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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
聖剣と聖鎧編
379/566

EP378 唐突に


 クウとベリアルはSSランクパーティ『風花』と共に沼地を歩いていた。ベリアルに惚れたセラフォルがクウに決闘を挑んだ結果、見事に負けたので対価として異常事態が起こっている場所についての情報を貰ったのである。

 それがこの沼地だった。



「この辺りだよ。魔物の変死体が見つかったのは」


「確かに、ちらほらと骨が転がっているな」



 セラフォルがもたらした情報とは、魔物が変死している沼地だ。ある時、【ユグドラシル】南部で魔物の大移動が確認された。ギルドがそれを受けて調査したところ、この沼地で大量の魔物が変死しているのを発見したのである。

 外傷はなく、苦しんだ跡が見えることから、毒ガスの発生が疑われた。

 詳しい調査をするため、《結界魔法》を使えるセラフォルに指名が掛かったのである。セラフォルは既に仲間のアレーシャ・ブルーコスモス、パース・ヴァイオラベンダー、イリーナ・ホワイトリリーには結界をかけており、有毒物質を自動排除するように設定している。

 クウはオーラと魔素を纏うことで防御した。ちなみに、ベリアルは毒類が効かないので特に対策をしていない。白銀のオーラに驚かれはしたが、スキルを詮索するのはマナー違反とされているので、特に何かを聞かれることもない。本当ならクウにも毒など効かないのだが、超越者の作った概念毒である可能性を踏まえて防御を張っておいたのである。



「周辺には特に気配もなし……か。やっぱり毒ガスか?」


「悩ましいところだね。この辺りには火山なんてないから、自然発生したとは考えにくいよ」


「そうとは言い切れないな」


「そうなのかい少年?」


「例えば沼だ。アレの底に特殊な生物が繁殖すると、有毒なガスを発生させる場合もある。それが充満すればかなり危険だな」


「なるほど」



 クウは念のために沼の底や地面の下も感知したが、今のところ魔物のような存在はない。今クウが言ったように微生物が有毒ガスを発生させた可能性は結構高いだろう。

 しかし、現在は空気中に毒ガスが含まれていないので、絶対とは言えない。微生物が生み出しているとすれば、まだガスが残っているハズだからだ。

 もう一つの可能性として考えるべきなのは、魔物の仕業である。毒を操る魔物がいたとすれば、その影響で変死体が大量に出来てもおかしくない。そしてその魔物から逃れるために、弱い魔物が大移動したと考えれば辻褄は合う。



(なーんてな。答えは既に知ってんだけど)



 セラフォルと話を合わせつつも、クウは既に今回の異変について全て調べ終えていた。《真理の瞳》で情報次元を過去に遡り、解析するだけで簡単に判明したのである。今回は下手に範囲が広く、影響力も高かったので思ったより早く解析が完了した。

 これが細かい変動だったならば解析も面倒だったが、逆に被害が酷いゆえに解析が楽になったのである。寧ろ、これだけ死という現象が起これば嫌でも分かるものだ。



(今回の異変は蝶の魔物レクス・パピリオが原因。魔王オメガは関係なかったな)



 レクス・パピリオは五メートルを超える巨大な蝶の魔物であり、危険度としてはSランクオーバーだ。理由は種族特性として持つ鱗粉が厄介だからである。この鱗粉は強力な毒性を持つので、広範囲に生物を死に至らしめる。

 幼体であり、進化前個体であるクロウラー種がLv100を超えると進化する。そのため、人族領では殆ど発見されたことのない魔物だ。クロウラー種はレベルアップと共に体表が黒に近づいていき、Lv100の時点で蛹となる。そして蛹のまま一か月を過ごし、全てのスキルを最適化してレクス・パピリオへと進化するのだ。

 クロウラー種自体は芋虫型の弱い魔物なので、危険はない。しかし、レクス・パピリオとなった瞬間に危険度が跳ね上がるという珍しいタイプの魔物だった。

 通常、魔物はレベルアップによる強化と共に肉体が耐えられるように自身を進化させる。そのため、徐々に強くなっていくのが通常だった。クウが進化したときのような急激なステータス上昇は、魔物には適応されない法則なのである。その中でレクス・パピリオは急激なステータス上昇を見せるのだから、特殊性がよく分かる。



