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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
精霊王編

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EP339 タイムリミット


 紅蓮の神龍と邂逅して数週間経った頃、更に言えばミレイナが試練をクリアした数日後、クウとベリアルは人族領南部にある泉へと来ていた。直径数キロほどの小さな森林の中にある清らかな泉であり、多重の結界によって守られた場所でもある。

 ここは浄化システムを精霊化した大精霊が潜む場所なのだ。

 四方に四体の大精霊が存在しており、ここは南の大精霊が住まう泉なのである。

 そんな場所へとやってきた目的は、勿論その大精霊を利用して精霊王フローリアをおびき出すためだった。



「やるぞベリアル」


「ええ、いつでも」



 クウはそう言って泉を守る結界に手を触れた。

 認識阻害、物理防御、魔素防御、転移阻害など様々な結界が多重展開されている。普通では認識することすら難しい場所だが、《真理の瞳》を持つクウには関係ない。

 手で触れた結界は《幻葬眼》で破壊した。



「あれが大精霊か……」



 小さな泉の中心で佇んでいるのは半透明の女性だった。淡い色の薄い服を纏い、虚ろな目で天を見上げている。意識がないのは、法則を閉じているからだろう。

 意識があると戦闘になっていたので、これはこれで楽だから良いのだが。

 クウは腰に差した魔神剣ベリアルを抜き放ち、そのまま大精霊へと近寄る。そして躊躇いもなく、無造作に大精霊の胸を刺し貫いた。

 一瞬だけ大精霊の瞳が揺らいだが、クウには関係ない。



「ベリアル!」


「任せなさい」



 剣を通してベリアルは大精霊の中へと侵入した。疑似的な精霊となっているが、本来ベリアルは瘴気だ。体内に侵入することなど容易いことである。

 その性質を生かして大精霊を乗っ取り、さらに大樹ユグドラシルの”根”にまで干渉して、それを移動しながら最終的に大樹を穢すのがベリアルの仕事である。



「さてと、俺も仕事しないとな。一発で決めるぞベリアル……接続開始」



 クウは剣を通してベリアルに「意思干渉」を行い。自分の記憶を伝える。

 それは人族領に張り巡らされている”根”の構造と、攻撃地点だ。地脈とも言うべき精霊王フローリアの霊力が流れるこの”根”を通して、四方にいる大精霊を一気に潰す。

 数千、数万、数千万にも及ぶ地脈のルートから適切な場所を瘴気で侵していき、首を絞めるようにして大樹を侵略するのだ。全てはこのために人族領全体の地脈を把握したのである。

 覚えきれないはずの量だったが、クウはそれを能力でどうにかした。自分の意思次元の中に記憶用ストレージを作成し、その中に魂魄記憶として情報を保存したのである。後はベリアルと接続して、その記憶を流せばよい。



「大精霊を掌握するまで十五分。そこから大樹に届かせるまで五分。そうなれば一時間で大樹ユグドラシルは終わりだ。どうでる精霊王?」




 大樹にさえ届けば、クウが「意思干渉」でベリアルに情報を流す必要もないし、ベリアルもこっちに戻ってきて構わない。地脈全体を死の瘴気で侵してしまえば、後は勝手に滅びるだろう。

 接続されている精霊王フローリアもついでに消滅させられる。

 フローリアが大樹を依り代としている以上、もはや切り離して逃げることすらできない。生き延びたければここにきてクウを倒すしかないのだ。



「……今度こそ逃さない」



 前回は勇者が乱入してきたことで逃すことになった。

 しかし、今回は勇者が乱入してきたとしても、一時間の時間経過で勝利となる。前回の反省点を生かした最善の作戦だ。

 後はただ、待ち構えるだけである。







 ◆ ◆ ◆







 その日、エルフの国の首都【樹の都】では激震が走っていた。

 毎夜のように襲われるアンチエレメンタルへの脅威も驚きだったが、最近ではめっきり止んでしまっていたのだ。精霊殺しがいなくなってようやく安堵といったときに、再び危機が訪れたのである。

