EP363 バハムート
瘴気を纏う数十体のフォールン・デッド・カオスに、アリアが疑似太陽を投げた。凄まじい電磁場と熱を作り出す疑似太陽はゆっくりと下降し、大地すら焼き尽くす。
フォールン・デッド・カオスも瘴気による防御がなければ一瞬で燃え尽きていたことだろう。僅かに受けるダメージも《無限超再生》によって修復しており、ダメージにはならない。更には取り込んだ死霊のスキルを最適化してストックするスキル《顕在》も強力だ。取り込んだ死霊の数だけ並列思考できるので、数百というスキルを同時発動できるからである。
数百のスキルを同時発動できるフォールン・デッド・カオスが数十体。つまり、一万ほどのスキルが同時に発動されるということになる。魔力を強化する《極魔》や意志の力を扱う《気力支配》、そして冷気を扱う《水魔法》と熱操作を行う《炎魔法》を並列起動し、それぞれのスキルを一つあたり二千五百も同時起動して疑似太陽へと撃ち込んだ。
「数の力を知りなさい!」
オリヴィアはそう言って更に死霊を生み出し続ける。彼女の能力は数の力であり、小さな力を無数に組み合わせることで超越者にも対抗できる力を得させている。自身の加護を通して通常のスキルにも意志力を乗せ、概念攻撃しか通用しない超越者にダメージを通すことを可能としているのだ。
元素の減速によって熱量を引き下げ、核融合の発生しない領域に変化させる。そして迫る来る疑似太陽を霧散させてしまったのだった。
「ならばこれはどうだ? 樹海よ!」
疑似太陽が消されたので、アリアは樹海を発生させる。先の疑似太陽で死んだ土地となっていたはずだが、現象改変によって急速に木々が育ち始めた。結果として樹海が発生し、更に通常では有り得ない数百メートルクラスの大樹によってフォールン・デッド・カオスを縛り上げる。
纏っている瘴気によって枯れていく一方、成長速度が速すぎて完全に枯れさせることも出来ない。
フォールン・デッド・カオスは動けなくなっていた。
そしてアリアは右手の神槍インフェリクスに雷の力を宿す。
「吹き飛べ」
アリアは槍を投げる構えを取り、更に天空には雷雲を呼んだ。過剰に成長した積乱雲であり、アリアの意思力も受けて通常では有り得ない電荷を帯びている。
雷を帯びた神槍インフェリクスは目印であり、そこへと天からの雷が降るのだ。
音速を越えて投げられた槍は、空気を割いてフォールン・デッド・カオスの一体へと突き刺さる。そして次の瞬間、凄まじい光と共に雷撃が落ちた。たったの一撃で積乱雲が保有する電荷を使い切り、全てのエネルギーを受けたフォールン・デッド・カオスは消し炭となって一気に風化する。
神槍インフェリクスの持つ不治の呪いも効果を発揮したのだ。
「まずは一体」
召喚によって神槍インフェリクスを回収したアリアは、再び雷雲を呼んだ。
そして二投目を放つ。
「《獄雷》」
目を眩ませる雷撃と共にフォールン・デッド・カオスは消し炭となった。不治の呪いによって風化し、二体目が消え去る。
「しかし埒が明かないな……邪魔な奴らだ」
一発目も二発目も、実はフォールン・デッド・カオスではなくオリヴィアを狙って放たれたものだった。しかし、フォールン・デッド・カオスは自らが盾となってオリヴィアを守ったのである。
槍を投げる力はアリアに依存する以上、音速程度が限界である。
それでは超越者に通じるはずもない。
また、先程から全く動かないオリヴィアだが、それはラプラスを待っていたからだった。五百年をかけて作り上げた傑作バハムートを最適化していたのである。学習する能力を持つバハムートは、何度も超越者の攻撃を受けることでかなりの経験値を得ている。あとはラプラスが手を貸しつつ最適化することで、準超越者クラスに至ることが出来るだろう。
「まだかしらラプラス?」
「もう少しです……今、完成しました」
オリヴィアが頼まれていた時間稼ぎは僅かに数十秒。
流石にその期間でオリヴィアを倒し、ラプラスに攻撃を仕掛けることなど出来ない。ラプラスがバハムートを完成させるのは確定事項だった。
