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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編

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309/566

EP308 クウVS魔王アリア②


 クウはアリアの雰囲気が変わったことを感じた。

 これまでの戦いが小手調べだったかのような、濃密な気配が放たれる。五百年という研鑽の中で極められたアリアの権能が真の力を見せた。



「少しだけ本気を見せてやろう」



 アリアは意志力を侵食させて、空間を支配していく。権能を発動させるのではなく、世界に侵食させる超越者第二段階とも言うべき奥義だ。世界侵食イクセーザと呼ばれる権能の到達点であり、この空間中では発動者があらゆる方向で有利になる。

 権能【神聖第五元素アイテール】による浸食は、アリアを中心として半径数キロにまで及んだ。空間そのものが特異粒子を生成し、アリアは念じるだけで現象を引き起こせる。アリアが粒子を操作せずとも、自身の周囲で勝手に生成される状態なのだ。

 クウは「魔眼」によってそれを検知し、一瞬でオーラによる防御を強める。



「耐えきれるか? 《無限連鎖反応アンリミテッド・チェイン》」



 クウの足元が凍り付き、周囲で大爆発が起きた。熱と爆風による蹂躙がクウにダメージを与えるが、氷は全く溶け出す様子がない。そればかりか足を伝って凍結が進み、今は膝まで凍っていた。

 オーラによる防御で多少は防げているが、このままでは拙い。

 そう判断してまずは凍結による拘束を破壊する。



「《神象眼》」



 氷は融解して水となり、クウはその間に翼を出して空中へと逃げる。爆風の範囲からも逃げ出せたことで安堵したが、それには早いと気付かされた。



「連鎖からは逃げられんぞ?」



 空間そのものが特異粒子を生み出す以上、どこへ逃げてもアリアの射程範囲だ。クウが逃げた先で強烈なダウンバーストが発生し、クウは地面に叩きつけられる。更にアリアは隕石という現象を引き起こして、クウが墜落した場所に殺到させた。

 百を超える隕石が落ち続け轟音が周囲に鳴り響く。



「溺れよ」



 アリアの言葉と同時に、どこからともなく大量の水が現れた。水は重力と流体力学に逆らって、立方体の形を保つ。まるで見えない容器に水が入れられているかのようだった。一辺が凡そ百メートルであるため、体積に変換すると百万立方メートルだ。通常の魔術ではあり得ない出力である。



「まだ終わらんぞ。水蒸気爆発」



 百万立方メートルの水が、アリアの命令を受けて気化する。その際に体積は千倍にまで膨れ上がり、その圧力で大爆発が起こったのだった。現象操作でアリアのみが爆風を避けるが、周囲にはすさまじい爆発の傷跡が刻み付けられる。

 具体的には、爆発地点を中心として巨大クレーターが出来上がった。



「この連鎖なら、大抵の奴は終わりだ。超越者でも大ダメージは避けられんよ」



 そう言いながらアリアはクレーターの中心を見る。

 いつもならボロボロになった敵が転がっているハズの場所に、赤黒い球体があった。訝しげにそれを眺めていると、赤黒い球体が崩れて中から無傷のクウが現れる。



「消滅エネルギーが間に合わなかったら拙かったかもな。凄い威力だ」



 月属性の消滅エネルギーを盾のように球状で展開し、クウが受けるはずだった全ての爆風を消し去ったのだ。最強の攻撃属性は、最強の防御にもなるということである。ある種反則のような効果だが、扱いにくいという欠点があった。今回は《神象眼》を併用することで、無理やり盾のように展開したのである。

 この消滅属性にはアリアも興味津々だった。



「なんだあの能力は……見たことがない」


「そりゃそうだ。俺の固有属性だからな」



 まだ遠くで土を払っているハズだったクウの声が間近で聞こえる。それに驚いたアリアは咄嗟に飛び下がりつつ、声の聞こえた方向へと目を向けた。

 そこには刀を振り切ったクウが見えたので、もう少し回避が遅れていれば斬られていたかもしれない。



「いつの間に?」


「油断しすぎなんじゃないか?」


「それはそうかもしれんな。しかしそれはお前もだ。吹き飛べ」



 アリアは力の方向を操作して、クウを後方へと吹き飛ばす。重力操作の応用だが、距離を取るときには非常に便利だ。だがクウは咄嗟に「月(「力場」)」を使って相殺した。結果として数メートルも飛ばせなかったが、今はそれで充分である。



「樹海、束縛」



 クウの足元で木の芽が顔を出す。そして瞬間的に成長し、絡み付いてクウの自由を奪った。更に木の芽は次々と現れて成長を始め、僅か五秒で立派な森となる。更に五秒も経てば、そこには見上げるような大樹ばかりで形成された樹海が存在していた。

 アリアは白い天使翼を出して空中に逃れており、上から見下ろす形で樹海の成長を眺めている。



「こんなものか……痺れ花粉」



 現象が変化し、樹海を形成する木々は花粉を放ち始める。自然界には存在しない、痺れ毒の効果を有した花粉だ。概念効果であるため、超越者にも有効である。これは身体の自由を奪うばかりか、思考能力を奪う麻薬にも近い効果を持っているため、気付いた時にはもう遅い。



「発火」



 そしてトドメとばかりにアリアは樹海を燃やす。

 樹木で拘束し、花粉で動きと思考を奪い、最後に大火災で燃やし尽くす連鎖攻撃だ。このように淀みなく現象を繋げていき、言葉一つで圧倒する。これがアリアの世界侵食イクセーザ無限連鎖反応アンリミテッド・チェイン》である。

