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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編
298/566

EP297 闘技大会本選二日目①


 闘技大会本選二日目は早朝から盛り上がっていた。初日も充分な盛り上がりを見せたのだが、やはり第一回戦は振るい落としという印象も強く、強い選手がシードとして登場する第二回戦の方を楽しみにしてしまうのも仕方ないことかもしれない。

 クウたちも第一回戦を一通り観戦したとはいえ、本命は二回戦から。今日の第一試合ではミレイナがメリッサという選手と戦い、クウはソラという偽名を使って第二試合に出場する。

 今日は実際に闘技場で戦うということもあり、クウとミレイナは二人とも気合が入っていた。



「さてと、勝てよミレイナ」


「当然だ。クウこそ負けたら許さないからな」


「誰にものを言っている」


「む。それもそうか」



 一般人が相手の大会で超越者クウが負けるなど有り得ない。今回は能力を封じ、視界を閉じるというハンデも付けているが、それでも差は歴然としている。魔素、オーラ操作と剣術だけで十分に優勝可能だった。

 問題があるとすればミレイナだが、彼女にも『竜化』と《竜の壊放》と《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》という三つの切り札が揃っている。ステータス上のレベルも高いので、まず負けることはない。油断すれば別だが。

 既にリアとレーヴォルフとは別れ、二人は闘技場の選手用通路を移動していた。出場選手は専用の待合室で待機することになっているのである。試合前に喧嘩が起こらないようにという配慮から、一人につき一部屋が割り当てられていた。

 クウとミレイナは会場受付で教えられた部屋へと向かう。



「お、ここが俺の部屋かな? プレートに『ソラ選手待合室』って書いてあるし」


「私の部屋とは真向いになっているようだな。偶然か?」


「それは偶然だろ」



 確かにクウ……いや、ソラの待合室の扉と向かい合うようにして『ミレイナ・ハーヴェ選手待合室』とプレートが張り付けられた扉がある。何か意図的なものを感じなくもないが、これはクウの言った通り、全くの偶然だった。

 勿論、予め仲が悪いと分かっている選手同士は部屋の距離を考慮されたりする。しかし、ソラ選手とミレイナ選手は寧ろ知り合い同士だということが闘技大会スタッフに知られていたので、適当に部屋を割り振られたのである。



「じゃあなミレイナ。ここからは俺もソラだ」


「分かったぞ。試合後はレーヴとリアの観戦室だったな?」


「ああ、そこで合流だ。どうせならいい場所で残りの試合を見たいし」



 二人は最後にそう会話して互いの待合室へと入る。

 そして、今日の第一試合に出場するミレイナは早速とばかりに待合室で軽くストレッチを始めた。強い運動は必要ないが、試合前に身体を伸ばし、柔らかくしておくことは重要である。戦闘訓練自体は権能【魔幻朧月夜アルテミス】による精神内仮想訓練で済ませているのだ。後は、試合に備えて体力を残しておくのが妥当な選択だろう。



「む……試合までは暇だな」



 選手として早めに会場へ集合するのは当然であり、第一試合開始までは一時間以上も間がある。待合室には飲み物や菓子類も充実しているので、小腹がすいて困ることは無いだろう。それなりの広さが確保されているため、素振り程度なら余裕で出来る。

 ただ、それで一時間以上も過ごせるほどミレイナは大人ではなかった。



「仕方ない。糸の仕込み直しでもするか」



 格闘と並んで、ミレイナは糸を武器として扱う。元はミレイナの母パルティナの技であり、レーヴォルフより受け継いだものだ。今は《竜の壊放》があるので必要ないのだが、見たこともない母から受け継いだ技ということもあって疎かにはしていない。

