EP367 超越者の戦い④
【アドラー】での任務を終え、戦場へと飛ぶクウは遂に巨大な黒い領域を見つけた。直径にして十キロを超えているのではないかと思うほど大きな半球状の領域であり、結界として張られているのだと分かる。
周囲の環境を配慮して張ったモノだろうと予想をつけることが出来た。
「ここか……」
まず、クウは中に入る方法を考える。
《真理の瞳》で軽く見た結果、内部は一つの異世界として区切られていることが判明した。つまり、多少のことでは破ることが出来ないのである。そこで、クウは切ったという結果を残す《神象眼》で結界を切り裂くことに決めた。
「切る対象は見えている……いける!」
神刀・虚月を構えたクウは、一息で居合を放つ。同時に、《神象眼》によってクウの意思が反映され、刀の軌跡に沿った直線状が全て切断された。
空間は引き裂かれ、ガパリと大きな口を開ける。
その中から、透明な液体が噴き出してきた。
「……水?」
何の変哲もない水である。
強いて言うなら、塩分やミネラル分を含んだ海水だ。
「邪魔……だよな……?」
流石に海水の中に飛び込むつもりはない。
そこで、クウは《幻葬眼》を使い、海水という存在を幻想に還した。世界が海水を錯覚だと認識し、結果として海水は綺麗に消え去る。それからクウは中へと飛び込んだ。
背後で結界が修復されるのを感じつつ、内部の様子を確認する。
すると、体中を切り裂かれ、肩で息をするアリアとリグレット、そして透明な氷の中に閉じ込められたメロとテスタの姿がクウの眼に映った。
「……なっ!」
どう見ても劣勢だ。
魔王オメガ、『氷炎』ザドヘル、『人形師』ラプラス、『死霊使い』オリヴィアは健在であり、更には黒紫色の気を放つ謎の人型や、数百メートルはあるクラゲのような謎の生物までもいる。
詳しい状況の把握は困難だが、少なくとも優勢とは言えないだろう。
すぐに《真理の瞳》を発動し、最低限の情報を叩き込んだ。
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オメガ 1487歳
種族 超越神種天魔
「意思生命体」「天使」「魔素支配」
権能 【怨讐焉魔王】
「魔神体」「顕現」「誓約」
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ザドヘル・フィラー 971歳
種族 超越神種魔人
「意思生命体」「魔素支配」
権能 【氷炎地獄】
「熱支配」「活性」「沈静」
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オリヴィア・エイクシル 671歳
種族 超越神種魔人
「意思生命体」「魔素支配」「並列思考」
権能 【英霊師団降臨】
「死霊召喚」「死者支配」「死の祝福」
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ラプラス・アルマ 733歳
種族 超越神種魔人
「意思生命体」「魔素支配」
権能 【甲機巧創奏者】
「顕現」「創造錬成」「機人形」
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どうやらこの場にいるオメガは本体らしいと分かる。そして黒紫の気を放つ人型はオメガの術によって作り出された存在だと理解できた。また、厄介なのはラプラスの操るバハムートである。クウの知らぬ間に準超越者へと至り、物理法則を殆ど支配する領域にまで到達した。しかも、バハムートは使い捨て出来る存在なのだから恐ろしい。現在も四体が顕現しており、ラプラスの周囲を浮遊しながら護衛している。
だが、クウの眼を引いたのはもう一体のクラゲのような超越者だった。
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エーデ・スヴァル・ベラ 1293歳
種族 超越神種海霊王
「意思生命体」「浮遊」「並列意思」
「水霊」「感覚消失」
権能 【存在思考】
「次元接続」「完全演算」「存在」
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半透明のクラゲのような化け物、エーデ・スヴァル・ベラは超越者として規格外である。権能【存在思考】とは「次元接続」によって自身の意思次元と『世界の情報』を接続し、「完全演算」によって想像したものを「存在」によって創造へと変えるのだ。
