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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
精霊王編
322/566

EP321 エルフの国


 エルフの国の首都【樹の都】。

 ここは大樹を中心として緑豊かな都市を形成している。街中に水路を引き、草花を育てて美しい外観を保っているのだ。人口は数十万ほどで、その殆どがエルフだ。最長で千年は生きると言われている彼らの見た目は非常に若々しく、美男美女が揃う国とも言われている。

 そんな国に人やドワーフがやって来るのは珍しいが、全くないわけではない。自由組合法という国際法によって冒険者ギルドの駐屯が認められているため、仕事などでやってきた冒険者の人やドワーフはそれなりにいるのだ。

 他にも、エルフ族に嫁いだり、その他何かしらの事情でこの国にやってきた者たちもいる。

 エルフ族は基本的に内向的だが、外部を排除しているわけではないのだ。

 そしてクウもこの都市に堂々と侵入し、街中を歩いていた。



「初めて来たけど……アレが大樹か。確か木刀ムラサメの元になった木だったよな」



 クウはいつもの黒い衣装を消し、白や若草色をメインとした服装になって周囲に溶け込んでいた。顔も特に隠さず、観光客を装って堂々と通りを歩いていたのである。

 そして【樹の都】のどの位置からでも見える大樹ユグドラシルを観察しつつ、感慨に耽っていた。

 この世界に召喚されて初めて手に入れた武器、木刀ムラサメを思い出していたのである。【ルメリオス王国】の王城にある宝物庫で見つけたそれは、虚空迷宮で巨人GORILLAと戦うまで使い続けて来た。材料は大樹ユグドラシルの枝となっていたので、あの武器も誰かがこの木から作り上げたのだろう。



(まぁ、もしかしたらアレもリグレットが作ったモノだったのかもな)



 木刀ムラサメは《看破》スキルでは制作者を見破ることが出来なかった。つまり、相応の人物がプロテクトをかけたということである。リグレットは昔、人族領で路銀を稼ぎながら色々と調査していた時期がある。その時に木刀ムラサメも作ったのだろう。

 また、ただの木刀が鉄すら切り裂けるという時点で色々とおかしかった。

 今は大樹が超越者である精霊王フローリアの依り代であると分かっているので納得も出来るが、よくよく考えれば意味が分からない代物である。



「取りあえず、あの大樹はどうにかして消さないといけないな。素材としては有用だけど、存在としては害悪そのものだし。リグレットへのお土産に枝の数本は貰っていくか……残りは月属性で消し飛ばせば問題ないだろ」



 大樹ユグドラシルを消滅させるにあたって、クウの能力は適任と言える。何故なら、大樹は高さ百メートルを超える巨大な樹木であり、単に切り倒すだけだと【樹の都】にも被害が及ぶからだ。流石に関係のない国民を巻き込むのは気が引けるので、大樹だけを綺麗に消滅させることが出来るクウの月属性は非常に有効なのである。

 限界まで霊力を込めれば、上から根っこまで全てを消滅させることも出来るだろう。

 問題は、その後に起こるであろう精霊王との戦いである。

 こんな場所で超越者が戦えば、何人死ぬか分からない。可能な限り被害を抑えるには、どこかの平原にでも移動しなければならないだろう。



(一応、エルフたちも被害者だからなぁ……)



 クウが思い出すのは迷宮都市【ヘルシア】で襲ってきたエルフの戦士だ。

 冒険者ギルドで唯一のSSSランクであるレイン・ブラックローズ。彼の狂信的な光神シン信仰は印象深かったのでよく覚えている。そして、エルフ族は基本的にあのレベルの信仰深さだ。

 千年に渡って植え付けられたマインドコントロールとも言える。

 精霊王フローリアは器となる植物と親和性を持たせるため、エルフ族の因子を強く植え付けられている。だからこそ、フローリアもエルフを利用しやすかったのだろう。



(うん。やっぱりエルフを巻き込むのは気が引けるな。ちゃんと考えよう)



