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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編
318/566

EP317 忘却された歴史⑤


 光神シンと邪神カグラは権能を用いて少女のことを調べた。その結果、少女は肉体を持たず、植物に寄生することで形を保てる存在であることが分かり、二人は顔を見合わせた。



「これは……生物としては少し欠陥が強いね」


「そうなんですか?」


「植物に寄生しなければ生きていけないからね。それに、寄生した植物から一定以上離れることも出来ないらしい」


「むむむ……」


「だけど、驚くべきことに加護もなく意思力封印が解かれているね。これは君が天使の因子を入れたからだろう。どうやら【魂源能力】も保有しているらしい。《星分霊アストラル》という能力銘で、自分と感覚を共有できる分身体を創り出せるみたいだよ。分身体は寄生している植物から離れても問題ないらしいね」



 つまり、少女は幽霊のような存在なのだ。

 肉体を持たず、器の代わりである寄生した植物を介して発現できる。カグラが生命として欠陥が強いといった理由がよく分かった。



「どうするシン? やはり失敗作のようだけど、処分する?」


「いや……」



 シンは首をかしげている少女へと目を向けつつ考える。

 少女はシンが能力の練習で創っただけなので、壊すことも簡単だ。しかし、シンはこの少女を処分したくはない。それは可愛らしい小さな女の子を殺すことを躊躇ったという倫理的なこともそうだが、自分をパパと呼んだ彼女を殺したくないという感情的な理由もある。

 また、彼女はシンが創造した記念すべき初めての生命体だ。

 故に処分ではなく保護することに決めたのである。



「彼女は俺が育ててみます。超越化に至るかも実験してみたいので」


「確かにそれは興味深い。一応、彼女には魂を入れてあるのだろう? 理論上は超越化するはずだから、期待は出来るね」



 そうしてシンとカグラは少女をフローリアと名付け、育てることにした。主にレベルアップの手伝いと、彼女の持つ《星分霊アストラル》の練習である。

 さらにシンはフローリアの前例を元に解析を続け、自分の能力を理解するために多くの生命を創造することにした。その過程で因子集めのために様々な生物を狩り、邪神カグラと共に世界エヴァン崩壊へと手を貸していたのである。

 そして百年後、外なる邪神たちとエヴァンの者たちによる最後の決戦が勃発することになる。

 邪神カグラを始めとしたエヴァンの外敵は、凄まじい戦力となっていた。

 銘を奪われた元文明神で、現在は邪神カグラと堕天使メギドエル。そして無数の因子を操り、万物を支配下に収める光神シン。さらに光神シンが始めて創造した存在であり、超越化によって権能【世界元素エレメンタル】に目覚めることが出来た神種天霊フローリア。後に加護を与えられた彼女はシンの天使でもある。

 一方、この戦力に対抗できるのはエヴァンでも六体の神獣だけだった。長年に渡る巨人種との戦いで遂に超越化を果たした六体の神獣だけが後は頼みなのである。

 そして邪神カグラはともかく、光神シンは最下級とはいえ神なのだ。今はまだ大丈夫だが、このまま放置すればシンの存在力だけで世界が崩壊しかねない。早急な討伐が必要だった。







 ◆ ◆ ◆








 ゼノネイアはここで映像を止めた。



「さて、ここまでの映像について質問はあるかの?」



 一度聞いたことのあるユナ、アリア、リグレットはともかく、初めて聞くクウ、リア、ミレイナ、レーヴォルフは複雑な表情を浮かべていた。特にリアはそれが顕著だった。

 元々、人族領では光神シンは救世主のような神として聞かされていた。それが実は邪神に敗北し、エヴァンに敵対する存在だったというのである。これまでの知識は何だったのかという話だ。

 情報を整理するためにも、クウは口に出しながらこれまでの話をまとめる。



「シン・カグラって日本人は邪神落ちした文明神を討伐するために連れてきた存在だった。けど、実際は邪神と堕天使メギドエルに敗北し、軍門に降る。さらに裏切って向こう側についたってことか。それで最後の戦いでは超越化した神獣が奴らを相手に戦ったと」


