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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
吸血鬼の女王編
354/566

EP353 《仙力》


~運命迷宮十一階層~


 偶然にもセイジたちと共に迷宮を進むことになったユナ達。戦闘は任せて、リアに案内だけさせていた。お陰でユナとミレイナは暇になるのだが、ユナはしっかりと仕事をする。

 左腕に付けている金属製のブレスレッドに触れ、魔道具を展開させた。するとユナの瞳に無数の文字列が流れ、情報が表示される。これはクウの《真理の瞳》を参考に錬金術師リグレットが開発した解析用の魔道具だ。情報次元へとアクセスしつつ、使用者に負担をかけないよう魔道具にて演算を実行する。それによって情報系最上位スキル《森羅万象》と同等の解析能力を手に入れることが出来るのだ。

 セイジはスキル《仙力》によって情報防御を張り巡らせているのだが、この魔法道具にかかれば問題なく突破できる。ユナの目の前にセイジのステータスが表示された。




―――――――――――――――――――

セイジ・キリシマ 18歳

種族 神種人 ♂

Lv172


HP:17,510/17,510

MP:17,421/17,421


力 :17,452

体力 :17,421

魔力 :17,698

精神 :17,369

俊敏 :17,036

器用 :16,907

運 :40

スキルポイント:26


【魂源能力】

聖光崩魔剣エクスカリバー》  New


【固有能力】

《融合》


【通常能力】

《魔闘剣術 Lv7》

《魔導》

《時空間魔法 Lv4》

《仙力》      New

《明鏡止水》    New

《超回復》



【加護】

《光神の加護》


【称号】

《異世界人》《光の勇者》《スキルホルダー》

《到達者》《真なる勇者》《魔導剣》

《天の因子を受け入れし者》

―――――――――――――――――――




聖光崩魔剣エクスカリバー

聖なる力を宿した剣を生み出す。所有者の概念

を具現化し、力ある剣を顕現する。その剣は自

在に操ることを可能としている。



《仙力》 (イリーガルスキル)

内力と外力を混ぜ合わせ、力の増幅をする秘術。

質、量が共に増大し、世界と繋がることを可能

とする。これによって攻撃、防御が概念化する。





(何……これ?)



 ユナがまず目を付けたのは【魂源能力】の《聖光崩魔剣エクスカリバー》である。よく見るとセイジの種族が『神種』になっているので、恐らくは天の因子を使用したのだと分かる。だが、どうやってそれを手に入れたのか謎だった。

 超越化したユナにとって【魂源能力】自体はそれほど脅威とならない。自分にダメージを与える可能性のある概念効果を含んだ能力だが、正直言って権能【聖装潔陽光アポロン】の下位互換だ。更に所有者の概念を具現化するという点を見れば、《聖光崩魔剣エクスカリバー》は使いこなすのに時間のかかる類であると分かる。能力によって作り出した剣を使いこなすこと自体はすぐに出来るだろう。しかし、その創り出す段階で躓くような設定となっている。

 それが脅威に値しないと判断した理由である。

 しかし問題はもう一つの注目するべきスキル《仙力》だった。



(聞いたこともないスキルだね……オーラ操作の亜種だと思うんだけど、それならくーちゃんたちも知っていそうだし……)



 セイジが扱っているのは明らかにオーラとは異なる力だ。似ているが、その性質はまるで違う。ステータスの説明文を解釈すれば、体内のオーラと界が持つオーラを混ぜ合わせているのだろう。

 そしてオーラとは意志の力の表出である。

 界のオーラを混ぜるということは、世界と意思次元で接続するということだ。勿論、クウのように意思次元を操るということはない。しかし『世界の意思プログラム』から助けを借りることが出来るということになる。

 力の異質さも納得だ。

 外法能力イリーガルスキルと記述されるだけはある。こんなものは有り得ない。ステータスに縛られた身でありながら世界と接続するなど理の無視も甚だしい。そこは超越者の領分だからだ。



(多分、《融合》ってスキルのせいだね)



 解析によってユナはそう判断した。

 《光の聖剣》が消えて《聖光崩魔剣エクスカリバー》になった今、セイジが持つ【固有能力】は《融合》だけである。そして《融合》はスキルを掛け合わせ、全く新しいスキルを造り出すことすら可能とする。因子を組み替える光神シンの権能を受け継いだスキルなのだ。