 試合で使うかは不明だったが、一応、今日も腕に仕込んできていたのだ。

 あまりに暇なので、その仕込みをやり直そうと思ったのである。



「あ、あれ? 絡まった……」



 一時間はあっという間だった。






 ◆ ◆ ◆






 一時は糸が絡まって涙目になりかけていたミレイナだが、どうにか試合が始まる前に直すことが出来たのだった。闘技大会スタッフに呼び出されて入場口まで案内されたのは良かったものの、絡まった糸を解く作業でミレイナは無駄に疲れてしまっていたのである。

 どこまでも残念なミレイナだった。



「あの~。体調悪そうですけど大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫だ」



 闘技場へと入る直前に、緊張で顔色が悪くなる選手は少なくない。特に、初出場の選手ではよくあることだった。ミレイナが今回初めての出場だったということもあり、闘技大会スタッフも緊張しているのだろうと考えたのである。

 実際は、涙が出るほど哀れな理由だったのだが……



「緊張せず、頑張ってくださいね!」


「ああ、分かったぞ……」



 微妙な擦れ違いが起こったまま舞台へ至る通路で待つ二人。試合まではあと十五分ほどであり、そろそろアナウンスによって入場が促される頃だった。熱が高まっている観客の騒めきが通路まで響いており、天上から吊るされているランプが小さく揺れていた。

 ミレイナが振り子のように揺れているランプを眺めていると、遂にアナウンスが聞こえだす。



『大変長らくお待たせしました。まもなく闘技大会本選第二回戦第一試合を行います。また、会場内での注意を行います―――』


「ミレイナ選手。舞台に出る準備をお願いしますね」


「分かった」



 アナウンスが聞こえたことでミレイナは立ち上がり、闘技大会スタッフも念を押す。会場で何度か流されている諸注意が終わった後、ようやく選手の入場が始まったのだった。



『第一試合、選手番号二六二番メリッサ・トルメイン選手と選手番号五六三番ミレイナ・ハーヴェ選手の試合になります。選手は入場してください』



 ミレイナはアナウンスが聞こえ終わると同時に足を進め、舞台へと姿を見せる。そして丁度対面からは昨日の第一回戦で勝利を飾ったメリッサが歩いてくる。軍服を纏った彼女の姿は堂々としているの一言であり、表情からは自信が垣間見えていた。メリッサもミレイナの予選試合を見ているハズだが、あの圧倒的なパワーを見ても尚、勝機があるということだろう。

 そして二人の選手が入場したことで、会場は一気に沸き上がった。

 一人は昨日の試合で素晴らしい魔法技量を見せた魔人メリッサ。そして戦うのはシード選手として登場した竜人ミレイナである。

 特にミレイナの戦いは予選を知っている観客からすれば大迫力という印象であり、今日はどのような戦いをしてくれるのかと楽しみにしていたのである。

 また、今日の試合に合わせて昨晩からミレイナの予選模様もテレビで映像公開されているので、殆どの観客、またテレビの前で試合を見ている者たちは期待の眼差しを向けていたのだった。



『両者、定位置についてください』



 ミレイナ、メリッサは両者共に視線を合わせつつ、闘技場舞台に記されているライン上へと足を置く。観客として上から見ていると結構近く見えるが、戦う当事者として見れば意外と距離があるものだ。

 二人は試合開始の合図を待ちつつも、これから行われる戦いを頭の中で組み立てる。予め立てている作戦なども存在するが、やはり相手と向かい合うことで修正が必要だと感じるのである。

 勘と勢いで戦うことが常だったミレイナも、精神内仮想訓練を利用して戦術を組み立てることを学んでいたのだ。



『トーナメント第二回戦、第一試合を開始します』



 アナウンスと同時にブザーが鳴り、向かい合う二人は間髪入れずに動き出す。間合いが異なる者同士の戦いにおいて、この初動こそが最も大事になるのだ。



「影よ!」



 メリッサが発したのは詠唱ではなく、イメージを口にしただけの言葉。だが、意思次元を基点として情報次元から発動するのが魔法スキルである以上、無駄な行為ではない。ミレイナの影が蠢き、蔦のように伸びてミレイナの体を縛ろうとした。

