EP351 新メンバー
クウがヴァンパイアの魔導学者グリンファルトと共に雑魚ゴーレムの残骸を回収し終えた後、再び【ナイトメア】にリグレットが戻ってきた。どうやらゴーレムから解析したデータを元に、ドーム防壁の魔法防御を再構築するということである。
既に組み立てられている魔法を組み換えるのは至難の業だが、書き込む能力を持つリグレットからすれば容易いことだ。
そしてリグレットが【ナイトメア】で作業している間、クウは【レム・クリフィト】に戻ることになったのである。魔王アリアに丸投げしていた魔王軍第零部隊もある程度は形になったので、メンバーとの顔合わせも兼ねて一度集まることになったのだ。
「この部屋か……」
魔王軍第零部隊の部屋として用意されたのは、首都【クリフィト】にある魔王軍基地の地下室だ。リグレットによって魔法改造され、地下四階全てが魔王軍第零部隊のものとなっている。情報防御、侵入者排除は完璧となっており、専用のカードキーと暗証番号がなければ入れない仕組みだ。
クウはカードを通し、暗証番号を入力する。
すると、機械的な解除音がしてドアが勝手に開いた。
「自動ドアか。ハイテクだな」
第零部隊に与えられた地下四階はかなり広い。
ここには既に情報を統括する人員が配置されており、既に資料のまとめを行っている。そして実働部隊は今のところ四人だ。クウ、レーヴォルフ、そして魔王アリアが選出した他二名である。今日は、主にその二名との顔合わせをするつもりだった。
クウは予め頭に入れておいたフロアの地図を頼りに通路を歩き、実働部隊に与えられた部屋の前に立つ。そして再びカードを通すと、ドアが自動で空いた。各部屋には専用の人員が配置されており、それ以外の人員が無断で入らないようにカードキーで制御しているのだ。
ちなみに、隊長ということになっているクウのカードキーは全ての部屋を開けることが出来る。
「さて、ご対面だな」
クウがそう呟きつつ中に入ると、そこには機能的な部屋が広がっていた。
各部屋で解析した情報を映し出すモニター、そして作業用のコンピューター、周辺地図、各種資料などが綺麗に配置されており、簡易的なキッチンすら備わっている。この部屋から繋がる別室にはシャワールームやベッドルームもあるので、宿泊も可能となっているらしい。
そして部屋の端にあるソファでは、レーヴォルフともう二人の魔人が何かを話しているようだった。そしてクウが入ってきたことで、そちらへと顔を向ける。
「……誰?」
「新人君じゃない?」
全く話を聞いていないのか、見当違いなことを述べる。
二人とも女の魔人族で、対照的な雰囲気だった。一人は黒髪ショートで目に力がなく、ボーっとしている。そしてもう一人は釣り目の少女で、気の強そうな雰囲気を出していた。
そんな二人に苦笑したレーヴォルフは、ヤレヤレと言った様子で口を開く。
「彼は新人じゃないよ。僕たち第零部隊の隊長クウさ」
「……これが隊長?」
「なんか弱そうね」
「といっても事実なんだけどね……」
クウは年齢よりも幼く見えるので、頼りないと思われても仕方ないだろう。少し前に一八歳の誕生日を迎えたところだが、見た目には一五歳ほどにしか見えない。身長が低いことも原因で、クウは密かに気にしていたりする。
超越化したことでもはや成長することがなくなり、諦めたのだが。
「俺の見た目はどうでもいい。それよりもそこに二人の名前は?」
「私、ミラ」
「ふふん。私はセリアよ! これでも元はユナ様の第一部隊に所属していたんだから! そんなエリートの私がこの新設部隊に来てあげたんだから感謝しな―――」
「よし、取りあえずミラとセリアは実力を見るぞー」
「聞きなさいよ!?」
見た目通り、セリアの方は気が強いらしい。ユナが隊長を務める第一部隊出身というからには、実力に関して不安はないだろう。しかし、第零部隊の特徴を考えると不安になる。隠密が重要視されるので、この性格で仕事が務まるのだろうかとクウですら思った。