 つまりイリーガルスキルとは《融合》によって造り出された想定外のスキルということになる。

 世界エヴァンを創造した六神以外によって生成されてしまったスキル……まさに外法イリーガルということだろう。



「あ、またトラップだね」



 セイジはそう言って再び聖剣へと《仙力》を纏わせ、魔法陣を破壊する。ユナがソレを観察していると、魔道具の効果で《仙力》の仕組みが朧げに理解できた。

 まず、自身が生み出す体内のオーラと『世界の意思プログラム』が生み出すオーラを混ぜ合わせているというのは理解できている。だが、それだけでは負担がかかるので、体内の魔素と外界の魔素も同時に混ぜ合わせることで副作用を抑えている。

 オーラが異質に変化しているのは魔素を混ぜているからだった。

 ともかく、《仙力》の本質は界との接続。

 下手すれば【魂源能力】よりも危険である。他のスキルと組み合わせれば、絶大な力を発揮できるからだ。界との接続によって概念化するということは超越者にもダメージを与えられるということである。そう思えば危険さも理解できるだろう。【魂源能力】以外の、普通のスキルでダメージを与えられるなど前代未聞である。



「流石セイジね!」


「はは、そうでもないさ」



 リコとセイジが呑気な会話をしている一方、それを眺めるユナの視線は厳しい。普段はクウのことしか考えていないアホの子だが、真面目な時は真面目にやるのだ。

 ただ、そうやってジッとセイジのことを眺めている瞬間をエリカに見られてしまったのは失態だろう。いつものユナなら気付けたはずだが、《森羅万象》と同レベルの情報が流れてくる魔道具のせいで集中力を割いていたので、エリカの視線に気付けなかったのだ。



(あの人は何で清二君をあんな目で見るの……?)



 別にユナは悪意や殺意を込めていたわけではない。ただ、表情を険しくしていただけである。しかしエリカは女の勘とも言うべき別種の力で嫌な感覚を覚えたのだ。



(私が警戒しないと!)



 エリカが感じた感覚を信じれば、あれはセイジに惚れたという類ではない。敵意は言いすぎだが、それに近い目だ。セイジとリコは気付いていないので、警戒できるのはエリカだけということになる。

 界と接続できるセイジでも、個であり世界である超越者の敵意を感知することは出来ないのだ。超越者が意思を隠蔽していなければ察知出来たのだろうが、流石にユナでも隠蔽ぐらいはしている。そうでなければ超越者の放つ圧倒的な畏怖で誰もが気絶するからだ。

 ともかく偶然とはいえエリカが気付けたことは結構凄いことである。



「じゃあ、先を急ごう」



 トラップを破壊したセイジは笑顔で先に進む。出現する魔物は剣の一閃で倒し、強者の余裕を見せつけていた。ここはまだ十一階層でしかないので、セイジからすれば敵にすらならない。こうなるのはごく自然なことだった。



「そこは左です」


「ありがとう」



 リアの指示に従ってセイジたちは前を進み、トラップや魔物に問題なく対処していく。たまに群れのゴブリンが通路の奥からやって来ると、リコが土属性の魔法で殲滅していた。

 昔は炎属性を狭いところで使用し、色々と事故が起こっていたものだが、流石に今は学習している。セイジを含めた《光神の加護》持ちには劣るものの、十分な実力者である。

 エリカは攻撃に乏しいが、《結界魔法》による防御が強い。《回復魔法》も持っているので、パーティとして考えるならば重要なポジションだ。今回は活躍の機会がないものの、ユナが解析した限りではそれなりに厄介と分かる。

 勿論、ユナからすればリコもエリカも敵ではないが。



「次の角を曲がれば右手に階段があります。これで十一階層も攻略です!」


「やっとか! よかった」


「はぁ~。長かったわ……」


「……次からは地図を買いましょう」



 数十分ほど歩き、ようやく次の階層へと向かう階段に到着した。安堵したセイジたちはそれぞれ疲れ切った表情で口々に言葉を漏らす。これで地図無しに挑む無謀さを味わったことだろう。自身で地図を記録することもしなかったので、迷子になるのは当然だった。

