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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編
319/566

EP318 忘却された歴史⑥


 今では裏世界と呼ばれている本来の世界エヴァンだけでなく、因果干渉によって別世界線から分離させた世界エヴァンにも手出ししようとした邪神たちの企みはすぐに止められることになる。

 邪神カグラと光神シンが現エヴァンへと送り込むことが出来たのは天霊フローリアと二人の魔人オメガ、アルファだけだった。だが、フローリアは光神シンに与えられていた迷宮発現の力を預けられており、それを利用した作戦を言い渡されていたのである。魔人オメガとアルファはその補助だった。



「奴らの狙いはこの世界も掌握することじゃ。それによって妾たちと交渉するつもりなのじゃろう。妾が封印した奴の神銘を解放させるつもりなのじゃ。光神シンは恐らくノリと勢いで邪神の味方をしているだけじゃろうの」


「つまり邪神カグラは本来の文明神アカシックとしての銘を取り戻そうとしているってことか?」


「その理解でよいぞクウよ」



 深く頷いたゼノネイアは指を鳴らし、一枚の画像を映し出す。それは大陸の地図であり、人魔境界山脈の部分には区切るような線が入れられていた。更に、人族領に三か所と魔族領に三か所の印が打たれている。クウにはその印が何を表しているのかすぐに理解できた。



「それ、迷宮の位置を表す図か?」


「うむ。【ルメリオス王国】の北部にある虚空迷宮、同国の西海岸近くにある運命迷宮、【ルメリオス王国】と【ユグドラシル】の国境にある武装迷宮、【砂漠の帝国】にある破壊迷宮、魔人の国【レム・クリフィト】にある魔法迷宮、ヴァンパイアの要塞都市国家【ナイトメア】にある創造迷宮。これら六つの迷宮は天霊フローリアによって出現させられたものじゃ。奴は人魔境界山脈を境界に種族が棲み分けしていることに注目した。境界の西は人、エルフ、ドワーフで境界の東は獣人竜人、魔人、ヴァンパイアとな。これを利用して、人族と魔族という言葉を定着させ、互いに敵対させるようにと思考誘導を仕向けた」


「……? どういうことだ?」


「人族と魔族という言葉を定着……ですか」



 ゼノネイアの言葉にクウだけでなくリアも反応する。今の言葉から推察すると、本来は人族魔族などという枠組みは存在せず、この二種族の敵対は天霊フローリアによって誘導された関係だということになる。

 これまでの常識がひっくり返る事態だ。

 そしてゼノネイアは二人の言葉に頷いて答えた。



「フローリアは人魔の境界に七つ・・の創魔結晶を設置することで、人族と魔族という括りを創り出すことに成功したのじゃ。人族と決められた人、エルフ、ドワーフはこの三つの種族しか会えないようになってしまい、魔族と決められた魔人、獣人竜人、ヴァンパイアも同様にこの四種族にしか会えなくなった。人族と魔族を敵対関係にする前提として、自分たちが人族もしくは魔族であるという認識を与えたのじゃ」


「つまり、異種族だけど仲間だというイメージを与えたと。ならそれは矛盾しないか? 人族は千年前まで内輪で争っていたんだろ?」


わたくしたちの間では誰もが知っている話です。そして魔族が攻めて来たことで人族は結束を固め、魔王は天使が打ち滅ぼしたとされています」


「矛盾はしておらんの。何故なら、それらは全て天霊フローリアが演出したストーリー。人族の内輪争いも、魔族からの侵略も全てはフローリアの計画じゃからの」



 それを聞いたリアに衝撃が走る。

 これまで学んできた歴史は全て一体の超越者によって演出されたものだと言われたからだ。異世界人であるクウや、竜人のミレイナとレーヴォルフはそれほど驚きもしなかった。それだけ暗躍しても不思議ではないと納得していたほどである。



「よいかの? 天霊フローリアはまず、人族領と魔族領を作り上げた。そしてそれぞれに別の処置を施したのじゃ」


「別の処置?」


「うむ。奴は人族領に自身の依り代となる神木を植えた。それは今、エルフの国【ユグドラシル】で大樹ユグドラシルと呼ばれておる。そしてフローリアは自らを精霊王と名乗り、眷属として無数の精霊を生み出したのじゃ。元々、フローリアはエルフの因子を強く継承しておる。故に、眷属である精霊はエルフたちに馴染みやすいようじゃな。現代では、その精霊と契約することで精霊魔法と呼ばれるシステム外スキルが使えるようになっておる。これはフローリアの権能【世界元素エレメンタル】の力じゃな」