 特異粒子は空間が勝手に生成してくれるので、願えば願う分だけ現象が引き起こされる。

 つまり、タイムラグなしに幾らでも一方的に攻撃できるのだ。

 しかも、引き起こせる現象には限度がない。攻撃、防御、回避、回復、支援など、どんな効果でもアリアの望むままである。

 ……だが、それは相手の居場所を感知できることが前提の強さだ。



「これは凄いな」


「っ!?」



 背後から聞こえたクウの声に驚き、アリアは振り返る。すると、数メートル先に燃える樹海を見下ろしながら感心するクウの姿があった。

 確かに樹海で捕えたはずだし、抜け出した兆候も見えなかった。

 そうだとすると、答えは自ずと見えてくる。



(やはり幻術系! いつの間に……)



 幻術はかなりデリケートな技だ。術の核となる何かを設定し、相手の五感に働きかけ、思考を操作もしくは誘導する高難度な技能である。

 つまり、基本的に幻術には発動のキーとなる何かが存在しているのだ。幻術を破るには、その発動キーを看破することが基本となる。

 高度な幻術は現実との差を悟らせない。

 アリアが幻術中に攻撃を仕掛けて手ごたえを感じていたということは、クウの幻術はかなり高位なものであると推察できた。

 つまり、早く発動キーを見破らなければ、いつまでも幻術に惑わされることになる。



(怪しいのはあの魔眼だな)



 クウの瞳に浮かぶ黄金の六芒星にはアリアも気づいている。魔法陣自体が効果を及ぼすとすれば、目があった時点で幻術にかかるだろう。最悪の可能性としては、視界の範囲に幻術をかけるという能力の場合だ。

 アリアはそこまで予想し、対策を考える。



(最悪のパターン……視界の範囲を幻術に変える能力者だという可能性を考えて、幻術を回避するのは不可能だと考えることにしよう。ならば、幻術中でも奴を感知できれば良い)



 幻術とは五感による錯覚だ。

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚もしくは気配などの第六感も含めて全てを騙しているだけであって、実際にそこにある訳ではない。つまり、自分の五感を信用せず、術による別の感知を行えば良いと考えた。

 燃える樹海を見下ろしていたクウは、アリアへと向き直って居合の構えを取る。

 その間に、アリアは特異粒子の感覚連結を行って、クウの居場所を物理感知し始めた。粒子の動きによって物理的に居場所を探るのである。



「その幻術。すぐに破ってやるぞ」


「出来ると良いな」



 クウは一瞬で距離を詰めてアリアに居合いを放つ。幻術でも何でもない、ただの身体的な技術だ。アリアは粒子による物理感知もしていたので、そのまま三又槍で居合を受け流そうとする。

 だが、攻撃はすり抜けた。



「なっ!?」



 咄嗟に後ろへと下がるが、槍を持っていた右腕は綺麗に切断された……ように見えた。攻撃はアリアの右腕もすり抜けたのである。

 このことにアリアは疑問を感じ、幻術の可能性を疑う。

 だが粒子による感知では確かにクウが目の前にいることを示しているのだ。

 思考に陥って動きが鈍ったアリアはクウの追撃から逃れられない。その間にクウは神刀・虚月を鞘に納め、縮地と同時に二撃目の居合を放った。



「考えている暇はないぞ?」


「くっ!」



 再びアリアは右手の三又槍で防ごうとする。

 しかし、その瞬間にアリアの思考は真っ白となった。



(私の右腕が切断されている!? 何故だ!)



 槍を持っていた右腕は、肘の辺りで綺麗に切断されていた。神刀・虚月による事象切断によって、クウが刀を鞘に納めたと同時にアリアの右腕は斬られていたのである。

 防御も出来ずに二度目の斬撃が迫る中、加速させた思考を使って、咄嗟に大爆発を引き起こした。

 自身とクウの間で発生した大爆発である。

 本来は指向性を持たせてクウにだけダメージを与えるようにするのだが、今回は時間がなかったので、とにかく強い爆発で距離を取ることを優先した。結果としてアリアもダメージを負うことになる。

 流石のクウも大きく吹き飛ばされ、天使翼を使って何とか制御を取り戻した。神刀・虚月を取り落とさなかったのは剣士としての意地である。



「くそ。やっぱり出が早いな」



 情報次元で感知した程度では遅すぎる。アリアの攻撃は粒子を散布した時点で終了しているのだ。アリアの意思一つで粒子は現象へと変わるので、タイムラグがない。

 これは超越者同士の戦いでも強すぎる。

 どんなにクウが速度を上げても、アリアはとっさの判断で即座に攻撃可能なのだ。霊力を集め、演算し、能力を発動するクウはどうしても一歩遅れてしまう。それを補うために剣技による近接戦闘を行っているのだが、それでもアリアの方が早かった。



「空間があの粒子を生み出しているみたいだし、《幻葬眼》で消しても一時的なものにしかならないな。さしずめ、アリアは現実を操る能力者か。幻術使いの俺とは真逆だな」



 先の爆風で受けた傷を修復しながら、クウはそんなことを口にする。

 魔王アリアはまさに、現実世界を意のままに操る能力者だ。幻術を介して現実を操るクウとは似て非なる能力と言える。正面戦闘に限れば、アリアほど強い能力は無いだろう。クウがついていけているのは、卓越した幻術能力のお陰でしかない。

 常に幻術でアリアの認識をずらさなければ、あれほどの暴威から逃げることは出来なかっただろう。



「ここからは俺も本気だ」



 最後は負ける予定だが、なす術もなく敗北するつもりもない。

 手に入れた世界侵食イクセーザを練習するためにも、クウは全てを出し切ることにした。



「ここからは俺のターンだ。《月界眼》」



 その瞬間、世界は満月の夜に包まれた。









すみません。テスト勉強とレポートが忙しく、明日の更新は無しです。

夏休みに入るまで、再びこのようなこともあるかもしれません。

そのときはごめんなさいです。


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