EP380 扱いきれないスキル
カーバンクル・リベリオンに敗れたセイジたちは、リベンジのために再び被害のあった跡地へと戻ってきていた。額の宝石から放たれる光線によって抉られた大地は未だに残っており、痛々しい風景がそのままになっていた。
この街道も早く修復したいのだが、カーバンクル・リベリオンがいるせいで職人たちが仕事したがらないのである。
「さて、もう一度探さないとね」
「これが一番大変よね」
「理子ちゃん、これも仕事ですよ」
「分かってるわよ……」
初めは真竜クラスの魔物だと思われていた。しかし、真実はカーバンクル・リベリオンという小さな魔物である。探すのも一苦労だ。
しかし、セイジは全く問題ないと言った様子だった。
「早速だけど《霊眼》を試してみるよ。これがあれば魔力や気のような力の流れが分かるみたいなんだ。それは普段から無意識に放っているものも見えるみたいでね。強い存在であるほど、放出している力も大きくなるから――」
「強い流れの発生地点を見つければ良いって訳ね!」
「そういうことさ」
特に高ランクの魔物は強い魔力を発している。以前はエリカの《鑑定》でも能力の全てを見破れなかったほどの相手なのだ。カーバンクル・リベリオンは十分に強い領域だと言えるだろう。
つまり、《霊眼》を使った方法が有効なのである。
セイジは早速とばかりに眼を使った。
「なんだか……不思議な風景に見えるね」
実は、スキルを融合進化させて初めて使用している。今回は各スキルの試運転も兼ねているのだ。
《霊眼》を使って見えた景色は、魔素の青白い輝きによって幻想的になっていた。セイジ自身や、リコ、エリカの体からも沸き立つように青白い粒子が散布されている。
そして周囲を見渡せば同じくかなりの勢いで魔素が湧き出ている場所を見つけた。
目算距離にして三キロほどだろう。
思ったより近い。
「あっちに強い魔物、もしくは人がいるみたいだね。取りあえず行ってみよう」
「分かったわ」
「急ぎましょう」
三人は小走りになって魔素が湧き出ている場所へと向かって行く。そちらは森の中なので、木の葉や草を掻き分けつつ進む。流石に三人とも能力が高く、サバイバル力も上がっているので、鬱蒼とした森の中でも目を疑うような速度で移動していた。
強い魔力を放つ存在も移動しているらしく、追いついたのは三十分ほど後のことだった。
「コイツだ!」
セイジが聖剣を抜いて立ち止まる。続いてリコとエリカも杖を構え、戦闘態勢を整えた。
三人の前にいたのは、人間より一回り大きな魔物。
赤い体表と額から伸びた一本の角が特徴的である。
「清二君! オーガ種です!」
「分かっている。《霊眼》でもステータスが見えているからね」
エリカは《鑑定》によって相手の正体を見抜いた。
ブラッド・オーガ。
突然変異種であり、群れから離れて生きる孤高のオーガ種だ。そして三人とも、ブラッド・オーガは武装迷宮で戦ったことがある。確かに強い相手だが、単体で出現するのでそれほど苦戦することもない。
だが、セイジは折角なので自身の能力を確かめることにした。
「理子、絵梨香も手を出さないでくれ。僕が一人でやってみる」
「大丈夫なの清二?」
「問題ないよ。それより、二人とも下がっていてくれ」
そう言ってセイジは飛び出し、ブラッド・オーガへと斬りかかった。血のように赤い体表を持つブラッド・オーガは、好戦的な表情の割に冷静な判断が出来る頭脳も有している。故にリコとエリカを警戒して、防戦を選択しつつ様子を見る作戦を選んだ。
今のブラッド・オーガは無手であり、剣を持つセイジ相手ではどちらにせよ不利。防戦という選択は間違いではない。
「試し切りをさせてもらうよ! 《剣仙術》!」
セイジは仙気によって世界と繋がり、剣という概念を放つ。つまり、切断の意思が表出し、世界がそれに応えた。
聖剣が振り下ろされた直線上が数キロに渡って切り裂かれる。
「……え?」
「グ……アアァ……」