ただ、スキルに関しては要望通りである。
感知系や隠密系のスキルを十分に所有しているので、ある程度の心得があれば仕事も出来るだろう。リグレット作の魔道具を加えれば超越者の住む【アドラー】への侵入も不可能ではない。
ただ、実力の確認は必要だった。
高位能力者であるほど、スキル頼みでは実戦で通用しなくなるからである。
クウは問答無用で魔神剣ベリアルに触れ、能力を発動させた。
「《黒死結界》発動」
死の瘴気が溢れ、クウ、レーヴォルフ、ミラ、セリアを包み込む。そして内部では無限の幻術空間が投影され、果てしない荒野が広がった。
更に魔神剣ベリアルから出た瘴気が形を成し、ベリアルも表にでる。
急激な世界の変化、そして唐突に現れた美女にミラとセリアは驚いたようだった。
「凄い美人……」
「てか何よこれ!? 転移? いや結界かしら? 何なのよーっ!」
「うるさいぞセリア。これはただの結界だ。転移系の術なら簡単に脱出できる程度の低い奴だけどな。その代わりに広さは無限だし、壊れにくいから実力を見るには最適って訳だ」
無茶苦茶である。
転移など普通では使えないし、無限の広さを持つ結界など規格外にも程がある。クウは超越化しているので少し感覚がずれているようだが、ミラとセリアからすれば恐ろしい能力だった。
(この人、凄い)
(見た目はアレだけど、やっぱり隊長なんだ……舐めた口で接したのが恥ずかしすぎる……)
文明が発達しても、弱肉強食の意識が強い魔族であることには変わりない。クウが人族でも強者であれば、隊長として認めるのは当然のことだ。
相手は圧倒的強者であり、自分たちは試されている立場。
第零部隊としての実力を試験される身なのだ。
二人の中でクウを侮る気持ちが綺麗に消えた瞬間である。ミラもセリアもほぼ同時に武器を取り出し、クウに向かって構えた。しかし、クウは溜息を吐きながら口を開く。
「何を馬鹿正直に構えてんだ? 相手は格上だぞ? 不意打ちぐらいしなくてどうする?」
「あ……」
「う……」
二人は一瞬だけ停止した。あまり認めたくない正論をぶつけられて心が揺らいだのである。戦場ならば大きな隙だが、ここはサービスとしてクウも黙っておくことにしたのだった。
そして、まずはミラが行動に移す。一瞬にして魔力を練り上げ、水の魔法で攻撃を仕掛けた。大人しそうな見た目の割に大胆である。流石に魔王アリアが選出しただけあって、優秀な水属性魔法だった。
更にセリアも慌てて魔力を練り上げ、炎属性の魔法を使う。ただ、慌てているのか、ミラの使う水属性を打ち消してしまう炎属性で攻撃したところは頷けない。
案の定、威力が下がり、クウは魔素結界で難なく防御した。別に魔法が弱体化していなくても問題なく防御は出来たが、流石に呆れるほど低威力である。
「アホか。なんで水と炎を同時に使う」
「わぁーっ! ごめんミラ!」
「別にいい。次行く」
ミラは中々冷静らしく、一度下がって防御の姿勢を取った。攻撃を防がれたことで無理に追撃せず、一度様子を見るのは良い点である。セリアも騒がしいが、実力はあるらしい、持ち合わせている瞬発力で難なくミラに追いついていた。
セリアは素のポテンシャルが高い。陽動、囮などの作戦中において危険とされる役割に向いているだろう。度胸もあるようだ。それに切り替えも早い。失敗したとしても、引きずるよりはより良くなるように切り替えてくれる方が上司としては嬉しいものだ。
あまり失敗ばかりなのも困りものだが……
「来なさい! 炎の蛇!」
セリアはそう言って両腕に付けられた魔道具を起動する。
炎の蛇。
炎属性の魔力を与えることで効率よく起動させることが出来る。自律する蛇を炎で生み出し、攻撃させるという魔法道具だ。元は第一部隊に所属していたので、専用魔法武器を持っていても不思議ではない。
燃える蛇はクウへと襲いかかった。
「ベリアルは下がってろ」
