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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
吸血鬼の女王編
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EP368 超越者の戦い⑤


 フワフワと宙に浮くエーデ・スヴァル・ベラは一見すると無害にも見える。種族特性「浮遊」を有しているのでファルバッサの《王竜の庭園ロイヤルガーデン》でも落下せず、まるで周囲を観察するかのように、ただ浮かんでいるのだ。

 半透明のクラゲという見た目が余計にその思考へと至らせている。



(ま、油断はしないけど)



 能力をある程度は解析しているので、エーデ・スヴァル・ベラの恐ろしさは理解している。テスタの言葉から攻撃を反射させることも分かっているので、迂闊なことも出来ない。



「まずは……幻剣が反射されるのか確かめないとな」



 実態ではなく幻術――幻剣はあくまでも幻術。高度な暗示によって斬られたように錯覚し、対象に傷が生じる――ならば反射されることもないのではないかと考えたのだ。

 クウは周囲に展開する幻剣の一本を射出し、エーデ・スヴァル・ベラに突き刺した。すると、次の瞬間にはクウの腹部に幻剣が刺さる。



「痛っ……幻術も反射するのかよ……」



 どうやら、認識できるモノは反射可能らしい。

 権能【存在思考アザトース】は考えたものを現実に変えるという力だ。自身の意思次元を情報次元や物理次元に接続しているので、認識したことは全て実際に起こる。

 今も、エーデ・スヴァル・ベラは自身の体表に刺さった幻剣を本物の剣と認識し、そのまま反射してクウの体に刺さるように想像したのだ。故に現実となったのである。

 クウは剣を抜いて即座に傷を再生し、次の手を考える。



(攻撃は認識されると自動反射……つまり認識されない攻撃でなければならないってことか。もしくは理解不能な攻撃を叩き込む)



 少なくとも、攻撃を認識させないというのは無理がある。

 この自動反射は厄介で、まずエーデ・スヴァル・ベラは特性「感覚消失」によって苦痛をデータとして観測する。つまり、同じダメージを負うならば、先に倒れるのはクウだということだ。更にクウの攻撃は相手に認識させることで実体化するというものであり、まさに天敵とも言える。

 逆に理解不能な攻撃ならば可能性はある。

 エーデ・スヴァル・ベラは想像によって因果を操り、創造をしている。それには理解が必要であり、理解不能な物質や現象は想像など出来ない。

 ただ、これも非常に難しい。理解できるかどうかはエーデ・スヴァル・ベラにかかっており、どのような攻撃は理解不能となるのか判明していないからだ。試している内にクウが《自動反射フルカウンター》で倒れるということも起こりかねない。



「となると……やはり俺以外が攻撃するってのが一番安定しそうだな。《死神葬列デス・パレード》」



 クウがそう呟くと、千の幻剣は全て大鎌を持つ死神へと変わった。少し前に精霊を危機に陥れたアンチエレメンタルである。当時は対精霊専用に調整したものだったが、今出したのは幻術生物として完成させた意思力を刈り取る『死神』である。

 大鎌には意思次元攻撃が僅かに付与されており、斬られると精神的な喪失感を覚える。一般人が喰らえば一撃で気を失うことだろう。

 そして死神がエーデ・スヴァル・ベラを攻撃した場合、《自動反射フルカウンター》は死神へと還っていくことになるのだ。つまり、反射ダメージを抑えられるのである。死神はクウが幻術で幾らでも出せるので、潰された所で痛手はない。



「やれ」



 その指示に従い、千の死神がエーデ・スヴァル・ベラへと殺到する。

 手に持った大鎌で次々とエーデ・スヴァル・ベラを攻撃し始めたのだった。そして斬撃と同時にエーデ・スヴァル・ベラに精神ダメージを与え、《自動反射フルカウンター》で死神も真っ二つになる。まさに物量作戦とも取れる方法でクウはダメージを与えることに成功した。

 しかし、エーデ・スヴァル・ベラも反撃にでる。

 想像によって現実に介入し、クウへと直接攻撃を開始したのだ。イメージしたのはクウが無数の剣によって貫かれている姿。そしてそれは寸分違わず現実となる。



「ぐっ……邪魔だ!」



 すぐに《幻葬眼》で消し去るも、エーデ・スヴァル・ベラの想像が止まったわけではない。消した瞬間には次の剣がクウに突き刺さった状態で出現する。



(予想以上にヤバいなこれは!)



