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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
聖剣と聖鎧編
372/566

EP371 共同攻略

新章開始です


~運命迷宮八十階層~



 最後の試練を除けば迷宮最後のボスフロアとも呼べる八十階層。ここはフィールド全体が半径数キロにも及ぶ広大な海となっており、挑戦者は水中戦を求められることになる。

 出現するボスは人族領で最悪と言われる海魔クラーケン。

 巨体を海中に潜ませ、大木よりも太い触手が船をバラバラにする。漁師たちにとって恐怖の象徴とも言うべき魔物がクラーケンだった。

 この八十階層は入口と出口に小さな足場がある以外は全て海水というフィールド階層であり、地の利を完全に奪われている。

 そして襲いかかるクラーケンに対し、五人の少年少女が戦いを挑んでいた。



「理子! もう一度水中に《雷魔法》を叩き込むよ!」


「分かったわ!」



 海水には様々なイオンが含まれており、電気をよく通す。エリカが結界を足場として展開することで味方には被害なく、クラーケンにだけダメージを与えることに成功していた。



「オオオオオオオオォォォ……」



 唸り声を上げたクラーケンが海水から這い上がり、その威容を見せつける。数十本の触手が不規則に動いて海面を荒らした。海水を被ると自分たちも電気で痺れてしまうので、セイジとリコは慌てて飛びのく。

 しかし、入れ替わるようにしてミレイナが飛び込んだ。



「吹き飛べ!」



 《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》によって破壊と無効化の波動が放たれ、荒波ごとクラーケンを吹き飛ばしてしまう。無効化の力でクラーケンが張っている無意識の《魔装甲》すら消し飛ばし、大ダメージを与えることに成功した。

 さらに、そこをリアが弱点属性の炎で焼き尽くす。



「『《火炎連槍撃ミリオニア・バーニング・スピア》』」



 錫杖を構えて得意の魔法を放つ。昔から愛用している魔法なので、威力だけでなく精度もかなりのものだ。今は魔力も上がっているので、その威力は宮廷の魔術師すらも上回る。

 三十もの炎槍がクラーケンへと的確に突き刺さり、爆炎と爆風によって触手を三割ほど焼き焦がした。海というフィールドなので多少の威力低下は仕方ないが、それでもかなりのダメージを与えることに成功している。

 蒸発した海水で霧が発生したので、リコが《水魔法》で消した。

 そんな五人の連携を遠くから眺めるのは超越者となったユナ・アカツキである。



「うーん。リアちゃんは攻撃に向かないなぁ。心のどこかで遠慮しているみたいだし」



 超越者となったユナがクラーケンと戦った場合、瞬殺が可能である。感知で海中にいるクラーケンの位置を割り出し、《天照之アマテラスの太刀たち》で一撃だ。

 だが、今回は不本意ながらセイジたちもいるのでユナは可能な限り能力を見せないことにしたのである。主にミレイナが戦い、リアは補助と回復。迷宮攻略ではこれがメインとなっていた。

 そもそも、問題の発端はセイジがどうしてもユナに教えを請いたいと願ったからである。スキル《仙力》は外のオーラを取り込むために、瘴気を体内に入れてしまう可能性が高く、危険な能力だとユナが指摘した。それによってセイジは能力を使いこなすためユナに頼み込んだのである。

 初めはユナも激しく嫌がったが、無理やりでも付いてこようとしたので諦めた。何も教えるつもりはないが、付いてくる分には無視することにしたのである。

 だが、途中で《仙力》を使うと迷宮を簡単に攻略できることに気付いた。外のオーラを感じ取ることでオーラの流れを読み取り、正しいルートを知ることが出来るようになったのである。淀みなくオーラが流れ込んでくる方向へと進めば、自然と次の階層へ続く階段が見つかるのだ。

 こうして、行動を共にするようになったのである。



「ミレイナちゃんはそろそろ物足りなくなる頃かなぁ。Lv180を超えたって聞いたから、運命迷宮の地獄階層で鍛える方がいいよね」



 電撃、火炎によって力を失ってくクラーケンを見れば、五人がかなりの実力を付けていることも分かる。リアもあの中で見れば目立たないが、一般的には相当な実力者なのだ。それはクラーケンに十分なダメージを与えられていたことからも察することが出来る。

 【魂源能力】を得たミレイナは当然として、やはり勇者たちも強い。まだセイジの【魂源能力】は直接見ていないが、使いこなせばかなりのモノになるだろう。言い換えれば、現段階において脅威となり得ないという意味でもあるが。

