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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
精霊王編

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EP335 魔神の剣


 少しの休憩ついでに神魔剣ベリアルを回収しようと【レム・クリフィト】まで戻ってきたクウは、早速とばかりにリグレットを尋ねた。彼の研究室に入ると、魔道具の失敗作や試験品と思われるモノが転がっており、中には謎の部品がむき出しになっているモノもあった。

 入ってきたクウの気配に気付いたのか、リグレットは奥から声をかける。



「こっちに来たまえクウ君。例のものは完成しているよ」



 本や実験器具が大量に積み重なっているせいでリグレットの姿は見えない。しかし、クウもリグレットの気配を頼りに研究室を進んで行き、カップでコーヒーを飲んでいる本人を見つけた。

 側には黒い鞘に包まれた怪しい雰囲気を出す剣が置かれており、それが神剣となった神魔剣ベリアルだとすぐに理解できた。



「それが?」


「ああ、神魔剣から改め、魔神剣だよ。魔神剣ベリアルがこの神装の名前さ」



 クウは早速それを手に取り、鞘から抜いてみた。

 刀身まで黒く染まり、血管のように紅い筋が走った特徴的な外観は変わっておらず、合成されたはずの神剣イノセンティアは影も形も見えない。

 しかし、その中身は酷く、恐ろしく改造されていた。



「死の瘴気を吐き出すという点は変わらないよ。ただ、その瘴気を生み出す能力の他に、精霊化による瘴気操作が加わったね。あとは所有者に瘴気への耐性を与えるとか、剣自体が不壊になったとか、副次的な効果もある」


「精霊化ってのは?」


「瘴気が一つの形を成して独立できるようになるんだよ。これまでは剣を中心として瘴気を生み出し、飛ばすだけだっただろう? けど、この魔神剣ベリアルは瘴気の塊に疑似的な魂とも言える核を形成し、所有者が支配できる。つまり、遠くに飛ばした瘴気を自在に操れるってことさ」


「俺の要望通りだ。最高だよリグレット」


「ご期待に応えられて何よりだ」



 クウにとって瘴気を超遠隔操作できるかどうかというのが今回の計画の難点だった。そのために神魔剣ベリアルを改造して貰ったのだが、出来上がった魔神剣ベリアルはその要望通りの能力を備えている。

 そして疑似的な魂を持つということは、あらかじめプログラムしておけば、精霊化した瘴気を自動で動かすことも可能ということになる。

 これで大樹ユグドラシルへの干渉も楽になった。

 完全マニュアル操作で瘴気を操り、大樹の”根”を侵略していくつもりだったのだが、これなら調べた”根”の情報をインプットして自動侵略させることも不可能ではない。



「これで少しは楽に仕事が出来そうだな。後は使い勝手を確かめて、慣れておくか」


「そうするといいよ。既に君の血液を使って所有者登録はしてあるからね。その魔神剣ベリアルは君専用の神装だよ」


「ちなみに俺以外が持つとどうなる?」


「さぁ? 瘴気に襲いかかられるんじゃないかな? その剣は瘴気という法則を精霊化によって閉じ込めているからね。意志のようなものがある。所有者を判別して、正式じゃない所有者に襲いかかるぐらいはするだろうさ」


「厳重に管理しよう」


「そうしてくれたまえ」



 魔剣ベリアルだった頃からの危険さは変わらないようだ。瘴気に襲われるという点では、最初の頃より酷くなっているだろう。精神値5,000未満では狂化するなんてデメリットは可愛いものだ。

 クウは魔神剣ベリアルを鞘に仕舞い、虚空リングへと収納した。



「じゃあなリグレット。また何かあったら頼むかもしれない」


「その時は遠慮なく言ってくれたまえ。材料があれば何とかしよう」



 そう言ってクウは研究室をでた。リグレットから使用許可を貰っている転移魔法陣で人族領に向かい、残りの”根”を解析する。それがクウの仕事だ。

 その前に魔神剣ベリアルにも慣れておく必要がある。

 この剣は杖に近い効果も持っているので、剣としての使い方以外も考えておく必要がある。瘴気という疑似精霊を操るにしても、その感覚をぶっつけ本番で習得するのは無茶だし、使う場面は少しも失敗が許されないので精密さも求められる。



