EP344 報告会
新章、始まります
【レム・クリフィト】へと帰還したクウは正座させられていた。
正面には仁王立ちする冷たい笑顔のユナ。そしてオロオロするリア。ベリアルはクウの背後で苦笑しながら立っている。ミレイナとアリアは少し離れた場所で談笑しながらお菓子を食べており、リグレットがクウとユナの間に立って仲裁していた。
「それで……くーちゃんに申し開きはあるのかな?」
「俺は悪くない」
「ふーん。そんなこと言うんだ……」
「え……事実だろ。魔神剣ベリアルを作ったのはリグレットだし」
「その通りだよユナ君。女性型であるのは予想外だったけど、それをクウ君に与えたのは僕だ。あまり責めないでやってくれないかな?」
クウが正座を強いられている訳。
それは魔神剣ベリアルにある。
この神剣に宿る意思とも言える存在ベリアルは美女だ。それも絶世とも言える美女である。腰まで届く紫の髪が妖艶さを引き立て、ルビーの如き瞳は周りの目を引き付ける。顔立ちも整い、スタイルもかなりのもの。胸囲こそ並みだが、細いウエストのせいで密かに強調されている。
そんなベリアルをクウが連れて帰ったのだから、ユナは静かな怒りを見せたのだった。
「ズルいよくーちゃん! だって専用神装ってことは常に一緒にいるんでしょ!? 私だって常には一緒じゃないのにズルい!」
「いや、仕方ないじゃん」
「ズルいズルいズールーいーっ!」
「子供かお前は!?」
地団太を踏むユナだが、彼女クラスのステータスで暴れられると結構揺れる。よく見ると床が陥没しているので、かなりの力が込められているのだろう。クウはソッと《神象眼》を発動させ、壊れた部分を元に戻したのだった。
そんなユナを見て苦笑していたベリアルはクウに話しかける。
「マスター。この子は誰かしら?」
「俺の嫁」
「察したわ」
ベリアルも生まれたてな割に出来る女のようだ。
実に察しが良い。
嫁というのは半分ほど冗談だが、一応は婚約者なので未来では間違いで無くなる。ただし、今のユナを説明するにはクウ一言が最適だった。
出来る女ベリアルは、不機嫌なユナに近寄って話しかける。
「ねぇ。ユナ?」
「なによー」
「私はあくまでもマスターの武器よ? 貴女が心配するような関係じゃないわ」
「でもいつだって一緒にいられるんでしょ? ズルいよ」
「ふふ」
怪しく笑ったベリアルはユナの耳元に近づき、小声で囁く。
「出来る大人の女性はね、二人っきりの時だけ甘えるの。そしてみんなの前では一歩引いて旦那様を立てるものなのよ? 貴女の大好きなマスターはどんな女性が好みかしらね……大人の女か、我儘な子供か?」
それを聞いて雷に当たったかのような衝撃を受けるユナ。
クウの方をチラリと見ると、小さく溜息を吐いていた。
(もしかして私……くーちゃんに呆れられてる?)
