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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
吸血鬼の女王編
351/566

EP350 迷宮都市ソリア


 大樹が復活した。

 その知らせはエルフたちに希望を与えた。精霊が消失し、大樹が消え去ったことで精霊王フローリアの死も隠せず、人々は不安の中にあった。しかし、希望となる大樹が蘇り、再び活気にあふれ始めたのだ。

 精霊は戻らない。

 しかし、光神シンが与えてくれた大樹は蘇った。

 そしてその要因となる《樹木魔法》を発現した女王ユーリスの権威も大きく上がったのである。



「ユーリス様、勇者殿が参られました」


「そう、すぐに通しなさい」


「はっ!」



 今回、ユーリスは【魂源能力】を得るときに『天の因子』を取り込んだ。あれから調べたが、枯れてしまった大樹から出て来た二つ以外は見つからず、一つは偶然とはいえ使ってしまったので、残り一つを勇者に使用させようと考えたのである。

 恐らく、あの二つはフローリアが残した土産なのだろうと思ったのだ。



(ふふ……フローリアもただでは死なないってことね)



 ユーリスもあんなものがあるなど聞いたことがなかったし、見つけたのも偶然だ。魔法で切り付けた大樹の幹から『天の因子』が出て来たのは、内部の圧力が作用した結果だろう。偶然に偶然が重なったに過ぎない。

 しかし、これらの偶然は全て光神シンの思し召しだと考えた。

 そうやって思案していると、部屋がノックされる。

 入室を許可すると、五人の召喚者たちが入ってきた。



「久しぶりですユーリスさん」


「ええ、久しいわ。勇者セイジ」



 簡単に挨拶を交わすが、セイジの方はどこか後ろめたさを感じているようだ。

 それもそうだろう。

 セイジは自分のせいで精霊王フローリアが死に、大樹も滅びたと考えているからだ。大樹はユーリスのお陰で蘇ったが、精霊王フローリアだけは戻ってこない。その責任を感じていたのである。

 勿論、殺したのはクウであり、セイジが責任を負う必要はない。

 ただ、問題を起こしたのが同じ異世界人であり、更に同じ学校の元クラスメイトなのだから、責任感の強いセイジが気にしないはずなかった。セイジだけでなく、他の四人も同様だが。

 それを察したのか、ユーリスは優しく語り掛ける。



「まずは座りなさい。色々と話すべきことがあるから」



 先にソファへと座らせる。

 今回は話が長く、その上ややこしい事案もあるのだ。ゆっくりと話せる状態になった方が良い。そしていつもなら精霊魔法で淹れる紅茶を、今日は近くの侍従にやらせてすぐに下がらせた。

