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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
虚空の迷宮編
37/566

EP36 伯爵家と護衛依頼⑧

 

 今日の日付で、4つの条件の代わりにフィリアリアをパーティに加えると書き終えて、自分の署名欄にサインする。もう一つあるサインの欄にテドラがサインすれば契約完了だ。クウはテドラと一瞬目を合わせてから契約書を手渡す。さっそくテドラも聞きそびれた最後の条件を読み始めた。



(なるほど、フィリアリアと親子の縁を切らない・・ことか。さっきの質問と関係があると言っていたが、そのままだな。恐らくこやつは貴族である私と縁を持っておきたいということだろう。縁があるというだけなら立場は私の方が上だ。問題はないだろう。むしろこちらの思惑としては好都合だ)



 クウが口に出して言った1つ目と2つ目と3つ目の条件についても念のために確認して、不備がないように何度もチェックしてからサインする。

 それと同時に契約書が淡く光り、契約書に書かれたサインが浮き上がってクウとテドラの身体に吸い込まれていく。クウのサインはクウに、テドラのサインはテドラに。



「これで契約完了だ。もし破棄するならば、サインが消えたこの契約書にお互いがもう一度サインする必要がある」


「そうですか、でしたら今日からフィリアリアはラグエーテル家とは何の関係も無くなりましたね。今日付けで貴族でも伯爵の娘でもなくなりましたから」


「何っ? フィリアリアとは親子関係のままではないのか?」



 予想外のクウの言葉にテドラは動揺した声を上げる。そんなテドラにクウは冷ややかな笑みを浮かべながら返答する。



「何を仰っているんですか? 契約内容をよく読んでください」



 テドラは訳が分からないといった様子でテーブルに残った契約書にもう一度目を通した。



――――――――――――――――――――――――――――――

1、クウ・アカツキに関する情報をかの公爵家に直接、あるいは間接的に伝えない。


2、フィリアリア・ラトゥ・ラグエーテルは永久に貴族の身分を消失する。


3、クウ・アカツキの邪魔をしない。ただし、ルメリオス王国に不利な、または犯罪に準じる行為については例外とする。


4、テドラ・レットル・ラグエーテルは娘のフィリアリアと、親子の縁を永久に切。また、以降フィリアリアはクウ・アカツキの妹とする。


これら4つの条件の下、クウ・アカツキはフィリアリアとパーティを組み、虚空迷宮の攻略を執り行う。

―――――――――――――――――――――――――――――――



「な……どういうことだ……?」



 もちろん《虚の瞳》で幻覚を掛けて、虚偽の4つ目の条件を見せたのだ。多少……いや、かなりズルいとクウ自身も思ったが、自分とフィリアリアを利用しようとしたのだから容赦はしない。



「どうしましたか? もしや読み間違い・・・・・でもしましたか?」



 テドラは思い出す。クウが虚空迷宮の幻覚を上塗りするほどの幻術の使い手であることを。そして恐らくその能力で騙されたことを。

 だが、魔力を消費せずに幻術を行使できる《虚の瞳》の力を証明できるはずもない。これが魔法ならば、魔力を多少なりとも感知することが出来たかもしれないが、それが全くないのだ。



(やられた……恐らくヴェンスでさえも私に何が起こったのか理解していない。そして契約が成立した以上はフィリアリアと私は全く関係のない人間となってしまった。クウ・アカツキは最初から私と関係を持つことではなく、完全に切り離すことを狙っていたのか!)



