EP328 禍の廃城
セイジたちは現在、東に向かって移動していた。理由はアンチエレメンタルを送り出してきた黒幕と思われる存在の拠点が見つかったからである。精霊王フローリアが派遣した精霊たちが、その場所で二匹も仕留められたという話だった。
その話を聞いたセイジ、レン、アヤト、ユーリスはすぐに馬を手配し、可能な限り早く移動して東を目指したのである。ちなみに、勇者たちはこの世界にやってきたことで乗馬の訓練もしている。乗りこなせるとは言い難いが、平原を走らせる程度なら全く問題なかった。
流石に馬を走らせ続けることは出来ないのだが、使い潰す勢いで急がなくてはならない事情がある。毎夜の如く出現するアンチエレメンタルのせいで精霊が数多く消滅しているからだ。
そこで、セイジは《時空間魔法》による転移を使い、道中で何度も【樹の都】に戻っては馬を入れ替えてを繰り返し、休む間もなくひたすら東へと向かった。高位能力者の部類に入るこの四人ならば、数日ほど徹夜しても問題ない。それだけのステータス値を持っているからだ。
そうして移動すること一週間。
四人と精霊王は遂に目的の場所まで辿り着いたのだった。
「皆、速度を落としなさい」
風に乗ってユーリスの言葉が聞こえ、勇者たち三人は馬の速度を落とす。平原の向こうには、一部分だけ禍々しい空間が広がっていた。
空には怪しい雲は広がり、大地は枯れ、無数の武器が墓標の如く突き刺さっている。そしてその中心には廃墟のような城が建っていた。所々が崩れた城は、薄暗い霧を吐き出しながら不気味な威容を見せている。下手な心霊スポットよりも恐怖を煽る見た目だった。
事実、周囲には死神のような姿のアンチエレメンタルが大量に浮遊しているため、かなり恐怖を感じる。
「フローリア、出てきて」
「うん」
ユーリスが呼ぶと、強い気配を発してフローリアが姿を顕す。本来は依り代である大樹ユグドラシルから遠く離れられないのだが、ユーリスと契約することでその枷を緩和していた。ユーリスがいる場所ならばこうして顕現できるのである。
「あれが黒幕の本拠地かしら?」
「そう。あの場所で私の精霊たちが始末された」
「あの中に私たちの標的はいる?」
「いる。あのボロボロの城の中に一際強い気配を感じる」
とは言え、あの空間に足を踏み入れるのはかなりの勇気が必要だ。雰囲気云々ではなく、周囲に漂うアンチエレメンタルが原因である。今にも崩れそうな城へ侵入するにしても、あのアンチエレメンタルの群れを抜けなければならない。
そして抜けた先にいる黒幕は勇者たちで太刀打ちできない。
「私が行く。勇者はアンチエレメンタルの足止め。ユーリスも勇者と一緒に待ってて。この範囲なら私も動けるはずだから」
「でも黒幕って魔王クラスなんじゃ……」
「自惚れないで。貴方たちのレベルでは手も足も出ない」
『そんなにっ!?』
事実、魔王オメガも魔王アリアも超越者なのでステータスに縛られている勇者たちでは手も足も出ない。フローリアとしてはここに連れてくることも遠慮したかったのだが、さすがにそれを説得するのは無理だった。
どちらにせよ、フローリアが遠くまで移動するためには契約者であるユーリスが必要だ。勇者たちはユーリスの護衛と考えたのである。
超越者どうしの戦いに参じる場合、フローリアは全力を出さなければならない。そのとき、ユーリスの守りはゼロになってしまうのだ。《精霊同調》のスキルもほぼ無意味になってしまう。
そう思えば、勇者を連れて来て正解だろう。
ただ、連れていけるのは本当にここまでだが。
「僕たちが出来ることはないんですか?」
「ない。強いて言うならユーリスの護衛。私が本気を出すとユーリスの守りがなくなるから。アンチエレメンタルを足止めしつつ、ユーリスを守って」
セイジ、レン、アヤトも納得できたわけではないが、取りあえずはフローリアの言葉に頷く。相手が魔王と同等の強さだと聞いて、どれぐらい自分たちの力が通用するのか確かめたいという気持ちがある。しかし、フローリアが許さない以上、引き下がるしかない。
「私の守り。お願いね?」