(何処か誰もいない場所で……そうだな、海なんかの魔物が丁度いいか)



 ストレス発散も兼ねて、魔物狩りをすることにしたクウは、人族領南方へと移動できる転移陣を利用する。

 【レム・クリフィト】南部にある地中海でも良かったのだが、あの辺りは漁で出航したり、貿易船も行きかうような場所だ。万が一があってはいけない。また、人族領の下手な場所では、精霊に見つかって精霊王フローリアまで伝達される可能性がある。魔神剣ベリアルの脅威は見るだけで分かるので、警戒されて対策されたら面倒だ。

 誰もいない場所で、迷惑をかけることなく、精霊にも見つからない場所……簡単に思いつくのは人族領にある東大平原の南側にある海である。

 人族領東大平原は人魔境界山脈から流れてくる強力な魔物が生息するので、基本的に街がない。今は辺境城塞都市が建築されているが、それを含めても一つだけだ。その地域と接する海ならば人に見つかる心配も精霊に見つかる心配もない。



(となると……これか?)



 【レム・クリフィト】にある転移陣は専用の巨大なものとなっている。転移先に設置した魔法陣に対応するように数値設定することで、色々な場所に転移できる親機なのだ。逆に、向こうから戻ってくるときは下手な設定は必要なく、パスワードを入れて起動すれば簡単に使える。

 今回は人魔境界山脈最南端の大悪魔カースド・デーモンが支配する領域が最も近かった。何のためにリグレットがそんな場所に転移陣を敷いたのかは不明だが、それは暇なときに聞くことにしてクウは転移魔法陣の上に乗る。

 霊力を魔素に変換し、魔法陣に流すとすぐに転移は発動した。



「―――っと、着いたか」



 一瞬の浮遊感を感じて景色が一変する。

 無事に転移できたらしく、岩だらけだった。どうやら岩の洞窟内部に転移陣を作ったらしい。入口に認識阻害と人払いの結界を張っているのだろう。クウのように「魔眼」でもなければ見逃しそうなほど精巧な造りとなっている。

 ただ、これは他の転移陣にも言えることだ。

 簡単に利用されて【レム・クリフィト】へと侵入されては困るので、厳重に管理されているのである。ちなみに、ユナ、リア、ミレイナはこの認識阻害を打ち消す特殊な魔道具を渡されているので、効果が及ばない。



「まずは場所の把握からか。となると、飛ぶのが一番だな」



 洞窟から出たクウは三対六枚の翼を出して空に舞い上がる。全方位をクルリと見渡すと、ある方向に大海原が広がっていた。そちらが南側らしい。

 そして地上を見下ろすと、悪魔と思しき存在が大量にいる。

 ヤギの頭を持つ巨躯が上位種で、下位の悪魔はヒョロリとした小間使いみたいな奴だ。悪魔は理知的で、上位種が下位の悪魔を率いることで派閥を形成する。その派閥の大きさが上位種の勢力となっているのだ。それと同時に支配領域も増えるのである。

 そしてクウは突然、彼らの領域に湧き出た異物だ。

 悪魔たちは当然のようにクウを領域侵犯者と判断し、襲いかかる。彼らは背中の羽で浮遊出来るため、空中にいるクウでも関係なく襲いかかってきた。



『キギャアアアアアアアアアアアアアッ!』


「はぁ……」



 百を超える悪魔の大軍の中には中級クラスの悪魔もいる。悪魔という魔物はHPやMPを吸収する能力を有しているので、これだけ囲まれればまず生きて帰れない。しかし、相手が悪すぎた。



「《魔神の矢》」



 消滅エネルギーが生み出され、高速分裂して一つ一つが矢の形となる。そして全方向に向けて一斉掃射された。悪魔たちは消滅エネルギーを喰らって一撃で存在を消し飛ばされ、目に分かる速度で数を減らしていく。

