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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
精霊王編
328/566

EP327 黒幕へ迫る


 アンチエレメンタル・カーディナルとの戦闘が終わり、一休みした勇者およびユーリスは、要人専用の応接間に集まって話し合っていた。

 勿論、議題は昨晩戦ったアンチエレメンタルについてである。



「アンチエレメンタル・カーディナルはボスじゃない?」


「そう。あれはまだ手下の一体」



 ユーリスと契約する精霊王フローリアの言葉に、四人は言葉を失っていた。ボスと思われるアンチエレメンタル・カーディナルを倒したことで、精霊殺し事件は解決に向かうと考えていた。多数の精霊に犠牲を出してしまったが、手遅れになる前に事件は収束したと思っていたところだったのだ。

 しかし、フローリアがそれは間違いだと否定する。



「あれは魔物ではなく、何者かの能力で作られた存在。そいつを倒さない限り、いつまでもアンチエレメンタルは出現し続ける」


「アレが能力ですって? どういうことフローリア?」


「恐らくは【固有能力】よりも特殊な系統のもの。最悪の場合、私か魔王クラスの奴が黒幕」


「魔王クラスだって!? なら相手は魔族なんですか!?」



 セイジの叫びはレンやアヤトも思ったことだ。

 精霊を殺すような生物を操るとなると、魔族しか考えられないだろう。人族領ではエルフを中心に精霊は自然を管理する存在と考えられており、精霊が死ぬと災害が発生すると思われている地域すらある。進んで精霊を殺すことなど、まずあり得ないだろう。

 逆に、魔族ならば動機は充分だ。



「さぁ? 分からない」



 フローリアはそう言って惚ける。

 裏で魔王オメガと繋がっているので、この事件に魔族が関わっていないことは分かっているからだ。少なくとも、魔王オメガ率いる魔族は無関係である。

 可能性があるとすれば【レム・クリフィト】だ。

 ただ、【レム・クリフィト】にいる超越者アリアとリグレットは既にある程度の能力が分かっている。今回のように眷属を生み出すようなタイプの能力ではない。

 フローリアはある程度は目星をつけつつも、完全には予測できずにいた。



「けど魔族か……もしも魔族だったら、戦争が近いってお告げも本当かもしれない」


「ああ、あれなぁ。丁度、前線基地も作っとるところやし、あちらさんも何か動いとる可能性は高いな」


「となると、ますます魔族の線が濃いね」


「精霊を狙う理由は……やっぱり戦力低下かしら?」



 精霊魔法というのは非常に強力である。

 特にその精密さは人の領域を超えているため、誰もが欲しがる能力だ。問題は、精霊に気に入られるかどうかという前提条件があることだろう。エルフでは適性が高い者が多い一方、人やドワーフには殆ど適合者がいない。

 逆に言えば、使い手はエルフの国に集中しているということでもある。

 つまり【ユグドラシル】を攻めれば必然的に精霊魔法使いを消すことが出来るのだ。狙いとしては当然とも言える。



「けど、あんな相手を生み出せる敵か……攻撃透過なんて反則みたいなことやってきたし、黒幕はどれだけ強いんだろう? 僕たちで勝てるのかな?」



 セイジの不安も尤もだ。

 事実、勇者たちは一般人と比べれば破格の強さを持っている。しかし、真なる強者の中で言えば、並み程度の強さでしかない。ステータス値やスキルはかなりのものだが、経験が伴っていないからだ。

