EP320 零の部隊
新章、始まります
クウは現在、【レム・クリフィト】の魔王軍本部基地でアリアと共に書類を捌いていた。本来はアリアのための執務室なのだが、今は仮のデスクを用意してクウも仕事している。
何故、軍と無関係のクウが仕事しているのか。
それは、単にクウが魔王軍に強制入隊させられたからである。それはアリアやリグレットが仕組んだことではなく、ユナの仕業だった。
「くーちゃんは私と同じ職場がいいよね?」
「え? 別に――」
「一緒がいいよね?」
「はいそうですねー」
という一瞬で収束した話し合いの後、クウの入隊が決定したのだった。
そこで次に問題となったのが、入隊する部隊である。
魔王軍第一部隊は、精鋭のみを集めた最強部隊だ。ユナ・アカツキを隊長として、主に首都防衛の切り札として扱われている。また、魔王軍の強さを対外的に知らしめる宣伝部隊としての意味合いも強い。
魔王軍第二部隊は治安維持を目的とした警察組織だ。相手を痺れさせる程度の威力に抑えた雷系魔導銃を標準装備しており、隊長であるサレス・カルマは雷魔剣ヴァジュラという超兵器の所有を許可されている。天候すら操る雷魔剣ヴァジュラが使用されることは滅多にないが、凶悪犯罪の抑制には大いに役立っている。
魔王軍第三部隊は【アドラー】との国境を警備し、防衛する役目を負っている。そのため、殆どの部隊員は国境付近の基地に駐屯していることが多く、国民の目に触れることは少ない。隊長のユージーン・ベルクは光魔銃ラグナロクを所有しており、大軍に対しても光の雨を降らせることで迎撃する。基本的に【アドラー】からやって来るのは『死霊使い』オリヴィアの不死軍団か、超越者だ。彼らの主な役目はアリアやリグレットがやって来るまでの時間稼ぎであることが多い。その他にも、【アドラー】から逃げて来た意思のある魔人を保護したりもしている。
魔王軍第四部隊は魔物に対する戦力だ。魔族領の魔物は数が多く、強さもかなりのものである。隊長ジャック・グレンランは導魔槍オーディンを片手に各都市を魔物の脅威から守っている。この部隊は数がものをいうため、各部隊と比較すれば最も所属隊員が多い部隊だ。また突出した個は少ないが、魔物相手に毎日戦っているためか平均的な練度は高い。
魔王軍第五部隊は魔法迷宮が主な職場だ。彼らは魔法迷宮に潜ることで、大量の資源を獲得しているのである。魔物から取れる素材は、無限とも言える資源だ。それを有効活用しない手はない。隊長カイン・ナルニアスは万魔匣パンドラという指輪型の兵器を保有し、資源回収に一役買っている。この兵器は無限の収納を可能としているので、迷宮攻略と資源回収には打ってつけなのだ。また、収納したものを高速で射出する機能も付いているので、兵器としての性能も高い。実力によって担当階層を振り分けられるためか、魔王軍の中では安全な方だ。
魔王軍第六部隊は雑務が多い。情報伝達、物資運搬、治療などが主な仕事となる。そのため、各部隊へと小隊が派遣され、第六部隊が一つになって行動することはない。隊長リリス・アリリアスは治癒に特化した魔法使いで、錫魔杖フレイヤの結界効果と合わせることで広範囲治療を得意としている。知名度は低いが、縁の下の力持ちといったところだ。
魔王軍第七部隊はリグレット・セイレムの率いる技術開発部隊だ。部隊と銘打っているが、構成員の殆どは研究員であり、所属している戦闘員は実験品のテストをする者たちである。
この七つの中で、ユナが進めたのは当然のように第一部隊だった。自分と同じ部隊に所属させれば、四六時中いつでもどこでも合法的に一緒になれると考えたからである。
だが問題があった。
それはクウがユナよりも強いということである。
闘技大会でそれを大体的に証明してしまった以上、最強部隊を名乗る上でクウが入隊することは、クウがそのまま隊長に就任することに等しい。これは第一部隊に限らず、他の部隊でも言えることだ。基本的に、隊長は部隊内で最強の者が就任するからである。
だからと言って、入隊早々の新人を隊長に据えるなど有り得ない。
故にクウは打開策として一つの提案をしたのである。
それは魔王軍第零部隊の設立だった。
入るところがないなら新部隊を設立すればいい。
クウはそのために書類仕事をしていたのだった。