「了解よマスター」
とりあえずベリアルを下がらせ、クウは魔神剣ベリアルを抜いて炎の蛇を切り裂く。勿論、死の瘴気は使わずに魔素と気を纏わせただけの攻撃だ。しかし、魔素と気を纏わせたことで炎の蛇は難なく切り裂かれる。
魔法は魔素によって生じている一つの法則であるため、魔素と気によって乱されると簡単に壊されてしまうのだ。高位能力者にとって、この二つの力を自在に操ることは出来て当然である。
少し大人気ないような気もしたが、あくまでも目的はミラとセリアの実力を測ることだ。
「ほら、もう少し頑張ってみろ」
「あああああ! もう! なんで効かないのよ!」
炎の蛇は中々の数だ。普通ならば捌き切れずに燃やされているだろう。しかし、クウは超越者であり、この程度の攻撃は慣れている。視界を埋め尽くすほどの攻撃ぐらい、簡単に対処できなければ超越者はやっていけない。
しかし、それはセリアの作戦でもあったようだ。
クウは背後に気配を感じ、即座に障壁を張る。
すると強い金属音がした。
「む、防がれた」
そこにいたのは気配と魔力を消したミラ。
どうやらセリアを囮にして、ミラはいつの間にか背後へと回り込んでいたらしい。かなり手加減していたとはいえ、攻撃の直前までクウに気配を悟らせない技量は褒めるべきだ。
そしてミラに一瞬だけ気を取られたクウに不意打ちを仕掛けるセリアも良く学習している。
「燃えちゃいなさい!」
「まだ本気じゃなかったのか……」
セリアが放ったのはこれまでとは比べ物にならないほどの蛇だった。炎がうねり、高密度にクウへと襲いかかる。これは本気で対処した方が良いと判断し、全力で魔神剣ベリアルを振るった。超越者としての動体視力や加速した思考で最適解を導き出し、一瞬にして炎の蛇を切り刻む。
「嘘……」
流石にこれにはセリアも言葉を失った。
二人はなす術がないと判断したのか、大きく距離を取る。これが実戦ならばそのまま逃げていることだろう。今回は実力差があり過ぎて逃げることすら出来ないが、超越者を相手にすることなどそうそうない。普通に考えれば問題なく第零部隊として運用できる。
クウは剣を収め、二人に向かって口を開いた。
「まぁ、基準よりは上だ。実力は問題ないぞ」
「へぇ。クウがそういうなんて珍しいね」
「うるさいぞレーヴォルフ。俺も出来る奴はちゃんと認める」
クウが剣を収めたことでいつの間にか近づいてきたレーヴォルフは揶揄うような口調だ。相変わらず気配を消すのが上手い。まだまだミラとセリアでは敵わないだろう。
まだ甘い部分もあるが、少しレクチャーすれば使えるようになる。
「解除」
そう言って《黒死結界》を解き、元の部屋へと戻した。
緊張した戦いだったからか、ミラとセリアはその場で座り込む。圧倒的格上との戦闘は、やはり相当な気力を消費するらしい。
そんな二人に軽く回復魔法を使いつつ、これからのビジョンを述べた。
「俺たちの役目は敵対勢力を探り、敵がことを起こす前に対処することだ。今は魔王アリアとリグレットが対処しているけど、戦争が起こる度に負担を強いるようではだめだ。だから、俺たちが出る。少なくとも、事前に情報を得ることが出来れば、対処の仕方も変わってくるからな」
最終目標は魔人の国【アドラー】を滅ぼすことである。
それで光神シンと邪神カグラの戦力は消え去り、取りあえずの脅威は無くなる。裏世界については神の領分なのでクウが関わる気はないのだが、この世界の調整は天使の仕事だ。
「じゃ、早速だけど訓練するぞ」
クウは魔眼を発動させ、幻術空間を展開する。
かつてはミレイナを鍛えた仮想訓練用の幻術世界だ。ここでは死ぬことがなく、あらゆる状況や敵を想定して出すことも出来る。
その日、ミラとセリアはクタクタになって第零部隊の部屋で寝泊まりしたという。
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