 精霊魔法はステータスに表記されない魔法だ。何故、精霊魔法だけがステータス表記されないのか長年の謎として扱われていたが、その理由が明らかになった。精霊魔法はエヴァンのスキルシステムではなく、天霊フローリアの権能【世界元素エレメンタル】によって発動する仕組みだったからだ。

 そして言い換えれば精霊王はクウたちの敵ということになる。



「まぁ、ここからは精霊王フローリアと呼ぶことにしよう。そのフローリアは依り代である大樹の根を伸ばすることで人族領全体に干渉することに成功したのじゃ。具体的に言えば、奴の権能によって大地の瘴気を祓うシステムを閉じた」


「瘴気……確か悪意などの干渉が具現化したものだったか。何もしなくても増える上、アレが増えると悪感情が無限に増え続けるスパイラルに落ちるんだっけ?」


「よく知っておるのクウ。その通りじゃ。本来、瘴気は一定以上溜まると、ある形となる。それは魔物と呼ばれる存在じゃ。瘴気がエネルギー結晶となって魔石と呼ばれるコア器官になり、それを元に魔物が形作られる。この魔物を倒せば瘴気は完全に祓われることになるのじゃ」


「精霊王がそのシステムを閉じたってことは、魔物が出現しなくなる代わりに悪意が満ちていくってことか。確かにその話が本当なら矛盾しないな」



 人族で伝えられている歴史では、昔には魔物が存在しなかったとされている。初めて魔物が現れたのは東の魔族領からやってきた時だ。そして瘴気が溜まり過ぎたことで人族は互いに争い、些細なことで戦争すら引き起こした。

 辻褄は合う。



「一方で、精霊王フローリアは魔族領に殆どの干渉をしなかったのじゃ。唯一の干渉として迷宮を三つも出現させ、管理は魔人オメガとアルファに任せた。魔族領は瘴気を祓うシステムが閉じられていない故に、魔物が普通に発生する。魔族領に魔物が多いのはそういう理由じゃな。さらに人魔の境界に設置された七つ・・の創魔結晶から生み出された高位魔物は、余計な魔物を通さぬためのバリケードにもなっていたのじゃ。オメガとアルファが上手く管理することで、スタンピードが人族領方面に発生しないよう調整までしていたようじゃの」


「魔族領はオメガとアルファがいるから余計な手出しをせずに安定化させたってことか?」


「うむ。それに迷宮を出現させたのはフローリアが自身の負担を減らすためでもあるのじゃ。妾たちは早急に迷宮を出現させるため、六神獣を迷宮の管理者に設定した。それゆえ、超越者を抱える迷宮は膨大なエネルギーを抱えることになる。故に、それを出現させる権利を有するフローリアにも負荷を与えることが出来るようになるのじゃ」


「ああ、なるほど。抑え込めなくなったから三つを解放したと」


「迷宮にも瘴気を祓うシステムが組み込まれておるからの。迷宮内に魔物が出現するのはそれ故じゃ。精霊王フローリアに負荷を与えて迷宮を解放させ、人族領の瘴気を浄化しようとしたのじゃが、奴は小癪にも部分開放で魔族領にのみ迷宮を出現させた。厄介なことにの」



 迷宮は周囲の瘴気を吸収し、魔物として内部に出現させるだけでなく、一定の瘴気を吐き出す効果も有している。これによって地上に瘴気が無くなるという事態が起こらないように調整しているのだ。瘴気は人の悪を増長させるものだが、悪意は世界の発展に必要不可欠だ。聖気……つまり善意だけでは停滞したディストピアになってしまうのである。

 この調整を行うのも迷宮管理者の役目の一つなのだ。

 ゼノネイアたち神々はこの浄化機能を用いて人族領に溜まった瘴気を薄めようとしたが、そのための作戦も精霊王フローリアに利用されるだけとなった。



「あとは人族に伝わっている話の通りじゃな。瘴気のせいで争い続けていた人族の所に、突如として東から魔物が攻め込む。そして魔王オメガが四天王と呼ばれる配下たちと共に攻め込んできたのじゃ。それを光神シンの天使である精霊王フローリアが撃退する。勿論、撃退した魔王オメガは分体じゃ。その後、人族領にも迷宮を出現させ、人類の結束を固めて人族対魔族の構図を完成させる。これで精霊王フローリアの計画は第一段階まで成功したことになるのじゃ」