出来る大人の女性筆頭と言えば、オロオロしているリアだ。彼女は出しゃばらず、常にクウを立てている。兄と慕い、いつでも後ろから追いかけている可愛らしいイメージだ。
もしやそんな可愛らしい彼女だからこそ、一年近く連れて旅をしたのでは……という思考にユナは行きついてしまった。
勿論、色々勘違いしている。
クウがリアを連れて来たのは、何となくの勘に近い。恐らくは加護という深層の繋がりがあったからなのだろうが、何となく一緒にいるべきだという心理が働いたのだ。それ故、今まで一緒に行動している。
そして先程クウが吐いた溜息は『適当なこと言ってんなベリアル……』というベリアルに対する呆れだった。クウは「魔眼」の力で読唇術も出来るため、聞こえずともベリアルの言葉が分かってしまったのだ。
そんな大人だとか子供っぽいとかは関係なく、クウはユナを心の底から愛しているといっても過言ではないのだ。別に気にしたりはしない。大人しくしてくれるのは嬉しいが、今のユナも魅力的なので直して欲しいとは思わない。
念のためクウはフォローを入れることにする。
「あのなユナ。俺にとってはお前が一番だ。その証拠に世界を越えてでもお前に会いに来ただろ?」
「あ……うん」
「ほら、今夜は一緒に寝てやるから機嫌直せよ」
「ホントに!? やった!」
ユナは大喜びでクウに抱き着く。そして頬擦りするユナの頭を抱きながら丁寧に撫でた。
ちなみに一緒に寝ると言っても、ただの添い寝のことである。
たまにリアもユナに誘われているのだが、リアは恥ずかしそうに断っていた。ユナの小さな目標は三人で一緒に雑魚寝すること。リアもクウ同様にユナから愛されているというわけである。
とりあえずクウとベリアルの件はこれで一段落した。
そこでお菓子を食べながら寛いでいたアリアとミレイナがやって来る。
「決着したか?」
「なんとかな……」
ユナを抱きしめながらクウが答える。
ベリアルがウインクしながら舌を出しているのは少しイラっとしたが、コイツは本当に生まれたての疑似精霊なのかと逆に冷静になってしまった。
とりあえず落ち着いたところで、六人の天使はソファに座る。この時、既にベリアルは剣の中に戻っているので、話し合いの場にはいない。
片方にはクウ、ユナ、リアで、対面にはアリア、リグレット、ミレイナが座る。そして皆が飲み物を片手に情報交換を始めた。
まず話すのはクウである。
「精霊王は殺した。帰りに確認したけど大樹ユグドラシルも完全に枯れている。人族領の各地で魔物が発生し始めたみたいだから、正常に戻っているハズだ。これで迷宮の負担も減りそうだな」
「正直、精霊の監視はウザかったからな……これで人族領にも情報収集を出すことが出来る。早速だが第零部隊を向かわせてみよう」
「リグレットの作った変装用魔道具もあるんだよな? 試し運用に丁度いい。後で計画書を書くからチェックしておいてくれ」
「良いだろう」
精霊王が消えたことでアリアとしても動きやすくなった。これまでは【アドラー】からの侵攻を防ぐためにアリアとリグレットは動くことが出来なかった。故に精霊が監視する人族領にも部下を派遣できず、情報収集にも困っていたのだ。
しかし、クウという動ける戦力が手に入り、精霊王も始末した。
格段に動きやすくなったのは間違いない。
「次は……ユナ、リア、ミレイナの三人だな。迷宮はどうだった?」
アリアは順に三人へと目を向けながら質問する。
それにまず答えたのはユナだった。
「私とリアちゃんは迷宮の九十一階層から九十九階層のループ階層で鍛えたよ。あそこは強い魔物も多かったから、レベルも上がったし」
「それなら良かった。では本命の方は?」
アリアはミレイナの方を向いて問いただす。
我関せずとお菓子を貪っていたミレイナは、自分に話しを向けられたと悟り、ジュースで口の中身を流し込んでから答えた。
「ちゃんとクリアしたぞ。【魂源能力】も手に入れた。今の私は天竜人というらしいな!」
破壊迷宮で天九狐ネメアの試練を乗り越え、地下百階層で破壊神デウセクセスから真名による加護を貰った。ミレイナは種族進化を果たし、さらに保有スキルの最適化が実行されて天使に相応しい能力となったのである。
確認のためも含めて、ミレイナは自身のステータスを全員に見せた。
―――――――――――――――――――
ミレイナ・ハーヴェ 16歳
種族 天竜人 ♀
Lv178
HP:37,281/37,281
MP:32,918/32,918
力 :38,912