 そうしてじっくりと話せる状態になり、ユーリスは再び口を開く。



「そうね……初めは私が手に入れた新しい能力から見せましょうか」



 ユーリスは軽く魔力を込めて、右手に花束を作り出す。それを枯らしたかと思うと、次はいばらのような棘のある草を生えさせ、また枯らした。

 それを見たセイジたちは驚く。



「それは……」


「土の魔法?」


「でも理子ちゃん、ユーリスさんはそんなことで新しい能力とは言いませんよ」


「つまり【固有能力】ってことやないの?」


「ユーリスさんの【固有能力】は精霊ありきだったからね。新しく変質した能力ってことじゃないか?」



 それぞれ小声で話し合うが結論は出ない。

 勇者たちの様子を見たユーリスは、微笑みながら種明かしをした。



「これは【魂源能力】というものよ。新しく発現した《樹木魔法》ね。いわゆるユニーク属性よ」



 それを聞いた勇者たちは驚く。

 ユニーク属性は存在するとされているが、実際に発現した者は見たことがない。さらに【魂源能力】というものも聞いたことすらなかった。

 だが、驚く彼らはそれが序の口であると知る。



「色々とあったのよ。今の私は神種ハイエルフという種族らしいわ。スキルも進化して、ステータス値も三倍から四倍ぐらいに上がったの。凄いでしょ?」



 もはや強化というレベルではない。

 まさに進化だ。

 神に属する種として『神種』なのだとすれば納得できる。

 それと同時に、クウの強さに秘密を見つけた気がした。



「まさか朱月も【魂源能力】を持っているのか……あの最後の魔法はユニーク属性のもの……?」


「恐らくはね。私も同意見よ」



 クウは自分たちと格が違った。

 それはクウが言っていたことでもあり、実力差を見てそう思ったことだ。クウも同様に【魂源能力】に目覚め、更に神種へと進化していたとすれば、その強さにも納得できる。

 実際は超越化してるので、それでもまだまだ次元違いの強さなのだが。

 更にクウは真なる神の加護を受けた天使だ。ただの神種とは全く違う。

 ただ、それを彼らが知る術はない。

 勘違いしたまま話は続けられる。



「これで朱月の奴もぶっ飛ばせるわね!」


「理子ちゃん、過激ですよ……」


「ふん。いいのよ絵梨香! あんなスカした奴は一回ぐらいぶっ飛ばさないと!」



 そう興奮するリコだが、セイジとしてはそれよりも気になることが生まれる。



「それでユーリスさん。何があって進化したんですか?」



 それはセイジだけでなく、レンやアヤトも疑問に思ったことだった。簡単に進化したといったが、魔物以外が進化するという事態は殆ど起こらない。通常は発生しない特異な事態だと思った方がいい。

 進化の条件も知られていないし、進化した人族はハイエルフのユーリスだけだと言われていた。

 そのユーリスが今度は神種ハイエルフへと進化したのだ。

 秘密を知りたいと思うのは当然である。

 セイジの質問に、ユーリスは勿体ぶることなく答えた。彼女は先程から机の端に置いてあった木箱を手に取り、音もなく開けてセイジたちの方へと見せる。

 中には不思議な色をした、いや、次々と色が変化する謎のクリスタルが収められていた。



『……?』



 勇者たちは一斉に首をかしげる。

 これを見せられたところで一体何なのかを当てることは出来ないだろう。そこでユーリスは事の始まりから全てを話し始めた。



「これは私が枯れた大樹を調べていた時に見つけたの。黒く染まった大樹から出て来た結晶なのよ。名称は『天の因子』というらしいわ。これを使ったことで私は進化したの」


「大樹からやて……?」


「そうよレン。これは光神シン様からの贈り物。そしてフローリアの置き土産よ。たった二つしかなかったから残りは一つだけどね。私も使うつもりはなかったんだけど、まさか触れるだけで効果を発動するとは思わなくて……ね?」



 そういうユーリスは本当に困ったような表情を浮かべていた。確かにこの手の強化アイテムは使う意思があって初めて発動するのがゲームの定番である。しかし、ここは現実だ。触れるだけで効果を発動してしまっても仕方ない。

 ただ結果としてユーリスは進化に至った点だけは良かった。

 何故なら、この『天の因子』には適性があるのだから。



「今日あなたたちを呼び出したのは『天の因子』があるからよ。残り一つの因子……これはセイジ、レン、アヤトの誰かに使って欲しいの。《光神の加護》を持つ勇者ならリスクなく進化できるわ。私は加護を持っていなかったから、適応するまで副作用に悩まされたわね。だから悪いけど、リコとエリカは除外よ」


「危険もあるの!?」


「ほ、本当に大丈夫なのでしょうか……」


「ええ。光神シン様の加護があれば百パーセント適合できるらしいから。私の情報系最上位スキル《森羅万象》で調べたから間違いないわ」



 そしてユーリスは『天の因子』が入った木箱を置き、微笑みながら言葉を続けた。



「それで……誰が使うのかしら?」




 セイジ、レン、アヤトは顔を見合わせた。









 ◆ ◆ ◆








 ユナ、リア、ミレイナの少女三人組は無事に迷宮都市【ソリア】へと辿り着いた。この【ソリア】は海岸線にある港町であり、主に魚を取って人々は暮らしている。中には海の魔物も存在しているので、危険な仕事と言える。しかし、沿岸部ならばそれほど危険でない。余程腕が立つ者以外は沿岸部でのみ漁をしていたので、沿岸漁業が盛んだ。