 打ち震えるテドラを不審に思ったフィリアリアとヴェンスは横からチラリと契約書の内容を見る。条件の1つ目と2つ目と3つ目はクウが口に出して言っていたことなので驚くようなことはない。だが、途中で口を止めた最後の条件が驚愕すべきものだった。



「なっ、これはっ!」


「わ、わたくしがクウさんの妹になるんですかっ!?」


「そうだ。よろしくな」



 契約書とクウの顔を何度も交互に見るフィリアリアに極々冷静に応えるクウ。話の展開について行けずにフィリアリアは混乱している。自分の意見も聞かれずにクウが自分を妹にすると言い出し、それを父親が了承したのだから、その混乱も当然といえば当然なのだが…………

 頭を抱えるテドラ、困惑するフィリアリアとヴェンス。そんな3人にお構いなくクウは立ちあがって口を開く。



「テドラ伯爵、あんたは俺とフィリアリアを利用しようとしていたな。契約のせいでフィリアリアを公爵家に嫁がせることに失敗したから、次は俺にって魂胆だろ? 虚空迷宮の幻覚効果を打ち消せる俺と強い繋がりを持っておけば便利だろうからな」


「そ、そんなことは……」



 クウはもはや敬語も止めて、圧を掛けながら話している。魔力と少しの殺気を混ぜた圧力に当てられてテドラは冷や汗をダラダラと流すが、クウは容赦なく圧を強める。



「そんなことはないってか? そいつは嘘だな」


「嘘では……」


「何故って、あんたはフィリアリアを心配して俺に託そうとした訳じゃないからな。言っておくが俺は嘘を見破るスキルを持っている。最初からフィリアリアをカードとしてしか認識していないことは分かってたんだよ」


「馬鹿な! そんなスキルが……」


「いいか? ともかくあんたは契約書にサインした。今日からフィリアリアはあんたの手札じゃなくて俺の家族だ。手を出すならまた・・愉快な夢を魅せに来てやろう」


「は、はい! わかりました」



 テドラに掛ける圧を最大まで上げて脅しておく。

 ピリピリと張り詰めた空気はクウとテドラの間のみであり、フィリアリアとヴェンスは一体何が起きているのか理解すらできていない。だがヴェンスは、主に対して不敬な物言いをする少年には今逆らってはいけないとだけ感じ取っていた。本能が言っているのだ、「レベルが違う」と。


 一通り釘を刺したクウは改めてフィリアリアに向きなおって圧を解除する。



「フィリアリア、そういうわけでお前は今日から一般市民だ。そして俺の妹ということになった。宿に帰るから荷物を準備しろ」


「え……? は、はいっ!」



 状況理解が追い付いていないが、これからはクウと一緒に居られるということだけは感じ取れた。まだその恋心を自覚してはいないが、「クウと迷宮を探検できる」「家族として繋がっている」という感覚は麻薬にも似た恍惚としたものを浮き上がらせた。


 2人は応接間を後にする。

 両手をテーブルについてうなだれるテドラと困惑するヴェンスを残して……













「勝手に妹にして悪かったな」


 伯爵家を出たクウとフィリアリアは今夜泊まる宿に向けて歩いていた。成り行きと勢いとは言え、フィリアリアの意見も聞かずに決めてしまったことにクウも多少の罪悪感は感じていた。



「いえ、嬉しいですよ。ハッキリと『自分の家族だ』なんて言ってくれたのは母上とクウさん……クウ兄様だけです」


「うっ……。自分で言っておきながら『兄』と言われるとむず痒いものがあるな」



 クウの反応にクスクスと笑うフィリアリア。冒険者としての白いローブと杖を持ったフィリアリアと全身真っ黒のクウの姿はまさに対極ともいえる。だが並んで歩くその様子は兄妹きょうだいと言っても過言ではなかった。もしクウの身長があと10㎝高く、大人っぽい顔つきだったとしたら恋人同士だと思われたのかもしれないが……



「そう言えばステラとメイドは俺に文句とか言ってこなかったな。特にステラとは下手したらり合うことになると思ってたけど」



 伯爵家を出るとき、ステラとアンジェリカとレティス、そしてフィリアリアの実の母親が見送りに来た。その時に初めてクウはフィリアリアの母親と話をしたのだが、「お願いします」とただ一言頼まれただけだった。フィリアリアに似て真っ白な肌と栗色の髪が美しいヒトだったのだが、見た目だけでなく心も美しい出来た人物だというのがクウの印象だった。

