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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
精霊王編
333/566

EP332 再戦、ネメア


 各地の迷宮攻略に乗り出したユナ、リア、ミレイナは、まず【砂漠の帝国】にある破壊迷宮へと訪れていた。この迷宮はミレイナが力を得るためのものであり、既に九十階層まで攻略済みである。あとは九十階層で待ち構えている天九狐あまつここのえきつねネメアの試練をクリアするだけだ。

 精霊王を倒すまで人族領にある運命迷宮を後回しにしている間、この迷宮を攻略するのである。

 ミレイナは転移クリスタルで九十階層へと跳ぶ。そしてユナとリアは自分たちを鍛えるために一階層から順に降っていく。それぞれの目的のために同時並行で攻略を進めるのだ。



「わぁー。【帝都】が壊滅したって聞いたけど、本当だったんだねー」


「はい。凄まじい戦いだったと兄様に聞きました」



 クウを含めた四体の超越者が戦った跡地なのだ。【帝都】は綺麗に消滅し、残っているのは泉と破壊迷宮だけである。今は天幕生活を送りつつ、復興のために誰もが全力で働いている。そのお陰か、残骸処理や区画整理は終わっているように見えた。

 ただ、やはりと言うべきか、迷宮に挑戦しようとする者はいない。戦いの中に生きる獣人竜人族も、流石に今は自重しているらしかった。



「じゃあ行こうか」


「はい」


「ああ」



 ユナの言葉にリアとミレイナは頷き、三人は破壊迷宮へと向かって行く、砂避けに白いマントを被っているので、二人の人族が混じっていても誰かが気にすることはなかった。特にトラブルもなくピラミッドのような迷宮へと辿り着き、エントランスへと入っていく。



「ここでお別れだな。私は先に九十階層へ行く」


「ミレイナちゃんは試練頑張ってね。じゃあ私たちも一階層から攻略していこうリアちゃん!」


「はい。ミレイナさんも気を付けてください」


「うむ」



 ミレイナは大きく頷いて巨大転移クリスタルに手を触れ、小さく九十階層と呟く。するとミレイナの体は青白い粒子となり、エントランスから消え去った。

 それを見た残り二人は、互いに頷きあって地下一階層へと降りる階段に歩いていく。二人はまだ破壊迷宮へと入ったことがなかったので、一階層から順に下って行かなければならないのだ。リグレット謹製の大容量アイテム袋もあるので、食料の心配はない。少なくとも一か月は連続して潜れる程度の食材は入れられている。

 ちなみに、このアイテム袋は空間拡張だけでなく時間停止も組み込まれている。中の食材が腐ることもないという便利な仕様だ。



「リアちゃんはバックアップをお願いね。私が全部切り捨てるから」


「はい。気を付けてください」


「勿論。来なさい、魔刀・緋那汰ひなた



 ユナはスキル《天賜武アンノウン》によって炎の力が込められた魔刀を呼び出す。そしてそれを左手に持ち、武装した。

 リアは腰のアイテム袋から一本の錫杖を取り出す。これは【レム・クリフィト】で魔王軍第六部隊の隊長リリス・アリリアスが持つ錫魔杖フレイヤを元にリグレットが作った杖で、リア専用の新しい杖だ。回復系の魔法に補正を与えることができる。



「じゃあ行こう」


「はい」



 破壊迷宮は特性として迷路が全くない。全ての階層が四方数キロの正方形からなる空間なのだ。だが、迷路の代わりにウォールゴーレムという魔物が存在しており、壁のように並んでいる。このウォールゴーレムが迷路の代わりとなっているのだ。そして無数のウォールゴーレムは常に移動しているので、迷路は一定の状態を保つことがない。地図を描いたとしても意味がないのだ。

 最も簡単な攻略法は、このウォールゴーレムを破壊して真っすぐに進むことである。

 ただし、ウォールゴーレムは非常に堅い。

 更に自動回復系のスキルも有しているので、一撃で大ダメージを与える必要があるのだ。鍛えている者でも普通は十階層にすら辿り着けないような迷宮である。

 しかし、ユナには関係ない。



「はっ!」



 短い掛け声と共に一閃。

 居合の一撃によってウォールゴーレムは斜めにずれ落ちた。朱月流抜刀術に関してはクウよりも上なので、これぐらいは容易い。魔刀・緋那汰ひなたのお陰という面のあるが、そもそもユナは武術系最上位のエクストラスキル《無双》を保有しているのだ。例え数打ちの刀でも同じことは出来ただろう。オーラを纏わせれば鈍らでも切れ味は上がるのだから。



