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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編
313/566

EP312 神界


「取りあえず俺たちも自己紹介するか」



 リグレットに揶揄われて取り乱しているアリアも、その言葉を聞いてクウの方を向いた。そして恥ずかしいところを見せたと思ったのか、咳払いして姿勢を正す。

 先程のことはなかったことにしたいらしい。

 クウも特に言及することなく自己紹介を始めた。



「俺はクウ・アカツキだ。虚空神ゼノネイアの天使だな。ユナと同じく異世界人で、一年ほど前に【ルメリオス王国】で召喚された。それで、虚空迷宮の攻略中に出会ったのかリアだ」


「リアです」


「ちなみにリアは運命神に加護を貰っている」


「え? わたくしは初耳なのですが……?」


「言ってなかったからな。隠蔽されていたから俺が解除しておいたぞ」



 クウがリアに加護のことを隠していたのは、何か大きな理由があってのことではない。念のためと言った程度の話だ。どういった理由で隠蔽が施されているのかが不明だったので、取りあえず放置していたのである。

 【砂漠の帝国】では、レイヒムに対抗するためにミレイナの加護だけは隠蔽解除していた。隠蔽を解除することで、加護は本来の力を取り戻し、【固有能力】も本来の姿へと戻る。リアの加護も、さきほどクウが隠蔽解除したおかげで本来の力を取り戻していたのである。

 リアが試しにステータスを見ると、確かに変化していた。




―――――――――――――――――――

リア・アカツキ   15歳

種族 人 ♀

Lv170


HP:9,913/9,913

MP:11,482/11,482


力 :7,612

体力 :7,998

魔力 :9,231

精神 :9,077

俊敏 :8,861

器用 :8,842

運 :100


【固有能力】

《幸運の領域》 New


【通常能力】

《礼儀作法 Lv4》

《舞踊 Lv4》

《杖術 Lv5》

《炎魔法 Lv8》

《光魔法 Lv8》

《回復魔法 Lv8》

《時空間魔法 Lv3》 New

《魔力操作 Lv7》 Lv1UP

《魔力感知 Lv6》 Lv2UP

《MP自動回復 Lv5》 Lv1UP


【称号】

《運神の加護》


【称号】

《運神の使徒》《元伯爵令嬢》《魔法の申し子》

《妹》《到達者》《浄化師》

―――――――――――――――――――――





《幸運の領域》

自分の周囲に回復効果の付いた領域を展開する。

味方に対して体力の高速回復、疲労軽減、傷の

治癒を自動で行う。

更に、回復系の行動も効果が跳ね上がる。




《運神の加護》

運神アデルの加護。

回復、時空間系に補正。

ステータスの運値を100で固定する。





 大きな変化は【固有能力】が《幸運の領域》に変化したことだろう。これまでは回復に大きな補正が付くだけだったが、周囲に自動回復効果の領域を展開する能力に変わっている。MPも消費せず、ただその場にいるだけで回復効果を与えるのだから、かなりのものだ。

 そして運神アデルの加護が本来の力を発揮したことで、リアの運は100で固定されることになった。運は他のステータスと異なり、100が最大である。この運は『世界の意思プログラム』に対する抵抗力を意味しているので、最大値100の場合、世界が定めた運命に百パーセント抵抗できるという意味だ。つまり、どのような逆境であっても、逆転できる余地が生じるということである。相手が超越者の場合は別だが。

 更に加護の力でリアは《時空間魔法 Lv3》も習得した。

 珍しい特殊属性を二つも習得していることになるので、かなり有利である。



「かなり変わっていますね……」


「変わったんじゃない。それが本来のステータスだ」



 リアが何度も自分のステータスを確認している姿を横目に、クウは言葉を続ける。



「あと、ミレイナは破壊神の加護を持っている。一度は迷宮にも挑戦させたけど、最後の試練に失敗したから天使化はまだ終わっていない。その隣にいるレーヴォルフは一般人だけどな」


「ミレイナ・ハーヴェだ」


「僕はレーヴォルフ・キリ。どうぞよろしく」



 お互いに自己紹介を終えて、アリアは改めて全員に目を向ける。

 クウ、ユナ、リア、ミレイナ、アリア、リグレットの加護持ち六人が揃い、その内の三人は超越化まで済ませている。これまで神々の加護を得た天使の卵を探し続けていたアリアだが、こうして揃ってみると何とも感慨深いものがある。