「ん? なんだか粉が舞っているみたいだね」


「あら、本当です」


「何だか身体に悪そうね」


「何かの花粉かしら?」



 沼地を歩くうちにレクス・パピリオの領域に入ったのか、鱗粉が漂い始めた。黄色の目立つ粉なので、セラフォルたちも当然気付く。

 なので、クウは答えを教えることにした。



「これは鱗粉だな」


「分かるのかい少年?」


「レクス・パピリオって魔物の毒鱗粉だ。情報系の能力で調べたから間違いないぞ」



 解析出来ることぐらいは知らせても良いと思っているので、あっさりと答えをばらす。その程度なら隠す必要もないと考えているからだ。

 また、自分たちは軍の仕事で調査に来ていると言ってあるので、寧ろ情報系スキルぐらいは持っていなければ逆に怪しい。



「レクス・パピリオ? どこかで聞いたことのある魔物だね……」


「忘れたのセラフォル? 仕方ないわね。クロウラー種の最終系よ。結構昔に騒ぎになったことがあったでしょ?」


「ああ、あれか! 確か六十年ぐらい前の話だね。あの時はまだBランクだったし、忘れてたよ」



 幼馴染のイリーナに言われてセラフォルも思い出す。当時はまだセラフォルとイリーナの二人だけでパーティを組んでいたので、アレーシャとパースは首を傾げていた。

 そこでクウは念のためにレクス・パピリオについての説明をする。



「要はデカい蝶だな。毒鱗粉を常に散布しているから、耐性がないと死ぬ。もしくは俺たちのように防御を張るしかない。それが一番厄介な所だ。お前たちも結界を消すなよ。死にたくないならな」


「当然さ。アレーシャもパースもイリーナも大事な仲間だよ」



 セラフォルは当然と言った様子で張っていた結界を強化する。最大まで鍛えている《結界魔法》ならば動きを阻害することなく最高クラスの防壁を張ることも可能となる。また、セラフォルはMP量も膨大なので、これぐらいなら枯渇の心配もなかった。

 そして大事な仲間だと言われて頬を赤らめている三人娘をよそに、クウはある方向に目を向ける。



「鱗粉はこっちから流れている。レクス・パピリオもこっちを行けば遭遇できるはずだ」



 クウが全力で感知範囲を伸ばすと、大きな気配と共に大量の小さな気配も感じ取れた。恐らく、レクス・パピリオがクロウラーを生んだのだろう。

 念のためにそのことも注意する。



「クロウラーも結構いるみたいだ。注意しろよ?」



 そう言いつつ、クウはレーザー攻撃を放った。月属性による高エネルギー光線に《神象眼》を乗せることで必中となる。

 気配察知で得たクロウラーの位置情報を元にしてレーザー攻撃が当たる幻術を世界にかける。同時に周囲の木々には一切当たらない幻術も混ぜた。これによって木々には全く当たらず、クロウラーだけを撃ち抜くという結果が引き出され、過程となるレーザー軌道は辻褄合わせで自動的に決定される。

 『風花』のメンバーは自然への感受性が高いエルフであるため、一応は気を使ったのである。

 だが、その気遣いもエルフたちから見れば凄まじい魔法制御に見える。クウはただ結果だけを引き寄せただけなので、制御自体には演算力を使っていない。あくまで、世界の修正力を利用しただけの手法だ。それを勘違いしたセラフォルたちは目を見開いて驚いた。



「これは凄い。制御の難しい光属性をここまで……まるで精霊魔法だよ」


「クロウラーも見えていませんよね? それを撃ち抜いたってことですか……」


「悔しいけど私たちでも敵わないわ」


「……少し複雑」



 特に光の精霊と契約していたイリーナ・ホワイトリリーは複雑そうな顔をする。超越者ということを考えれば、クウの制御能力は当然のモノだ。むしろ、これぐらい出来なくては超越者は名乗れない。魂の封印を解放され、権能を持つから超越者ではないのだ。全てにおいて凌駕しているからこそ超越者なのである。

 しかし、セラフォルたちからすれば超常の域にある業のように映った。



「これは負けていられないね」



 セラフォルは即座に感知結界を広げてクロウラーの場所を探る。どうやらクウの攻撃で三分の一は死んでしまったらしく、残るクロウラーも混乱しているように感じられた。

 そしてセラフォルは感知したクロウラー種にマーキングを施し、術を行使する。



「『《縛界封滅ディストラクション》』」



 対象を結界に捕え、隔離した空間ごと圧し潰す高位の《結界魔法》だ。防御や感知のために使われることが多い結界属性だが、セラフォルはそれを攻撃の域に高めた。

 魔法とは想像イメージであり、演算イメージの限りどこまでも可能性が広がる。ランクSSに相応しい術師だと言えた。彼は親戚にSSSランク冒険者レインを持つだけあって、精霊魔法だけでなく自身のスキルを高めることも怠らない。更にレインと異なり、彼は天才だった。有り余る才能に努力が加わり、今のセラフォルを作り上げたのである。