ユーリスもそう言ったので、勇者たちは大人しく従うことにしたのだった。
それを見たフローリアは、能力を使って周囲の環境を弄り、一泊できる状態に変化させる。大地から木の芽が生え、早回しビデオのように成長して大木を作る。枝が伸び、葉が生い茂って屋根のようになった。次に地面を変化させて平らにし、中心に火を起こすための穴をあける。最後にそこに火を灯し、少し離れた場所に清水の湧く泉を作って完成だ。
これで普通の野宿よりも快適に過ごすことが出来るだろう。
精霊魔法の精密さがあってこそ可能なことである。
「今日はここで泊まる。明日は大きな戦いになるからゆっくり休んで」
本来なら、フローリアも超越者の目の前で休むようなことはしない。だが、今回の場合は別だ。相手が自分を誘い出していると分かっているので、こういったことも出来るのである。
自分たちがあの禍々しい領域に足を踏み入れない限り、手を出してこないという確信があった。
また、転移で【樹の都】へと戻ることも考えたが、それをするとセイジたちが出現するアンチエレメンタルを倒すために戦おうとするだろう。それでは休むために戻る意味がない。なので、ここで一泊することにしたのだ。
四人と精霊王は明日に備えてゆっくり休むことになる。
◆ ◆ ◆
翌日、朝食後に軽く準備運動をした四人は、精霊王フローリアを伴って出発した。そして周囲を警戒しつつも変異している領域へと足を踏み入れる。
地面は枯れて罅割れ、血で濡れたり錆びたり欠けたりしている武器が無数に刺さっていた。まるで戦場跡のようである。空は禍々しい色の雲が覆っているため、太陽の光も届かない。それが余計に不気味な様子を演出していた。
「来た」
セイジの言葉よりも先に皆は武器を抜く。
黒いローブ、死神のような大鎌が特徴的なアンチエレメンタルだ。【樹の都】では精霊だけを襲っていたアンチエレメンタルも、ここではセイジたちをターゲットとして認識している。
そしてフローリアも顕現して早口で指示を出した。
「ここは任せる。私は黒幕を倒しに行く」
「任せてください!」
「了解や」
「ここは通しませんよ」
「ふふ。私のことも守ってね、勇者さんたち?」
フローリアが瞬間移動を思わせる高速移動で廃城へと向かって行く中、セイジたちはそれぞれのスキルでアンチエレメンタルを攻撃する。
ユーリスの《精霊同調》が実質的に使用不能なので、セイジ、レン、アヤトの能力が頼みだ。それでもユーリスとて精霊魔法しか戦闘方法がないわけではない。スキルとして《風魔法》を有しているので、それをメインに戦うことは出来る。
光の剣が飛び、光弾が奔り、七色の矢が突き刺さる。
四人はアンチエレメンタルを引き付けることに成功した。
一方、精霊王フローリアは霊力を使って身体能力を引き上げ、高速移動によって一気に廃城へと潜入することが出来た。
「けほっ……ぶつかった」
壁を突き破り、土煙を上げながら中へ入る。そしてずっと感じていた強い気配を目指して歩みを進めた。
城の中はそれほど複雑な構造ではなく、ほぼ二つの空間で占められている。
一つは入り口から入ってすぐのエントランス。
そしてエントランスの奥にある扉を開けた先にある巨大ホールだ。
上階に行けば小さな部屋もあるのだが、強い気配はホールの奥から感じられる。フローリアは扉を能力で吹き飛ばし、巨大ホールへと足を踏み入れた。
「乱暴な入場だ。礼儀を知らないのか?」
「貴方に払う礼儀はない」
「それもそうか」
奥にいたのは黒いコートを纏い、ファー付きフードで顔を隠したクウだ。精霊王フローリアからすれば正体など全く分かっていなかったが。
「さてと、ここに来たということは俺の誘いに乗ってくれたということでいいかな?」
「無論。でも返り討ち」
「出来るものならな」
クウはそう言って左手の虚空リングから神魔剣ベリアルを取り出し、抜き放って鞘だけ収納する。そして血管のような深紅のラインが光る刀身に死の瘴気を纏わせ、斬撃として放った。
当然ながら、超越者にその程度の正面攻撃が通じるはずない。フローリアは軽く避けて能力を発動させる。
