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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
精霊王編

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EP322 アンチエレメンタル


 深夜の【樹の都】は幻想的だ。魔法の街灯が淡く照らし、精霊たちはユラユラと漂う。精霊が見えない者からすれば薄暗い街にしか見えないが、精霊が見える者からすればその感想は異なってくる。

 盃の酒を片手に、そんな景色を眺めながら一日の仕事を労うのだ。

 多くの酒場は、この幻想的な景色を見せるために、屋上に広い飲み場を設けている。各地で屋上が明かりに照らされ、酒飲みたちが集ってくるのだ。精霊たちも活発な昼とは違い、夜は優雅な一面を見せてくれる。

 星空を背景にした天然の劇場。

 ここでは名も知らない者たちですら、同じ酒を飲みかわす。



「よぉ。一杯どうだ?」


「貰うよ。ありがとう」


「おいおい。ならこっちにも一杯くれよ!」


「いいぜ! 待ってな!」



 屋上の席は常に満席だ。

 知らない者同士が相席になることも珍しくない。そして、後からやってきた者は、既に席についていた者に対して一杯驕るという習慣があった。

 後から来た男は、手に持った酒瓶を傾けてグラスに注いでいく。最後に自分のグラスへと酒を注ぎ、手に持ってグラスを打ち合わせた。



『乾杯!』



 米が主食の【ユグドラシル】では、酒も米から作られている。またツマミも南部で捕れる魚介類が多く、召喚された勇者たちが見れば和風だと感じたことだろう。

 彼らは良いの火照りを夜風で冷やしつつ、精霊たちの踊りを眺めていた。

 今日も平和。

 充実した一日だった。

 そんな思いと共に、グラスを傾ける。



「ああ……酒が切れちまったな」


「追加しろ追加」


「いや、俺はそろそろ帰る。明日も仕事なんでな」


「おいおい連れねぇなぁ」



 別の席では、男がそんなことを言われつつ席を立つ。彼は言葉通り、明日も仕事があるので歩けないほどは酔っていない。危なげない足取りで店の外へと向かった。

 ちなみに、この酒場は定額で一定時間は飲み放題という場所だ。既にお金は払っているので、後はこのまま帰るだけである。

 だが、男が屋上の出入り口へと差し掛かった時、不意に誰かの大声が響いた。



「おい、何だアレは!?」



 男は反射的に振り返り、声の発生源へと目を向ける。すると、酔っ払って顔を赤くしたエルフの男が夜空を指さしながら何かを叫んでいた。周囲のエルフたちも彼の指差す先を見て驚き、騒めいている。

 それに釣られて、男も彼の指差す先に目を向けた。

 どうせ酔っ払いが見た幻覚だろうと思いつつも、見てしまうのが性である。しかし、それは幻覚でも何でもなく、現実として存在していた。



「アレは……?」



 思わずそんな言葉が出てしまったもの仕方ないだろう。

 空に浮かんでいたのは、ボロボロのローブを纏った人型の何かだったからだ。フードを深く被っているために顔は見えず、右手には死を連想させる大鎌を持っている。それが魔法発動の気配もなく空中に浮いていたのだ。