 彼らが崇め、大切にしている大樹ユグドラシルが黒い瘴気に包まれて枯れ始めたのだ。

 精霊王フローリアも苦しみ始め、緊急事態と判断したユーリスは勇者全てに招集をかける。アンチエレメンタルの被害が無くなって建設中の城塞都市に戻っていた勇者は再び転移で【樹の都】へと来ることになったのだった。勿論、今回はリコとエリカも共に来たのである。

 五人はユーリスと七長老家の当主が集まる会議室へと集められた。



「緊急よ。それもこれ以上に無いほどのね」


「このままでは大樹ごと私も滅びる。助けて欲しい」



 ユーリスと苦しそうな表情を浮かべるフローリアを見て反対する者などいない。七長老家の当主たちは勿論として、勇者たち五人も即座に頷いた。

 それを見たユーリスはすぐに役目を振り分ける。



「ホワイトリリー家は光の精霊で浄化を進めて。そして光の精霊と契約した国民にも要請を募り、浄化を手伝って欲しいの。そしてその他の六家は私と共に現況を倒しに行くわ。勿論、勇者たちにも来て欲しい」



 七長老家の当主たちは言葉もなく頷く。

 それに倣って勇者たち五人も同意の意を示すために無言でうなずいた。

 そしてユーリスがフローリアに目配せすると、フローリアが口を開く。



「元凶の場所は分かっている。そこまで転移するから来る人たちは私に近寄って。このままだと、大樹はあと三十分で枯れる。だから急いで」



 三十分で枯れてしまうとなれば、急ぐほかない。

 浄化で出来る限り時間を稼ぐホワイトリリー家の当主以外はすぐにフローリアの側へと近寄った。最後にユーリスがホワイトリリー家の当主に声をかける。



「頼むわよ」


「承りました」



 一礼した彼は即座に部屋を出て準備を始める。

 そしてユーリスたちはフローリアの力で空間を繋げるゲートを開き、南の大精霊の泉へと接続した。大樹とリンクしているフローリアは時間と共に弱体化してしまう。急がなければ後はない。

 こうして勇者や長老家の者たちを連れていくのも、もしかしたらという可能性にかけたものであり、戦力としては殆ど期待していない。

 相手は以前に戦ったフードの男だとフローリアも予想しているからだ。

 一度戦ったことで相手が超越者だと確信した。



(私が世界侵食イクセーザを使えるうちに……)



 加えて世界侵食イクセーザ発動までの時間稼ぎとして勇者たちを連れていく。

 それがフローリアの考えだった。

 全ての計画を成り立たせる上で勇者は必要だが、それよりも必要不可欠なのは自分自身だ。光神シンの天使であり、全ての計画を知る魔王オメガと双璧を成す部下。その自分がなくては計画が全て消え去ってしまう。

 一応、保険の計画もあることにはあるが、出来れば使いたくない。

 足掻いてでも生き延びなければならないのだ。



「じゃあ行く。ついて来て」



 フローリアの言葉に従い、順にゲートをくぐっていく。

 フローリア、ユーリス、セイジ、リコ、エリカ、レン、アヤト、そして六人の長老たちという総勢十三名が大樹ユグドラシル及び精霊王を救うために決戦の地とも言える場所にやってきたのだった。

 制限時間は三十分。

 ホワイトリリー家が浄化を進めたとしても一分伸びるかどうかだろう。

 時空ゲートを潜り抜けた先に待っていたのは、フードを被った男と、紫のドレスを着た美女だった。そしてその背後には虚ろな瞳をした大精霊が胸に黒い剣を刺されている。



「お前はあの時の!」



 セイジだけでなく、レンとアヤト、そしてユーリスもやはりと思った。

 アンチエレメンタルが消えて大人しくなったと思えば、こんなことを企んでいたのかと悔しい表情を見せる。自分たちが少しでも力を伸ばそうと修行している間に、大樹を枯らせようと画策していたのだから。



