可能性を捨てて、修羅の今を選べますか?

 期待していますよ、リア・アカツキ”



 時空と循環を司る翼の生えた蛇は、試練が終わる時を見守り続ける。








 ◆ ◆ ◆








~運命迷宮九十三階層~



 凶悪トラップとSからSSS級魔物が大量に待ち構える地獄階層で、ミレイナとユナは戦い続けていた。既に超越化しているユナは後れを取ることもない。しかし、ミレイナはかなり疲弊していた。



「なんなのだここは……敵が強すぎる」


「うん。今のミレイナちゃんでは余計に難しいと思う。何故か《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》と《風化魔法》しか使えなくなったからね」


「《超回復》とかも使えるぞ。《操糸術》はともかく、《魔闘体術》は魔力やオーラを使えなくなったのが痛いな」


「これも迷宮の効果との相性最悪だね」


「嫌な効果だ」



 もしも《超回復》が使用不可能だったなら、運命迷宮の効果であるHP吸収によってミレイナは衰弱死していたことだろう。今はリアがいないので、自前で回復しなくてはならないのだ。

 なお、ユナは超越者になっているのでHP吸収など意味がない。



「感知が使えないのは一番困る。魔力も気配も全く分からんな。ある程度は勘でどうにかなるが」


「勘でどうにかなっちゃうミレイナちゃんも結構凄いけどね」


「しかし困ったのは確かだ」



 スキル異常はしっかりとミレイナを蝕み、使用不可能なスキルは《魔力支配》と《気力支配》。そしてこれに伴い、《魔闘体術》も一部使えない状況となっている。

 様々な戦闘の基礎が詰まっているスキルだけに、使えないのは辛い。

 今のところ、非戦闘状態での感知はユナが担当しているが、戦闘時に気配読みや魔力察知が使えないと思うように動けないのだ。

 よって一戦ごとの消耗は通常の何倍も多く、今もこうしてユナが魔素とオーラの結界を張りつつ休んでいる。



「うーん。なんでスキルが一部だけ使えなくなっちゃったんだろうね?」


「ステータス画面は異常が起きているようには見えないんだがな……」



 世界中で起こっているスキル異常の原因を知らない二人からすれば、意味不明な出来事だろう。

 これで【魂源能力】まで使えなかったら、真面目にユナが本気を出すところだった。ミレイナの超越化に向けた修行を無視しても、脱出していたことだろう。



「うむむ……いっそのこと竜化してしまおうか……」


「ミレイナちゃんが竜化しちゃったら、素の能力で気配は探れるもんねー。でも疲れない?」


「竜化で戦って休憩を繰り返せば……なんとか?」


「なんで疑問形?」


「やってみなければ分からんからな」


「それもそうか。じゃ、行ってみよー!」



 ユナは結界を解除して神魔刀・緋那汰を取り出す。特性「武器庫」によってユナが作成した武器は保存されているため、武器に関してのみ無限の収容能力を持っていると言っていい。生成できる武器は、普通に神剣レベル。だが、壊れるので神剣ではない。

 権能から作れる武器なのだから、能力としては非常に強力だった。

 神魔刀・緋那汰は光子フォトンに関する絶対耐性を持つ。つまり光子フォトンによってやり取りできるエネルギー、熱や雷や光を濃密に纏わせることが出来るのだ。熱量で切り裂く《天照之太刀アマテラスのたち》も、神魔刀・緋那汰でなくては使えない。

 対するミレイナは、ユナの「武器創造」によって作って貰ったナックルガードを身に着け、立ち上がる。普段は魔素やオーラで素手を守るのだが、今は使えないので急遽代用品を用意したのだ。

 流石のミレイナも、堅い魔物を素手で殴るようなことはしない。

 格下ならばともかく、地獄階層の魔物はどれも強力なのだから。



「早速来たよ、ミレイナちゃん」


「大物か?」


「大きさは六メートルぐらいかな? 気配の感じだと虫系かも」


「虫系か……この迷宮はやけに耐久力の高い相手が多いな。こちらを消耗させるのが狙いか?」


「問答無用でHPを奪ってくるわけだし、そうなんじゃないの?」



 九十一階層から下は、魔物とのエンカウント率が異常なほど上がる。ユナの結界を解いた途端、感知範囲に引っかかるほどなのだ。

 そして運命迷宮は基本的に通路が広く、大型の魔物も高頻度で出現する。特に地獄階層はそれが顕著であり、無駄に耐久力が高い、もしくは生命力が高い魔物ばかりだった。

 今回も、分かれ道になっている通路の陰から六枚の薄羽を持った魔物が現れる。



「ドラゴンフライね。最も竜種に近い虫系魔物って言われているよ」


「確かに、小さなドラゴンを思わせる姿だな」



 竜種の特徴である竜鱗こそないが、見た目は竜に近い。

 しかし翼は虫のようであり、実際の生態も虫そのものだ。分類上は間違いなく昆虫系の魔物である。

 移動速度が凄まじく、《神速》スキルまで有している。そしてはねを高速で動かし、衝撃波を発生させる種族特性を持っていた。《風魔法》も得意なのだが、今は異常によって使えなくなっている。また、通路が広いといっても、ドラゴンフライからすればそれほどでもない。本来の俊敏性が幾らか抑えられている状態だった。