 ならば、発想の転換である。

 【樹の都】で大樹を滅ぼせば、この場で精霊王と戦闘になるのは間違いない。そうなればエルフ族を多数巻き込んでしまう。

 そこで、精霊王を倒してから、大樹を滅ぼすという方法を取る。

 そうすれば、問題は起こらない。精霊王をどこかの平原で相手取り、完全に消滅させれば邪魔者はいなくなるという寸法だ。



(とすると……まずは戦いやすい場所を探さないといけないな。それに精霊王をそこにおびき寄せる手段も考えないといけないし)



 折角ここまでやってきたが、方針が決まった以上は【樹の都】に留まる理由などない。精霊王は早めの討伐が望ましいので、戦う場所も早く検討をつけておいた方が良いだろう。そう考えをまとめたクウは、すぐに幻術で姿を消し、翼を開いて空へと飛び立ったのだった。






 ◆ ◆ ◆








 人の国【ルメリオス王国】の東にある辺境地域では、僅かな人々が小さな村を作って細々と暮らしている。強力な魔物が徘徊しているので、大規模な町は建設しにくいのだ。

 だが、光神教会が保有する『光の石板』によってお告げが発布され、魔族との戦争に向けて本格的な備えをすることになった。それによって、この辺境に前線基地を作ることになったのである。

 正確には、基地を兼ねた城塞都市だ。

 ドワーフの建設技術を借りて急速に建設され、冒険者は周囲の魔物からドワーフを守るために大量派遣されることになった。エルフも保有する魔法技術を駆使して城塞都市に結界を仕込み、城壁に強化系付与を与えていた。

 更に、勇者として召喚されたセイジ、リコ、エリカ、レン、アヤトの五人も、この城塞都市で魔物を排除するという仕事に就いていたのだった。



「はああああああああっ!」



 セイジは時空間属性を纏わせた剣を薙ぎ払う。

 すると斬撃は空間を飛び越え、オーガの群れを一刀両断した。十体を越えるオーガが上半身と下半身に分けられ、血を流して息絶える。『魔導剣』の二つ名に相応しい実力だ。



「『《灼熱劫火ヘルフレア》』!」



 リコは『爆撃姫』と名付けられる通り、灼熱の炎を得意としている。多様な魔法を使いこなす彼女だが、得意なのは炎属性と風属性だ。その代名詞とも言える《灼熱劫火ヘルフレア》は、超高温によって全てを灰に変える。

 強力な魔法耐性を持つスライムを余裕で焼き払っていた。



「二人とも、次の相手を出します。結界解除」



 エリカは得意の《結界魔法》で大量の魔物を隔離している。そしてセイジやリコが対処できる数を小出ししながら撃破の手伝いをしているのだ。回復系の魔法も使える上に、付与も出来る。サポート要員としては最高だろう。『要塞姫』と呼ばれるだけはある。

 この三人は既にレベル160に達しており、人族としては最高クラスの戦力だ。元から、勇者としての素質のお陰でその辺の人よりもステータスが伸びやすい。それもあって、彼らはレベル以上の能力を身に着けていたのだった。

 百体近くいた魔物もあっという間に殲滅し、三人はホッと息を吐く。



「お疲れ二人とも」


「清二もお疲れ様。《時空間魔法》にも慣れてきたみたいね」


「まぁね。でも、なかなかスキルレベルが上がらないんだよ。やっぱり、指南書なしでやるのは難しいね」


「大丈夫です。清二君ならできますよ!」


「ありがとう絵梨香。頑張るよ」


「私も応援してるわ!」


「理子もありがとう」



 三人は武器を仕舞い、城塞都市へと戻っていく。普段は城塞都市に身を置き、周囲の魔物を狩って建設の手伝いをしながらレベル上げに勤しんでいる。最近は冒険者ギルドの把握している接触禁忌の魔物を狩りつくしてしまったので、拮抗する相手がいない。

 そこで仕方なく、大量の魔物が出現する辺境で戦っているのだった。

 今回、建設中の城塞都市に二方向から大量の魔物が攻めて来た。セイジたち二番目の召喚された勇者組が一方を相手にしている間、レンたち三番目に召喚された勇者組がもう一方を担当する形で迎撃したのである。

 レンとアヤトも召喚されてからしばらく経っているということもあり、戦いにも慣れてきていた。師匠役であるユーリス・ユグドラシルも離れていることから分かる通り、魔物退治に関しては一人前と認められたのである。

 特にレンの《召喚魔法》は凄まじい進化を遂げていた。



「いくで!