「この調子で今日の内に五十層までいくよ!」


「そうですね。わたくしも頑張ります!」



 低階層の内はユナ一人でも余裕をもって進めることが出来る。ユナの持つ《武具鑑定》はトラップにも作用するので、罠を見抜くことも容易いからだ。

 今回の目的は九十階層以降である。

 本来、九十一階層から九十九階層までは迷宮のトラップ階層として存在している。試練なく百階層へと行こうとする者への罰として存在しているのだ。

 出現する魔物はどれも強力で、九十九階層から下に降りても再び九十一階層へとループしてしまう仕組みになっている。ユナとリアはここでレベルアップを図ろうとしているのだ。

 早くいかないとミレイナも試練を終わらせてしまうかもしれないので、九十階層までは急ぎ足だ。

 二人は駆け足で迷宮を降っていくのだった。








 ◆ ◆ ◆






 九十階層へと降りたミレイナは、すぐに転移クリスタルの小部屋を出て最後の扉の前に立った。九尾の狐が描かれた金属製の扉を目の前に、数か月前のことを思い出す。以前はここでネメアに挑み、呆気なく試練失敗に終わってしまった。

 あれから修練を積み、ようやくここへと戻ってきた。



(今度こそクリアして見せる!)



 両手を握りしめ、強く意気込んでから扉を開ける。

 以前見た通り、そこには一面花畑が広がっていた。



「来たみたいやね」



 入ってきたミレイナにそう声をかけたのは九本の尾を持つ人型のネメアだ。能力によって獣形態から人型にまでなれる特殊な神獣である。人型では『傾国姫』と呼ばれる程の美貌を有しており、たとえ同性でも目を引いてしまう。

 そんな彼女が花畑の一角にある岩場に腰かけていた。



「ちょっとは強くなったん?」


「当然だ。以前と同じだと思うなよ」


「ふふ。それやったら確かめさせてもらうわ。がっかりさせんといてや」



 ネメアはそう言って岩から飛び降り、音もなく着地する。どこからともなく吹いた風が花弁を巻き上げ、ネメアの周囲を覆った。

 それが晴れた瞬間、彼女はミレイナの目の前にいた。



「っ!?」


「遅いで」



 体術のプロフェッショナルであるネメアはオーラと魔素を纏った一撃を放つ。本気ではなく軽い一撃のつもりだったが、ミレイナは予想以上に吹き飛んだ。



「ふふふ。ちゃんと後ろに跳んで衝撃を軽減させたみたいやね。それにオーラの扱いも上手になっとるみたいや」



 ネメアの拳が当たる瞬間、ミレイナは即座にオーラを纏い、更に後ろに跳ぶことで衝撃を軽減させていた。回避は不可能と咄嗟に判断できたからこその行動である。

 こういった勘は以前から冴えわたっているが、加えて最善の行動を選択できるようになったので、近接戦闘においてはレーヴォルフに引けを取らないぐらいになっていた。

 ただ、こうして衝撃を減らす程度なら以前でも出来たことだろう。

 しかし、今のミレイナは更に一歩上を行く。



「あら? これは?」


「遅いのはお前だ!」



 ネメアは正拳突きを放った右腕を戻そうとして、違和感に気付いた。いつの間にか手首に頑丈な糸が巻かれていたのである。ミレイナの《操糸術》は体術に並んで鍛えているスキルだ。元から暗殺向けの武器なので、こういった技も習得していた。