「え? え……えぇ……?」
《剣仙術》を使ったセイジですら予測不可能。
それほどの一撃だった。
ブラッド・オーガは左右に両断されて即死となる。
「ちょっと清二……」
「これ、どうするんですか……?」
「あ、あはは……」
地面にも深く傷をつけ、遥か先まで木々が縦に切断されている。
明らかなオーバーキルだ。
「洒落にならない威力だね……ちゃんと扱えるようにならないと」
「本当ですよ清二君。気を付けてくださいね」
珍しくエリカからもダメ出しされて、セイジは落ち込む。これまでも習得したスキルを使いこなせないことは多々あった。スキルポイントによる強制取得であるため、感覚がつかめなかったからである。
しかし、ここまで酷いのは初めてだった。
「この調子だと《魔神》や《聖魔乖星崩界剣》も心配だね。この際だからしっかり練習しないと」
セイジは試しに《聖魔乖星崩界剣》を発動させる。イメージしたのはこのスキルの前身とも言える能力の名前だった。
地球では王の剣と呼ばれた架空の存在。
そこから解釈を拡大させていく。
所有者を王とする、王とは頂点に立つ者、頂点とは最強。
統べる者の力。
「来い! エクスカリバー」
聖剣を鞘に仕舞って右手を掲げると、そこに粒子が収束していく。それは魔素や気ではなく、単純に確率変動によって出現したものだ。つまり、イメージが情報次元へと影響を与え、そこに存在すると定義されたのである。
権能に置き換えれば、現象系能力に近い。
そして一秒ほどで粒子は形を成し、一本の剣を創り上げる。
青い布で包まれた柄、刀身は純白で黄金の粒子を纏い、鍔には赤い宝石が嵌めこまれている。ただの剣とは思えないほどの存在感を放っていた。
「え? なにこれ?」
「ねぇ清二。私の勘違いじゃなかったら、聖剣より強いんじゃない?」
「ごめんなさい清二君。私もそう思います」
「うん。僕もそう思っちゃったから気にしなくていいよ。うん……」
セイジはそう言いながら、手にしたエクスカリバーを何気なく振り下ろす。
すると、再び数キロ先まで斬れた。
「ちょっと清二ーーーっ!?」
「清二君!?」
「事故! 事故だから!?」
慌てたセイジがエクスカリバーを投げ捨てると、それは粒子となって消えた。
しかし、今の一撃はしっかりと大地に刻まれており、遥か向こうまで傷跡を残している。どうやら幻覚ではないらしい。
「そ、そうだ! 《魔神》で直そう。直れ!」
「ちょっと待って清二! それ多分拙いから―――」
しかしリコの言葉は少し遅かった。
ちょっとばかり混乱していたセイジは、《魔神》を発動させて大魔法を行使する。イメージが情報次元に直接反映されるスキルであるため、興奮状態のセイジをそのままトレースしてしまった。
結果として、恐ろしい勢いで木々が再生し始める。
切り裂かれた大地も元に戻ろうと隆起して、周囲は激しい地震に襲われた。
「うわああああ!?」
「きゃああああああ!?」
「ひゃああああ!?」
なお、この時の《魔神》発動によって、ただの森が樹海に変わってしまった。そしてセイジが心の奥底で思っていた魔物討伐という願いを叶えるために、木々や蔦が周囲の魔物を締めつけて殺害。
知らぬ間にカーバンクル・リベリオンすら倒してしまったのだった。
◆ ◆ ◆
ほぼ同時刻。
クウはセラフォル率いるランクSSパーティ『風花』と共に【アリーターヤ】という街へと向かっていた。これはレクス・パピリオを倒した樹海から最も近い街であり、位置としては【樹の都】から南東に百キロほど進んだ場所になる。
広大な台地の上に存在する街で、周囲に魔物が少ないことから米の大規模生産をしていた。
クウは懐かしの水田風景を眺めつつ、街道を歩む。
「この辺りは長閑だな」
「この前、田植えが終わったところでね。今は地味だけど、収穫期には綺麗な景色が広がっているよ。いずれ来てみるといい」
「暇があればな」