『堕ちよ

雷鳴降しライトニング》』」



 契約した対象を召喚するのではなく、創造したものを具現化させる不特定召喚。《召喚魔法》の中では最高峰の難易度を誇る技術だ。レンは雷雲を召喚し、凄まじい雷撃を大地に落とした。

 数億ボルトの一撃で魔物は消し炭となり、焦げた匂いを漂わせる。



「まったく、レン君がそれを使うと僕の出番がないね」


「いやいや。魔物って危険生物ですやん? 早めに倒すに限りますって」


「それもそうか」



 基本的にレンとアヤトは後衛タイプだ。二人の武器はそれぞれ魔導銃と魔導弓であるため、前衛となる人物が必須となる。もしくは、近接戦闘に移る前に殲滅できるだけの遠距離火力が必要だ。

 レンの《召喚魔法》は魔物を使役することで前衛を出すことも出来るし、創造召喚によって大火力エネルギーを召喚することも出来る。

 非常に汎用性の高い仕様になっていた。



「そろそろ桐島たちの方も終わったやろか?」


「多分ね。勇者歴で言えば、彼らの方が先輩だしね」


「特に桐島の魔法剣はえげつないからなぁ。それに青山さんの魔法もヤバい火力やし。城崎さんの鉄壁具合も半端ないもんなぁ」


「確かに、あれなら魔族って奴らも一網打尽かもね。魔族なんて見たこともないけど」


「ぶっちゃけ、何で未だに魔族と敵対しているんかも不明や。幾ら神様のお告げやからって、ちょっとは平和的に解決しようってことにはならんかったかなぁと思いません?」


「まぁね」


「物語やと、こういうのには黒幕がいるってパターンが多いですやん? 人族と魔族を争わせている黒幕がいたりして……」


「ははは。それは漫画の読み過ぎじゃない?」


「いやいや、事実は小説より奇なりって言いますし?」



 レンとアヤトは冗談を言い合いながら城塞都市へと戻っていく。冗談どころか真実に掠っている部分すらあるのだが、二人にはそれを知る由もない。

 ただ、事実として人族と魔族が千年も敵対し続けている理由について、レンは疑問に持っていた。

 地球上の歴史でも、千年以上に渡って争い続けるパターンは珍しい。確執があったとしても、それは現代を生きる自分たちでは与り知らぬ昔の話だ。和解するという選択肢が生まれても不思議ではない。少なくとも、そういう派閥が生まれていない方がおかしい。

 しかし、そう言った動きは全くない。

 それは全て精霊王フローリアがコントロールしてきたからの結果なのだ。

 千年前に演出した人魔戦争からの確執を受け継がせ、和平を望む派閥が生まれないように徹底的なコントロールをする。そして人族が間違っても魔族領へと行ってしまわないように、人魔境界山脈に七つ・・の創魔結晶を置くことで強力な壁を作り上げた。

 千年の間で何人かは魔族領へと行ってしまったが、戻ってくることはなかった。【レム・クリフィト】に永住することになったからである。人族よりはるかに進んだ文明を持つ魔人族の国を知ってしまったら、命を懸けて山脈を越えてまで人族領へと戻りたくはないだろう。

 これから起こる人族と魔族の戦争すら、精霊王フローリアが仕組んだ計画なのだ。

 それを知ることなく、勇者たちは力を蓄え続ける。

 黒幕の手の上で転がされているとも知らず。










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