EP326 勇者と精霊殺し④
「このっ!」
レンは聖銃をアンチエレメンタル・カーディナルへと向けて放つ。しかし、アンチエレメンタル・カーディナルは幽幻変位によってすり抜け、銃弾を無効化した。とはいえ、銃撃を透過させている間は非実体であり、攻撃も出来なくなる。
アヤトはその間にセイジを回収して後ろへと引いた。
「大丈夫かいセイジ君!」
「ぐっ……すぐに《超回復》で治ります。この傷なら数十秒ほど―――ごふっ!」
「分かった。僕も回復させるから今は喋らないで」
アヤトはそう言って《光魔法》を発動させ、セイジの回復を手伝う。
一方でレン、ユーリスは時間を稼ぐべく、アンチエレメンタル・カーディナルへと攻撃を続けた。
「『《鉛の鎖》』」
「氷よ!」
召喚によって鎖が顕現され、アンチエレメンタル・カーディナルを縛ろうとする。しかし、それは当然のように透過していた。ユーリスも精霊魔法で氷を生み出すが、やはり透過してしまう。幽幻変位の厄介さに二人は唇を噛んだ。
フワリと浮遊したアンチエレメンタル・カーディナルは、揺らぐように高速移動してユーリスへと迫る。咄嗟のことでレンは反応できなかったが、代わりに精霊王フローリアが対処した。
「守って」
その一言で、精霊たちがアンチエレメンタル・カーディナルへと向かう。属性を宿したその身体を意図的に暴発させることで、高威力の精霊魔法を強制発動した。
精霊が見えないレンからすれば、何もない場所でいきなり魔法が発動したように見えたことだろう。爆炎と雷撃が飛び散り、土と氷が拘束し、風が唸る。闇が腐食を与え、光線が貫いた。
しかし無傷。
「ダメや! やっぱりカウンターを狙うしかない!」
「厄介ね……」
「……」
レンやユーリスが時間を稼ぐ一方、精霊王フローリアはアンチエレメンタル・カーディナルを見て考え込んでいた。他の四人はこれを魔物だと考えているが、フローリアはそうでないことを知っている。
これでも精霊王として長くこの世界を生きているのだ。殆どすべての魔物を把握しているつもりである。その中で、精霊を殺す魔物などいなかったし、そもそも精霊を見ることが出来る魔物もいなかった。
勿論、新種という可能性もある。
しかし、それは有り得ない可能性だ。
魔物は大地に溜まった瘴気が形を成すことで生まれる。これは世界の浄化機能であり、フローリアが封じた機能だ。つまり人族領では新種の魔物が生まれることはない。生まれるとすれば魔族領だろう。
そして、魔物の形は瘴気に含まれる意思が関係している。
例えば、精霊を殺す魔物が現れた時、それは多くの人が精霊の死を望んだということになる。それが形となって精霊を殺す魔物が生まれるのだ。
そしてフローリアは魔族領に精霊を送っていない。偶に数匹ほど送ることはあるが、少なくとも魔族たちは精霊を知らないだろう。知っているとすれば【レム・クリフィト】の上層部数人ぐらいだ。
そんな場所で精霊を殺す魔物が生まれるはずがない。
明らかに意思が足りないだろう。
つまり、アンチエレメンタルは魔物ではないのだ。
ならばその正体は何かという話になる。
(私の能力みたいに、どこかの超越者が眷属を生成した? 一体何者?)