つまり言い換えると、思ったことが現実になるのである。
特性「並列意思」を持っているので、多重に創造することも可能であり、「水霊」の特性のお陰で水を自在に操ることが出来る。
果てには特性「感覚消失」までも保有しているのだ。これは感覚を思考として捉えることの出来る特性であり、どんなに苦しみを伴う攻撃であったとしても、それをデータとして観測してしまう。つまり精神疲労が存在せず、超越者としてほぼ無敵なのだ。
自身に向けられた攻撃を冷静に解析し、想像することで中和と反撃をする。「並列意思」のお陰で完全自動化された反撃システム《自動反撃》がある。テスタはこのせいで重力攻撃を自身に反転させられてしまったのである。
また、「次元接続」で自身と味方の意思次元を繋ぎ、「存在」によって補強すれば、超越者を根底から回復させることが出来る。
攻撃・防御・補助のどれを取っても一級品と呼べる超越者だった。
「想像以上に状況が悪いな! 《神象眼》ッ!」
クウは幻想を現実へと変える「魔眼」によって魔神アラストルを縛り上げる。出現した鎖はクウの意思力に比例した強度を持っているので、準超越者である魔神アラストルでは解くことが出来ない。この空間において最強という概念を保有するが、それを上回る意思力で因果ごと縛られると動けないのである。要するに、魔神アラストルにとって相性が悪かったのだ。
だが、流石は世界侵食だと言えるだろう。
魔神アラストルを縛るためにクウは演算力のリソースを殆ど使用しているのだから。お陰で今は簡単な能力しか使えない。
「アリアとリグレットは今の内に立て直せ!」
クウの言葉にアリアとリグレットは頷き、自身の回復に全力を注ぐ。それを邪魔するべくラプラスがバハムート四体を仕向けたが、それよりも先にクウが先手を打った。
「やれ、ベリアル」
「仰せのままにマスター」
クウは腰に付けていた魔神剣ベリアルから疑似精霊ベリアルを呼び出す。黒い瘴気が形を成して深紅の瞳を持つ紫髪の美女となり、固有武装である弓を構えた。
そして目にも留まらぬ速さで射出し、バハムートの口内を正確に穿つ。情報次元を殺す攻撃によってバハムートは内部から破壊され、攻撃は中止せざるを得ない。再生のために時間を取られる。
また、その間にクウは右手の甲にある魔法陣を展開した。
「ベリアルは魔王オメガの気を引いておけ! そして来い、ファルバッサ!」
クウはベリアルにオメガの足止めを頼んでからファルバッサを呼び出した。
霊力を注ぎ込まれた魔法陣は巨大化して天空に映し出され、そこから白銀の竜鱗をもつ竜が出現する。久しぶりとなる天竜ファルバッサの召喚だった。
事前に、もしかしたら召喚するかもしれないという旨を知らせていたので、特に通信を入れることもなく呼び出す。呼び出されたファルバッサも落ち着いた様子で状況把握に努めた。
”ほう……全面戦争といったところか?”
「そういうことだ。お前はあのバハムートっていうドラゴンの出来損ないを始末しろ。法則系の権能を持つお前の方が強い。格の違いを見せつけてやれ」
”なるほど。確かに我が対処する方が良さそうだな。顕現せよ、【理想郷】”
ファルバッサは「竜眼」と「理」を合わせて情報次元を観察し、バハムートの能力を知る。そして自分ならば問題なく対処できる相手だと理解した。同じく物理法則を操る竜だが、権能を有するファルバッサの方が格上だ。眷能しか持たないバハムートなら、たとえ四体同時でも充分に戦える。
ここで、ファルバッサに対してバハムートでは不利だと悟ったのだろう。領域型法則系の権能を持つザドヘルと領域型現象系の権能を持つオリヴィアが助けに入る。ラプラス自身は戦闘が苦手な上、バハムートに力を割いているので超越者として格落ちしているからだ。
”ふむ、出し惜しみする余裕はなさそうだ”
四体のバハムートはまだしも、ザドヘルとオリヴィアという二人の超越者を追加で相手するとなれば少しキツイ。そこでファルバッサは自身の意思力を世界へと浸透させ、真なる切り札とも呼べる力を使う。
対個人に関しては《神・竜息吹》が最強だが、これから使おうとしているのは本来の領域型法則系能力としての第二段階。世界侵食だった。