 力を失い始めたクラーケンに対し、セイジは最後の一撃を繰り出す。



「これで終わりだ!」



 時空間属性を聖剣に纏わせた空間を切り裂く一撃。

 クラーケンは半透明な青い液体を流しつつ息絶える。ユナもクラーケンから気配を感じられなくなったので、倒せたのは確実だ。

 セイジたちは動かなくなったクラーケンをしばらく見守り、ようやく武装解除する。そして水面の上に張った結界を移動して集まり、簡単な反省会を開いていた。



「うん、危なげなく倒せたね」


「ホントよ! このフロアは全体が海水に沈んでいるし、初めはどうやって戦おうかと思ったわ」


「かなり意地の悪いボスでしたね。それにHPもすごい勢いで吸われていますし」



 スキル《超回復》を持つセイジをはまだしも、リコとエリカにはそろそろキツイ。七十階層を超えると階層数×50を一分間で吸い取られてしまうので、この八十階層では一分当たり4,000ものHPを消耗してしまうことになる。

 高頻度で《光魔法》による回復を行わなければ衰弱死もあり得る危険な領域だ。

 一方、リアはスキル《幸運の領域》を展開することでミレイナと共に回復効果を得ている。基本的に常時発動系のスキルなので、リア自身にも大きな負担はない。ちなみにユナは超越者なのでHP吸収の迷宮効果で死ぬことは有り得ない。

 ユナ、リア、ミレイナの三人は全く問題なかったが、リコとエリカについてはギブアップせざるを得ないところまで来ていたのである。



「お姉様。どうでしたか?」


「うん。リアちゃんも炎の扱いが上達しているね。でも、やっぱり躊躇ってる?」


「えっと……はい……」


「いいんだよ。それがリアちゃんの良さだから。あとミレイナちゃんは完璧だね。破壊迷宮をクリアする前と比べたら驚くほど洗練されている」


「私の《源塞邪龍ヴリトラ・アニマ》は中々の暴れ馬だからな。きちんと制御しなければ私自身ですら扱いきれない。洗練されているのは当然だな!」



 ネメアの試練を乗り越え、天使となってからのミレイナは以前とは比べ物にならないほどの落ち着きを得た。体術も洗練され、糸の操作技術も上がり、各種スキルの扱いも質の面で上昇している。自身の持つ力を上手く練り上げ、一点に集中する技を身に着けたのだ。

 ただ、ユナに褒められて嬉しそうに頬を緩めている姿は実に子供らしい。

 普段は見せないミレイナの可愛らしさに興奮したユナは、思わず彼女を抱き寄せて撫でる。初めは抵抗したミレイナだったが、意外とすぐに身を委ねて大人しく撫でられた。ミレイナ自身がユナを強者として慕っていることもあるが、一番はユナに止めるように言っても意味がないことを理解しているからだろう。



「もう~。ミレイナちゃんも可愛いなぁ」


「……恥ずかしいから程々にしてくれ」



 ユナは満足するまでミレイナを撫で続け、それを見ていたリアは苦笑するのだった。

 だが、そこにセイジが声をかけたので、ユナはミレイナを愛でる行為を止めることになる。



「済まない。リコとエリカがHP的に少し拙いみたいなんだ。先を急がないか?」


「えー? 先に行けば?」



 抑揚のない冷たい返しを聞いてセイジは石のように固まる。《仙力》を使いこなすためにユナから色々と話を聞きたいにもかかわらず、ユナはその殆どを冷たくあしらっていた。

 それでも諦めないあたり、セイジもかなりの精神的強さを獲得しているのかもしれない。もしくは、それほど力を求めているということだろう。

 ユナもセイジが自力でスキルを理解する、またはユナから見て盗む程度なら許容している。今の関係性は敵だが、地球出身者としての慈悲でそれぐらいは黙認することにしているのだ。しかし、わざわざ時間を割いてまで教える義理はないとも考えている。