「まぁ、大体はその通りじゃよクウ。それで、最後の戦いも初めは我らが押していたのじゃ。邪神落ちして弱体化しているカグラに、寄生という欠点のあるフローリア。更にこの三体は元から戦闘向きの能力ではなかったからの。まともに戦えるのは堕天使メギドエルぐらいじゃった」


「初めは押していたということは、後で逆転されたってことだよな?」


「うむ。光神シンの能力【伊弉諾イザナギ】はあらゆる因子を操る。それによって新たな生命を創造し、それに天使の因子を与え、超越化にまで至らせる。これによって奴は超越化した兵士を大量に手に入れた。クウ、お主が戦った多頭龍オロチと炎帝鳥アスキオンも後に光神シンの能力で創り出された存在なのじゃ。あのレベルの存在を量産できるとすれば、それは脅威だと思わぬか?」


「確かに……それでファルバッサたちは窮地に陥ったと?」


「天竜ファルバッサ、天翼蛇カルディア、天雷獅子ハルシオン、天星狼テスタ、天妖猫メロ、天九狐ネメアの六体も奮闘した。じゃが、光神シンのサポート能力は強力で、徐々に防戦一方へと追い込まれていくことになる。因子を利用した瞬間回復、因子を詰め込んだ神装……他にも色々あるが、それらを駆使されては神獣とてどうにもならん」



 ゼノネイアが再び映像を再開させると、追い詰められている六神獣の姿が映された。クラゲのような半透明の生物が津波を引き起こし、ペガサスのような生物が風を纏って天を駆ける。蠍と蟹を合成したような甲殻生物が暴れるたびに大地が裂け、ゴーレムのような大岩の巨人が山を粉砕していた。

 その全てが光神シンによって創造され、超越化にまで至った生命体だという。

 光神シンはこのようにして兵士と兵装を生み出し、邪神カグラは元文明神としての権能で情報を解析し、堕天使メギドエルは先頭に立って戦い、天霊フローリアは分霊体を放って六神獣の動きを監視する。

 このままエヴァンは滅び去り、巨人種と新たな神の世界へとなり替わろうとしていた。



「ここまでくれば、妾たち神々も人任せには出来ぬ。遂に介入することに決まった」


「介入? だが最高クラスの力を持つゼノネイアたちが地上に降り立つのは拙いんじゃなかったのか?」


「当然じゃ。妾たちは世界ごと光神シンや邪神どもを滅することに決めたのじゃ。そのために妾たちの民を消すのは忍びない。それゆえ、対抗策も考えた」



 ゼノネイアが指を鳴らすと映像が切り替わり、樹形図のような画像が現れた。それからゼノネイアは言葉を続ける。



「これは世界の運命を模式的に示した図なのじゃよ。言い換えれば並行世界の可能性を表しておる。もちろん、本来は並行世界など存在せん。これはあくまでも可能性の話じゃ。『もしもあの時~だったら』という仮定の世界線じゃな。しかし、運命神アデラートはこの運命の可能性を辿り、もしもの世界を現実に作ることが出来る。因果を辿り、巨人どもに滅ぼされなかった世界線の世界エヴァンをコピーしたのじゃ。それによって世界を二つに分裂させた」



 スクリーンに二つの世界が映される。

 一つは巨人襲撃と最終戦争のせいで滅びかけた世界エヴァン

 もう一つは、巨人に襲撃されることなく文明と自然が残った平和な世界エヴァン



「この世界線コピーは強力じゃが、魂まではコピー不可能じゃ。それゆえ、分裂世界を作ったところでそこに人は住んでおらぬ。創造神レイクレリアと破壊神デウセクセスで協力して生き残った民を分裂世界へと移し、元の世界に邪神どもを封じ込めることにした。そして封じ込めた元の世界を武装神アステラルと魔法神アルファウが消し飛ばせば万事解決というはずじゃった」


「はずだった、ということは予定通りにいかなかったと?」


「うむ。邪神がシン・カグラから名を貰ったことで復活した権能【理聖典アカシック】は未来視に近い能力を内包しておる。それゆえ、妾たちの計画も筒抜けじゃった。対策をされ、当初の予定通りにはいかなくなったのじゃよ」