 思考しただけで「存在」が確定する。

 それは異常なまでに強い。恐らくは相当な意志を乗せているのだろう。「並列意思」という特性を有している以上、一つの想像あたり一つの意思を乗せることすら可能だ。超越者が無意識で張っている防御程度は軽く貫ける。

 このままでは拙いと判断したクウは咄嗟に思いついた方法で脱却を図った。



「く……《月界眼》」



 痛む身体に耐えつつ意思を侵食させて夜の世界を作り上げる。天に浮かぶ満月は深紅に染まり、クウが右目を閉じると同時に六芒星が浮かび上がった。

 運命の流れを創り上げる最強瞳術。

 それは因果の根底を築くことに等しい。

 クウは自身とエーデ・スヴァル・ベラの運命を選り分け、二つに分岐させた。それによって二人の因果が決して交わらぬように調整する。つまりエーデ・スヴァル・ベラの想像はクウに届かなくなった。そもそも運命の線が異なっているからだ。逆に、クウもエーデ・スヴァル・ベラへと因果の改変を届かせることは決してできない。

 これは相手の想像を封じると同時にクウ自身の「意思干渉」も制限することになった。

 しかしこれはクウがエーデ・スヴァル・ベラへの因果操作を、そしてエーデ・スヴァル・ベラがクウへの因果操作を封じただけであり、世界への因果操作や自身への因果操作は可能である。別に戦いが出来なくなったわけではない。



「思い付きだったけど上手くいったな……痛ッ……」



 多大な負荷を強いる《月界眼》の副作用でクウは酷い頭痛を覚える。

 また、何度も剣で刺されたので、意外に消耗しているようだった。思えばまともにダメージを受けるのも久しぶりである。

 だが、発動した《月界眼》によってもはやエーデ・スヴァル・ベラの想像はクウに届かない。運命の流れが完全に分かれているからだ。運命の改変は同じ流れの中で行うことだが、運命の流れを操るというのはもっと大きな俯瞰視点から運命操作をすることになる。もはやクウとエーデ・スヴァル・ベラの運命は交わらず、お互いに因果の影響を与え合うことが出来ない。

 エーデ・スヴァル・ベラはそのことで困惑しているようだった。幾ら想像しても、クウへと届かないのだから当たり前である。間違いなく初めての経験だろう。

 その隙に、クウは次の行動へと移っていた。



「仕返しだ。さっきまでの分を含めてな」



 居合の構えを取り、全ての意思力を一刀に集中する。敵を殺すために柄を握り、その意思を込めて白銀の巨大な太刀を顕現させた。クウの握る神刀・虚月と連動して動き、エーデ・スヴァル・ベラを切るためだけに存在する太刀。

 クウは一瞬の隙を突いて発動する。



「《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》」



 意思次元を切り裂く超越者殺しの一撃。

 白銀の巨大な太刀がゼリー状の体を大きく切り裂く。

 如何にエーデ・スヴァル・ベラが「感覚消失」を持っていようと、意思次元を直接切り裂く攻撃には耐えられない。魂が凄まじい痛みを訴え、生命の危機であることを主張する。これまでほとんど身動きしなかったエーデ・スヴァル・ベラが大きく蠢いて苦しみを訴えた。

 まだそれほどダメージを与えていなかったので、一撃で殺すことは出来ないだろう。だが、大きなダメージを与えることには成功した。



「よし……」



 ペースを掴めてきたことで調子を取り戻しつつ、一旦クウは下がる。《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》も連発できるような術ではない上に、かなりの集中力を使うので、少し休憩が必要なのだ。

 離れたところから観察すると、エーデ・スヴァル・ベラは蠢きながら傷を再生させていた。魂を削られる感覚が余程苦しかったのか、無数の触手を激しく痙攣させている。

 だが、それと同時にエーデ・スヴァル・ベラの苦しみを表すかのように、周囲の景色が大嵐の海へと変貌してしまう。「次元接続」によって想像したことが情報次元に漏れ出し、勝手に現実へと改変されてしまったのだ。クウへの因果干渉は不可能だが、世界への干渉は可能なので想像が発動してしまったのである。

 風速千メートルという音速の数倍にも及ぶ暴風が発生し、空は暗い雲に覆われる。大海原は激しい波を立てていた。

 流石のクウもこの不意打ちには対応できず、一瞬で上下感覚を失って海に叩きつけられる。更に凄まじい海流に揉まれて体がバラバラになりそうな程の負荷を受けた。



(ぐ……《幻葬眼》)