 しかし、ミレイナはそれを無視してメリッサへと向かって行く。



「甘いのだ」



 深紅のオーラが影を弾き飛ばし、魔法は掻き消される。意志の力を表出させるスキルであるため、こうした魔法耐性も急上昇する。詠唱もなく発動した程度の拘束魔法では魔法耐性を突破することなど出来なかった。

 ミレイナは更に《身体強化》も発動し、目で追うことすら難しい速度でメリッサに肉薄する。



「はっ!」


「くっ……」



 何の捻りもないミレイナのパンチ。

 だが、オーラと魔力で強化された肉体によって繰り出されたものだ。風の防御を纏っていたメリッサは、直接的な衝撃こそ防げたものの、大きく吹き飛ばされる。

 いや、自分から後ろに飛ぶことで衝撃を殺したのだ。更にその状態で反撃の魔法も放つ。



「無駄だぞ」



 空気中を走る雷鳴はミレイナが軽く振った腕によって弾かれた。しかし、そのお陰でメリッサは追撃を逃れることに成功し、上手く着地して体勢を整える。多少のダメージは負ったが、それと引き換えに距離をとれたと考えれば正解とも言える行動だ。



「無駄かどうかはこれを喰らってから言いなさいな。『《融雷弾プラズマ・バレット×100》』」



 メリッサは得意の魔法連射で周囲にプラズマの小球体を装填し、一斉に掃射する。バチバチと稲妻を走らせる大量のプラズマ球が防御になりつつ、発射されたプラズマ弾は着弾地点で弾ける。

 まとも喰らえば麻痺効果と火傷効果で地味なダメージを負うことになるだろう。たとえ《気纏オーラ》を発動していたとしてもだ。

 この時ばかりはミレイナの勘も役に立った。

 この魔法は避けなければ拙いと感じ取ったのである。



「く……」



 言葉を発する暇もない。

 初めこそ装填されたプラズマ弾は百発だったが、発射されるたびに弾は補充されている。この補充と発射が一連の魔法となって発動しているからこそ、メリッサは連射魔法を得意としているのだ。つまり、この魔法を百個同時に使用すれば、常に百発ものプラズマ弾が掃射されるということになる。

 欠点は魔力が恐ろしい速度で減っていくことだろう。

 今のメリッサの魔力量では、最大値からの連続発動で二十秒が限界である。だが、プラズマ弾は一秒あれば装填発射が可能なため、合計二千発ものプラズマ弾が雨のように放たれるのだ。



(避けきれないか―――)



 元から竜人という種は身体能力に秀でており、レベル自体も高いミレイナが避けきれない攻撃は少ない。だが、この闘技大会本選に出場している者たちは強者ばかりであるため、その避けきれない攻撃を放てる一部がいてもおかしくはなかった。

 メリッサにとってこれほどの魔法掃射は切り札に近い攻撃である。

 ならば、ミレイナも切り札を持って応えるしかない。



(――私が未熟というだけではないな。この女の技量は確かなものだ。ならば私も全力を持って応えるのが筋というもの)



 その身に宿した神の力の一端。

 加護によって生まれたミレイナだけの固有スキル。

 破壊の波動によって全てを破壊し、無へと葬る能力が発動されたのだった。



「消し飛べ」



 ミレイナは全方位に向かって《竜の壊放》を放つ。

 連射重視で威力は最低限でしかないメリッサのプラズマ弾は、一瞬すらも拮抗できずに崩壊。そして第二射となる波動がメリッサを貫いた。



「うっ!? ごふっ……」



 見た目には分からないが、体内で甚大なダメージを負ってメリッサは蹲る。精神ダメージに変換されているために内臓自体は無事であるが、吐き気を催すような不快感が連続して襲っていた。

 この後、一方的な戦いへと移行することになる。

 






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