フローリアは限りなく答えに近い結論を出すことが出来たが、当然ながらそこまでしか分からない。元凶であるクウは遥か上空で完全に気配を隠しているのだから、気付けるはずがないのだ。
(この赤い精霊殺しは私の力を試すためのものね。下手に私が動けば、能力を解析されかねない)
正直、超越者であるフローリアが本気を出せばアンチエレメンタル・カーディナルを倒すぐらいわけないのだ。しかし、それをすると戦いを観察している何者かに能力を解析される。だからこそ、フローリアは動くに動けなかった。
実際にクウも、セイジたちの実力を測るほかに、フローリアの能力解析も期待している。尤も、こちらはついでの感覚が強い。クウもフローリアが簡単には動かないと分かっているからだ。
「おわっ!? 危なっ!?」
そうして考えている内に、レンが混沌黒炎に襲われる。勿論避けたが、やはり二人では攻め切れないようだ。
もうすぐセイジも回復が完了するので、それまで耐えれば再び逆転できる。
「そこよ! 雷撃!」
アンチエレメンタル・カーディナルは即座に幽幻変位で透過し、雷速の攻撃を難なく切り抜けた。やはり攻撃が通り抜けるというのは反則級の能力である。
セイジとアヤトがいない今、レンが中距離から銃撃と召喚で引き付け、ユーリスの大火力で押すという戦法に落ち着いている。レンもゴブリンを数体ほど召喚することで、それを囮にカウンターを狙おうとしたのだが、黒い炎がゴブリンを一掃するだけで終わってしまった。
混沌黒炎を喰らったゴブリンは、負の感情を流し込まれて発狂する。元から意思も弱い部類なので仕方ないが、それを見たレンとユーリスは黒炎にかなりの恐怖を覚えた。
「やばいやばい。あの黒炎は絶対に触れたらダメな奴や!」
レンは再び召喚によってゴブリンを呼び出すが、そろそろストックが切れる頃だ。壁役として、ゴブリンはかなりの数を契約している。しかし、塵も積もれば山となるように、少しずつ消されればストックも切れてくるのだ。
可能な限り攻撃を続けることで透過状態を維持させ、アンチエレメンタル・カーディナルに攻撃させないようにはしている。しかし、黒炎は出が早い技なので、完全ではない。
ここが平原ならばユーリスも本気で精霊魔法を使えるのだが、生憎、【樹の都】のど真ん中だ。派手なことは出来ない。
しかし、ここでようやくセイジとアヤトが復帰した。
「すまない。ようやく回復した」
セイジはそう言って《光の聖剣》を飛ばす。体力回復中に魔力も回復したので、かなりの数の剣を飛ばすことが出来る。アンチエレメンタル・カーディナルもすぐに幽幻変位で透過した。
「はあああああああ!」
振り下ろされた聖剣を幽幻変位で透過し、反撃とばかりに大鎌が薙ぎ払われる。セイジはそれを受け止め、その間にユーリスの精霊魔法が意味不明な軌道を描いた。緻密な演算によって人間ではあり得ないほど精密な攻撃が出来るのが精霊魔法の強みである。どんなに難しい状態でも、ユーリスの精霊魔法は絶対に味方を攻撃しない。
実体化していたために攻撃を喰らったアンチエレメンタル・カーディナルはすぐに幽幻変位で透過し、背後へと下がる。そして黒炎を放つ準備をしたが、それはレンとアヤトが遠距離からの狙撃で対処した。
その間に、再びセイジが前に出る。
アンチエレメンタル・カーディナルはレンとアヤトの攻撃を透過し、一瞬の隙を突いて気を纏った斬撃を放った。深紅の斬撃が三日月状になって飛び、セイジへと襲いかかる。隙が少ない攻撃だったので、セイジも避けることは出来なかった。
仕方なく、白い気を纏った聖剣で弾いた。
だが、アンチエレメンタル・カーディナルはセイジが斬撃を弾くことを分かっていたかのように、大鎌を投げつけていた。深紅の気を纏った大鎌は、回転しながらセイジへと迫る。斬撃を弾いたとこなので、セイジにはそれを防ぐ手段がない。
しかし、レンとアヤトはそれを見逃さなかった。
「最大出力や!」
「土の矢!」
スキル《極魔》によって濃密化された光線が飛び、重い一撃を与える土属性の矢が追随する。紅い気を閃光が吹き飛ばし、続いて強烈な威力を誇る土の矢が回転する大鎌を弾き飛ばした。
セイジは更に速度を上げて聖剣に時空間属性を宿らせる。また、気を纏い、極限まで攻撃力を引き上げた。