 とりあえず視界の範囲だけでも消そうと、《幻葬眼》を使用する。眼に映る現象は幻想でしかないと世界が錯覚し、大嵐は消失する。しかし、次の瞬間にはエーデ・スヴァル・ベラの心象に侵食され、再び大嵐へと変貌してしまった。



(ダメか。想像するだけでこんな嵐を起こすとか反則だろう……)



 想像イメージを世界に流す因果系の能力なので、ファルバッサの《王竜の庭園ロイヤルガーデン》でも止めることは出来ないだろう。超越者なので呼吸不能な状態でも生命に問題はない。しかし、音の数倍にも及ぶ速さの風が吹き乱れる世界というのは、もはや想像の埒外だ。恐らく、エーデ・スヴァル・ベラ自身も上手く制御できていないのだろう。

 権能【存在思考アザトース】は強力すぎる代わりに、制御が困難と予想できた。

 一方、クウから意思次元攻撃を喰らったエーデ・スヴァル・ベラも、初めての痛みに戸惑っていた。魂が痛む感覚というのは表現しがたい不快感を伴うものであり、これ以上に無く困惑していたのである。



――対象、黒い人型には想像が効かないことが判明。否、正確には途中から効果の消失を確認。巨大な白い武器で攻撃された後、大きな痛みを自覚。「感覚消失」を持つことから通常の痛覚ではないと予想。もしくは、黒い人型に能力を無効化する能力があると仮定する――



 混乱する一方、「並列意思」によって冷静な分析も行っていた。

 乱れる意思が権能を勝手に行使していることを気にも留めず、冷静な意志は考え続ける。クウの放った《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》を危険だと断定し、自らの命を脅かす存在を消すためにはどうするべきかを思考し始めたのである。



――私の想像は黒い人型に通用しないことを観測。ただし、世界に対する想像は有効。よって能力が無効化された可能性を除去。私と同じ因果系の力で相殺していると想定。「並列意思」で意思力を重ね合わせれば突破できるかを検討……困難と断定。私と黒い人型の間に因果の繋がりは見出せず――



 自身とクウの間にあった因果が完全に断たれていることを知覚する。

 互いの運命は絶対に交錯せず、因果干渉をかけあうことは出来ないと判断した。思考することが存在意義であるエーデ・スヴァル・ベラにとって、この程度の解析は容易い。「次元接続」によって感じ取れる状況から考察すれば、大抵の答えには辿り着くのだ。



――驚異の排除には正面からぶつかり合うことが必要。よって意志の侵食を開始する。「次元接続」により物理次元、情報次元、意思次元、虚数次元を並列接続。虚数次元の無限エネルギーを「完全演算」で制御……成功。私の「存在」を極限化……成功――



 エーデ・スヴァル・ベラは凄まじいまでの思考によって虚数次元を制御し、余剰エネルギーとして蓄えている無限のエネルギーを引き出す。「完全演算」の特性が制御することで、安定したまま神の如きエネルギーを獲得した。



――発動、世界侵食イクセーザ《無敵モード》――



 嵐が止み、エーデ・スヴァル・ベラは空間を重くするほどのエネルギーに包まれる。あらゆる干渉を力技で撥ね退け、圧倒的なエネルギーで叩き潰す『無敵』の超越者が君臨したのだった。










これがホントのチート能力。


 あと、「次元支配」と「次元接続」の違いについても質問があったので、後書きの場を借りて説明させていただきます。

 以下は感想欄に書いた解答と同じです。


 まず「次元支配」ですが、空間操作系の性質を秘めた汎用性の高い能力です。各次元に干渉するポテンシャルを秘めているのは勿論ですが、転移や時間操作などの能力も秘めています。

時空間操作系は物理次元と情報次元による能力なので、「次元支配」単体でも実行可能というわけですね。


 対する「次元接続」ですが、これは各次元に干渉することだけに特化した能力となっています。なので、この特性単体では殆ど何もできません。他の特性と組み合わせることで強い効果を発揮する能力となっています。

かといって「次元支配」の劣化というわけではありません。特化していることで単純な干渉力は「次元支配」を大きく上回ります。エーデ・スヴァル・ベラの場合は「思考」「存在」と組み合わせれば、想像するだけで時空間操作も出来るので、「次元支配」よりも「次元接続」の方が有用だったというわけです。




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