「クウ。新部隊のメンバーリストは出来たか?」
「いや全く。俺とレーヴォルフは決定として、他は全然決まっていないな。というか、第零部隊の性質を考えるなら、全く新しい素質を見つける必要がある。魔王軍入隊エントリーシートだけでは判断し辛いな」
「少なくとも《気配察知》と《気配遮断》は必須だったか? なかなかに厳しい条件だと思うが?」
「最悪、《気配遮断》は下位スキルの《隠密》でもいい。けど、この辺りの素質は必須だな……」
クウが設立しようとしている魔王軍第零部隊は、公式に存在しない秘密部隊だ。だからこそ、設立に関する書類はアリアの執務室で仕上げているのである。主な仕事は諜報、暗殺などの裏仕事だ。また、【アドラー】に潜入することで意思のある魔人を把握し、保護対象としてリストを作ることも視野に入れている。
そのため、《気配察知》と《気配遮断》は必須だった。
「こればっかりは時間がかかりそうだな……こっちは精霊王の始末もしなきゃいけないってのに」
「第零部隊は秘匿組織だ。誰かの手を借りる訳にもいかん。特にメンバー選出は私か貴様だけでやるしかないということだ」
正直、クウが魔王軍に所属する義理はない。
虚空神ゼノネイアの超越天使であるクウは、本来の仕事であるゼノネイアからの依頼を優先するべきなのだ。精霊王フローリア、魔王オメガを討伐することが最も優先するべきことである。
だが、同じ職場で働きたいというユナの願いのため、少し頑張っていただけだった。
これでは本末転倒だと感じたアリアは一つの提案をする。
「クウ。メンバー選出は私とリグレットでやっておく。貴様は精霊王を始末しに行け」
「任せていいのか? アリアも魔王の仕事があるだろう?」
「構わん。それより、これを機にこちらの戦力を拡大しつつ、奴らの戦力を削る。貴様が精霊王フローリアを相手にしている内に、リアとミレイナの天使化を進めることにする。まだ二人は意志封印解放がまだ終わっていないのだったな?」
「ああ、リアは人族領西部海岸にある運命迷宮、ミレイナは【砂漠の帝国】にある破壊迷宮を攻略しないといけないな。まぁ、ミレイナは一度天使化の試練に挑戦して失敗しただけなんだけど」
「なら都合がいいか……先に破壊迷宮を攻略し、その間にクウが精霊王を仕留める。その後、リアが運命迷宮に赴けば奴らの目を上手くすり抜けられるな」
「そうだな。いつかはリアも天使化しないといけないし、早い方がいいか……」
リアとミレイナは天使候補ではあるが、超越者を相手にすれば雑魚も同然だ。そう思えば、召喚当初にクウが精霊王の目に留まらなかったのは幸運だったということだろう。
尤も、途中でバレたので逃げ出すことになったのだが。
光神シンの言葉を伝えるとされる『光の石板』も、結局は精霊王フローリアの言葉を伝える仕掛けでしかないのだ。人族は見事なまでに掌で転がされているわけである。
これ以上、人族を好きに操られないためにも、精霊王はすぐに仕留めておきたい。
また、人魔を区切っている山脈の六王も処分が必要だ。レベル200の強力な魔物が揃っているせいで人族と魔族が交流できず、対立関係が千年以上も続いている。人魔境界山脈で魔物を生み出す創魔結晶へと魔力を送る大樹ユグドラシルを潰すためにも早めに精霊王を討伐するべきである。
ちなみに、【レム・クリフィト】に住む人族は、この境界を命からがら乗り越え、運よく保護された者たちの子孫である。乗り越えたは良いが、再びあの魔境を越えて帰る気力は無かったので、【レム・クリフィト】に永住することになった者たちだった。
「わかった。第零部隊を作ってから動く予定だったけど、切り上げて先に精霊王を倒しに行こう」
「寧ろサッサと行け。そちらが優先事項だ」
「リアとミレイナはどうする? 二人で放り出すわけにもいかないだろ?」
「ユナをつける。あいつもそろそろ超越化させたいからな。旅でもさせるべきだ」
「まぁレベル190からは異常に上がりにくいからな。何度か死闘を経験させないとダメか」
「そういうことだ。立派に囮役をこなせよクウ」
「はいはい。綺麗に仕留めてやるから待ってろ」
クウは丁度仕上げていた書類を片付け、残りをまとめてアリアのデスクに移す。必要な仕事は彼女とリグレットがやってくれるということなので、後は任せることにしたのだった。