「生まれよ【世界元素】」
フローリアの宣言と共に、周囲の空間へと法則が混ぜ込まれる。それによって精霊が生み出され、その全てがフローリアの支配下に置かれた。
相手が権能を発動させた以上、クウも相応に対処するしかない。
「開眼、【魔幻朧月夜】」
即座に「魔眼」と「理」を組み合わせ、フローリアの保有する固有情報次元を観察した。もう慣れたもので、すぐに解析は終了する。自分なりに纏めたフローリアの情報を視界に表示した。
―――――――――――――――――――
フローリア 1627歳
種族 超越神種天霊
「意思生命体」「寄生」「天使」
「魔素支配」
権能 【世界元素】
「自然支配」「属性支配」「眷属生成」
―――――――――――――――――――
権能【世界元素】は領域型法則系に属する能力である。
まず、「自然支配」と「属性支配」によって周囲の空間を制御下に置く。そして制御下に置いた空間中に精霊という法則を与えるのだ。「眷属生成」を使い、全ての自然と属性に対応する精霊が生まれ、その精霊を統率することであらゆるモノを支配する。
普段は炎、水、風、土、雷、闇、光の七属性に対応する精霊のみを創り出しているが、本気を出せば時間や空間、運命すらも操る精霊を創り出すことも出来る。更に、木の精霊、川の精霊、雪の精霊、鉄の精霊など細かい部分に対応する精霊を創り出すことも可能なのである。
まさに世界の元素たる能力。
それが権能【世界元素】だ。
「なるほど。分かりやすくていい」
クウは即座に解析を終了した。元々、精霊を観察することである程度は予想できていた能力だ。実際に見れば完璧に解析できる自信はあった。
また、クウの【魔幻朧月夜】のように分かりにくい能力ではなく、かなりシンプルで分かりやすい能力なので、余計に早かったのだ。
「潰れて」
「ん……これは?」
フローリアは重力の精霊に命じてクウにだけ超重力を与える。空間座標に対する術ではなく、特定物に対する術行使だ。例えクウが移動したとしても超重力からは逃れられない。演算を精霊に任せている分、通常ではあり得ないほど精密で難易度の高い術行使が可能となる。これが精霊術の利点だ。
精霊は特定法則に関する情報の塊だ。
重力を操る精霊はその他の法則に一切関われない代わりに、重力に関しては誰よりも使いこなせる。
こういった一点突破の精霊を無数に操ることで万能性を再現しているのだ。
「痺れて」
「お断りだ。死ね」
フローリアが電子を操る精霊を使って雷を生み出そうとしたので、クウは《幻葬眼》で消し去った。どうやら一度の発動で一体の精霊にしか効果を及ぼすことしか出来ないようだが、この「魔眼」を使えば一撃で精霊を消すことが出来る。
意思次元に働きかけて、現象を無かったことにしてしまう力だ。
精霊は情報次元の塊でしかないので、抵抗する余裕もなく消し去られる。
ただ、「魔眼」でしっかりとターゲットする必要があるので、一度に一体しか消せないのである。
「これならどうだ? 《魔神の矢》」
クウは精霊が情報次元の塊であることを利用して、消滅エネルギーを生み出す。これは「月(「矛盾」)」の力で情報次元を消し飛ばす効果を持っているので、精霊に対して効果抜群だ。
神魔剣ベリアルを持っていない左手を上に掲げ、そこに巨大な消滅エネルギーを生み出す。そしてそれを数えきれないほどに高速分裂させ、形成して矢の形へと整えた。
「む、拙い? 精霊たち!」
「遅いな。行け!」
放たれた消滅エネルギーの矢は次々と精霊に直撃し、情報次元を削り取って大ダメージを与える。これによってそれなりの精霊が消し去られたが、残りは空間と重力の精霊によって軌道を曲げられ、回避された。
そしてフローリアはすぐに消し去られた分の精霊たちを補充する。
再び周囲を支配し、「眷属生成」によって精霊を生み出した。
「行くぞ? ここからが本番だ」
「望むところ」
クウは神魔剣ベリアルに死の瘴気を纏わせ、フローリアは自身の周囲に精霊を呼び寄せる。
二人の超越者がぶつかった。
評価、感想をお待ちしております