 悪魔とは狡猾で賢い魔物だ。

 これらの下位悪魔を従えていた上位種は、すぐに敵わないと悟った。

 そこで使いを出し、悪魔の領域全てを支配する大悪魔カースド・デーモンに知らせようとする。一部の領域を上位悪魔が支配しているといっても、それは大悪魔の傘下にあることが前提だ。上位種の上には大悪魔が君臨しており、彼らは支配を代行しているに過ぎない。

 真なる王はカースド・デーモンだけなのだ。

 しかし、クウは悪魔に興味などない。別に山全体を浄化して悪魔たちを消し去ることも出来るが、それをすると人魔境界山脈のバランスが崩れ、大規模なスタンピードへと至る可能性もある。クウの勝手で余計な被害を出したくはないので、ここは大人しく引き下がることに決めていた。



「逃げるか」



 クウはそう呟いて翼を広げる。そして空気を強く叩き、一瞬で加速して海の見える南へと行ってしまった。余りの速度に凄まじい風圧が発生し、悪魔たちは吹き飛ばされてしまう。そして気付いた時にはクウの姿など遥か遠くに消えてしまっていた。

 音速を越える飛行に追いつけるはずもなく、悪魔たちは茫然とする。

 そして大悪魔へと知らせを送ったにもかかわらず、クウは逃げてしまっていた。このことで上位悪魔がカースド・デーモンから罰を受けるのだが、それは別の話である。

 そしてクウはあっという間に海へと出て、感知を使いつつ魔物を探していた。



(集中…………さらに南方に大量の反応アリ……小さな島が大量にあるから、そこの魔物か? 山脈の南にあんな諸島があるなんて知らなかったな)



 もう少し上空に昇れば島の様子も見えるのだろう。今は海の魔物を探すために低位置にいるため、あまり遠くまでは見えない。しかし、その諸島からは大きな魔力反応があった。気配も強いので、それなりの魔物なのだろうと分かる。



(魔物は瘴気が集まって生まれるはず。あんな絶海の群島に瘴気が溜まる要素があったのか?)



 疑問もあるが、事実として強力な魔物がいる。

 気になったので、海の魔物を探知することは止めて島へと向かうことにした。

 そして島へと近づいていく内に空を飛ぶ黒影を発見する。

 巨大な翼を広げ、大きく羽ばたきながら群れで空を駆ける。そのフォルムはクウもよく知っているものなので、一体何の魔物なのかすぐに理解できた。

 そして島を見下ろせば、その魔物の巣が幾つも見える。

 体を覆う堅い鱗、大木のような尾、巨大な爪、鋭い牙……それはドラゴンである。



「ワイバーン、真竜、グランドドラゴン、プラチナドレイク、ヴォルカニックドラゴン……竜系の魔物が勢揃いってところか」



 まさかこんなところに大量の竜系魔物が揃っていたとは驚きである。

 そしてクウは魔神剣ベリアルを試すに丁度いいと判断した。それに、竜種は素材としても優秀なものばかりである。リグレットへの土産として丁度いい。



「さぁ、お披露目だぞ!」



 クウは虚空リングから漆黒の鞘に入った剣を取り出す。瘴気を操り、全てを喰らいつくす悪意の剣。まさに魔神の名を冠するべき神剣だ。

 死と悪意を与える魔神ベリアルに、狩りの女神アルテミスの血。

 そして精霊王フローリアによる瘴気の精霊化。



「狩り尽くせ。魔神剣ベリアル」


「ええ。分かったわ」



 クウが抜き放った魔神剣ベリアルから瘴気が吹き出し、一つのところに集まる。そして瘴気は形を成し、目が離せなくなるほどの美しい女性が姿を見せた。

 腰に届くかと思われる紫の髪。そしてその髪と同じ紫のドレス。瞳は炎のように紅く染まり、その声はこの世の男を堕落させる響きがあった。



「我が名は死と狩りの王ベリアル。さぁ、貴方の剣、貴方の矢となりましょう」



 彼女は剣に宿る疑似精霊ベリアル。

 魔神剣の所有者と共に戦い、その力で死を与える魔神の代行者である。







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