最適化によって準超越者に至ったバハムートは、自らの体を自己進化させて最も効率的なフォルムへと変化する。全長一キロにも及ぶ巨体は強靭な魔法金属に包まれ、背中からは地上を真っ暗に出来るほどの巨大な翼が出来上がった。
「完成ですね。私の眷属、バハムートです」
ラプラスとバハムートは魂のレベルでリンクしており、意思力が流れ込むことで概念攻撃を可能としている。これでラプラス自身は弱体化してしまったのだろうが、バハムートの強さが異常だった。
魔王オメガと『氷炎』ザドヘルを結界で抑え込んでいたリグレットは、情報次元を解析する魔道具を利用してバハムートの能力を視る。そしてすぐにアリアへと忠告した。
「気を付けてくれ! そいつは殆どの物理干渉を撥ね退ける!」
「なんだと!?」
リグレットは空いた左手で《神意の左手》を発動しアリアへと情報を送り込む。戦闘へと集中していたアリアの視界の端に、バハムートのステータスが表示された。
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バハムート
種族 超越ファルス・セフィロト
眷能 【機甲鋼竜王】
「最適化」「同属共有」「無限炉」
「量子化」「時空支配」「神速演算」
「物理耐性」「元素変換」「熱支配」
「電磁支配」「重力支配」「魔素支配」
【加護】
《巧王の過保護》
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《巧王の過保護》
ラプラス・アルマの加護。
魂をリンクさせることで権能にも近い力を発現さ
せた。眷能はラプラスの影響を受けており、無限
の自己進化を会得している。
ラプラスが消滅した場合、同時に消滅してしまう
運命にある。
準超越者へと至り、更にはラプラスと魂のレベルで繋がったことで眷能と呼ばれる力を発現していた。バハムートの眷能【機甲鋼竜王】の本質は学習と最適化だが、その副次的効果として多数の能力を得ている。
現在のところは「量子化」「時空支配」「神速演算」「物理耐性」「元素変換」「熱支配」「電磁支配」「重力支配」「魔素支配」だが、これからの学習によって更に能力は増えるだろう。
ラプラスにとってバハムートは幾らでも作り出せる駒でしかなく、「同属共有」によって常に進化は更新され続ける。完全に消滅させるにはラプラス本人を消すしかなかった。
「やりなさい、バハムート。《電磁加速砲》」
ラプラスが乗るバハムートは大きく口を開け、長く伸びる首をまっすぐに伸ばす。ハッキリと見える口内はバチバチと白い雷が走っており、耳を塞ぎたくなるほどの高音が響いていた。胸部で生成された弾頭はこの首を発射台として加速するのである。
そして全長数百メートルもの発射台によって弾頭が加速される。音速の数十倍まで加速した砲弾は、オレンジの軌跡を残しながら一直線にアリアへと飛来した。
「くっ―――!」
嫌な予感がしたアリアは発射の寸前で空間を遮断する障壁を前方に張り、防御態勢を取っていた。そして空間の壁に直撃した砲弾は凄まじい勢いで破裂し、所定の威力を遺憾なく発揮する。
能力「元素変換」「熱支配」「重力支配」によって核融合を引き起こす、核融合弾頭を使用していたからこその威力である。元素変換の応用で大量の水素を用意し、熱支配と重力支配によって高温高圧状態を作り上げることで核融合は発生する。その際の熱と衝撃波は周囲を破壊し尽くす威力になるのだ。
いわゆる水爆なのだが、能力によって制御している点を考えれば水爆よりも使い勝手が良い。
前方にしか障壁を張っていなかったアリアは大きく吹き飛ばされ、更にはリグレットまでも巻き添えを喰らう。これによって魔王オメガと『氷炎』ザドヘルを閉じ込めていた封印結界は解かれ、形勢は完全にひっくり返った。
「良くやったぞラプラス。褒めてやろう」
「ありがたき幸せにございます魔王様」
三対六枚の白い翼を羽ばたかせたオメガは、ラプラスの側に着地して褒める。それに続いてザドヘルとオリヴィアもバハムートの上に着地し、それぞれが一礼を取った。