 そして、超越者と比較すれば赤子も同然でしかない。

 アンチエレメンタル・カーディナルを倒したとはいえ、四人の力を合わせてギリギリだったのだ。それを操る黒幕を考えれば、セイジの不安も分かる。



「それにアンチエレメンタル・カーディナルが量産されるとしたら、えらいことやで?」


「レン君の言う通りだよ。アンチエレメンタルならともかく、カーディナルがまた現れたら厄介だ。何体も同時に出現するとは思いたくないけど……」



 少なくとも、この四人だけで対処できる問題では無くなりつつある。精霊王フローリアは基本的に手を貸さないので、セイジたちだけで解決しなければならないのだ。

 アンチエレメンタルも今以上に数が増えると対処不可能になる。

 危険であっても、早く黒幕を見つけなければならない。



「一番の問題は黒幕の場所よねぇ……フローリアは分からない? 精霊たちに探させればすぐでしょう?」


「すでに犯人捜しはしている。ある程度の痕跡も見えた」


「それは術を行使した痕跡ってことかしら?」


「そう」



 勿論、クウがわざと残した痕跡である。

 勇者たちでは相手にならない、超越者が裏で手を引いているということをフローリアにアピールするための措置だった。フローリアにとって勇者はまだ生きていてもらわなければならない駒である。魔族との戦争が始まる前に死んでもらっては困るのだ。

 だからこそ、こうして超越者の存在をチラつかせれば、食いついてくると判断したのである。

 フローリア自身も誘い出されていることぐらいは理解できている。

 残っていた痕跡があまりにもわざとらしかったからだ。

 だが、だからと言って傍観する選択肢はない。



「精霊たちに痕跡を追わせている。敵の居場所が見つかるのも時間の問題」



 フローリアの言葉に勇者たちとユーリスは感嘆するのだった。







 ◆ ◆ ◆









 適度な痕跡を残しながら撤退したクウは、東の平原に来ていた。この辺りには村もなく、貴重な植物や鉱山がある訳でもない。まったく人気のない場所だった。

 誰もいない上に荒れたとしても迷惑が掛からないので、ここを戦いの地に選んだのである。



「この辺りでいいか。《神象眼》」



 クウは《神象眼》を発動して周囲の環境を塗り替える。幻術でありながら、実態を感じることが出来る世界に対する暗示。それによって平原だった場所は一変した。

 空は禍々しく濁り、大地は枯れ果てる。そして墓標のように無数の武器が突き刺さり、まさに最終決戦の地を思わせる雰囲気となっていた。更に、変容した空間の中央にはボロボロの城が出来上がる。城壁が所々崩れ、蔦が伸びて絡み付き、何やら黒い液体も漏れ出ている。

 亡国の遺跡といった様相に変化したのだった。

 これが幻術の一種であるなど、想像もつかない完成度である。



「あとは、あれも出しておくか」



 追加で《神象眼》を発動させ、アンチエレメンタルを大量に出現させる。アンチエレメンタルという名称はクウが付けたものではないが、気に入ったのでそのまま流用していた。

 大鎌を持った死神を思わせる幻術生物が数百と出現し、武器の刺さった荒地を徘徊する。まるで亡霊が彷徨う亡都だ。



「あとは待つだけか。まさに勇者を待ち受ける魔王って感じだな。俺は魔王じゃないけど」



 クウの作り出した幻術は、既に幻術の域を超えていると言って良い。権能【魔幻朧月夜アルテミス】を発現したころは、これほどまで複雑な幻術を現実化させることは出来なかった。しかし、幾度となく高レベルな戦闘を重ねたことで、成長したのである。

 エキシビションマッチ以降、暇なときに魔王アリアと戦っていたことが一番の要因だろう。魔法迷宮という破壊を気にする必要のない場所で、伸び伸びと能力を確認できるのだ。

 これまでは【魔幻朧月夜アルテミス】を発動させても単純な幻術しか扱えなかったが、今では専用の・・・戦闘スタイル・・・・・・まで確立させている。



「ん? 精霊がここまで来たみたいだな」



 完成させたフィールドを眺めていると、近くに小さな気配を捉えた。「魔眼」で確認すれば、それが精霊であるとすぐに分かる。クウの「魔眼」は特性「理」と組み合わせることで情報次元を観察することが出来る。そのため、適性がなくとも精霊を見ることは容易いのだ。