”さぁ、王の元に集まるがいい。《王竜の庭園》”
ファルバッサの呼び声に従い、白銀の気で出来た一匹の竜が出現する。それはファルバッサよりも一回り小さく、見た目も半透明だった。
だが、それが出現した瞬間に四体のバハムートは墜落していく。
『なっ!?』
自力で飛べないザドヘル、ラプラス、オリヴィアはバハムートの上に乗っていたので、思わず叫び声を上げてしまった。
どういうわけかバハムートの浮遊能力が消え去ってしまったからである。落下中に我に返ったラプラスが全力で調べると、驚愕の事実に辿り着く。
「馬鹿な……「重力支配」の特性が消えている……!?」
次の瞬間、その呟きは轟音と共に掻き消された。
全長一キロにも及ぶバハムートが四体も地面に落下したからである。そのエネルギーは凄まじく、まるで空間が揺れているかのような響きが起こった。
だが、ファルバッサはそれを気にする様子もなく更に能力を使う。
”次は熱と電磁気を奪わせて貰うぞ。出でよ法王竜”
するとファルバッサの周囲に二体の竜が出現する。初めの一体と同じく白銀の気で構成されておりファルバッサより一回り小さい。そして半透明の姿をしていた。
この法王竜はファルバッサの《王竜の庭園》によって作られた存在であり、一個体に付き一つの法則を司る。法則を内包するのではなく、法則そのものになるのだ。
つまり、法則が奪われるのである。
バハムートは重力に関する法則を奪われたので浮遊できずに落下したのだ。操る法則が存在しなければ扱うことなど出来ないのでバハムートの特性からも「重力支配」が消えたのである。現在、重力を自在に操ることが出来るのはファルバッサだけとなったのだ。
更に付け加えると、熱と電磁気に関する法則も今奪われた。
これによって権能【氷炎地獄】を司るザドヘルも能力を殆ど失ってしまう。ファルバッサが本気を出した場合、法則系能力者は完封されてしまうのだ。
勿論、意思力で抵抗すれば防ぐことは可能だが。
そしてクウはその間に霊力をかき集め、《幻葬眼》を使って氷漬けにされていたメロとテスタを助け出した。現在、ベリアルとファルバッサが魔王オメガ、ザドヘル、ラプラス、オリヴィアに加えてバハムート四体を抑えている。後はクウがエーデ・スヴァル・ベラを相手にするだけなのだが、それよりも先に味方を解放するのべきだろう。まだ、魔神アラストルも残っているのだから。
”く……儂も油断したものだ。済まぬなクウよ”
”貴方が新しい味方ですね。まずは挨拶をしたいところですが、それはまたいずれ”
「ああ、お前たちはアリアたちを助けてくれ。俺は魔神アラストルを縛っている鎖を解除して、あのデカいクラゲを相手にする」
”気を付けよ。あ奴は奇怪な術を使うぞ”
”それとあらゆる攻撃を反射します。不注意な攻撃は避けてください”
「了解だ。行ってくれ」
メロとテスタは会話の合間に回復を済ませ、すぐにアリアたちの方へと向かう。元々、氷で封じられていただけなのでダメージ自体は少なかったのだ。そしてアリアとリグレットも間もなく回復を終えるだろう。
流石に四体もの超越者がいれば、魔神アラストルにも十分以上で対抗できる。
「さて、俺はあいつの相手だな」
そしてクウは魔神アラストルを縛る鎖を解き、そちらに割いていた演算力を解放する。目の前にいるクラゲのような巨大超越者エーデ・スヴァル・ベラは一筋縄ではいかないだろう。
クウの権能【魔幻朧月夜】や虚空神ゼノネイアの権能【虚数領域】にも匹敵する反則級の力、権能【存在思考】を持っているのだから。
クウは虚空リングから神刀・虚月を取り出し、更に瞳には黄金の六芒星を浮かべる。
「《無幻剣》……」
そしてクウの周囲に千を越える幻剣が出現したのだった。
エーデ・スヴァル・ベラはEP317の『忘却された歴史⑤』で初登場しています。大体、EP317の真ん中あたりですかね。一応、エーデ・スヴァル・ベラの存在は示唆していました。
もう、反則級の能力ですけどね。
反則と言えばファルバッサも中々です。実はこんな能力も隠していました。法則系能力者に有効なので今までは隠していましたが、かなり強いです。
さて、次回は【魔幻朧月夜】VS【存在思考】ですね!
評価、感想をお待ちしております。