「やああああああああああっ!」
これまでとは一線を画す一撃。
それがアンチエレメンタル・カーディナルの胸を切り裂いた。
しかし、アンチエレメンタル・カーディナルの幽幻変位は健在であり、攻撃は当然のように透過する。反撃とばかりにアンチエレメンタル・カーディナルは左手の黒炎を爆発させようとした。
初めからこれを狙っていたのか、混沌黒炎の発動は早い。恐らく、ユーリスの精霊魔法よりも先に発動することだろう。
セイジは今の一撃に全ての気を込めていたので、防御がない。
つまり、喰らえば発狂レベルの攻撃を直撃させられることになるのだ。
肉体を回復させる《超回復》も、精神面までは作用しない。
勝負が決まったように思われた。
「同じ手は喰らわない!」
しかし、セイジはこのために時空間属性を剣に付与していたのだ。
それも操るのは空間ではなく時間。
放った斬撃が遅れて効果を及ぼすというものである。つまり、先の一撃は透過せずとも斬られることはなかったのだ。逆に、遅れて本来の斬撃が走るのである。
黒炎を放とうとしていたアンチエレメンタル・カーディナルは胸部に巨大な傷をつけられた。
「――――っ!?」
「トドメだ!」
セイジがそう叫ぶと、他の三人が一斉に攻撃を放った。
《極魔》によって最大まで高めた光線。
光、炎、雷属性を合成した最強の高エネルギープラズマの矢。
魔力を集め、最大まで収束した雷の精霊魔法。
遅れた斬撃で動きを止めたアンチエレメンタル・カーディナルへと全てが突き刺さった。
「―――っ!」
アンチエレメンタル・カーディナルは声にならない叫びをあげ、よろめいて後ずさる。
追撃にセイジが《光の聖剣》を放ったが、流石に幽幻変位で透過した。しかし、今のでかなりのダメージは与えることが出来ただろう。
「すまん桐島。倒し切れへんかった」
「大丈夫だ鷺宮。確実に相手は弱っているよ!」
倒しきれなかったことをレンが代表して謝罪するが、セイジは気にせずに前を見る。三人の勇者とハイエルフの攻撃を受けたのだ。アンチエレメンタル・カーディナルは確実に致命的なダメージを受けている。
斬られた胸元から出血がないことは疑問だが、セイジたちは魔物なら何でもアリだと納得していた。それに、手負いであってもアンチエレメンタル・カーディナルは油断できない相手だ。余計なことを考えている暇ない。
「これで最後だ!」
セイジは再び聖剣に時空間属性を纏わせて構えた。
しかし、アンチエレメンタル・カーディナルはセイジを一瞥した後、フワリと浮いて大きく距離を取ろうとする。しかも、逃げるのではないかと思うほどの速度だった。
「なっ! 待てや!」
「逃がさない!」
レンとアヤトがすぐに狙いを定めて攻撃するも、幽幻変位によって透過してしまう。セイジも空間を飛び越えた斬撃を放ったが、やはり意味がなかった。
そしてアンチエレメンタル・カーディナルはそのまま夜空へ……と思いきや、急に方向転換して大樹の方へと向かって行く。
現在、大樹の近くには大量の精霊たちが集まっているのだ。
アンチエレメンタル・カーディナルのやろうとしていることはすぐに分かった。
「させないわ! フローリア!」
「逃げることを許可する。早く散りなさい精霊たち!」
アンチエレメンタルを集めるために精霊を大樹に留まらせていたが、これ以上は拙いと考えたフローリアによって精霊たちは逃げ始めた。
しかし、アンチエレメンタル・カーディナルは予想外の行動をとる。
左手に混沌黒炎を集め、残っているエネルギーの全てを込めた。
そして自身の存在を燃料にして自爆したのである。
これによってかなりの範囲に黒炎が撒き散らされ、逃げ遅れた精霊の多くが巻き込まれることになった。物理的な炎ではないので、大樹自体には影響もない。しかし、かなりの精霊が負のエネルギーを受けて消滅してしまった。
夜空に散る黒炎を茫然と眺めつつ、セイジは呟く。
「何なんだよあれ……」
自爆してまで精霊を殺すという行動に言葉を失う。
それはセイジだけでなく、レンやアヤトも同様だった。
また、精霊を見ることの出来るユーリスとフローリアは悔しそうに消えていく黒い炎を見つめるのだった。
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