(俺が一人で行くって話をユナに話すのは拙いか。絶対についてこようとするし)
現在、ユナは日課である第一部隊の訓練を行っているところだ。
抜け出すなら今の内だろう。
クウはすぐに【レム・クリフィト】を抜け出したのだった。それも、幻術を利用することで誰の目に留まることなく、煙のように消えたのである。
後にそれを知ったユナが酷く拗ねるのだが、これはまた別の話だ。
◆ ◆ ◆
エルフの国【ユグドラシル】の女王、ユーリス・ユグドラシルの朝は遅い。女王といっても象徴のようなものであり、特に目立った仕事は無いからだ。式典に出席したりしない日は、好きなようにダラダラと過ごしているのが常である。
偶にストレス発散を兼ねて魔物退治に出かけるのだが、それ以外の日は自宅でゆっくりと過ごしていた。
「おはようフローリア」
「ユーリス、ようやく起きた」
「あら。待っていてくれたの?」
「私は貴方がいないと広範囲に動けない。だから待っていた」
「まぁ、そうよね」
ユーリスは固まった体を伸ばしながら起き上がる。そして薄いネグリジェを脱ぎ捨て、適当なドレスを取って身に着けた。一人でも着ることの出来る簡単なドレスであり、装飾も少ない普段着用のものだ。
「さてと、朝ご飯を作りましょう」
「もう昼だけどね」
「それは言わない約束よフローリア」
部屋を出たユーリスはキッチンへと赴き、精霊魔法を発動させる。すると材料が勝手に刻まれ、水が鍋に湧きだし、空中で火が踊ってスープを作り始めた。
大樹ユグドラシルの上に住居を持つユーリスは、小さな小屋に一人暮らしをしている。女王として謁見するときは別の場所が用意されており、ここは彼女が暮らすための場所だった。小屋と言ったが、キッチン、バスルームに、リビング、寝室と部屋は充実しており、一人暮らしをする分には十分すぎるほど広い。大樹が余りにも大きいので、枝の上にもこれほどの家を建てることが出来るのだ。
魔法によってあっという間に朝食という名の昼食を作り上げ、彼女は食事を始める。
「あら美味しい」
「言っておくけど、それは私の能力で作られたご飯」
「分かっているわよ……細かいわね」
精霊王フローリアは、正式種族が天霊となっている。実体を持たない幽霊系の生命であり、大樹ユグドラシルに寄生することで形を保っている状態だ。フローリアは光神シンが始めて創造した生命なので、こういった欠点を持っているのである。
故に大樹から大きく離れることは出来ず、加護を与えて契約しているユーリスのいる近くならばどうにか存在していられる程度だ。権能【世界元素】で眷属精霊を創造すれば広範囲の情報も入手できるが、やはり自力で動けないのは大きな欠点である。
ただし、逆に大樹の近くでは破格の戦闘力となる。
大樹は器であると同時に、自身の肉体でもあるのだ。大樹を操ることで攻撃することも出来る。根元からでは先が見えないほどの巨大な樹木なのだ。それを自在に操れるとすれば、かなり強い。
「そういえばフローリア」
「何?」
「今日は何か予定があるの?」
「辺境基地を見に行きたい。外壁が完成していから一度も見に行ってない」
「そう言えばそうだったわね。アヤトにレン……あの二人の勇者の師匠役が終わってからは一度も行っていなかったわ。まぁ、元々は基地の外壁が完成するまで、周囲の魔物を討伐しつつ、二人を鍛えるって話だったもの。仕方ないわね」
「あの基地はいずれ起こる魔族との戦争で重要。だからちゃんと確認する」
ユーリスは知らないが、フローリアは千年かけて人族と魔族の確執を作り上げて来たのだ。そして満を持しての戦争である。ここで負の意思を出来るだけ集め、エネルギーとして高めたのち、次元の穴にぶつけなければならない。
最終段階へと入っている計画に気を使うのは当然だった。
「分かったわ。なら行きましょうか」
「早くするユーリス」
フローリアは例の基地近くに置いている眷属精霊とコンタクトを取り、その精霊を基点として空間を歪め、転移用に穴を開けていく。戦闘時に即時発動できる能力ではないが、時間を掛けることで発動できる転移術だ。
午後になって二人は辺境前線基地へと転移したのだった。
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