 そしてもう一つの産業が迷宮である。

 上級迷宮ダンジョンの運命迷宮から生み出される魔物資源も大きな収入の一つだった。



「うーん。海の香りが強いね!」


「はい。地中海以来です」


「魚が多いみたいだな。今夜の食事が楽しみだ」



 偽造した冒険者ギルドカードによって難なく【ソリア】へと入った三人は、早速とばかりに宿を探す。この運命迷宮はしっかり迷路になっているので、攻略に時間がかかるのだ。

 特殊効果はHPの吸収である。長く迷宮内に留まっていると、HPを吸収されて死に至るのだ。階層が下がるにつれて吸収速度も増していくので、現在は地下五十階層あたりまでしか攻略が終わっていない。

 ただ、三人にはこの特殊効果に対抗できる方法があった。

 それはリアの【固有能力】である。味方と認識した相手のHPを常時回復させるという《幸運の領域》のお陰でHP吸収を相殺できるのだ。通常時でも秒間100の回復量を誇り、リアが魔力を込めれば最大で秒間1,000の回復も望める。

 ちなみに運命迷宮は一分間あたり階層×10のHPが吸収される仕様となっている。更に七十階層からは階層×50のHPが吸収されるようになるので、ほぼ攻略不可能だ。《HP自動回復》のようなスキルがなければ深くまで潜ることの出来ない迷宮だが、リアの能力ならば全く問題にならない。《幸運の領域》による回復量の方が大きいからだ。



「いい宿に泊まりたいよねー。お金は一杯あるし」


「はい。リグレットさんから沢山もらいましたから」



 今回の迷宮攻略に当たって、三人はリグレットから色々と物資を受け取っている。アイテムを大量に収納できる大容量アイテム袋、変装用の魔道具、念のために食料や水、そして人族領で使われているお金……これらは経費として軍事費から落とされているので、三人が負う負担は一つもない。

 これらが【レム・クリフィト】の税金から出ているということを考えれば多少の心苦しさもあるが、これでリアが【魂源能力】に至ればリターンの方が大きい。だからこそ、リグレットも快く物資を渡したのだ。

 そしてユナからすれば、今回の旅はクウと自分を引き離すものだ。腹いせに贅沢しようとしたのも仕方ないといえば仕方ない。



「この辺りは観光地にもなっているそうです。海岸線にある白い浜が有名と聞きました。恐らくは高級な宿も多くあると思います」


「さっすがリアちゃん! 元貴族だけあって物知り!」


「ほう。それは知らなかったな。リアは元貴族なのか」


「ミレイナさんは知りませんでしたっけ? 実はそうなんです」



 忘れがちだが、リアは元々【ルメリオス王国】の貴族子女だ。国内の地理に関する勉強もしているので、人族領については色々と詳しい。有名な迷宮都市である【ソリア】のことも当然のように知っていた。



「【ソリア】は漁業、迷宮、観光の三つを産業としています。この中で特に力を入れているのは観光です。海から風が吹くので年中涼しく、貴族の別荘も多くありますから。それに伴って魚料理も発展し、多くの食材が集まる都市にもなっていますね。勿論、迷宮もあるので冒険者の呼び込みも盛んです。経済状況で言えば【ルメリオス王国】でも上位に位置する優れた都市です。治安も良いそうですよ」


「ほー。なら夕食も期待出来るね」


「うむ」



 こうして役に立てるのが嬉しいのだろう。

 リアは知っている知識を披露しつつ、目に映る観光資源を解説していく。途中で魚介を焼いている屋台を見つけて買い食いしたり、お土産となるステンドグラスを見て興奮したりと、しばらくは【ソリア】を楽しみながら練り歩いた。

 そして日の暮れるあたりで宿街へと赴き、三人部屋を借りる。

 こうして【ソリア】初日は終わったのだった。









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