 功績さえあればSSSランクも遠くないと言われるのがセラフォル・ブラックローズなのだ。

 ターゲットされたクロウラー種は綺麗に全滅し、残るはレクス・パピリオだけとなる。



「へー。やるな」


「当然さ。僕もSSランクだからね」



 クウはセラフォルの手際を素直に褒めつつ、レクス・パピリオのいる方向へと進む。そしてセラフォルが褒められたことで三人娘たちも機嫌が良くなっていた。

 その様子を黙ったままだったベリアルは微笑ましく眺めていたが。

 だが、事態は急変することになる。

 何の前触れもなく、セラフォルが張っていた結界が消えた。



「な……っ!」



 驚いたセラフォルから、意図的に解除したのではないと分かる。周囲にはレクス・パピリオの毒鱗粉が漂っているので、結界無しではすぐに冒されてしまうだろう。慌てて結界を張り直そうとした。

 しかし、どうやっても結界は発動しない。



「おい、何しているセラフォル!」


「いや、違うんだ! 魔法が発動しない……集めた魔力が霧散してしまう!」


「はぁっ!?」



 これについてはクウも予想外だった。

 確かにクウはスキルを封じ込める手段を持っているが、今回はそんなものを使ってはない。セラフォル自身も《結界魔法 Lv10》が全く機能しないことで戸惑っているようだった。



(超越者の能力か……? だが霊力は感じないぞ)



 仮に超越者が何かをしているとすれば、強い霊力を感じる。隠しようもない魂の波動が感じ取れるはずだった。それが全くないということは、別の何かが作用しているということである。

 しかし、それを考える暇もなくセラフォル、アレーシャ、パース、イリーナは崩れ落ちた。結界が消え、毒鱗粉を吸い込んでしまったからである。

 レクス・パピリオの毒鱗粉は麻痺を促す神経毒の効果がある。早速とばかりに副交感神経が麻痺して心肺停止となり、苦しみ悶えた。ステータスが高いゆえに身体が頑丈であり、気絶することも出来ずに苦しむことになったのである。



「拙いな」



 クウは月属性で回復させ、それと同時に魔素結界を張る。さらに《神象眼》で魔素結界内部の毒を完全消滅させ、セラフォルたちの蘇生を急いだ。

 同時にクウはベリアルに命令する。



「レクス・パピリオを殺せ」


「了解よマスター」



 ベリアルは瘴気で黒い弓を顕現させ、同じく瘴気で形成した矢をつがえる。そしてまだ木々の向こう側にいるレクス・パピリオを気配だけを頼りに狙った。



「貫きなさい、《ブリューナク》」



 貫通に特化した矢が放たれ、邪魔になる木々に穴を開けながら音速の数倍でレクス・パピリオへと迫る。そして二秒後にはレクス・パピリオの気配が消えた。瘴気の矢を受けたことで一撃死となったのである。

 それと同時にクウは範囲を広げて魔法を発動させる。



「毒、瘴気の浄化に特化、《聖域ホーリーフィールド》」



 毒鱗粉とベリアルの瘴気を浄化するために超広範囲で《聖域ホーリーフィールド》を放つ。これによって周囲の空気は元に戻った。



「……ふぅ。これで落ち着いたな」


「ええ、そっちの冒険者たちはどうなのマスター?」


「なんとか生きてるな。スキルが急に使えなくなったみたいだけど……」



 残念ながらレクス・パピリオにはそのような能力などない。つまり、第三者によるスキル無効化だったということになる。クウにも感じさせない精密さでそれを実行できるとなると、答えは限られてくるだろう。



「霊力を感じ取れなかったってことは……情報次元に直接干渉されたか。その影響で、情報次元に記録されているスキルは一時的に使用不可ってなったのか?」


「やっぱり魔王と四天王かしら?」


「光神シンって可能性もあるな。確か裏世界からエヴァンに向かって情報次元攻撃を仕掛けていたはずだ。ゼノネイアたちが対処できなかったからスキルが使えなくなったと考えると辻褄も合う」



 光神シンは裏世界から不正プログラムを送ることで、エヴァンの情報次元にダメージを与えようとしている。そのことから考えると、今回のスキル不全は光神シンが犯人である可能性が濃厚だった。



「確かめてみるか。後で【レム・クリフィト】にも戻るぞ」


「分かったわ」










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