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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
吸血鬼の女王編

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EP365 超越者の戦い②


 核融合弾の凄まじい爆発によって半径数十キロが塵に包まれる。バハムートは「時空支配」によって守られているので、その上に乗るオメガたちも含めてその影響は受けない。しかし、フォールン・デッド・カオスは殆どが消し炭となってしまい、残っている個体も肉体の殆どを損傷している。そしてアリアたちもかなりのダメージを負っていた。



「くっ! またか!」


「実に厄介だよ、本当に」



 咄嗟に魔素障壁を張ったのは良いが、それでもダメージは防ぎきれなかった。核兵器を間近で受けて怪我で済む時点で色々とおかしいのだが、そこは超越者だからこそである。普通ならば何十万、何百万という人を殺すことの出来る兵器だ。

 テスタの《星天夜結界シエレトワール》がなければ環境への被害は甚大となっていただろう。『四つの力』を自在に操るバハムートはそれだけ厄介なのだ。

 そして何よりも厄介なのは、このレベルの攻撃はバハムートからすれば幾らでも撃てることだった。



”拙いです! 次が来ます!”



 《星天夜結界シエレトワール》によって領域全てを知覚しているテスタが次の攻撃を察知する。今は塵が舞って見えないが、夜空の下を全て知覚するテスタには、バハムートが再び《電磁加速砲レールガン》の発射準備をしていることが分かっていた。



「面倒な! リグレット、メロ、テスタは私の近くに集まれ!」



 アリアはそう叫んでから多次元結界を展開する。空間を多重にずらすことで、物理法則を完全遮断するという防御結界だ。物理法則に頼っている核融合爆発なら問題なく防ぐことが出来る。

 塵に覆われても尚見えるほどの激しい閃光と共に爆風が吹き荒れた。尤も、あらゆる物理法則を遮断する以上、熱も爆風も音も届かない。

 しかし核爆発は次々と発生しており、もはや人の生きていける環境ではないだろう。下手すれば核戦争後よりも酷い状態かもしれない。



「ふぅ……どうするリグレット?」


「そうだね。ここまでジリ貧になるのは初めてだよ」


「ああ、あのバハムートは厄介だな」



 これまで、『人形師』ラプラスは殆ど戦場に出て来なかった。アリアもリグレットも見たのは数百年の中でも数えるほどでしかなく、出てきたゴーレムも大した戦力とは言えなかった。

 しかし、ここにきて化けた。

 これまでのゴーレムとは一線を画する戦闘力であり、更には学習機能までも付与されている。これまでのゴーレムが全て、バハムートを完成させるための実験体だとすれば、今までの弱さも納得できるというものだ。

 あの準超越者クラスが何体も出現するとなると、非常に厄介である。恐らく、一度に扱える個体数は決まっているのだろうが、破壊されても再顕現可能なので、結局はラプラスを倒さなくては意味がない。

 下手にバハムートを攻撃して、学習機能によって強化されては目も当てられないのだ。



”儂の妖魔共も強烈な一撃を受ければ滅びてしまう。今の爆発でヤマタノオロチもデイダラボッチもガシャドクロも砕けてしまったようじゃ。儂には期待しないで欲しいのー”


”そういうことなら、私の出番でしょうか? 世界侵食イクセーザを使うための準備を終わっていますから。力押しで潰せると思います”



 ここで名乗りを上げたのはテスタである。

 天星狼テスタは天球を操り、星を意のままに動かす権能【天象星道宮ゾディアック】を持つ。世界侵食イクセーザは天球に輝く星々から派生したものであり、《星天夜結界シエレトワール》の発動が前提条件となっている。

 領域全土に効果を及ぼせるということを考えれば、テスタの世界侵食イクセーザは有効だろう。アリアもリグレットも賛成だった。



「それなら頼む」


「是非ともお願いするよ。あのバハムートを倒せるかい?」


”恐らく問題ありません……《天紋輝夜星域ゾーン・デ・ラ・エトワール》”



 テスタが世界侵食イクセーザを発動した瞬間、天球に投影された星々が結ばれ、幾何学的な紋様を描き始めた。それに伴って周囲を舞う塵は消え去り、世界が変容する。

 まるで宇宙空間のように上下の分らない、暗くて広い世界が広がったのだ。《星天夜結界シエレトワール》の時にはあった地面が消え去り、無重力の真空世界が顕現する。

 上下左右を覆い尽くす無数の星々が次々と線で結ばれ、周囲を覆い尽くす幾何学模様が出現した。まるで星座を組み込んだ魔法陣のようだが、正確には魔法陣とは異なる。単純に世界を区切る強力な結界を表しているのだ。紋様は界を区切る壁であり、内部からの干渉は不可能である。