「では奴らを潰しましょう。俺にお任せを」
「いえ、ここは私のバハムートをお披露目するべきでしょう?」
「あらあら? 私を忘れて貰っては困るわね」
ザドヘル、ラプラス、オリヴィアがそれぞれ自分がやると主張する。三人の忠誠心に満足したのか、オメガはニヤリと嗤いつつ答える。
「愚か者め。全員で叩くに決まっているだろう。早くしなければ、我の城に不法侵入していた輩が来てしまうのだからな」
オメガは結界に閉じ込められている時もクウのことを忘れてはいなかった。勝手に自分の城へと侵入し、人質だった女王レミリア・セイレムを救い出してしまった敵、そして未だ超越化を果たせていないダリオンをあっさりと始末してしまったクウ・アカツキを。
その言葉に納得したのか、三人は感心したように頷いて己の霊力を沸き上がらせる。
「そうだな……俺は氷の力で奴らを拘束しましょうか」
「ふふふ。では私は更なる絶望を呼び寄せましょう」
「そうねぇ。ああ、折角ダリオンが死んだことだし、彼を呼び出してみましょうか」
ザドヘルは自身の減速能力によって冷気を纏う。
ラプラスはバハムートをコピーして新しい個体を三体作り出した。一人一体となる計算である。
オリヴィアは死者の情報から死んだダリオンを探し出し、蘇らせる。
「ククク……今日で光神シン様と邪神カグラ様に勝利をもたらすのだ!」
魔王オメガは未だに土煙の舞う向こう側を見据えながらハッキリと宣言したのだった。
◆ ◆ ◆
【アドラー】の魔王城で、クウはある程度の始末をつけていた。殺害したダリオンは消滅エネルギーを使って死体すらも消し去り、鎖で繋がれていたヴァンパイアたちは解放する。
現在、気を失ったセリアを待っている状態だった。
(アリアやリグレットの方も気になるな……まぁ、あの二人なら大丈夫だろうけど)
こちらからは向こうの様子は分からないので、大丈夫だろうという適当な予測で判断する。超越者が六人も揃っている以上、生半可な戦いにはならない。ただ、それだけは確実だった。
地形が大きく変わっていたとしても不思議ではない。
ともかく、数の上では不利なので、クウはセリアを叩き起こすことにした。一応セリアも女性なので、軽く頬を叩く程度で呼びかける。
「おい、起きろ」
しかし、少し唸る程度で目を覚まさない。
そこでもう一度、反対の頬を叩きながら声をかけた。
「起きろと言っている。ほら、起きろー」
「……んー、うぅん?」
「やっと目を覚ましたか」
「あれ? 私って胸を貫かれて死んだはずじゃ……」
「それは後だ。ともかく帰還するぞ」
クウはそう言って、《神象眼》による魔法陣投影を行う。今回は残り少ないので、小さめの魔法陣で十分だろう。部屋に収まり切る大きさで魔法陣を描いた。
ヴァンパイアたちは予め説明していたので、セリア以外は特に質問もなく魔法陣の上に乗った。あまり要領を得ていないセリアも、大量の疑問符を浮かべながら取りあえず魔法陣に乗る。
「全員乗ったみたいだな。じゃ、転移を発動するぞ」
そしてクウは魔法陣に魔素を流し込み、起動させる。その際、クウが魔法陣の中に入っていないことに気付いたのはセリアだけだった。
「え? 隊長は―――」
「先に帰れアホ。油断した罰は後でな」
それを最後に転移が発動した。
一人残ったクウはグッと体を伸ばし、大きく息を吐く。一段落したことで安堵したのだ。
「さて、後は俺も参戦しないとな」
クウは翼を広げ、天井に向かって《赫月滅光砲》を撃つ。大口径の消滅エネルギーが天に向かって伸びていき、空まで一直線の道を作り出したのだった。
今日で夏休みは終わりです。
夏休み前は十個もあったストックが、現在すでに三つにまで減っています。これ、ストックがなかったら毎日更新は無理でしたね。
ともかく、また土日更新に戻ります。
実験とかレポートとかがヤバそうな雰囲気なのですが、可能な限りは更新できると思います。私も頑張りますので、温かい目で見守ってやってください。
評価、感想をお待ちしております