 間違いなく人の技ではない。

 いや、断定するのはまだ早いが、明らかに常軌を逸した存在だった。

 気配も、魔力も感じられず、幽霊のように浮かんでいる。真っ先に想像できるのは、魔物が【樹の都】へと侵入したということだ。

 少なくとも、大鎌という武器を構えている時点で怪しい。



「店員さんよ、精霊部隊を呼べ!」


「既に通報済みです」


「気を付けろよ。下手な刺激はするな……」



 ここは酒場であり、酔った勢いで精霊魔法を発動させる奴がいてもおかしくない。空に浮いて大鎌を構えている奴を刺激すれば、怪我人や死人が出る恐れもある。

 まだ殆ど酔っておらず、冷静な判断が出来る者を中心として屋上からゆっくりと避難し始めた。

 しかし、ここでローブの人物が動き出す。

 手に持った大鎌を振り上げ、滑るように空中を移動したかと思うと、そのまま精霊を切り裂いた。



『は……?』



 切り裂かれた精霊は声もなく消滅し、それを見ていたエルフたちは唖然とする。

 だが、その隙にローブの人物は次々と精霊を攻撃し始めたのだった。



「ッ! 精霊様を守れ!」



 誰かが叫んだ言葉を聞いて、数人が咄嗟に精霊魔法を発動させた。



「雷の精霊よ! あのローブを穿て!」


「応えろ風の精霊! 奴を吹き飛ばせ!」


「闇の精霊! 呪術だ!」



 雷光が閃き、暴風が巻き起こる。そして呪術の鎖が出現し、ローブの人物を縛り上げた。

 しかし、次の瞬間には闇精霊で呪術を発動した男が血を吐いて倒れる。意志力の差によって、呪いが跳ね返されたのだ。呪いの鎖は消失し、ローブの人物は自由になる。

 そして再び周囲の精霊を切り裂き始めた。



「呪いを跳ね返すってことはアンデッド系か!? ならば光の精霊よ!」



 幾つもの光が飛び、ローブの人物を貫いた。攻撃は貫通しており、明らかに致命傷である。しかし、それでもローブの人物は動きが全く鈍らなかった。

 死なずとも、痛覚で普通は動きが鈍るはずである。

 アンデッドならば痛覚を感じないのかもしれないが、光系の精霊魔法を受けて無事な様子であることに矛盾が生じる。

 見ていたエルフたちは皆が驚いた。

 一体あれば何なのか。

 精霊魔法を喰らっても意に返さず、呪いは跳ね返し、精霊たちを切り裂いていく。基本的に戦うことが専門ではない彼らでは判別できなかった。

 この日から、【ユグドラシル】は原因不明の精霊殺害事件に見舞われることになる。








 ◆ ◆ ◆







 一週間後、東の辺境城塞都市にいたセイジたち五人の勇者へと指名依頼が出された。それは、【ユグドラシル】で発生した精霊を殺す存在についての依頼だ。

 始めは【樹の都】だけで発生し、徐々に範囲が拡大。五日目には【ユグドラシル】全域で精霊殺しが確認されたのだという。勇者たちには、この事件の解決を依頼されたのだった。

 セイジ、リコ、エリカ、レン、アヤトの五人は一つの部屋に集まり、この依頼について吟味していた。



「精霊殺し……か」


「エルフには被害が全くないって話や。新種の魔物かもしれへんな」



 セイジとレンの言葉に、他の三人も頷く。

 今回の依頼主は女王ユーリス・ユグドラシルであり、依頼内容は精霊殺し……仮称アンチエレメンタルの討伐と原因の究明である。恐らくは精霊を好んで殺す新種の魔物だとされているが、これは仮説の段階であるため確証は全くない。

 発生原因については情報ゼロだ。

 依頼のランクはSSなので、SSランク冒険者チーム『ジ・アース』へと指名されたものだ。ただ、レンとアヤトが一時的に『ジ・アース』へと入れば、共に依頼を受けることも出来る。



「ユーリスさんには世話になったから、僕たちも参加したいね」


「俺も同感ですわ。ただ、問題はこの城塞都市を長く空けるかもしれへんってことや。Sランク級の冒険者も何人かは常駐しているみたいやけど、ここの魔物の数を考えたら火力不足が否めへん。誰かは残った方が良さそうや」



 と言いつつ、レンはリコとエリカの方に目を向ける。

 暗に残るならお前たちだと言われていることに気付いた二人は、当然のように抗議した。



「私は清二についていくわよ。この依頼は『ジ・アース』じゃないと適正ランクじゃないんだから。貴方たちはまだAランクでしょ?」


「私も清二君と一緒に行きます。私の補助はパーティ機能に必須ですから!」


「そう言われてもなぁ。魔物殲滅は大火力魔法を使える青山さんが適任や。それに、城崎さんの結界や回復は守りで役に立つ。残るならお二人さんが最適解やと思うんやけど?」


「うん。一理あるね」


「清二!?」


「清二君まで……」



 レンの意見にセイジは同意する。

 まず、『ジ・アース』として依頼を受ける以上、リーダーであるセイジは確実に参加だ。そして建設中である城塞都市の守りはリコとエリカが適任となる。レンとアヤトはユーリスに恩があるので、出来るならば依頼に参加したい。