 そして階層ごとにある転移クリスタルの小部屋へと行きセイジたちは手を触れる。最後にユナたちの方を振り返りながら口を開いた。



「どうもありがとう。また会うことがあれば助けになるよ」


「別にいいよ。罠と魔物の対処で楽させて貰ったから等価交換だしね」



 セイジとユナがそう言葉を交わす。

 そしてクリスタルの光に包まれ、勇者たちは消えていった。その瞬間にユナはアイテム袋から青い宝石の嵌められたペンダントを取り出し、魔力を込める。これはリグレット作の通信魔道具であり、ユナが繋げた相手は当然クウだった。



『どうした? ユナか?』


「久しぶりくーちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」



 勿論、セイジの使っていた《仙力》である。

 ユナは今日の話を初めから丁寧に説明した。それを聞いたクウは初め驚くも、難しそうな声で答える。



『まさか桐島の奴がね……心を折ったつもりだったけど、復活したか。それに発現した【魂源能力】の方も気になるな。天の因子なんてどこで手に入れたんだか……まぁ、それはいい。ユナが見た《仙力》の方を先に考えないとな』


「うん。くーちゃんは分かる?」


『いや、直接見てないから何とも言えないな……リアとミレイナはどう思った?』


「わ、わたくしですか? すみません、よく分からないです……」


「私は普通のオーラだと思っていたな。確かに普通のオーラよりも重いと感じたが」


『そうか……』



 クウは考える。

 理論はユナから聞いたので再現しようと思えばできるだろう。寧ろ、意思次元を操るクウからすれば、セイジよりも上手くできる自信すらある。だが、界のオーラを取り込むということは悪意の塊である瘴気を取り込む可能性も秘めているということだ。

 危険性は段違いである。

 基本的にスキルは安全性セーフティが掛けられており、安全に力を引き出せるようになっている。安全と言ってもそれは魂を侵されないという安全なので、肉体への安全性とは別だ。だが、この《仙力》はその安全性がまるで無視されている。



『危険……だな』


「やっぱり?」


『ああ、余裕があれば監視を頼む。悪いけど俺は手が離せないからな』


「じゃあ、上手く出来たらご褒美頂戴?」


『……まぁ、いいぞ』


「やったー! 私頑張るねっ!」


『お、おう。頑張れ……ほどほどに』



 ユナの役目はリアが天使化するまでの護衛なのだが、その役目を忘れていないかクウは心配になる。一応ユナもリアのことを溺愛しているので、恐らくは大丈夫だろうと納得することにしたのだった。




「あ、私も超越化したよ!」


『はぁ!? マジで!?』



 ついでにクウをこれでもかというほど驚かせたのだった。










 ◆ ◆ ◆










 クリスタルでエントランスまで転移したエリカは、早速とばかりに先のことを告げる。ユナがずっとセイジに警戒の目を向けていたことが気になっていたのだ。



「清二君。あのポニーテールの彼女のことですけど……」


「どうかしたの絵梨香? ああ、そう言えば彼女たちの名前を聞くのを忘れていたね」


「まぁ、いいでしょ清二!」



 リコがセイジにそんなことを言うが、エリカは強制的に話を戻す。別に慌てるほどのことでもないと思っているが、やはり早めに伝えておきたいのだ。



「それよりも清二君。その彼女ですが、清二君の《仙力》を強く警戒しているようでした」


「そうだったの? 僕には感じられなかったけどなぁ」


「清二の《仙力》は周囲の悪意も感じ取るんでしょ? 絵梨香の勘違いじゃないの?」


「いえ……その彼女の目に警戒の色があったので」



 セイジは《仙力》スキルを信じ切っているので、何とも言えない表情を浮かべる。可能性があるとすればポニーテールの少女――ユナ――がセイジよりも上の実力を持っているという線だろう。

 だが、これでもセイジは自分が人族最強クラスだと自負している。それは【魂源能力】を得たことでほぼ確実となっているのだ。だからこそ、セイジはその可能性を排除した。

 しかし、それはセイジがエリカの言葉を嘘と断じたわけではない。



「一応、僕たちも見張っておこう。何もなければいいけどね」


「はい、すみません」


「別に絵梨香が謝ることじゃないわ! 報連相ホウレンソウは大事よ!」



 こうしてユナ、リア、ミレイナとセイジ、リコ、エリカは互いに警戒しあうことになるのだった。







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