「具体的には?」


「光神シンの因子操作で元世界の支配権を奪われた。分裂世界を作ったことで妾たちの支配力が弱まったことが原因じゃな。さらに妾たちの民を分裂世界に移動させるのに紛れて、天霊フローリアを送り込んできたのじゃ。よほど隠蔽していたのか、妾たちも気付かなかった。シンは最下級の神格じゃが、権能のサポート能力は最上級にも匹敵する。実に厄介じゃな」


「それはつまりどういうことだ?」


「妾たち六神が支配する今の世界エヴァンは分裂させた方の世界じゃ。そしてもう一つの元となった世界は光神シンに支配を奪われ裏世界となって残っておる。裏世界には光神シンや邪神カグラだけでなく、奴らが作り出した超越者が何体も存在しているのじゃ」



 そう言えば、とクウは少し前に魔王オメガと戦った時のことを思い出す。

 あのとき、オメガ分体は召喚によって超越者アスキオンを呼び出した。あれは裏世界から呼び出したということだろう。それを考えると、オメガも光神シンの関係者だということになる。



「魔王オメガは何者……?」


「ふむ。そこに辿り着いたか。まぁ勿体ぶらずに説明するから少し待つのじゃ。結論から言えば、魔王オメガは光神シンが最後に作った生命じゃな。様々な因子を集め、最後に人型の生命を作ろうとした結果、奴は魔人という新たな種族を作るに至った。魔王オメガ、魔王妃アルファがその始まりなのじゃ」


「ちなみに私たち魔人族はその全てが魔王オメガと魔王妃アルファの子孫だ」



 ここでアリアが口を挟み、衝撃的な事実を語る。

 ゼノネイアはそれを引き継いで更に語りだした。



「魔人という存在が創り出された当初は、まだ超越化していなかったのじゃ。それゆえ、妾たちは他の民と同様に今の世界エヴァンへと一緒に移してしまったというわけじゃよ。まさか光神シンの作った種族が紛れているなどとは思わなかったゆえにな」


「出し抜かれ過ぎだろ……」


「仕方ないのじゃ。妾たちは世界の管理だけをしているわけではない。これでも最高クラスの神々ゆえに、神域協定の仕事もあるのじゃ。光神シンを送り込んだことで油断していたらこのザマじゃから、自慢になるようなことでもないがの」


「で、最終的に奴らはどこまでやりやがったんだ……?」


「ふむ……まずは裏世界の掌握、また天霊フローリアを送り込み、魔人オメガとアルファを妾たちの民に紛れさせて送り込んだ。またフローリアには妾たちがシンに授けた迷宮解放の能力を与えていたようじゃな。加えて意志力封印を解除する『天の因子』というものをオメガたちに幾つか与えていたようじゃ。それによって出来たのが神種と呼ばれる個体じゃな。あとは創魔結晶という魔力を込めると魔物を生成できる結晶体をオメガに与えていたらしい。さらに、邪神カグラは最後の最後で呪いを送り込んだのじゃ」


「ああ、あの呪いか」


「そうじゃ。文明力を極限に低下させる奴の呪いを受けた結果、分裂後エヴァンの文明利器は全て消し去られた上、文明を発展させる力を失ってしまった。免れたのは光神シンが作り出した魔人族だけなのじゃ」


「それで魔人だけが遥かに進んだ文明を持っているってことか」


「流石に邪神カグラも味方である光神シンの民には手を出さなかったようじゃの」



 邪神カグラと光神シンのせいで滅ぼされようとしていた世界エヴァン。運命神アデラートの力によって別の世界線を作り、そこに全ての生命を転移させることで滅びを逃れようとしたが、その隙に裏世界は邪神と光神たちによって掌握されてしまう。

 その上、分裂した表世界にも手先である天霊フローリア、魔人オメガ、アルファを送り込んだ。

 ならばどうして現代では光神シンが神の一柱として数えられているのか。また無駄に人族が魔族を敵視しているのは何故なのか。そしてクウたち地球人が召喚された理由は何なのか。

 ゼノネイアの口から更なる真実が語られる。







というわけで、裏世界は運命神が分裂させる前の元の世界でした。まぁ、掌握されちゃってるんですけどね。


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