 ミレイナはネメアに巻き付けた糸を力任せに引っ張りバランスを崩そうとする。さらに糸を引く力の反作用を利用して、ミレイナは前に飛び出した。

 流石にこの程度でバランスを崩すネメアではないが、糸に気を取られたことで一瞬を隙を見せてしまったことには変わりない。

 その一瞬でミレイナはネメアの目の前まで移動していた。



「喰らえ!」



 ミレイナは拳を突き出し、更に《竜の壊放》を発動させる。ただ衝撃を放つのではなく、拳を通して相手の体内に衝撃波を炸裂させるという応用技だ。まともに喰らえば内臓や筋肉、骨をグチャグチャに潰されてほぼ即死となる。オーラや魔素による肉体強化で抵抗できなくもないが、大ダメージは必至だ。

 ちなみにこの技はまだ未完成である。

 本当はオーラと魔素を纏わせることで完全に防御も抵抗も不可能な一撃必殺の技を目指しているのだが、ミレイナは未だに《気闘体術》へと至っていないので、そこまでは出来ないのだ。

 現在、ネメアの右手は糸で縛っている。

 さらに左手の防御はミレイナの攻撃よりも遅い。



(貰った!)



 そう確信した。

 しかし次の瞬間、ミレイナは左側から強い衝撃を受けて吹き飛んだ。

 ミレイナから見て左側はネメアにとっての右側である。右手は確実に糸で抑え込んでいた。混乱しつつもミレイナはどうにかして着地を決める。そしてネメアの方へと目を向け、何が起こったのか理解した。



「尻尾……か」


「油断大敵やで? ウチには腕が十一本あるようなもんやからなぁ。一本ぐらい封印した程度で油断したらあかんよ?」



 ネメアはそう言って左手にオーラを纏わせ、手刀で右手に巻き付けられた糸を断ち切った。これで完全に仕切り直しである。

 やはりこのままでは攻撃を当てることも出来ないとミレイナは改めて理解した。



「少しは成長しているみたいやけど……ウチに攻撃を届かせるのは無理そうやねぇ」


「うるさい。すぐに届かせてやる」


「ふふ。なら、改めて試練の説明や。ウチに攻撃を当てることが合格の条件。掠ったとかは無しやで? ちゃんと一撃を当てたら勝ち」



 先程までのやり取りは小手調べに過ぎない。ここからが本番だ。

 ミレイナは出し惜しみせずに、初めから全力で行くことを決意する。



「これが私の本気だ。後悔するなよ!」



 そう宣言して竜化を発動した。

 自身の内側にある竜の本能が目覚め、全身を竜鱗が覆っていく。背中には竜の翼が現れ、彼女の瞳が一層強く輝いた。

 未熟な者が使えば本能に飲み込まれ、意識を失って暴走することになる。そんなリスクを抱えた竜人族の切り札とも言える特性だ。



「ここら一帯を全部吹き飛ばす!」



 ミレイナは竜翼によって空高く浮かび上がり、風の魔力を集め始めた。魔素とオーラを収束して放つシュラム・ハーヴェの奥義《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》を改良した広範囲破壊技が発動される。



「《颶風滅竜皇息吹ストーム・ルイン・ブレス》!」



 極限まで圧縮された気体が爆ぜた。

 音速を越えて膨張する気体が衝撃波となって周囲を破壊し、暴風の力で蹂躙し尽くす。広範囲を風の力で薙ぎ払うミレイナの切り札とも言うべき大技を初手から放ったのだった。



「まだだ!」



 ミレイナはそう言ってさらに詠唱を続ける。



「『見えぬ剣、集う刃

 積層する大気は導く

 天秤は傾き、偏位は崩れ

 一人がために裁きは降る

 手の中にあるのは偽りの柄

 刃は我が敵の上にあり!

 《気刃断空エレイル・スパーダ》』」



 気圧という圧力によって物体を両断する風の魔法。

 見えない剣の柄を創り出すという効果を持った特殊魔術だ。発動後は剣を振り下ろすように、利き手を振り下ろせば、そこに見えない斬撃が降る。斬撃の装填数は込める魔力に依るが、最大でも五発までだ。

 今回、ミレイナは最大数である五発分の魔力を込めていた。

 《颶風滅竜皇息吹ストーム・ルイン・ブレス》によって生じた土煙が晴れるよりも先に、ミレイナは《気配察知》によってネメアの場所を探り、攻撃を放った。



「こ・れ・で……どうだっ!」



 遥か上空でミレイナは腕を振り下ろし、地上に五つの斬撃が落とされたのだった。










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