 どこまで進んでも幾何学模様に近づくことは出来ず、空間転移を利用しても脱出すら出来ない。星の領域……まさに星域とも呼ぶべきテスタの専用空間だった。



”この星域では私こそが宇宙です”



 そんなテスタの言葉と共に、巨大な火の玉が出現する。膨大な水素を圧縮したガス球であり、高温高圧によって核融合が発生している。大きさは太陽の十倍にも及び、超新星と呼ぶに相応しかった。テスタは本物の恒星を作り上げてしまったのである。



”核融合とはこうするのですよ”



 これこそが真の核融合だ。大宇宙の神秘が生み出す星という大規模エネルギー。普通ならば一人の超越者が生み出せるものではないのだが、ここは既に世界がテスタの味方をしている世界侵食イクセーザ空間だ。

 意志の強さがあれば、恒星そのものを生み出すことすら可能となる。

 小さな宇宙の創造とも言える《天紋輝夜星域ゾーン・デ・ラ・エトワール》は、発動するだけで一般人を死に至らしめる。宇宙空間でも生きていられる超越者でなければ即死の世界だ。

 しかし、大宇宙の恐ろしさはこれだけではない。

 宇宙に存在する神秘は全て、生物にとって死に直結する事象なのだ。



”《超新星大爆発スーパーノヴァ・エクスプロージョン》”



 まるでコマ送りのように星の寿命が早送りされ、生成した超新星は超新星爆発を迎える。核融合の進み過ぎによって燃料となる水素を使い果たし、星の中心部に鉄が生じる。すると超新星は膨張する力よりも重力による圧縮が勝り、一気に収縮してしまう。最後には収縮した力が一気に跳ね返り、大爆発を引き起こすのだ。

 いわゆるⅡ型超新星爆発である。

 凄まじいプラズマ風と有害なガンマ線を撒き散らし、周囲を死の空間へと変貌させる。圧倒的な力場が生じることで、バハムートの時空障壁など軽く消し飛ばし、乱れる電磁気と重力の波に埋もれてしまった。

 当然、オメガたちも甚大な被害を受ける。

 いや、不死性を持つオメガだけは涼しい顔をしていたが。



「オメガ……やはりダメージすら受けないか。本当に不死なんじゃないか?」


「確かに不思議だね。僕もテスタの世界侵食イクセーザを見たのは久しぶりだけど、いつ見ても威力だけは凄まじいと思うよ。それを無傷で耐えきるなんて普通じゃ有り得ない」



 アリアたちはテスタの能力で磁気防御、重力防御をしていたため、《超新星大爆発スーパーノヴァ・エクスプロージョン》の被害は受けていない。しかし、まともに喰らったオメガが無傷なのは不可解だった。

 熱量を操るザドヘルは能力でダメージを減らしているものの、ラプラスとオリヴィアに至っては霊力体が分解されている。恐らく、再生までは時間がかかるだろう。



”切り札を使ったので限界です。《天紋輝夜星域ゾーン・デ・ラ・エトワール》を解きますね”



 テスタも、今の一撃を何度も出来る訳ではない。世界侵食イクセーザ一回に付き、一度だけの切り札とも言える大技だ。一度使えば大きく疲労し、《天紋輝夜星域ゾーン・デ・ラ・エトワール》が解けてしまう。

 そもそも、宇宙創造とも言える《天紋輝夜星域ゾーン・デ・ラ・エトワール》は規格外な術だ。元から持続時間は五分もない。解除されてしまうのは当然だった。

 周囲の幾何学模様が解除されていき、夜空と平原が美しい《星天夜結界シエレトワール》の結界空間へと戻る。まるで何事もなかったかのように、アリア、リグレット、メロ、テスタは宙に浮かんでいた。その一方で、オメガは苦々しい表情を浮かべ、ザドヘルは全力で霊力を再生につぎ込んでいる。更にラプラスとオリヴィアも再生中だった。



「クク……忘れていたな。その狼にはそのような術があるのだった」



 オメガは本当に失念していたという風に溜息を吐く。それほどまでにテスタの一撃は強力であり、正直に言えば、生半可な時空結界ですら通用しないレベルである。宇宙の神秘を操るその力は、まさに異常とも言うべき、恐ろしい能力だった。



「仕切り直しだな。だが、まずはラプラスを叩く!」



 アリアはそう言って転移を発動する。そして一瞬で再生中のラプラスの前に出現し、神槍インフェリクスで何度も貫いた。修復中だったラプラスは回避も出来ず、不治の傷を負う。神槍インフェリクスによる傷は、意思力によって呪いを撥ね退けなければならないので、再生に時間がかかるのだ。

 言い換えれば、意思力を大きく損耗してしまう。

 意志力は超越者にとっての生命力と同等であり、意思力が尽きると魂としての形が保てなくなる。魂は意志力によって一つの形を成し、一つの生命として存在しているからだ。魂を支える柱とも言える意思力の消失は、魂の消滅を意味する。