 可能ならば超越者である六神獣を精霊王に差し向けたかったが、残念ながら迷宮の管理者に設定してしまっていた。迷宮から少し離れる程度なら問題ないが、長期間に渡って迷宮の管理を怠ると大変なことになりかねない。

 具体的には、瘴気が地上に溜まり過ぎて無意味な戦争が起こったりするのだ。

 また精霊王フローリアは隠れるのが上手く、見つけることも困難だった。大樹という舞台装置を設定して以降はエルフの女王を寄生先の一つとして隠れ続けていたのである。



「奴らの計画の第一段階はフローリアが中心となって遂行するものじゃった。そして第二段階は魔族領のオメガとアルファが役目を負っていたようじゃの。魔人を種族として定着させ、人族の敵として大戦力を整えるのが第二段階じゃ。オメガとアルファはそのために【アドラー】を建国し、子孫を増やすことで数百年かけて大国家となった。じゃが、子孫を増やす段階で問題が発生していたようじゃな」


「あれか? 近親婚による遺伝子欠陥」


「いや、それは問題ない。遺伝子欠陥のない完全な素体を光神シンが構築していたからの。近親婚であったとしても問題なかった。尤も、現在は太陽光で幾つかの遺伝子欠陥が生じておるからの。近親婚をすると遺伝子異常が起こりやすくなる」


「じゃあ何だ?」


「肉体ではなく魂の問題じゃ。元々、魔人はこの世界に存在しない種族じゃ。光神シンが創造したは良いのじゃが、その子孫に魂が適合する確率は極めて低かったのじゃ。故に、魂のない抜け殻のような魔人が大量に生まれてしまっての。魂が無いということは意志力が存在しないということ。つまり、人形のような存在となってしまったのじゃよ。偶然に適合できた個体は意志を持っていたが、それはごく少数じゃった。まぁ、現在は違うがの」



 ゼノネイアがアリアに目を向けると、頷いてアリアが語り始める。



「私たち【レム・クリフィト】は意志を持つ魔人が集まって出来た国なんだ。元はこの世界で初の超越天使となったリグレットが魔法神の加護を持つ私を拾い、共に魔法迷宮を攻略して私が天使となったことがきっかけだった。私とリグレットで意思のある魔人を集め、魔法迷宮を中心とした都市を作ったんだ。およそ五百年前になるか……当時は人口が百人にも満たなかったが、今では御覧の通りだな。今でも国境を越えてくる意思を持った魔人を保護したりしている。だから【アドラー】にいる魔人は殆どが意思のない人形だな」


「ちなみに四天王と呼ばれる存在は意志のある魔人の中で魔王オメガに服従を選択した者たちだよ。意志のある魔人でなければ【魂源能力】を開花させ、超越化に至ることは出来ないからね。彼らは魔王オメガから『天の因子』と呼ばれるものを注入され、適合すれば意志力封印が解き放たれて【魂源能力】を開花させることが出来るんだ。この『天の因子』は光神シンが作り出した、加護無しに意志力封印を解くものらしいね」


「なるほど……納得できた」



 リグレットも追加で説明してくれたので、大まかな部分は理解できた。現代では魔人も世界に定着しつつあるが、まだ完全ではなく、さらに意思のある魔人は【レム・クリフィト】が保護している。

 それによって【アドラー】の戦力を上手く低下させ続けていたのだ。

 尤も、【アドラー】はそれでもコツコツと戦力を溜め込んでいたようだが。それについ先日は【砂漠の帝国】を利用して【レム・クリフィト】を落とそうとしていた。やはりこの二国の間にある溝は建国当時からゆえに深すぎるようだ。

 クウはここまでの話を頭の中で反芻しつつ纏めていく。



「つまり、精霊王フローリアが人族領で細工しているのと同時進行で、オメガとアルファは魔族領を掌握しつつ戦力を整え、魔人を世界に定着させようとしていた。ただ、それはアリアとリグレットのせいで半分ほど失敗している状況だと……」


「うむ。その通りじゃ。次にフローリアがなぜ地球人を召喚したのか……じゃな。まぁ正確には光神シンが構築した召喚陣だったのじゃが、それを人族に与えたのはフローリアじゃ。その目的を話すとしよう。そこまで話せば、精霊王フローリアの計画の第三段階まで分かってくるからの」



 ゼノネイアは更に言葉を続けるのだった。







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