ちなみに水田の水は魔法で補っているらしい。以前は水の精霊によって供給できたそうだが、今は《水魔法》の使い手がMP回復ポーションを飲みながら頑張っているそうだ。
意外なところで影響が出ていたので、クウも流石に罪悪感を覚える。
そしてしばらくすると、遠くに見えていた【アリーターヤ】の門が見えてきた。ここは農業都市なので、食料を仕入れるために商人の出入りも多い。それほど大きな町ではないにもかかわらず、多くの人が並んでいた。
「うーん。やっぱり人が多いね」
セラフォルも苦笑する。
だが、『風花』が依頼を受けたのは【アリーターヤ】のギルドなのだ。依頼は受けた街で報告するのが基本であるため、こればかりは仕方ない。
クウとベリアル、そして『風花』の四人を合わせた六人は列に並んだのだった。
やはりランクSSパーティとして有名なのだろう。
セラフォルたちは多くのエルフたちから注目される。
「目立つな」
「目立つわねぇ」
そして必然的に、一緒にいるクウとベリアルも注目される。
ちなみに、指名手配犯として顔の出回っているクウだが、能力によってクウをクウだと認識できないようにしている。「意思干渉」による器用な結界を張っているので、顔を見られてもバレることはない。
少なくとも、ステータスに縛られた存在如きでは無理だ。
ただし、初めからクウをよく知っている人物――例えばセイジ――を誤魔化すのは難しい。あくまでも意識を逸らす程度の結界なのだ。
「そう言えばセラフォル」
「ん? どうしたんだい少年」
「スキルは使えないままなのか?」
「そうだね……魔法、魔力操作系、感知系は全部ダメみたいだよ。少年もそうなのかい?」
「ん……まぁ、そうだな」
実際は権能を使えるので、全くの嘘だ。
しかし、変に能力を使えると怪しいので、ここは剣技だけ使えることにする。ベリアルの矢は魔法武器だということにした。
クウもベリアルも、余程のことがない限りはそれで充分。
力を隠すことに問題はない。
「使えないスキル、使えるスキルに差はあるか?」
「んー……。アレーシャとパースとイリーナにも聞いてみたけど、魔法系はダメだね。武術系は使えるみたいだよ。あとは情報系スキルがダメってところかな。詳しくは分からないけどね」
「サンプルが足りないな。もう少し情報が必要か……」
「しかし本当に困ったよ。精霊魔法に続いて普通の魔法まで失うなんて。僕はこれもクウ・アカツキの仕業と見ているよ」
「……そうか。そうかもしれないな」
全くの濡れ衣なので、クウとしては微妙な返事になってしまう。
だが、先の事件と関連付けてしまうのも仕方のないことだ。精霊王殺害という大事件を引き起こしている以上、疑われる謂われも少しはある。
精霊王フローリアの消滅によって、人族領では多くの被害が起こった。
まず、エルフたちは精霊魔法をすべて失った。そしてユーリスによって復活したが、大樹ユグドラシルも一度枯れている。更に、フローリアが封じていた大地の浄化システムが解放され、瘴気の凝縮体である魔物が生み出されるようになった。強力な魔物による被害は各地で相次いでいる。
魔物の大量出現による食料生産地の被害、人的被害も頻繁に起こっているので、冒険者たちは大忙しだろう。国家を形成せず、小さな集落で固まって暮らしているドワーフは特に大打撃を喰らい、希少な技術を持つドワーフも何人か失っているほどだった。
(世界のためとはいえ、無関係の人にまで被害が及ぶのは心が痛むな)
クウとて冷徹なわけではない。
ただ、自分の守るべきものと、それ以外を冷静に区別できるだけだ。自信の力が及ぶ範囲を正確に把握しているので、無闇に手を広げたりはしない。そして全てを救えるとも思っていない。
だが、最も大切な一つのためには全てを賭ける覚悟がある。
そんなことを考えながら【アリーターヤ】に入るまで待つのだった。
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