「お互いに自己紹介も終えたところだ。そろそろ本題に入ろう。天使化しているのは四人……全員が神界に入るのに十分だな」



 天使化すると同時に右手の甲へと刻まれた魔法陣には特殊な効果がある。二つ以上の魔法陣を共鳴させることで、真なる神が顕現することの出来る神界を開くことが出来るのだ。その空間では強すぎるゆえに掛けられている神々の制限も消え去る。

 迷宮の地下九十階層では情報制限が掛けられているので、そこでは話せなかったことも、神界ならば話すことが出来るようになるのだ。

 今回、まだ真実を知らないクウたちのために、アリアは神界を開くことにした。

 魔法陣が多いほど、神界へ通じる次元扉は大きくなる。四人分の魔法陣を使えば、魔法陣を持たないリア、ミレイナ、レーヴォルフも共に連れていくことが可能だ。

 レーヴォルフは一般人だが、既にある程度の事情を知っているので、連れていくことになったのである。



(ふ……これでようやく目的達成か)



 クウは右手の黒手袋を外し、魔法陣を晒しながらそんなことを考える。

 虚空迷宮の地下九十階層でゼノネイアと出会い、魔王に会って神界を開くことを約束した。その代わりとしてユナの居場所に関する情報を得たのだが、ここまで来るのに多くの出来事があった。

 人族領を追われ、変異トレントを討伐し、人魔の境界を乗り越え、砂漠にて超越化を果たし、海を渡り、ようやくユナとも再会した。

 そしてこれから神界へと行き、この世界で何が起こっているのかを聞くことになる。



「では行くぞ。リグレット、ユナ、クウは魔法陣を出せ」



 アリアの言葉に従い、無言で右腕を突き出す。隣でクウに寄りかかっていたユナも右手の甲に描かれた魔法陣を上にして差し出し、リグレットも同様にする。

 すると魔法陣は共鳴を始め、部屋は強い光に包まれた。

 状況をよく理解していないリア、ミレイナ、レーヴォルフは目を塞いで光に身をゆだねる。

 一瞬だけ浮遊感があり、すぐに光は消失した。

 そして次の瞬間には、七人とも何もない真っ白な空間で座っていたのである。これに驚いたのは意外にもクウだった。



「なんだここは? 明らかに普通じゃない」


「分かるのかいクウ君?」



 動揺するクウにそう聞いたのはリグレットだった。

 クウは「魔眼」を発動させつつ周囲を見渡し、少し間を空けてからリグレットに答える。



「情報次元が普通じゃ有り得ないほど濃密だ。それも世界を構成する情報じゃなく、防壁としての効果を持った情報次元だ」


「そんなことまで分かるのかい? 便利な眼だね」


「ああ、しかしこれは凄いな」



 神界は神が顕現することの出来る空間である。外界に余計な影響を与えないようにするため、空間自体に防壁が構築されている。超越者であっても、この空間を破って外界に出るのは難しいだろう。

 クウが感心していると、真っ白だった空間に歪みが生じた。

 黒と白が入り混じった渦が出現し、そこから菊模様の着物を纏った少女が現れる。

 クウもよく知る、虚空神ゼノネイアだった。



「久しぶりじゃのクウよ」


「ああ、約束通り、ここまで来たぞ」


「妾の思惑通り、超越化も済ませた様じゃな。流石じゃ流石」


「砂漠のアレはやっぱりお前の差し金だったのか……」


「ついでじゃよ。妾の眷属ファルバッサの呪いを解除するついでじゃ。そう怒るでない。結果としては良い方向に進んだのは間違いないハズじゃ」



 ゼノネイアは何ともない風にそう語るが、実際はかなり危険な行為だった。ステータスに縛られた状態で超越者オロチに挑み、こうして生きていられるのは奇跡にも近い。ファルバッサやネメアといった超越者が居なければ、間違いなく死んでいたことだろう。

 クウがジト目で睨み続けていると、ゼノネイアは溜息を吐いて種明かしをした。



「……そんな目で見るのはやめよ。ちゃんと運命神アデラートにお主の運命を先読みして貰っていたからこそ、無茶な要求をしたのじゃ。勿論お主が死ぬ可能性もあったが、生き残って超越化まで至る可能性も充分にあったのじゃ。それにほら……可愛い子には旅させよ、と言うじゃろ?」


「……まぁいい」



 所詮は過ぎたこと。

 こうして生き残り、超越化したのだから無暗に掘り返す必要はない。一通り文句は言ったので、クウもここで引き下がることにした。

 すると話を聞いていたアリアが今度は口を開く。



「ゼノネイア。他の神々はどうしたのだ? 今日はアデラート、デウセクセスの加護保持者も連れて来たのだがな……」


「実は他の奴らは忙しくしておるゆえにな。スキル関係で異常があったらしく、アステラルと共にデウセクセスは修正作業をしておる。アデラートは境界空間の見張じゃ。妾たちの中で奴ほど時空系が得意な者はおらぬからな」