体力 :37,219
魔力 :33,292
精神 :34,819
俊敏 :36,929
器用 :35,692
運 :35
【魂源能力】
《源塞邪龍》
《風化魔法》
【通常能力】
《魔闘体術 Lv9》 Lv3UP/Class UP
《操糸術 Lv5》 Lv1UP
《魔力支配》 Class UP
《気力支配》 Class UP
《超回復》 Class UP
【加護】
《破壊神の加護》
《邪神の呪い(完全秘匿)》
【称号】
《破壊の天使》《到達者》《竜人の期待》
《文明より嫌われた民(完全秘匿)》
――――――――――――――――――――
《源塞邪龍》
力の根源を塞ぐ力。放たれた波動に触れたモノ
は、その力の源を塞がれて無効化される。抵抗
は難しく、出来たとしても弱体化は免れない。
破壊の力も兼ね備えており、相手を無効化しつ
つ破壊することに特化している。
《風化魔法》
風化属性の魔法。
あらゆるモノを劣化させ、朽ち果てさせる。
「黒風」「劣化」の特性を有している。
ここで「黒風」は「気体」「圧」「斬」「闇」
「汚染」「滅び」の複合特性である。
ミレイナの【魂源能力】は二つ。
一つは破壊と無効化の波動を操るという《源塞邪龍》。
そしてもう一つは全てを朽ち果てさせる《風化魔法》。
実に強力な能力である。
「これは強いな」
クウは思わず言葉を漏らした。自分が持っていた《幻夜眼》は直接戦闘よりも奇策のためにあるような能力だった。逆にミレイナは相手を無効化し、破壊するという戦闘力に関しては一級の強力な力を手に入れている。
破壊の神に仕える天使として、これほど相応しい能力はないだろう。
なかなかに反則級な力を手にいれたものである。
「これで天使化していないのはリアだけとなったな」
「が、頑張ります!」
アリアの呟きにリアも両手を握りしめながら答える。リアも足手纏いは嫌なので、運命迷宮攻略へのやる気は充分だった。
精霊王を始末したことで、精霊による監視網は消失している。ユナ、リア、ミレイナが堂々と人族領に居てもバレる心配がない。現在の世界で残っている敵は【アドラー】だけなので、人族領は寧ろ安全と言えるほどだ。
「運命迷宮もユナ、リア、ミレイナの三人で攻略した方が良いだろう。超越化するにしても、実戦経験というのは大切だ」
「うん」
「はい」
「ああ」
ユナ、リア、ミレイナはそれぞれ返事しつつ同意する。
そして再び三人が出ていく間、クウ自身は暇になることに気付いた。一応は魔王軍第零部隊の隊長ということになっているが、部隊編成はまだである。取りあえずレーヴォルフが頑張っているので、任せっきりの状態だった。
(そっちに顔出しておくか)
幾人かはメンバーも決まったらしく、裏部隊としての鍛え上げをしているところだ。その手伝いでもした方が良いかもしれない。
そんなことを思っていた時、ふとクウはあることを思い出した。
「そう言えばアリア、リグレット。人魔境界山脈の南にある竜の諸島は知っているか?」
「ああ、アレか」
「知っているよ。赤い竜がいるところだろう? 七つ目の創魔結晶がある場所でもあるからね」
どうやら知っていたらしい。
ならば話は早いと、クウは質問する。
「ちょっとだけ赤い竜……神龍と戦ったんだけど、アレってなんだ?」
神龍は真核という謎種族であり、能力もかなり厄介だ。どうしてあんな存在が、それもあのような場所にいるのかと不思議になる。
しかし、アリアとリグレットも険しい表情で首を振りながら答えた。
「私には分からんな。多分、敵だとは思うんだが……」
「僕もよく知らないよ。昔からあの場所にいるみたいだけどね。神々に聞けば知らない超越者だっていうから、敵なのは間違いないハズなんだ。でもあの辺鄙な場所から動くこともないし、害になっていない。だから放置していたんだよ。僕も君に言われて思い出したくらいさ」
そうか、とクウは心の中で漏らす。
謎だが、少なくとも味方ではないらしい。倒して良いのかも分からない相手である。ただ、クウとの相性は悪そうだった。倒すべき時が来たら、味方を連れて行こうと決心する。
そうして一通りの報告会を終えた時、リグレットへと不意に通信が入った。
「ん? レミリアかい?」
『久しいの兄上』
イヤリング型の通信魔道具で連絡してきたのは、リグレットの妹に当たる、レミリア・セイレムだった。
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