「来たか。随分と人数が多いな。肉壁のつもりか精霊王?」


「馬鹿言わないで」



 図星を突かれてドキリとしたが、平然とした表情で返すフローリア。流石に千年以上も生きているだけあって、この辺りに抜かりはない。

 ただ、残念ながら勇者たち及びユーリスや長老たちは馬鹿にされていると思ったらしい。

 随分と憤慨していた。

 もはや言葉も必要ない。また時間もない。

 彼らはクウとベリアルを倒すために動き始める。



「大樹とフローリアは私たちにとって大切なものよ! それを奪わせはしないわ!」



 そう言ってユーリスは《精霊同調》による大規模精霊魔法を放つ。風と炎による威力だけを極限まで高めた魔法だったが、超越者であるクウには意味がない。

 ただの一瞥で対処可能だ。



「《幻葬眼》」



 意思次元へと干渉し、世界に対して錯覚させる。既に起こっている現象を、初めからなかったものとして確定させることで、あらゆる現象を無効化する反則のような「魔眼」だ。超越者でないユーリスではまるで歯が立たない。

 続いてセイジたちも攻撃を仕掛けようとしたが、クウの方が早かった。



「《神象眼》」



 幻術を本物であるかのように錯覚させることで幻術を現実に変える「魔眼」が発動される。リコやエリカも魔法を使おうとしていたようだが、ただ目で見るだけのクウの方が速いのは道理だ。

 光の鎖に縛られ、フローリア以外は動けなくなる。

 これには「意思干渉」によって意思次元から情報次元への流れを封じ込め、スキルを一切発動できないようにする効果もある。精霊も情報次元の存在なので、長老たちも精霊魔法を使うことが出来ず、鎖に縛られたままその場で倒れた。

 所詮はステータスに縛られた者にしか効かない程度のものだが、ここでは効果的である。意思次元から情報次元への流れを封じているため、言葉すら話せないし体も動かせなくなるところも利点である。



「さて、始めようか」



 クウは大精霊から魔神剣ベリアルを抜きながらそう告げる。

 既に死の瘴気は地脈全体に広がり、大樹を侵食しているので、魔神剣ベリアルを大精霊から抜いてしまっても問題ない。予定通り、あと三十分で大樹と共に精霊王は滅びるだろう。大樹と繋がっている精霊王を情報次元から滅ぼし、さらに意思次元すらも侵して存在を抹消する。

 超越者にとっても毒となるのが死の瘴気である。

 普通に喰らう程度なら超越者の耐性でどうにかなるが、今回はその死の瘴気で内部から意思次元を侵食されているので別だ。大樹という依り代、そしてその依り代と繋がる大精霊という弱点があったからこそ、これだけ効果的なのである。



「ベリアル、精霊王はお前が相手しろ。丁度いい経験値になる」


「分かったわマスター」



 クウはそう言って《無幻剣ファントムソード》を発動させ、《因果逆転トリック》でフローリアの背後に回り込み、背中を切ってから蹴り飛ばす。

 毒によって動きが鈍っていたフローリアはそのまま飛ばされ、ベリアルの側まで転がった。

 これで泉の側にはベリアルとフローリア、そして逆側にはクウとその他という風に分離できたのである。

 その状態でクウは魔神剣ベリアルを掲げ、《神象眼》を発動させた。



「《黒死結界》発動」



 魔神剣ベリアルから吹き出る死の瘴気を操ってベリアルとフローリアを囲い込み、漆黒のドームを形成。これによって二人を完全に隔離した。

 結界の内部はクウが《神象眼》で創り出した幻術世界が広がっており、今回は荒野に設定している。イメージは虚空迷宮九十階層だ。

 死の瘴気は触れるだけで死に至るほどの強力なので、セイジたちに外部から解除する手段はない。強いて言うならばクウを殺すことだろう。

 逆に内部からも解除は難しい。空間系能力で脱出するだけなら簡単だが、解除となると至難になる。ベリアルの役目はフローリアが空間系の精霊で外に脱出しないようにすることである。こうして時間経過によりフローリアを殺すつもりなのだ。

 そしてクウは結界の外部でやりたいことがある。



「さて、久しぶりだな桐島、青山、城崎、それにレン」



 クウはフードを外し顔を見せながらそう言ったのだった。









時間制限のあるイベントですね。良くあるやつです。

まぁ完全に悪役なのは主人公ですが……



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