「まさか……裏世界が?」


「何度か干渉を受けておる。近いうちに再び突破されるじゃろうな。大きな戦争が起これば確実に穴が開くじゃろう。これ以上、余計な邪念が集まるのは拙い。ただでさえ、異世界人召喚や魔王オメガの契約召喚のせいで時空間が揺らいでおるのじゃ……とまぁ、他の奴らは忙しすぎて出て来れないのじゃよ」



 専門用語が多すぎてクウたちには全く理解できなかったが、面倒な状況だということを察することは出来た。天使が世界を具体的に調整する役目を追っているのと同様に、神の役目は世界を広義的に支えることだ。

 ステータスシステムも神が創り上げ、調整している。他にも魂の循環なども神の領分だ。

 神々は暇を持て余したりしないのである。



「さて、妾にも余裕は無いのじゃ。手早く話を済ませるとしよう」



 ゼノネイアはそう言って指を鳴らす。

 するとクウたちが座っていたソファの前にテーブルとお菓子が現れ、湯気の上る紅茶も現れた。どうやら寛ぎながら話を聞けということらしい。

 興味津々なミレイナが一枚のクッキーと手に取り、口に放り込む。



「む! 美味いな!」



 クウも試しに食べてみると、確かに美味しい。

 バターの風味と塩気が丁度良く、シットリとして口当たりも良い。それでいて濃すぎない味なので、口の中がベタベタすることもない。湯気と共に空気に溶ける紅茶の香りもマッチしている。

 リアもクウに続いてクッキーを口に入れると、同様に驚いていた。元貴族のリアは、それなりに良いものを食べてきて経験がある。だが、このクッキーはこれまでに食べたことがないほどに美味だった。

 神界のお菓子を初めて食べたクウ、リア、ミレイナ、レーヴォルフがそれぞれ驚愕の表情を浮かべていると、ゼノネイアは手を叩いて注目を集める。



「お菓子は食べながらで構わんが、妾の話を聞いてもらうぞ。少なくとも、加護を持つ三人にはな」



 そう言ってゼノネイアが指を鳴らすと、真っ白な空間の一部が黒く染まった。黒くなった部分は長方形になって落ち着き、やがて一つの画像を映し出す。

 そこに移っていたのは六人の人物だった。

 黄金の髪が特徴的な白い服装の美女がソファに座っている。

 気だるい表情を浮かべて緑髪の女性が頬杖をついている。

 青い髪の大男は腰に手を当てて笑っている。

 着物を着た銀髪の幼女が湯呑でお茶を飲んでいる。

 フードを被った怪しい男が本を読んでいる。

 あどけない黒髪の少年がお菓子を食べている。

 そんな絵だった。

 その中で、銀髪の幼女はゼノネイアにも見える。というより、ゼノネイアそのものだった。



「まずは妾の自己紹介をしよう。妾はこの世界エヴァンを創造した六柱の神々の一柱にして、善悪と裁きを司る虚空神ゼノネイアじゃ。神々の中でも最高位神格を有するが、そう畏まる必要はない。この絵に映っているのが妾を含めた神々じゃ。運命神アデラート、創造神レイクレリア、武装神アステラル、虚空神ゼノネイア、破壊神デウセクセス、魔法神アルファウ。この世界に存在する全ての神じゃよ」


「ふーん」


「六柱……ですか?」



 ゼノネイアの話を聞いて、クウは眉を寄せ、リアは訝しげに聞き返す。

 何故なら、その中に光神シンが含まれていなかったからだ。人族領で最も信仰されている光神シンの名前はなく、他の六柱は存在している。この六柱も人族領で伝わる名前とは異なっているが、それは真名かそうでないかの違いだ。ここで問題なのは、やはり光神シンである。

 そんな二人の疑問が伝わったのか、ゼノネイアは再び指を鳴らして話し始めた。

 スクリーンが切り替わり、近未来的な都市の画像が映し出される。



「お主らの疑問も分かるが、順を追って説明する故に少し待つのじゃ。まずは、過去にこの世界で何があったのかを話そう。これから映す映像は今から千五百年前のものじゃ―――」



 ゼノネイアの言葉と同時に、映像が再生され始めた。





次回から世界の過去について語ります。

これまでの秘密も一気に種明かしですよ!


評価、感想をお待ちしております。




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