「キシャアアアアアアアアッ!」



 ドラゴンフライは咆哮と共に翅を高速振動させて、衝撃波を放つ。

 だが、ユナとミレイナは、回避しなかった。



「無駄だ。《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》」



 ミレイナは右手を突き出して衝撃波を受け止める。

 そして《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》の無効化能力によって衝撃波を打ち消した。同じ波動系能力であり、更に無効化という力を持つ《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》を打ち破ることは出来ない。



「今回は運がよかったな」


「うん。そうだね」



 ミレイナは《風化魔法》を使い、ドラゴンフライに反撃した。



「《風蝕ディスオーダー》」



 黒い粒子が混じった風によって、ドラゴンフライは侵食される。この魔法は風に触れた対象を急速に劣化させる魔法だ。黒い粒子の持つマイナスエネルギーが、分子結合からエネルギーを吸収し、分解してしまうのである。

 《風化魔法》の持つ「黒風」の特性は風属性と闇属性の複合だが、「劣化」という特性はマイナスエネルギーを司る。不安定なマイナスエネルギーは、プラスのエネルギーと結合して対消滅を引き起こそうとする。これによって分子結合を破壊し、あっという間に「劣化」させるのだ。



「キュ、キュルルルルルルルッ!?」



 マイナスエネルギーは魔素やオーラすらもエネルギーを吸収して対消滅させてしまう。クウの「消滅」にも似ている力だった。

 「消滅」が情報次元を消し飛ばす能力であるのに対し、「劣化」はエネルギーを減らしていく力とも言える。威力の面では「消滅」に勝てないが、「劣化」は半分だけエネルギーを減らすなどの融通を効かせることも出来るので、一概に優劣は付けにくい。

 ドラゴンフライは《風蝕ディスオーダー》によって翅をボロボロにされ、強靭な体表すらも問答無用で分解されていく。

 《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》もそうだが、ミレイナの能力は防御力を無視できるものが多い。

 生命力の高い魔物はともかく、耐久力の高い魔物に対しては、殆ど防御力を無視して一方的な力を振るっていた。



「この魔法は敵を倒し切るのに時間がかかるところが欠点だ。だが、翅から衝撃波を飛ばすことしか出来ないドラゴンフライ相手ならば楽勝だな」


「そうだねー。でもミレイナちゃんの「劣化」って圧縮できたりしないの? それならくーちゃんの「消滅」みたいになると思ったんだけど」


「…………なるほど」


「気付かなかったの!?」



 ミレイナの中で、《風化魔法》は拡散というイメージがあった。広範囲に滅びをもたらす魔法というイメージだったので、「劣化」を圧縮することは思いつかなかったのである。

 早速とばかりにミレイナは魔力を集め始める。

 スキルが使えないので、魔力の操作はおぼつかない。しかし、感覚派のミレイナは何となくで圧縮をイメージして見せた。

 クウの魔法を見たことがあるので、詠唱がなくともイメージは出来る。

 ミレイナの手の上に黒い渦を巻くエネルギー体が出現した。



「む。思ったより簡単だったな」


「折角だからドラゴンフライに使ったら? もう虫の息だけど」


「元からアイツは虫だろう?」



 ミレイナはそう言って、小さな黒い渦を放つ。

 圧縮された「劣化」の力は、低速でドラゴンフライへと飛んでいき、ボロボロにされた体表へと触れた。その瞬間、圧縮が解放されてマイナスエネルギーが周囲を喰らい尽くす。

 球状に膨らんだマイナスエネルギーは、ドラゴンフライを一撃で呑み込んだ。



「成功だな。《負蝕滅アナイアレーション》と名付けよう」


「おー、すごーい」


「ふふん! 私は天才だからな!」



 事実、ミレイナは一種の天才だ。

 理論的に対象を解き明かし、理解することで術式を扱うクウに対し、ミレイナは感覚で全て成し遂げてしまう。

 また「消滅」より「劣化」の方が使いやすさが上だったことも理由の一つだろう。

 逆に言えば、消滅エネルギーがそれだけ厄介ということだ。



「新技も習得したし、どんどん行こうー!」


「おー!」



 まだまだ【魂源能力】を使いこなしているとはいいがたいミレイナは、強くなれる余地がある。純粋に強さを求めたミレイナにとって朗報とも言えることだ。

 いずれ権能に至った時も、その力は【魂源能力】に起因する。

 今の力を使いこなすことは、超越者になった時にも役立つことだ。

 ミレイナはそれを心に留めつつ、ユナと共に地獄階層を進んでいくのだった。










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