 そして、精霊が来たということは、クウが残しておいた痕跡を辿ったということだろう。

 ならば、ここが答えだと示すべきだ。



「神刀・虚月でもいいけど……やっぱり、雰囲気を出すなら神魔剣ベリアルだな」



 クウは虚空リングから神魔剣ベリアルを取り出し、スラリと抜き放つ。漆黒の刀身に、血管のような深紅の紋様が浮き出ている神剣に近い魔剣。不壊効果がないので神装とは呼べないが、その効果は神剣にも匹敵するだろう。

 匹敵するだけで及びはしないが。

 ただ、雰囲気を出すためには最適の剣である。



「死の瘴気を収束。《神象眼》で意思次元攻撃付与」



 黒い瘴気が神魔剣ベリアルに纏わり付き、更に意思次元に対する攻撃が付与される。今は戦闘中というわけではないので、時間のかかる意思次元攻撃付与も落ち着いてすることが出来た。

 そして、意思次元を削り取る効果を得た剣を手に、クウは高速移動で精霊の前に出る。



「消えろ」



 クウがそう言って薙いだ瞬間、纏った死の瘴気が精霊を飲み込んだ。周囲の草木を一瞬で枯れさせる死の瘴気を浴びた精霊は、意思次元攻撃のお陰もあって一撃で消滅する。寧ろオーバーキルだと言えるほどだ。

 そして偵察に来ている精霊はこの一体だけではない。

 少し上空に、偵察の精霊を偵察する精霊がいた。

 つまり、今のように見つかって潰された時の保険がもう一匹いたのである。

 勿論、クウは見逃さない。



「次っ!」



 魔素を固めて足場を作り、一瞬で精霊の目の前へと現れる。情報次元から見える精霊はかなり慌てていたようだが、もう遅い。死の瘴気を纏った一撃からは逃れられない。

 一撃で精霊の保有する情報次元はバラバラになり、意思次元は吹き飛んだ。

 元々、精霊王フローリアが作り出した半生命の眷属であるため、クウの「意思干渉」を喰らえばひとたまりもなく消滅してしまう。精霊にとって、まさに相性最悪の相手だった。

 黒い瘴気が青空に消えていき、クウは静かに着地する。



「これで良し。後は精霊が殺されたことを察したフローリアがこの場所まで来てくれるだろ。ある程度は実力も示したし、勇者共を連れてくるってことはないハズ……ないよな?」



 クウが精霊殺しを使ってエルフの国を襲撃し、何もない平原に禍々しいフィールドを作ったのは、自分の実力の一端を見せつけるためである。ここまですれば、フローリアも相手が超越者である可能性を思い浮かべることだろう。

 これが重要なのである。

 超越者を相手にするなら、セイジたち勇者は絶対に連れてこない。来たとしても確実に負けると分かっているからだ。フローリアも勇者に利用価値を見出しているので、こんなところで無駄死にさせないはずである。

 少なくとも、一番初めに召喚された勇者は無駄死にだった。

 ユナ以外は魔族との戦いで死んでしまったという経験があるので、フローリアも学習してセイジたちが死なないように待機させると考えたのである。



(問題は寄生しているユーリスってエルフの女王か。フローリアは寄生した対象から離れられないし、ここまでくるとなると、ユーリスって奴も一緒に来るよな)



 流石にそれだけは避けられない。

 ユーリスはフローリアが遠くまで移動するための子機に近い役割なので、戦闘中に間違ってユーリスを殺してしまうと、フローリアは強制的に大樹の元まで戻ってしまうだろう。

 彼女だけは殺さないように配慮しつつ、戦わなければならない。

 今回の作戦で最も難易度が高いのはこの部分だ。



(ま、そのためにあの戦闘術・・・・・は役に立つだろ。アリアを相手にある程度は完成させたけど、他の奴に使うのは初めてだし、実験も兼ねて頑張ってみるか)



 クウはそのまま、幻術で作った崩れそうな城へと入っていくのだった。











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