 また、この五人の中で《光の勇者》という称号を持つのはセイジ、レン、アヤトだけである。

 この三人が依頼に参加するなら、名目上も問題ない。



「よし、今回は僕と鷺宮さぎみや、そしてアヤトさんで行こう」



 セイジの決定に、リコとエリカは不満そうな表情を浮かべる。そんな彼女たちにセイジは仕方ないなとばかりに苦笑しながら口を開いた。



「ごめんね。今度、依頼が終わったら何か一つだけ言うことを聞いてあげるよ。だからこれで赦してくれないかな?」


「……くっ。仕方ないわね! 私の言うことは何でも聞いてもらうから覚悟しなさい!」


「何でも聞いてくれるんですか? 何にしましょう……」


「いや、何でもは無理だからね?」



 流石は幼馴染と言うべきか、セイジは二人の扱いをよく理解していた。そんな三人を見て少し気まずくなったのか、レンとアヤトは立ちあがって部屋から出ていく。その際にレンはセイジに小さく告げた。



「俺らは消耗品を補充してくるで。依頼の受注は頼むわ」


「うん。分かったよ」



 セイジも短く返事をして頷く。

 レンはそれを聞いて部屋から出たのだった。そしてアヤトと二人で並び、建設中の城塞都市内部を歩いていく。まだまだ開発中だが、ポーション類を売る店は既に開かれているのだ。傷の回復は《光魔法》もあるので殆どいらないが、魔力回復のポーションは幾つか補充した方が良い。

 また、他にも呪いなどの状態異常系への対策も忘れず行った。今回は精霊殺しアンチエレメンタルという未知の相手なのだ。様々な状況に対応できるようにするのは当然である。



「それにしてもアンチエレメンタルね……この時期に面倒な相手が現れたものだよ」


「俺らには精霊が見えへんから、精霊殺しって言われても実感がないですよね」


「幸いにもアンチエレメンタルは普通に見えるみたいだけどね」



 何も知らないレンとアヤトにとって、精霊とは実に不思議な生き物だ。特定の人物にしか知覚することが出来ず、契約することで特殊な精霊魔法というものを使えるようになる。この精霊魔法はスキルではないので、ステータスにも表記されることはない。

 精霊自身が魔法を発動させているので、スキルとして表示されないのだという説が有力だが、事実は未だに不明なままだ。実は、的を射ている説なのだが。

 ともあれ、この精霊は主にエルフと親和性が強く、殆どのエルフが精霊と契約している。人やドワーフにも契約できる人物もいるのだが、その割合は圧倒的に少ない。そのため、レンやアヤト、またセイジたちにも残念ながら精霊は見えなかった。

 ただ、気配ならば辛うじて感じることは出来るのだが。



「アンチエレメンタルは大鎌のローブ姿って話だよね。なんだか死神みたいじゃない?」


「確かに、アヤトさんの言う通りですわ。精霊専門の死神みたいや」


「アンデッド系のリッチはローブを被っていることがあるって話だけど、やっぱりアンチエレメンタルもアンデッド系なのかな?」


「ああ、リッチって言えば桐島たちが戦った奴やったっけ。でもアンチエレメンタルは光系の攻撃を受けてもビクともせんかったって話ですよ?」


「そこが疑問だよね。呪いも跳ね返したってらしいし」


「呪いって要は怨念系の攻撃やからね。負の意思が強いアンデッド系に呪いを当てたら高確率で跳ね返されるって話ですやろ? でも光攻撃も効いていないから、やっぱりアンデッドの線は薄いと思うんやけどなぁ」


「確実に有効だと思うのは、セイジ君の魔法剣かな? 時空間属性のやつ」


「ああ、あれは反則やん。空間ごと切断とか意味わからへん」


「ま、僕たちは遠距離攻撃が得意だから、今回は援護になりそうだけどね」


「うーむ。俺も《時空間魔法》を取得してみようかなぁ。スキルポイント的には溜まってたみたいやし」



 エルフの国で起こった精霊殺害事件。

 その解決のため、三人の《光の勇者》が動き出す。






アンチエレメンタルとは……まぁ、分かる人には分かりますよね。

こういう暗躍って書いてるとメッチャ楽しいです。


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