 だからこそ、超越者を倒すには、生きることを諦めさせなければならない。心が折れるほど損耗させて初めて倒せるのだ。

 その点、ラプラスはテスタの《超新星大爆発スーパーノヴァ・エクスプロージョン》によって一時的に体が吹き飛ばされている。体は霊力で出来ているので再生は問題ないのだが、意志力を大きく消耗させたのは間違いない。このまま畳み掛ければ、倒せる可能性は充分にあった。

 そもそも、以前は隔離した魔王妃アルファをこの方法で倒したのである。

 前例がある以上、不可能ではない。

 しかし、それをさせまいとオメガはアリアに攻撃を仕掛けた。



「させんよ。《黒き魔神の腕撃ブラキウム・デウス・ディアブロ》」



 オメガの周囲に黒い渦が巻き、巨大な腕が放たれる。黒紫色のオーラを纏った不気味な腕がアリアへと打ち付けられ、ラプラスを守った。



「申し訳ございません陛下」


「構わん。お前を失うのは惜しいからな」



 元から超越化の見込みがなかったダリオンと異なり、ラプラスは見事に壁を乗り越えた存在だ。ここで失うのは大きな痛手となる。

 特に権能を理解し、バハムートを生成するに至ったのだから、ここで失うのは良くないだろう。下手すればオリヴィアの死霊軍団よりも戦略的価値が高いのだから当然の判断である。

 魔王が配下を守るという不思議な構図ではあるが、元々ラプラス自身は戦闘力が低いので、後ろに下がっているのが基本だ。フォーメーションとしては正しい。



「やるぞリグレット! 一気に畳み掛ける!」


「分かったよ。テスタとメロはザドヘルを抑えてくれ」


”年寄りの扱いが荒いの。じゃが、頼まれた”


”分かりました。微力を尽くしましょう”



 世界侵食イクセーザ発動後で疲労が大きいテスタに加え、メロがザドヘルを抑える。ザドヘルもあの一撃で大きなダメージを負っていたので、十分に抑え込むことが出来るだろう。オリヴィアは再生中なので上手く能力を使うことも出来ない。

 後は、オメガを掻い潜ってラプラスを倒すだけである。



「展開、呪印札」



 リグレットは一言だけそう呟くと、自身の周囲に大量のカードを並べた。複雑怪奇な魔法陣が描かれたカードは、リグレットの周囲を回転しながら浮いている。

 それを見たオメガはラプラスに注意を促した。



「気を付けろ。あのカードは身体に触れると幻惑系の効果で精神ダメージを受ける。気を強くしておかねば死ぬぞ」


「忠告したところで遅いがな!」



 アリアはそう言ってリグレットを転送する。するとラプラスの背後にリグレットが出現し、大量のカードを射出した。



「ちっ! 厄介なことを!」



 オメガは即座に反応して《黒き魔神の腕撃ブラキウム・デウス・ディアブロ》を放ち、全てのカードを薙ぎ払う。



「余所見している暇はないぞ?」



 だが、次の瞬間にはアリアがオメガの左目に向かって神槍インフェリクスを突いていた。短距離転移ショートジャンプによる予測不能な動きはまさに反則級の強さであり、流石のオメガも防げない。ギリギリで回避は出来たが、左耳を吹き飛ばされた。



「邪魔をするな裏切り者の娘よ!」


「貴様に父親面される覚えはない!」



 オメガも剣を取り出し、アリアと正面から激しく打ち合う。謎の不死性を持つオメガは既に左耳も回復しており、動きにも全く衰えがなかった。更にはラプラスを気遣い、《黒き魔神の腕撃ブラキウム・デウス・ディアブロ》や《黒き魔神の墜脚ペース・デウス・ディアブロ》で援護をするほどである。

 一方でアリアもリグレットを転移させながらラプラスを翻弄し、呪印札を投げつけていた。

 闘いは激しく、ラプラスも稀に呪印札を喰らってダメージを負う。

 一進一退の硬直状態だった。



(仕方ないか……我が追い詰められるとはな……)



 自分を含め、一人で二人分の防御を行うのはかなり労力を使う。

 オメガは自身の切り札を使うことに決めたのだった。







テスタを強くし過ぎたと思っています。でも後悔はない!

だって、宇宙の神秘を操るとかカッコイイですから!


ちなみに、今回紹介したⅡ型超新星爆発の他に、Ⅰ型超新星爆発もあります。こちらは超新星の側に大きな重力を持つ矮星という惑星があった場合、超新星の持つガスが矮星に吸い込まれてエネルギー暴走を引き起こし、大爆発を引き起こすというものです。



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