 どんなに拝み倒されても教えるつもりなどなかった。



「あのー、ボスも倒したのでそろそろ認めて欲しいんだけど……」


「認めるって何を?」


「いや、スキルについて伝授して欲しくて……」


「認めるも認めないも、私ってそんな約束したっけ?」


「いや、でも……」


「そんな約束したっけ?」


「いや、だから……」


「そんな約束したっけ?」


「…………していないです」



 がっくりと項垂れるセイジ。

 リコとエリカがそれを元気づける。初めは二人も冷たいユナに突っかかっていたが、今では無駄だと悟ってセイジを慰めるだけに留めている。

 最近では、逆にリアとミレイナが気の毒そうな視線を向けるようになったほどだった。

 何とも憐れみの込められた視線を向けられたせいか、セイジは気まずくなって今日は諦めることにする。



「わかった。僕たちは宿に戻るよ。もしも気が変わったら―――」


「それはないよ」


「――即答とは手厳しいね。でも、強くなるためのヒントは貰ったから、それで満足するさ」



 セイジも引き際は心得ているので、ちゃんと空気を呼んで去ることにする。リコとエリカのことを考えれば、そろそろ迷宮での修練も終わりだろう。

 だが、自身の鍛えるべき部分は見つかった。

 スキルポイントによって能力を習得してきたセイジにとって、スキルを使いこなすという行為は目新しいものだ。実際、《魔力支配》スキルも、魔力系の各スキルをそれぞれ使っているに過ぎず、本来の複合して操るところにまで至っていない。

 レベルも大切だが、それ以上にスキルを如何にして使いこなすかが重要だった。

 エリカが八十階層の奥まで結界による道を敷き、セイジたち三人は歩いて去って行く。その様子を見ていたリアは心配そうな口調でユナに話しかけた。



「本当に良かったのですかお姉様?」


「大丈夫大丈夫。それに、ここを早くクリアしてするのが最優先だもんね。くーちゃんに早く会いたいし、勇者なんかに構っている暇はないんだよ!」



 ユナの願望はそれに尽きる。

 ただでさえ、最近はクウは魔王軍第零部隊というものを設立したので、合法的に同じ職場にいることが出来なくなった。その上、長期間に渡って会えない状態が続けば、ユナにも不満が募るというものだ。



「じゃあ、邪魔者はいなくなったことだし、さっさと残りの階層を降っていくよ」


「わかりました」


「ああ」



 ユナが魔素で足場を形成し、三人は八十階層の出口に向かって歩いていく。

 だが、この時のユナたちはセイジたち勇者組と運命迷宮で会うのが最後になるとは思ってもいなかった。









 種族進化とステータスの伸びについて質問があったので、お答えします。感想欄でも同様のことが掛かれているので、以下の内容はそのコピーを少し編集したものです。すでに感想欄をご覧になった方も、こちらを読んでいただいた方が分かりやすいかもです。


 潜在力という魂のポテンシャルを考えます。

このとき、レベルやスキルはポテンシャルを縛る枷となります。枷をつけることで一定値にまで制限するというわけです。このとき、種族も枷の一つとして働いています。

種族進化=枷の解放=ステータスの爆発的伸び

 という図式になるわけです。


しかしここで例外が発生します。

種族進化は基本的に加護によって生じるものです。(魔物は魂を持たない存在なので除外)

ですが、神の加護と天使の加護を同列にしてよいのか悩んだ末に、一定の規則性を設けることにしました。


神の加護:強力で枷を一発解放

天使の加護:微弱で枷を少し解放


つまり天使の加護の場合、完全な枷の解放ではなく、中途半端な解放となります。例えば精霊王フローリアは天使なので、ユーリスに加護を与えてもステータスのアップの望めない進化となりました。リグレットが妹のレミリアに与えた加護も同様ですね。【固有能力】を獲得して種族進化はしましたが、枷としての解放は中途半端です。

 ユーリスの場合は、その後、『天の因子』を受け入れることで意思力封印解放と同時に、残りの種族枷も解放されたというわけです。

まぁ、元から種族枷が解放(仮)だったからこそ、神種化によって解放(真)になったわけですね。


天使の加護:種族自体の進化(弱)

天の因子:種族をそのままに強化(神種化)


 この二つが組み合わされた結果がユーリスというわけです。枷が解放されてステータスが三倍から四倍ほどになっています。

 逆にセイジは天の因子による種族強化しか受けていないので、そこに進化はなく、ステータスはあまり伸びませんでした。

 クウは虚空神の加護によって一発解放されているので、一気に進化しました。ちなみに仮の加護である虚神の加護などは【固有能力】と多少の補正を与える程度に絞っているので、進化(仮)すらありません。



 大抵の設定は矛盾なく管理しているハズですが、疑問に感じる部分があれば遠慮くなくコメントをください。多分、小説の内容だけでは裏設定まで語らないと思うので。



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