 見送りに来たステラとは一悶着あると思っていたのだが、何事もなく終始クウをジッと見つめているだけだったのだ。むしろメイドたちにあれよこれよと言われたのは予想外だったといえよう。



「ま、それはともかく明日からはパーティとして迷宮に入ることになるな。ギルドでパーティ登録と、カードの更新をしておかないとな」


「ギルドカードの更新ですか?」


「お前はラグエーテル家とは縁を切られて俺の妹になったんだろ? だったら名前をフィリアリア・ラトゥ・ラグエーテルからフィリアリア・アカツキに変えないとな」


「フィリアリア・アカツキ……」



 同じ苗字ということに胸が高まりフィリアリアは顔を赤くするが、クウはそれに気づかず話を続ける。



「フィリアリア・アカツキというのはなんだかゴロが悪いよなぁ。そもそも外国の名前に日本の苗字だから当然といえば当然だよな」


「あ、あの……アカツキと名乗ってはいけないのでしょうか?」



 名前のゴロに不満がある様子のクウを見て、フィリアリアはしょげ返った声を出してクウを見上げる。薄ら涙を浮かべるフィリアリアにクウは慌てて弁解した。



「いやっ、そういう訳じゃない。ただ何となく名前と苗字の組み合わせ的に違和感があると思っただけだ。なんならいっそ名前も変えて苗字に合わせてみるか? そうだな……フィリアリアからとってリア・アカツキなら違和感がないと思うが?」


「リア・アカツキ……ですか……」


「ああ……別に俺が勝手に違和感を感じているだけだから嫌なら別に構わないぞ?」


「いえ、リア・アカツキ。気に入りました。今日からこの名前を名乗ることにします、クウ兄様」


「え? いいのか?」


「はい!」




―――――――――――――――――――

リア・アカツキ   14歳

種族 人 ♀

Lv59


HP:1,910/1,910

MP:2,741/2,741


力 :1,462

体力 :1,498

魔力 :1,986

精神 :2,071

俊敏 :1,524

器用 :1,923

運 :31


【固有能力】

《治癒の光》


【通常能力】

《礼儀作法Lv4》

《舞踊Lv4》

《杖術Lv5》

《炎魔法Lv6》

《光魔法Lv5》

《回復魔法Lv7》


【称号】

《元伯爵令嬢》《魔法の申し子》《妹》

―――――――――――――――――――





―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ 16歳

種族 人 ♂

Lv56


HP:1,862/1,862

MP:1,711/1,711


力 :1,687

体力 :1,695

魔力 :1,801

精神 :6,200

俊敏 :1,858

器用 :1,893

運 :40


【固有能力】

《虚の瞳》


【通常能力】

《剣術Lv5》

《抜刀術 Lv7》

《偽装Lv7》

《看破Lv7》

《魔纏Lv4》

《闇魔法Lv5》

《光魔法Lv5》


【加護】

《虚神の加護》


【称号】

《異世界人》《虚神の使徒》《精神を砕く者》《兄》

―――――――――――――――――――




 なんとなく《看破Lv7》でリアのステータスを見ると、名前がフィリアリア・ラトゥ・ラグエーテルから変化してリア・アカツキになっていた。称号も《伯爵家の長女》が消えて《元伯爵令嬢》に変わり、《妹》という称号が追加されていた。


 クウの方にも称号《兄》が追加されていたのだが、兄よりも妹の方がレベルが高いことに複雑な気持ちを覚えるのだった。





次から新たな章に突入!

すっかり忘れられてた勇者たちの話から始まります

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ここらでギブです
主人公を完全無欠にし過ぎたのかアリアがパッとしないのか 普通こういうところに収まるのは一方向に突出しすぎた扱いづらい奴なんだけどね "そういう目的"なら分かりますけどねぇ
[一言] 結局母が困ると思っている事柄は改善されないままだけどこのまま進むのかな。
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